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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第4章 新たなる足音

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第49話:砦に届いた奇妙な知らせ


 夜明け前の砦は、静かな白に包まれていた。

 昨夜の星空の余韻を残したまま、薄い雪が屋根を覆い、空気はきりりと引き締まっている。

 その冷たさは、どこか心を澄ませるような、静かな始まりの気配を孕んでいた。


 リゼットは、まだ誰もいない厨房で火を起こしていた。

 薪がぱちりと弾け、鉄鍋の底がじんわりと温まっていく。

 その音は、砦の朝を告げる小さな鐘のようだった。


「……今日も、いい一日になりますように」


 小さく呟き、根菜を刻む。

 昨夜、ガイアスに語った“祈り”の話が胸の奥に残っていて、自然と手元が優しくなる。


 その時、背後からそっと気配が近づいた。


「……おはようございます、お姉さま。

 今朝の魔力濃度、昨日よりさらに上昇していますわ。

 お姉さまの精神状態が安定している証拠です」


「ミレイユちゃん、おはよう。今日も早いのね」


「当然ですわ。お姉さまの隣を確保するためには、早起きは必須ですもの」


 ミレイユが魔法で鍋の対流を整えると、スープの香りがふわりと広がった。

 その香りに誘われるように、騎士たちが眠そうな顔で食堂へ集まってくる。


「おはよう、みんな! スープ、できてるわよ!」


「「「いただきます!!!」」」


 温かな湯気が立ち上り、砦の朝はいつも通りの賑わいを取り戻した。

 だが、その賑わいの中に、ひとつだけ異質な気配が混じっていた。


「……団長。王都からの早馬です!」


 食堂の扉が勢いよく開き、伝令が駆け込んでくる。

 ガイアスはスプーンを置き、封蝋のついた文書を受け取った。


 封を切った瞬間、彼の眉がわずかに動く。


「……王都の“美食家”が北へ向かっている、だと?」


「美食家……? 料理の偉い人、みたいな?」


 リゼットが首をかしげると、ガイアスは深く息を吐いた。


「王都でも有名な偏屈な貴族だ。

 “至高料理師”の称号を巡って、何かと騒ぎを起こすことで知られている」


「……お姉さま。嫌な予感しかしませんわ」


 ミレイユの瞳が細くなる。


「砦に来る理由は書かれていない。

 だが……どう考えても、リゼット、お前が目的だろう」


「えっ、私……?」


 リゼットが驚く間もなく、ガイアスは立ち上がった。

 その動きは静かだが、砦全体の空気を引き締める力があった。


「準備をしておけ。

 この砦に来る者が誰であれ――

 俺たちの“日常”を乱すなら、容赦はしない」


 その言葉に、騎士たちの背筋が自然と伸びる。


「団長……! 俺たち、砦の料理を馬鹿にされるのは我慢できません!」


「そうだ! リゼットさんの料理は、俺たちの誇りだ!」


「お姉さまの料理を侮辱するなど、魔導学的にも許されませんわ」


 ミレイユがさらりと物騒なことを言い、ガイアスが小さくため息をつく。


「……お前たち、落ち着け。まだ何も起きていない」


「でも、団長さん。

 せっかく来てくれるなら、温かい料理で迎えたいわ。

 どんな人でも、お腹が空いているかもしれないし」


 リゼットの言葉に、ガイアスは一瞬だけ目を見開いた。

 そして、わずかに口元を緩める。


「……お前は本当に、変わらないな」


 その優しい声に、ミレイユがむっと頬を膨らませる。


「公爵様。お姉さまに甘い声をかけるのは、許可制ですわよ?」


「許可制とはなんだ……」


 食堂に笑いが広がり、砦の空気が少しだけ和らいだ。


 だが――。


 外では、雪を踏みしめる馬車の音が、ゆっくりと北へ向かっていた。

 その車輪が刻むリズムは、砦に新たな波紋をもたらす前触れのようだった。



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