第42話:砦の朝市
物語の舞台である北の砦の“1日”を、
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• 7:00 42話:砦の朝市
• 12:00 43話:地獄に仏?神様仏様リゼット様
• 20:00 44話:砦の隠し酒と雪解けカボチャ
北の砦のふもとに位置する「街道の村」は、朝霧が晴れると共に活気づいていた。
今日は月に数度の、砦へ食材を納入し、余った品を兵士や近隣住民と売り買いする「朝市」の日だ。
「さあさあ、今朝採れたての岩清水クレソンだよ! 旦那衆、いかがだい!」
活気ある声が響く中、砦の正門から数名の影が現れた。
先頭を歩くのは、漆黒の外套を羽織ったガイアス。そしてその隣には、村人たちが思わず手を止めて見惚れるほど、見違えた姿の少女がいた。
「皆さん、おはようございます! 今日もいいお野菜が揃ってるわね」
「……えっ? リ、リゼットちゃんかい!?」
野菜の籠を抱えたおばちゃんが、目を丸くして声を上げた。
以前のリゼットは、いつも煤にまみれ、サイズの合わない男物のシャツを無理やり着こなしている「元気な看板娘」だった。
だが今、目の前に立つ彼女は、どこか凛とした佇まいで、清潔感あふれる白い調理服に身を包んでいる。何より、まとめ上げられた髪に刺さっている黄金のかんざしが、朝陽を反射して神々しい。
「なんだい、その綺麗な格好は! 王都へ行ったって聞いたけど……本当にお姫様みたいになっちまって!」
「あはは、お姫様なんて。ちょっと王様にお料理を作って、そのお礼に頂いたのよ」
リゼットが屈託なく笑うと、村の男たちがざわめき立った。
「王様に料理を!? 本当だったのか、あの噂」
「なんでも、王様が一口食べて腰を抜かしたとか……」
「へぇ、それじゃあリゼットちゃんは、今や国一番の料理人ってわけかい?」
彼らにとって「至高料理師」という称号の意味はよく分からない。だが、「王様に直接褒められた」という事実は、最高に分かりやすく、誇らしいニュースだった。
「リゼットさん、ますますいい女になったなぁ……。あのかんざしも、本物の金だろう?」
「ああ、眩しすぎて直視できねえよ……」
「(……チッ)」
背後で、ガイアスが隠しきれない不機嫌さを撒き散らしながら、一歩前に出る。
「……おい。見惚れてないで、納入品を検品しろ。リゼット、あまりあちこちフラフラするな。人混みは危ない」
「団長さん、ここは私の馴染みの村よ? 危ないことなんてないわ」
「……お姉さまをそんな卑俗な視線で舐めるように見る……。この村ごと、魔力で更地にして差し上げましょうか?」
リゼットの左隣では、同じく銀髪の美少女――ミレイユが、周囲の村人を「塵」を見るような目で見下ろしていた。
「ミレイユちゃんも物騒なこと言わないの! ……あ、おじさん! その大きな『雪解けカボチャ』、全部いただくわ! これを蒸して、昨日のバターと合わせれば最高のご馳走になるのよ」
リゼットがカボチャを手に取ると、村の若者が勇気を出して話しかけてきた。
「リ、リゼットさん! 王様に褒められたって聞いたけど……俺たちの村の野菜、これからも使ってくれるのか?」
「もちろんでしょう? 王様も『北の野菜は力が強い』って仰ってたわ。この村の野菜がなきゃ、私の料理は完成しないもの」
「王様が、俺たちの野菜を……!」
村人たちは一気に沸き立った。リゼットが遠い存在になったのではなく、自分たちの野菜がリゼットを通じて「王様にも認められた」と感じたのだ。
「よーし、リゼットちゃんのためだ! 最高のキノコと肉も用意してやるよ!」
「こっちの蜂蜜も持っていきな!」
リゼットを中心に、村全体が明るい活気に包まれる。
「国宝級の称号」なんて難しいことは分からない。ただ、俺たちのリゼットちゃんが立派になって帰ってきて、今も変わらず自分たちの土の匂いを愛してくれている。
それだけで、村人たちにとっては十分すぎるほど「至高」の出来事だった。
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