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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第4章 新たなる足音

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第58話:忍び寄る気配と、閉ざされた扉の前で

 砦の朝は、いつもより重かった。

 雪は深く、空気は冷たく、どこか“外の気配”が薄く漂っている。


 リゼットは医務室で、隣国の民たちの容態を確認していた。

 スープを飲んだ者は、昨日よりも顔色が良い。

 だが、まだ目の光は弱い。


「……もう少し、温かいものを作らないと」


 そう呟いた時、医務室の扉が静かに開いた。


「リゼット、少し外に出られるか?」


「団長さん?」


 ガイアスの声は低く、いつも以上に緊張を含んでいた。




 ガイアスに連れられ、リゼットは外壁へ向かった。

 ミレイユも後ろからついてくる。


「……ここだ」


 ガイアスが指差したのは、外壁の影になった部分。

 雪が不自然に踏み固められ、壁の石に薄い擦り跡が残っている。


「……誰か、ここに登ろうとした?」


「いや、登ったんだ。縄梯子を切られたのは囮だ。

 本命はこっちだろう」


 ガイアスの声は低く、怒りを押し殺している。


 ミレイユが指先をかざすと、淡い光が雪の上に広がった。


「……魔力の残滓がありますわ。

 隠蔽の魔法……それも、かなり巧妙なものです」


「やはり密偵か」


 ガイアスは雪原を睨みつけた。


「隣国の民を追ってきたか……

 それとも――」


「リゼットを狙っている?」


 ミレイユの言葉に、リゼットは息を呑んだ。


「わ、私……?」


「あなたの料理は、魔力の流れを整える“力”を持っています。

 病の原因が“食”にあると気づいている者なら……

 あなたを欲しがるでしょうね」


 ミレイユの声は淡々としていたが、その奥にある緊張は隠せなかった。




 砦に戻ると、騎士たちが慌ただしく動いていた。


「団長! 倉庫の鍵が一本、紛失しています!」


「医務室の裏口の雪が踏み固められていました!」


「厨房の窓の外にも足跡が……!」


 ガイアスは即座に指示を飛ばす。


「全員、警戒態勢を維持しろ!

 見張りを倍にし、夜間は交代を早める。

 医務室と厨房の周囲に騎士を配置しろ!」


「はっ!」


 砦全体が緊張に包まれる。


 リゼットは不安そうにガイアスを見上げた。


「……団長さん。

 もしかして、隣国の民を狙って……?」


「それもある。

 だが――」


 ガイアスはリゼットの肩に手を置き、真っ直ぐに見つめた。


「一番狙われやすいのは、お前だ」


「……私?」


「お前の料理が“病を癒す”と知れば、

 どの国も、お前を欲しがる。

 それが王都でも、隣国でも、同じだ」


 ミレイユも静かに言葉を添える。


「公爵様の言う通りですわ。

 この病は……ただの病ではありません。

 “誰か”が動いている気配がします」


 リゼットは胸に手を当て、深く息を吸った。


「……でも、私は逃げません。

 助けを求める人がいるなら、料理を作ります」


 ガイアスは目を細め、わずかに微笑んだ。


「……だからこそ、守らなければならない」



 その夜。

 リゼットは医務室で、隣国の民の額に布を当てていた。


「……少し、温かくなってきたね」


 その時、外で雪を踏む音がした。


 リゼットは顔を上げる。

 だが、扉の外には誰もいない。


「……気のせい、かな?」


 そう思った瞬間――


 扉の隙間から、冷たい風が吹き込んだ。


 ミレイユがすぐに駆け込んでくる。


「お姉さま! 外に出ては駄目ですわ!」


「ミレイユちゃん……?」


「今、医務室の周囲に“魔力の揺らぎ”がありました。

 誰かが……あなたを見ている」


 リゼットの背筋が凍りつく。


 ミレイユはリゼットの手を強く握った。


「大丈夫。我が国最強の騎士団長がすぐ来ますわ。

 あなたは……絶対に守ります」


 その言葉と同時に、外から重い足音が響いた。


「リゼット! 中にいろ!」


 ガイアスの怒号が砦に響き渡る。


 砦の冬は、静かに、しかし確実に“影”を濃くしていく。



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