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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第4章 新たなる足音

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第56話:砦の灯と、消えかけた火

 吹雪の気配が近づく中、倒れていた隣国の民たちは、騎士たちに担がれて砦へと運び込まれた。

 砦の医務室は急ごしらえの暖炉が焚かれ、毛布が積まれ、冬の冷気を追い払うように温かな空気が満ちている。


「リゼット、こっちだ。火を強める」


「はい、団長さん!」


 リゼットは鍋を抱えたまま駆け込み、弱った民たちの枕元に膝をついた。

 スープの香りが広がると、医務室の空気がわずかに柔らかくなる。


 最も若い男が、薄く目を開けた。


「……ここは……?」


「北の砦です。もう大丈夫ですよ」


 リゼットは優しく微笑み、匙でスープをすくって口元へ運ぶ。

 男は震える唇でそれを受け取り、ゆっくりと飲み込んだ。


「……あぁ……温かい……」


 その声は、まるで凍った心が溶けていくようだった。


 ミレイユは倒れている者たちの周囲を歩きながら、眉をひそめていた。


「……やはり、魔力の流れが弱すぎますわ。

 まるで、体の中の“火”が消えかけているような……」


「病なのか?」


 ガイアスが問うと、ミレイユは首を横に振る。


「病というより……“偏り”ですわ。

 魔力が巡らず、生命力が薄れている。

 でも、熱も咳もない……奇妙です」


 リゼットはスープをかき混ぜながら、そっと呟いた。


「……王都の病と、同じ……?」


 ガイアスの表情が険しくなる。


「可能性は高いな。

 王都と隣国で同時に起きているなら……ただ事ではない」


 スープを飲み終えた男が、弱々しくリゼットの袖を掴んだ。


「……助けてくれて……ありがとう……

 俺たちは……ヴァルシュタインの……村の者です……」


「無理に話さなくていいですよ」


「……いや……伝えなきゃ……

 国が……おかしくなっている……」


 男は途切れ途切れに語り始めた。


「最初は……貴族様の子供が……倒れたって噂だった……

 熱も咳もないのに……食べられなくなって……

 ただ……眠るように……弱っていく……」


 ミレイユが息を呑む。


「……やはり」


「そのうち……領主様も……役人も……

 みんな……ぼんやりして……何も決められなくなった……

 市場は空っぽ……税を集める者も来ない……

 街道の見張りも……いなくなった……」


 ガイアスは拳を握りしめた。


「政治が……麻痺しているのか」


「……王子様が……行方不明になったって……

 本当かどうかは……分からない……

 でも……国が……崩れていく音が……したんだ……」


 男の声は震え、目には恐怖が宿っていた。


 ガイアスは深く息を吐き、リゼットの肩に手を置いた。


「……リゼット。お前の料理が、こいつらの命を繋いでいる。

 だが同時に――お前の存在が、王都にも隣国にも“必要”になる」


「団長さん……?」


「だからこそ、絶対に一人で動くな。

 この砦に、外の影が忍び寄っている気がする」


 ミレイユも静かに頷いた。


「公爵様の言う通りですわ。

 この病は……ただの病ではありません。

 “誰か”が動いている気配がします」


 リゼットは不安そうに二人を見つめたが、すぐに微笑んだ。


「……大丈夫です。

 私、みんなと一緒にいますから」


 その言葉に、ガイアスの表情がわずかに和らぐ。

-

 その夜。

 砦の外壁の上で見張りをしていた騎士が、ふと雪原の向こうに“影”を見た。


 人影のようで、風のようで、

 ただ静かに、砦を見つめている。


「……誰だ?」


 声を上げた瞬間、影は雪の中へ溶けるように消えた。


 その報告を聞いたガイアスは、低く呟く。


「……やはり来たか。

 隣国の影か……それとも――」


 砦の冬は、静かに、しかし確実に緊張を増していく。



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