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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第3章 至高料理師の凱旋(再びの砦編)

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第40話:ミレイユ砦の作法に戸惑う

「……お姉さま、おはようございます。今日の空気は少し塵が多かったので、砦の上空までの不純物をすべて焼き払っておきました。今日のお姉さまは、より一層輝いて見えますわ」


朝一番、厨房へ向かおうとしたリゼットを待っていたのは、清々しい笑顔のミレイユだった。その背景で、見張りの騎士が「……急に空気が薄くなった気がする」と胸を押さえて跪いているが、彼女は一切気にする様子もない。


リゼットが朝食の準備に取り掛かろうとすると、そこにはすでに異様な光景が広がっていた。


「ミレイユちゃん……これ、どうしたの?」


「お姉さまの貴重な時間を、薪を割るだの、火を熾すだのといった原始的な作業に費やさせるわけには参りません。このキッチンの熱源は、すべて私の魔力と直結させましたわ。お姉さまが念じるだけで、どんな火力も自由自在です」


リゼットが戸惑いながら、かつては煤けていた石造りのコンロに手をかざすと、煙ひとつ出ない透明な熱気が、彼女の意図を汲み取って揺らめいた。


「便利……なのかな? でも、火の粉が跳ねる音を聞きながら作るのも、料理の楽しみなのよ?」


「……っ! お姉さまの『情操教育』にまで配慮が及びませんでしたわ……。すぐに、パチパチという音と火花が出るだけの無意味な魔法を重ねがけします!」


「あ、いいのいいの! そのままで大丈夫だから!」


そんなやり取りを横目に、副官のヨアヒムは頭を抱えていた。

ミレイユは「お姉さまの役に立ちたい」一心で、砦のあらゆる日常を、とんでもない方法で塗り替えていく。


騎士たちが汚れた衣類を洗濯板で洗おうとすれば、ミレイユが指をパチンと鳴らす。

瞬間、衣類は空中で真っ白に浄化され、乾燥とアイロンがけまで終わった状態で、重力に逆らって綺麗に畳まれていく。


「……ミレイユ殿。気持ちはありがたいが、掃除や洗濯は若手の修行や規律の訓練も兼ねているんだ」


ヨアヒムの尤もな忠告に、ミレイユは冷氷のような視線を向けた。


「修行? お姉さまの住まうこの砦から『汚れ』という概念を抹消すること以上に優先すべき事項があるのですか? あなたのような、筋肉で思考を止めている方に理解していただく必要はありませんわ」


「(……この娘、師団長よりタチが悪い……!)」


だが、そんなミレイユの「天才ゆえのプライド」が揺らぐ瞬間がやってきた。

リゼットが、昨晩の残りの端切れ野菜と、固くなったパンの耳を煮込んだだけの簡単な「まかないスープ」を差し出した時だ。


「ミレイユちゃん、はい、これ食べて。魔法は使ってないけど、野菜の甘みがしっかり出てるわよ」


ミレイユは最初、「このような栄養のかすが……」と戸惑ったが、リゼットの差し出しに逆らえるはずもなく、一口啜る。


「…………っ!!」


衝撃が走る。

豪華な食材も、完璧に管理された温度もない。ただ、リゼットが「みんなが風邪を引かないように」と、丁寧に灰汁を取り、ゆっくり時間をかけて煮込んだ、慈愛そのものの味。


「……計算が、合わない。……この、不均一な野菜の切り口から漏れ出す温もりは……一体……?」


「それが『家庭の味』よ、ミレイユちゃん。魔法じゃ作れない、秘密の隠し味ね」


ミレイユはその日、初めて魔法を使わずに、一枚の皿を自分の手で丁寧に洗った。

もちろん、その後で「お姉さまが使ったスポンジ」を密かに鑑定しようとして、ヨアヒムに首根っこを掴まれて引きずられていった。

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