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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第2章 王都編

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第25話:騎士団長、限界突破す

市場での騒動から数時間後リゼットは、騎士団の屋敷に連れ戻されていた。


「……あのね、団長さん。

そんなに怒らなくてもいいじゃない」


リゼットは、胸元がふわりと揺れる軽装のまま椅子にちょこんと座っている。

対してガイアスは――

机に両手をつき、肩を震わせていた。


「怒るなという方が無理だ……!!」

声が裏返った。

「君は……君は……!

王都中で悪意の噂が流れている中、

どうして窓から脱走するんだ!!」


「だって、お腹空いたし……」


「理由になってない!!」


ガイアスの胃がキリキリと悲鳴を上げる

そこへ、カシアンが入ってきた。


「ガイアス、声が大きい。

リゼットが怯えているだろう」


「怯えてないよ?」

リゼットはパンを齧りながら屈託なく答えた。


カシアンはため息をつき、

机に書類を置いた。

「市場での騒動は、すでに王宮にも届いている。

“リゼットという娘が、民衆に支持されている”とな」

「……支持?」

ガイアスが顔を上げる。

「そうだ。

噂に対して、民衆が“味”で反論した。

これは王都では珍しい現象だ」

カシアンは、リゼットを見た。

「君の料理は、民衆の心を掴んだ。

これは政治的にも大きな意味を持つ」

リゼットは首を傾げる。

「え? 料理って、ただ美味しいだけじゃダメなの?」

「……ダメではない。むしろ強すぎる」

カシアンは、

ガイアスの方をちらりと見た。

「特に、騎士団長にはな」

「おい、やめろ」

そこへ、扉がノックもなく開いた。

「やぁ、楽しそうだね」

シグルド宰相が、

涼しい顔で入ってきた。

ガイアスは眉をひそめる。

「……宰相。勝手に入るな」

「固いこと言うなよ。

リゼットに用があって来たんだ」

シグルドは、

リゼットの前にしゃがみ込んだ。

「リゼット。

今日の市場での出来事、私は全部聞いたよ。

君は……王都の“希望”になりつつある」

リゼットは、パンをもぐもぐしながら言った。

え? 希望?

私、ただ料理してただけよ?」

「それがいいんだよ」

シグルドは微笑んだ。

「君の料理は、民衆を動かす。

魔術師団を動かし、宰相府を動かし、

そして――王宮を動かす」

ガイアスが立ち上がった。

「……宰相。

リゼットを政治に巻き込む気か?」

「巻き込む? 違うよ。

彼女はもう“中心”にいる」

シグルドの目が細くなる。

「だからこそ、守らなければならない。

王宮が動く前に、ね」

ガイアスは、

拳を握りしめた。

「……リゼットは……

俺が守る」

部屋が静まり返った。

リゼットは、

パンを落としそうになった。

「だ、団長さん……?」

カシアンは目を丸くし、

シグルドは口元を緩めた。

「ほう……やっと言ったね」

ガイアスは顔を真っ赤にしながら続けた。

「リゼットは……

料理人で……

俺の……

大切な……仲間だ」

「仲間、ねぇ……」

シグルドがニヤリと笑う。

「(恋人候補、の間違いだろう)」

カシアンが小声で呟く。

「な、なんだと!?」

ガイアスが怒鳴る。

リゼットは、

胸元を押さえながら笑った。

「みんな、仲良しねぇ」

ガイアスは、

その笑顔に胸を撃ち抜かれた。

胃痛と恋心が、

同時に限界突破した瞬間だった。



その夜。

王宮の奥深くで、

ひとつの報告が上がった。

「陛下。

“リゼット”という料理人が、

王都の民衆に支持されております」

王の瞼が、

ゆっくりと開いた。


「……その娘を……連れてこい……」


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