第35話:懐いた銀髪と黄金の秘策
王都出発の朝。
王宮の厩舎で馬車の点検をしていたガイアスは、向こうからやってくるリゼットの姿に目を細めた。
リゼットは、自分の体ほどもある大きな毛布の塊を、大切そうに抱えて歩いてくる。
「……リゼット、準備はいいか? ところで、なんだその動く塊は。まさか、また変な魔獣の幼体でも拾ってきたんじゃないだろうな」
ガイアスの言葉に、塊が「ビクッ」と震え、中から「ゴロゴロ……」とあるいは喉を鳴らすような音が響いた。
「あはは、ばれちゃった? なんだかなつかれちゃって。私の料理、すっごく気に入ってくれたみたいで、放っておけなかったの」
リゼットが困ったように、しかし嬉しそうに微笑む。
「なつかれた……? 喉を鳴らしているのか? 猫か? だが、それにしてはデカすぎないか。おい、中を見せてみろ」
ガイアスが警戒しながら毛布の端を掴んだ、その瞬間。
「シャアァァッ!! ……あ、お姉さま。今の『ゴロゴロ』、録音魔法で保存していただけました? 私の最大級の親愛表現ですわ」
毛布の中から飛び出してきたのは、猫耳……ではなく、銀髪を振り乱し、目に怪しい光を宿した天才魔導師、ミレイユだった。
「貴様、カシアンのところの小娘!? 何をやっている、今すぐ魔術師団に帰れ!」
「(一瞬で無表情になり)……公爵様、うるさいです。私はカシアン様から『至高料理師の魔力動態を二十四時間体制で監視せよ』との極秘任務を拝命しておりますの。あ、これは公式な命令書(※自分で偽造したもの)です」
「見せろ、偽造の匂いしかせん!!」
騒ぎ立てる二人を余所に、リゼットはミレイユの頭を優しく撫でた。
「いいじゃない、団長さん。ミレイユちゃん、昨日の夜も私の『魔力パンパン小龍包』を味見(完食)して、幸せそうに床で転がってたのよ。とってもいい子なんだから」
「お、お姉さまぁ……!! 私、一生ついていきますわぁ……!!」
再び毛布に潜り込もうとするミレイユを、リゼットがひょいと止めた。
「あ、そうだわ。ミレイユちゃんに貰った『これ』、着てみてもいいかな?」
「もちろんですわ! お姉さまのために、魔導師団の予算を(勝手に)注ぎ込んで作った至高の一着ですもの!」
数分後。馬車の影で着替えを終えて出てきたリゼットを見て、ガイアスは息を呑んだ。
以前胸を押さえるのにちょうどいいとってた「さらし」は卒業し、そこには機能的かつ健康的な美しさを纏った新しいリゼットがいた。
伸縮性に優れた深い紺色のタンクトップは、彼女の豊かな肢体を優しく包みつつ、動きを一切妨げない。その上から羽織ったショート丈の白い料理師コートが、至高料理師としての品格を添えている。
「これ、すごく楽ね! 胃が圧迫されないから、お腹いっぱい食べられそうだわ。団長さんこれいいわね」
「……あ、ああ。似合っている、リゼット」
ガイアスは赤面して視線を泳がせた。
今の彼女からは、洗練された「プロの料理人」としての輝きが放たれている。
そして、リゼットは手近な黄金の細長い棒を手に取った。
「あと、これ。王様が『困った時に見せろ』って言ってたんだけど、髪をまとめるのにちょうど良さそうだから」
リゼットがラフに髪をまとめ、黄金の「かんざし」をグイッと差し込む。
それは一見、ただの豪華な髪飾りに見えたが、その先端には王家の刻印と、伝説の「至高料理師」の証が刻まれていた。
「リゼット……! それは一国に一人しか許されない、王の代理人としての権威を示す紋章だぞ……! 髪留めにする奴があるか!」
「えー、だってこれ、先っぽをちょっと捻ると豆の皮を剥くのに丁度いいんだもん」
「……公爵様。お姉さまの自由な発想を、自分の常識で汚さないでいただけます?」
ミレイユが冷たく言い放つ。
「貴様ぁぁ……!!」
「ふふっ、二人とも本当に仲良しねぇ。さあ、出発しましょう! 砦のみんなに、王都の美味しいお土産を食べさせなきゃ!」
かくして、一人の伝説的な料理人と、一人の不憫な公爵、そして一人の(自称)忠犬魔導師を乗せた馬車が、ゆっくりと王都の門を潜り抜けた。
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