第31話:王宮の波紋、そして御前調理の宣告
王様が目を覚ましたという知らせは、
王宮全体を揺るがした。
侍従たちは走り回り、
重臣たちは会議室へ駆け込み、
魔術師団は魔力の流れを再測定し、
宰相府は書類の山を抱えて右往左往していた。
だが――
その中心にいる本人は、
さらし姿でスープの鍋を洗っていた。
「ふぅ……王様、ちゃんと食べてくれてよかったぁ」
ガイアスは、
その無防備な姿に頭を抱えた。
(……頼むから王宮では少し落ち着いてくれ……
その格好でうろつくと、俺の寿命が縮む……)
カシアンは魔力測定器を見ながら呟いた。
「……王の魔力循環が安定している。
これは……本当に奇跡だ」
シグルドは、
書類を片手に満足げに笑った。
「王宮の重臣たちが騒いでいるよ。
“リゼットという娘を正式に王宮料理人に迎えよ”とね」
ガイアスが即座に叫んだ。
「断る!!
彼女は私の専属だ!!」
カシアンも負けじと言う。
「魔術師団の調律担当だ」
シグルドが肩をすくめる。
「宰相府の胃袋を救ったのは誰だと思ってるんだい?」
三人が同時に睨み合う。
リゼットは、
鍋を抱えたまま困ったように笑った。
その頃、
王宮の重臣たちは緊急会議を開いていた。
「陛下の容態が回復したのは事実だ」
「だが、原因は“料理”だと?」
「魔術ではなく……料理で魔力が整うなど……」
そこへ、
侍従が入ってきた。
「陛下より伝言です。
“リゼットを正式に王宮へ招け”とのこと」
会議室がざわついた。
「陛下が……?」
「意識が戻られたのか?」
「いや、まだ完全ではないが……
確かに“リゼット”と仰せだ」
重臣たちは顔を見合わせた。
「……ならば、御前で調理させるべきだ」
「陛下の前で、正式に“魔力安定食”を作らせる」
「その結果をもって、王宮料理人としての資格を判断する」
その案に、
全員が頷いた。
「では――御前調理を命じよう」
リゼットは、
鍋を抱えたまま三巨頭に囲まれていた。
「リゼット。
王宮から正式な命令が来た」
シグルドが言う。
「“御前調理”だ。
陛下の前で、正式に料理を作ることになる」
リゼットは目を丸くした。
「えっ!?御前調理……?」
ガイアスは、
彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫だ。
君の料理は……誰よりも人を救う」
カシアンも言う。
「魔力の調律は、君の料理が最も適している」
シグルドが微笑む。
「政治的な敵は、私が黙らせる」
リゼットは、
三人を見て笑った。
「みんな……ありがとう。
じゃあ、頑張って作るね!」
バルトロは、
机を叩きつけて怒鳴っていた。
「なぜだ!!
なぜあの娘が御前調理などという大役を!!」
部下が震えながら言う。
「り、料理長……
陛下の容態が回復したのは事実で……
その原因がリゼットの料理だと……」
「黙れ!!
あの小娘が……
私の宮廷料理界を……
奪っていく……!!」
バルトロは、
狂気の笑みを浮かべた。
「……いいだろう。
御前調理だと?
ならば――
“御前で失敗させればいい”」
部下たちは青ざめた。
「り、料理長……まさか……」
「王宮の厨房に“仕掛け”をしておけ。
あの娘が二度と立ち上がれぬようにな」
その目は、
完全に正気を失っていた。




