第32話:御前調理
王宮の大広間は、
いつもとは違う空気に包まれていた。
重臣たちが列をなし、
魔術師団が魔力の流れを監視し、
騎士団が厳重な警備を敷いている。
その中心に――
リゼットが立っていた。
さらし姿のまま、
大鍋と包丁を抱えて。
「わぁ……広い……!
ここで料理するのね!」
ガイアスは、
その無防備な姿に頭を抱えた。
(頼む……多くの人前でその格好は…… )
カシアンは魔力測定器を構えながら言う。
「リゼット。
魔力の流れは安定している。
君の料理なら問題ない」
シグルドは、
重臣たちの視線を受け流しながら微笑んだ。
「政治的な敵は、私が黙らせる。
安心して作りなよ」
リゼットは、
三人に向かってにこっと笑った。
「ありがとう!
じゃあ、始めるね!」
王様は、
まだ完全ではないが、
意識ははっきりしていた。
「……そなたが……リゼットか」
「はい! リゼットです!」
王様は微笑んだ。
「……そなたの料理は……
私の命を繋いだ。
今日も……頼む」
リゼットは深く頷いた。
「はい。
今日も美味しいものを作ります!」
御前調理、開始
リゼットは、
大鍋に火を入れた。
「まずは魔力の流れを整えるスープね。
王様の魔力はまだ不安定だから……
今日は“循環を促す香草”を多めに使うわ」
カシアンが魔力を読み取る。
「……正しい判断だ。
王の魔力は“滞り”が残っている。
循環を促す食材が必要だ」
ガイアスは周囲を警戒しながら言う。
「リゼット。
何かあればすぐ言え」
シグルドは重臣たちに向けて言う。
「彼女の料理は、魔術師団も宰相府も救った。
疑う必要はない」
重臣たちはざわついた。
「本当に……料理で魔力が整うのか?」
「魔術ではなく……?」
「だが陛下は回復された……」
そのざわめきの中、
リゼットは淡々と、
しかし楽しそうに料理を続けた。
突然、
厨房の奥から魔力の乱れが走った。
カシアンが叫ぶ。
「……魔力が乱れた!?
誰かが“魔力攪乱の呪符”を仕掛けている!」
ガイアスは剣を抜いた。
「バルトロの仕業か……!」
シグルドは重臣たちを睨む。
「王宮の厨房に呪符を仕掛けるなど……
国家反逆罪だぞ」
重臣たちがざわつく。
「まさか……」
「料理長が……?」
「だが証拠が……」
その混乱の中、
リゼットは鍋を見つめて言った。
「……大丈夫よ」
三人が同時に振り向く。
「リゼット!?」
リゼットは、
鍋に香草をひとつまみ落とした。
「魔力が乱れてるなら……
“乱れを吸う食材”を使えばいいのよ」
カシアンが目を見開く。
「そんな食材……存在するのか……?」
リゼットは笑った。
「あるわよ?
“夜泣き草の根”っていうの。
魔力の乱れを吸って、甘味に変えるの」
ガイアスは呆然とした。
(……そんな食材、聞いたことがない……
だが……彼女なら……)
シグルドは肩をすくめた。
「彼女が言うなら、あるんだろうね」
リゼットは鍋をかき混ぜた。
すると――
乱れていた魔力が、
スッ……と静まった。
カシアンが震える声で言う。
「……魔力が……整った……
呪符の効果を“食材”で打ち消した……
そんなこと……あり得ない……!」
リゼットは、
黄金色のスープを王様の前に差し出した。
「お待たせしました。
“魔力循環安定スープ・特別版”です!」
王様は、
震える手でスプーンを取った。
一匙。
二匙。
その瞬間――
王様の体から、
柔らかな光が立ち上った。
老医師が叫ぶ。
「……魔力が……完全に安定していく……!」
カシアンは震えた。
「これは……魔術では絶対に作れない……
“生命の循環”そのものだ……!」
ガイアスは、
胸を押さえながら呟いた。
「……リゼット……
君は……王国を救った……」
シグルドは満足げに笑った。
「これで……王宮は動く。
リゼット、君の時代が来るよ」
王様は、
はっきりとした声で言った。
「……リゼット。
そなたの料理は……
王国の宝だ」
重臣たちが息を呑む。
王様は続けた。
「そなたに――
“王国認定・至高料理師”の称号を授ける」
大広間がざわついた。
「至高料理師……!?
伝説の……?」
「数百年に一人の天才に与えられる称号だぞ……!」
リゼットは目を丸くした。
「えっ!?
しこう……?」
王様は微笑んだ。
「そなたは誰にも縛られぬ。
どこへ行こうと、王国はそなたを歓迎する。
そなたの料理は……
“王国全土の命”を救う力を持つからな」
しかし、その一方でー
ガイアスが叫んだ。
「彼女は私の専属だ!!」
カシアンが言う。
「魔術師団の調律担当だ」
シグルドが笑う。
「宰相府の胃袋を救ったのは誰だと思ってるんだい?」
三人が同時に睨み合う。
王様は苦笑した。
「……そなたたち、仲が良いのだな……」
リゼットは困ったように笑った。
「みんな、仲良しよねぇ」
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