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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第3章 至高料理師の凱旋(再びの砦編)

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第39話:砦の復活――岩塩キノコと黒鉄ボアの祝宴

「……な、なんだあの熱気は!?」


副官ヨアヒムは、厨房から漏れ出す「物理的な圧力」に圧倒されていた。

リゼットが厨房に入ってわずか数分。普段なら薪の爆ぜる音と煤煙が漂うはずの場所が、今は見たこともない銀色の光を放ち、プロが使う「戦場」へと変貌していた。


「お姉さま、コンロの魔力供給路を再編しましたわ。この中央の五口は、それぞれ八段階の温度固定が可能です。奥の二口は、極低温での『じっくり煮込みモード』に設定してありますので」


「わあ、ミレイユちゃん助かるわ! これならお肉を焼きながら、スープの火加減を気にしなくていいのね!」


ショートコートの袖をまくり、リゼットが巨大な中華鍋を手に取る。

その隣では、ミレイユが数多の魔法陣を空中に展開し、まるで多機能オーブンや自動攪拌機のように魔法を操っていた。


「団長……あれは本当に『魔法』なのですか? 我々の知る魔導師は、あんなふうに精密に、火力を『煮込みに最適化』するために魔力を使ったりはしませんが」


「……ヨアヒム。考えるな。あれは、そういう『生き物』なんだ」


ガイアスが遠い目で答える。その間にも、リゼットの包丁がまな板を叩く快音が響き渡った。


今回のメインは、道中で仕留めた「黒鉄ボア」のバラ肉と、ミレイユの魔法で鮮度を凍結させた「岩塩キノコ」。


「まずは、キノコをそのまま焼くわよ!」


リゼットが熱々の鉄板に、岩塩の結晶を纏ったキノコを並べる。

「パチッ、パチパチッ!」

熱によってキノコの外殻である塩が溶け出し、中の濃厚な水分と混ざり合って、天然の「塩ダレ」となって身を包み込んでいく。


「仕上げに、ボアの脂でカリカリに揚げた香草を散らして……はい、まずは前菜!」


食堂に運ばれたその皿を、若手騎士たちが震える手で口に運ぶ。

「……っ! なんだこれ……!? 噛んだ瞬間、中から旨味が溢れてくる……! それにこの塩加減、絶妙すぎて、胃袋が歓喜の歌を歌ってるぞ!」


「次はメイン! 黒鉄ボアの『岩塩キノコ煮込み・王都風』よ!」


リゼットが重厚な大鍋の蓋を開ける。

立ち上ったのは、赤ワインとスパイス、そして熟成された肉の脂が混じり合った、暴力的なまでに芳醇な香り。王都で学んだ洗練された技法に、砦に自生する野草の力強さが加わった、まさに「至高」の逸品だ。


「さあ、みんな、遠慮しないで食べて!」


「「「いただきます!!!」」」


騎士たちが一斉に木匙を動かす。

「……う、旨すぎる。なんだ、この肉の柔らかさは……! 以前のリゼットさんの料理も凄かったが、さらに……なんていうか、味が『深く』なってる……!」


「ああ、魔力が……。腹の底から、温かい魔力が、血管を通って指先まで満ちていく……。生き返る……。俺、生きててよかった……!」


涙を流して肉を頬張る騎士たち。その光景を、リゼットは満足そうにかんざしを指でなぞりながら眺めていた。


「よかった。やっぱり、美味しいって言ってもらえるのが一番のご褒美ね」


「お姉さま、あんな下等生物たちの賞賛など、私の解析結果データに比べれば誤差に過ぎませんわ。……さあ、次は私の口に、その愛のこもった料理を直接……!」


「あはは、ミレイユちゃんもいっぱい食べてね」


ヨアヒムは、リゼットの変わらぬ笑顔と、格段にレベルアップした料理、そして異常なほど有能な新参者の姿を見比べ、ようやく確信した。


(……ああ。リゼットさんは、ただ帰ってきたんじゃない。王宮という戦場を制し、本当の『伝説』になって帰ってきたんだ)


ヨアヒムは、目の前の絶品煮込みを一口啜り、あまりの旨さに一瞬意識を飛ばしながら、そう心の中で呟いた。

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