第60話:王都への招集
影が消えて三日後。
砦の空気はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
隣国の民たちは回復し、
リゼットの料理は毎日、医務室に温かな香りを満たしている。
そんなある日の昼下がり。
砦の門の前に、一人の騎馬が駆け込んできた。
「団長! 王都からの急使です!」
ガイアスは眉をひそめ、急使を迎えた。
「王都から……? また何かあったのか」
急使は深く息を吸い、封蝋のついた手紙を差し出した。
「宰相閣下より、至急の伝令です。
“ガイアス団長と、料理人リゼットを王都へ招集する”と」
「……二人とも、だと?」
ガイアスの声が低く響く。
リゼットはぽかんと口を開けた。
「えっ、私も? なんで?」
急使は重々しく頷いた。
「王都の病が……悪化しています。
倒れる者が増え、貴族の間でも混乱が広がっている。
宰相閣下は、あなたの料理が“鍵”になると……」
「……また、料理ですか」
リゼットは頭を抱えたが、すぐに顔を上げた。
「でも、行きます。
助けられるなら、助けたいですから!」
ガイアスはその横顔を見つめ、静かに言った。
「……俺も行く。
王都が動くなら、砦の責任者として同行する義務がある」
ミレイユも腕を組んで頷く。
「当然ですわ。
この病は、ただの病ではありません。
魔力の偏り……何者かの意図……
王都で何が起きているのか、確かめる必要があります」
リゼットは不安と決意が入り混じった表情で、ガイアスを見上げた。
「団長さん……また王都に行くんですね」
「ああ。だが今回は――」
ガイアスはリゼットの肩に手を置いた。
「お前と一緒だ」
ガイアスは封蝋を慎重に割り、手紙を開いた。
そこには、宰相の筆跡でこう記されていた。
> 王都での病、悪化の一途。
> 魔術師団も原因を掴めず。
> 料理人リゼットの力を借りたい。
> ガイアス団長も同行し、状況を確認せよ。
> 王国の未来がかかっている。”
ガイアスは深く息を吐いた。
「……シグルドがここまで言うとはな」
「そんなに大変なんですか……?」
「大変どころではない。
シグルドが“未来がかかっている”と言う時は、本当に危険な時だ」
ミレイユが静かに付け加える。
「王都の魔力の流れも乱れています。
このままでは……国そのものが傾きますわ」
リゼットは拳を握った。
「じゃあ、行かないと。
私の料理で少しでも良くなるなら、やります!」
ガイアスはその言葉に、わずかに微笑んだ。
「……頼もしいな」
その日のうちに、砦は慌ただしく動き始めた。
- ガイアスの馬の準備
- リゼットの荷物(ほぼ調味料)
- ミレイユの魔術道具
- 隣国の民の看護体制の引き継ぎ
- 砦の警備体制の再編
騎士たちは口々に言った。
「団長、気をつけてください!」
「リゼットさん、王都でも料理を頼みます!」
「ミレイユ殿、!」
リゼットは照れながら手を振った。
「みんな、私がいなくてもちゃんと食べてくださいねー!」
ガイアスは苦笑しながらも、どこか誇らしげだった。
砦を出発する直前。
リゼットはふと、外壁の上に視線を向けた。
雪が舞う中、
ほんの一瞬だけ“影”が揺れた気がした。
「……気のせい、かな」
リゼットは首を振り、馬に乗った。
だが、影は確かにそこにいた。
風に溶けるように、
雪に紛れるように、
ただ静かに、王都の方角を見つめていた。
まるで――
リゼットたちの旅立ちを“待っていた”かのように。
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