第37話:魔導の叡智の無駄使い
すみません。昨日の投稿で話数が重複していましたが、ストーリが重複していたわけではありません。話数を修正して今日は37話目です。
王都から北上し、リゼット達は霧の深い「幻惑の森」へと足を踏み入れていた。
この森には、特定の季節にしか現れない幻の食材――『岩塩キノコ(ソルト・マッシュ)』が自生しているという。
「あ、あったわ! 団長さん見て、あの木の根元! 白くてキラキラしてる!」
リゼットが指差した先には、表面が結晶化した塩の膜で覆われた、奇妙なほど美しいキノコが群生していた。しかし、その周囲には紫色に淀んだ「毒の霧」が渦巻いている。
「……リゼット、あそこはマズい。あの霧は神経を麻痺させる魔毒だ。騎士団の防毒装備なしでは――」
ガイアスが制止しようとしたその時、背後から銀髪の少女が音もなく進み出た。
「公爵様。その程度の『不潔な塵』を、お姉さまの行く先に残しておくわけがないでしょう?」
ミレイユが優雅に指先を鳴らす。
「【クリーン・エア】超短縮展開。ついでに、お姉さまの足元が汚れないよう、地面を【ロードメイキング】しましたわ」
一瞬にして毒霧がクリスタルが砕けるような音と共に消滅し、リゼットの足元からキノコの群生地点まで、まるで王宮の廊下のような「見えない道」が出来上がった。
「わあ、すごいわミレイユちゃん! 歩きやすい!」
「お姉さまのためなら、森一つを丸ごと真空パックにして差し上げるのも吝かではありませんわ。さあ、採取を!」
リゼットは意気揚々と岩塩キノコに手を伸ばす。だが、このキノコにはもう一つ厄介な性質があった。特殊な刃物で一流の腕前をもつ人間がきれいに切り取らないと、瞬時に自爆して塩の粉末を撒き散らし、自らの形を失ってしまうのだ。
いかなリゼットといえどその特殊包丁がなければ採取はうまくできない。
「ああっ、これ、包丁を入れるだけで崩れちゃう……。どうしよう、これじゃお土産にできないわ」
「ふふふ、お姉さま。そこで私の出番ですわね」
ミレイユは瞳に魔力観測の十字光(ハート型に近い)を浮かべると、キノコに向けて両手をかざした。
「【タイム・スロウ】――並びに、【分子振動凍結】。……はい、お姉さま。今、キノコの細胞一つ一つの動きを私の魔力で強制的に停止させました。ダイヤモンド並みの硬度で固定してありますので、叩いても割れませんわ。」
「すごーい! これなら砦までずっとピカピカのままね!」
もはや魔法の定義がゲシュタルト崩壊を起こしているが、ミレイユ本人はお姉さまに褒められたことで、鼻から少し蒸気が出るほど興奮している。
「これ、焼くと中の水分が溢れて、外側の塩の殻が自然に溶けて最高の塩加減になるのよね。……あ、ミレイユちゃん、あっちの崖の上に生えてる『絶壁ワサビ』も取れるかしら?」
「もちろんですわ! フライの魔法ででお姉さまをあそこまで飛ばしますか? それとも、私が【テレポート】でワサビだけを『根を傷めず、かつ皮が剥けた状態』で召喚いたしましょうか?」
「……おい、ミレイユ。貴様、国の至宝たる魔導技術をなんだと思っている」
ガイアスが呆れ果てて口を挟むが、ミレイユは冷たく言い放った。
「公爵様。魔導の極致とは『願いを叶えること』です。お姉さまが『ワサビが欲しい』と願う。それが宇宙の真理。私がそれに全力を尽くす。……何か矛盾でも?」
「大ありだ!!」
その後も、ミレイユのとんでも魔術の数々で美しく下処理された食材が、リゼットの背負い籠へと積み上げられていった。
夕暮れ時、籠いっぱいの幻の食材を抱えたリゼットは、満足そうにかんざしを触りながら笑った。
「ふふ、これなら砦のみんなも驚くわね。……あ、でも、みんなお腹空かせて待ってるかしら?」
「……だろうな。特にあいつらは、お前のメシがないと『生ける屍』同然だからな」
ガイアスは、遠い辺境の砦で飢えている(精神的な意味で)部下たちの顔を思い浮かべ、少しだけ馬車の速度を上げた。
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