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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第2章 王都編

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第26話:宰相、静かに牙を研ぐ

王都の朝は、まだざわついていた。

昨日の市場での騒動は収まったものの、街の空気にはまだ“悪意の残り香”が漂っている。

だが――

その裏で、もっと大きな動きが始まっていた。

シグルド宰相は、朝日が差し込む執務室で書類をめくっていた。


「……やはり、動いたか」

机の上には、宮廷料理局の帳簿の写しが広げられている。

側近が緊張した声で言った。


「宰相様……その帳簿、どこから……?」


「“匿名の善意”というやつだよ。


バルトロに恨みを持つ料理人は多いからね」


シグルドは、帳簿の一部を指で叩いた。

「ここだ。“魔力安定薬の購入費”として莫大な金が動いている。

だが、魔術師団にはそんな薬は届いていない」

側近は息を呑んだ。


「……横領、ですか?」


「横領だけならまだ可愛い。問題は――」


シグルドの目が細くなる。

「この金が、“噂の工作員”に流れている可能性だ」



一方、リゼットは、

さらし姿のまま大鍋をかき混ぜていた。

「ふふっ、今日の月光キャベツは甘いわねぇ」

ガイアスは、

その姿を見てまた胃を押さえた。

「……リゼット。

今日は絶対に外へ出るな」

「えー? 今日はミアちゃんにスープの作り方を――」

「ダメだ!」

ガイアスは、

昨日の市場での騒動を思い出し、

胸が締め付けられた。

(……守れなかったらどうする。

あの時、ミアの父親がいなかったら……)

そこへ、

カシアンが魔術書を閉じて言った。

「ガイアス。君の心配は理解するが、声が大きい。リゼットが怯えているだろう」


「怯えてないよ?」


リゼットはスープを飲んでいる。

「……ほら見ろ!!」

ガイアスは頭を抱えた。

カシアンはため息をつき、

机に書類を置いた。

「市場での騒動は、すでに王宮にも届いている。

“リゼットという娘が民衆に支持されている”と」

「支持……?」

ガイアスが顔を上げる。

「そうだ。噂に対して、民衆が反論した。これは王都では珍しい現象だ」

カシアンは、

リゼットを見た。

「君の料理は、民衆の心を掴んだ。

これは政治的にも大きな意味を持つ」

リゼットは首を傾げる。

「え? 料理って、ただ美味しいだけじゃダメなの?」

「……ダメではない。むしろ強すぎる」

カシアンは、

ガイアスの方をちらりと見た。

「特に、騎士団長にはな」

「おい、やめろ」


そこへ、扉がノックもなく開いた。

「入るぞ、ガイアス」

シグルド宰相が、

涼しい顔で入ってきた。

ガイアスは眉をひそめる。

「……シグルド。勝手に入るなと言っているだろう」


「固いこと言うな。

今日は“仕事”で来たんだ」


シグルドは、

リゼットの前にしゃがみ込んだ。

「リゼット。昨日の市場での出来事は、王宮にも届いている。

君は……王都の“象徴”になりつつある」


リゼットは首を傾げる。

「象徴って……料理人よ?」


「それがいいんだよ」

シグルドは、

ガイアスとカシアンに視線を向けた。

「二人とも、聞いてくれ。

宮廷料理局の帳簿に、不正の痕跡が見つかった」

ガイアスの表情が変わる。

「……バルトロか」

「そうだ。

“魔力安定薬の購入費”として莫大な金が動いているが、

実際には薬は存在しない。

その金がどこへ流れたか――」

カシアンが目を細めた。

「……噂の工作員か」

「その通り」

シグルドは、

書類を机に置いた。

「つまり、

リゼットを貶める噂は“宮廷料理局の金”で作られた。

これは、王都の秩序を乱す重大な罪だ」

ガイアスは拳を握りしめた。

「……許せん」

リゼットは、

スープをかき混ぜながら言った。

「えっと……つまり、バルトロさんが悪いの?」

「そういうことだ」

シグルドは微笑んだ。

「だから、リゼット。

君には“証人”になってもらう可能性がある」

ガイアスが叫んだ。

「待て! リゼットを政治に巻き込むな!」

「巻き込む? 違うよ。

彼女はもう“中心”にいる」

シグルドは立ち上がった。

「王宮が動く前に、

我々が先に手を打つ。

バルトロを――追い詰める」

その日の夕方。

王都の酒場では、

新しい噂が流れ始めていた。

「宮廷料理局で不正があったらしいぞ」

「噂を流したのはバルトロだって話だ」

「リゼットちゃん、やっぱり無実だったんだな」

悪意の霧は、

ゆっくりと晴れ始めていた。

だが――

その裏で、

バルトロはさらに追い詰められ、

“最後の悪あがき”を始めようとしていた。




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