第28話:王宮召喚、そして暗雲
王宮からの正式な召喚状が届いた翌朝。
騎士団の屋敷は、いつになく慌ただしかった。
「リゼット。
今日は……王宮へ向かう」
ガイアスは、
鎧の上から胸を押さえながら言った。
リゼットは、
さらし姿のまま大鍋をかき混ぜている。
「えー? まだスープできてないのに」
「スープは後だ!!」
ガイアスの声が裏返った。
(……頼むから、王宮にはその格好で行かないでくれ……
俺の心臓が死ぬ……)
そこへ、
カシアンが魔術書を抱えて入ってきた。
「ガイアス。
王宮への護衛は私も同行する。
リゼットの魔力調律は、私が監督する」
「お前はただ食べたいだけだろう!!」
「……否定はしない」
カシアンは真顔で言った。
さらに、
扉がノックもなく開いた。
「やぁ、迎えに来たよ」
シグルド宰相が、
涼しい顔で立っていた。
ガイアスは眉をひそめる。
「……シグルド。勝手に入るなと言っているだろう」
「固いこと言うなよ。
今日は“国の命運”がかかっているんだ」
シグルドは、
リゼットの前にしゃがみ込んだ。
「リゼット。
王様は、君の料理を求めている。
君の料理が……王国を救うかもしれない」
リゼットは、
木べらを止めた。
「……そっか。
じゃあ、行かなきゃね」
その笑顔は、
あまりにも無邪気で――
ガイアスの心臓を撃ち抜いた。
王宮へ向かう馬車の中
馬車の中は、
妙な沈黙に包まれていた。
リゼットは、
窓の外を眺めながら言った。
「王様って、どんな人なの?」
ガイアスは答える。
「……優しい方だ。
だが、魔力の乱れで長く寝込んでおられる」
カシアンが続ける。
「魔術では治せない。
魔力の循環そのものが乱れている。
食事による調律が必要だ」
シグルドが微笑む。
「だからこそ、君が必要なんだよ」
リゼットは、
少しだけ不安そうに言った。
「……私の料理で、本当に治るかな」
ガイアスは、
迷いなく答えた。
「治る。
君の料理は……誰よりも人を救う」
リゼットは嬉しそうに微笑んだ。
一方その頃、宮廷料理局
バルトロは、
机を叩きつけて怒鳴っていた。
「なぜだ!!
なぜあの娘が王宮に呼ばれる!!」
部下が震えながら言う。
「り、料理長……その……
陛下の容態が……」
「知るか!!
王宮の料理は私の領分だ!!
あの小娘に奪われてたまるか!!」
バルトロは、
机の上の書類を掴み、破り捨てた。
「……いいか。
王宮に入られる前に、
あの娘を“失脚”させる。
方法は問わん」
部下たちは青ざめた。
「り、料理長……まさか……」
「黙れ!!
宮廷料理界の権威を守るためだ!!
あの娘を――王宮に入れるな!!」
その目は、
もはや正気ではなかった。
馬車が王宮の門前に到着した。
リゼットは、
深呼吸をして言った。
「……よし。行くわね」
ガイアスは、
彼女の肩に手を置いた。
「リゼット。
何があっても……俺が守る」
カシアンも言う。
「魔術的な危険は、私が排除する」
シグルドも微笑む。
「政治的な敵は、私が黙らせる」
リゼットは、
三人を見て笑った。
「みんな、ありがとう。
……じゃあ、行ってきます!」
その瞬間――
王宮の奥で、
ひとつの影が動いた。
バルトロの“最後の悪あがき”が、
静かに牙を剥き始めていた。




