第6話:兄貴分の「眼」
焼き上がった飛竜の肉は、中庭に運ばれた。 香ばしい匂いに誘われ、任務明けの騎士たちがわらわらと集まってくる。
「さあ、みんな食べて! ザックが命懸けで獲ってきてくれたんだから!」
リゼットが元気よく肉を切り分け、皿に盛っていく。 ザックはといえば、騎士たちの輪に混じりながらも、その視線は常にリゼット……そして、彼女を少し離れた場所から見守るガイアスに注がれていた。
「団長さんも、どうぞ。冷めないうちに」
ザックが、一番いい部位を盛った皿をガイアスに差し出した。 ガイアスは、昨日の「マントの貸し借り」について何か言われるのではないかと身構えていたが、ザックの瞳に宿っているのは、挑発ではなく「観察」の色だった。
「……感謝する」
ガイアスが肉を口に運ぶ。 噛みしめるごとに溢れる濃密な旨味。リゼットの味付けは、食材の力強さを最大限に引き出しており、疲れた体に活力が染み渡っていく。
「……美味いな。リゼットの腕は、我ら騎士団にとって宝だ」
ガイアスがしみじみと呟くと、ザックが隣に腰を下ろした。
「リゼは昔からそうですよ。あいつ、自分のことには無頓着なくせに、他人の腹が鳴る音には誰より敏感で。……王都の店を追い出された時も、自分のクビより『あのお客さん、最後まで食べてくれなかった』って落ち込んでたんだ」
「……そうだったのか」
「ああ。危なっかしくて見てらんない妹みたいなもんでね。俺がついてねえと、すぐ変な魔物の巣に突っ込んでいく。……だから、正直、騎士団に雇われたって聞いた時は安心した反面、心配だったんですよ。ここが、あいつをただの『便利な道具』として扱う場所だったら、すぐにでも連れ戻してやろうと思って」
ザックの言葉は穏やかだったが、その奥には確かな重みがあった。 ガイアスは背筋を正し、リゼットの方を見た。彼女は今、騎士たちに「骨の髄まで美味しいのよ!」と笑いながら説法をしている。
「……彼女を道具だと思ったことは一度もない」
ガイアスは、騎士団長としての、そして一人の男としての誠実さを込めて答えた。
「最初は、その……彼女の破天荒さに戸惑いもしたが。彼女の料理には、食べる者への慈しみがある。我ら騎士団は、今や彼女の笑顔と飯に救われているのだ」
「……へぇ」
ザックはガイアスの横顔をじっと見つめ、それから短く笑った。
「あんた、案外……いや、噂通りの律儀な御仁だ。リゼが『団長さんは優しい』なんて言うから半信半疑だったけど、あながち間違いじゃなさそうだ」
「……優しい? 彼女が、そう言っていたのか?」
不意に飛んできた言葉に、ガイアスの心臓が不規則な音を立てる。 ザックはそんなガイアスの動揺を面白そうに眺めると、リゼットに聞こえない程度の低い声で付け加えた。
「ああ。だけどな、団長さん。あいつの天然は、並の男じゃ太刀打ちできねえぞ。……昨日のマントの件もそうだが、あいつを泣かせるような真似をしたら、俺がいつでも掠め取りに来る。……それだけは覚えておいてくれ」
ザックはそう言って、ガイアスの肩をポンと叩いた。 それは、かつての相棒から、新しい「保護者(あるいはそれ以上の存在)」への、少し不器用なバトンタッチのようでもあった。




