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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第2章 王都編

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第20話:リゼット脱走!?

リゼットの重要性に気付いたシグルド、同じくカシアンも(研究対象として)執着を抱き、ガイアスのいるところにおしかけていた。


「……いいか、リゼット。王都には逆恨みしたバルトロたちもいれば、君の能力を政治利用しようとする輩も山ほどいる。当面、私の許可なく屋敷の外へ出ることは禁ずる」


ガイアスは、騎士団長としての威厳を全開にしてリゼットに告げていた。

その横ではカシアンが「私の研究所への移動時のみ外出を許可する。

移動は完全遮蔽の馬車だ」と付け加え、シグルドも「宰相府の護衛を数名付けよう」と頷いている。


大人三人が、一人の少女を「閉じ込める」ことで合意した瞬間だった。


「…………」 リゼットは、じーっと三人の顔を見た。 「みんな、顔が怖い。……そんなに難しい顔してると、胃がねじれちゃうわよ?」


「リゼット、これは君のためだ。わかったな?」 ガイアスが念を押すと、リゼットは「はーい」と力なく返事をして、トボトボと自分の部屋へ引き上げていった。


「……少し厳しすぎたか?」 ガイアスが良心の呵責に眉を寄せた、その一分後のことである。


「だ、団長! リゼット殿が、部屋の窓からロープを……いえ、さらしを繋ぎ合わせて逃げ出しました!!」


「なんだと!?」


ガイアスたちが慌てて部屋へ踏み込むと、そこには脱ぎ捨てられた重苦しい上着が、丁寧にベッドの上に置かれていた。 窓の外には、即席の白いロープが風に揺れている。


「……あいつ、さらしをこんなふうに使うなんて……!?」 ガイアスが呆然と呟く中、彼は窓から身を乗り出した。

遥か下、王宮の庭園を、腰に包丁とポーチをぶら下げただけの、驚くほど身軽なリゼットが、驚くほどの速度で走り抜けていくのが見えた。


「追え! 門を封鎖しろ!!」


「ふぅーー! やっと空気が美味しくなったわ!」


王都の入り組んだ路地。リゼットは、追っ手の騎士たちの足音を「野生の聴覚」でかわしながら、活気溢れる下町の市場へと滑り込んだ。

上着を捨てたおかげで肩が軽い。

短くはなったがさらしでしっかり固定された胸元は、全力疾走しても彼女の大きな胸を揺らすことはなく非常に重宝した。


「さて、今日の目的は……」


鼻をくんくんと動かす。

高級な王宮の厨房にはない、生臭くて、泥臭くて、でも生命のエネルギーに満ちた匂い。

その中に、一際「悲しい匂い」が混じっているのを、彼女の鋭い嗅覚が捉えた。


市場の隅、客足もまばらな「ハズレ区画」。 そこには、十歳ほどの少女――ミアが、泥だらけになりながら大きな桶の前に座り込んでいた。


「お願いだよ……誰か買ってよ……! お父ちゃんの薬代が……!」


十歳ほどの少女――ミアが、大きな桶を抱えて必死に声を張り上げている。


桶の中には、黒い皮にトゲを持つ巨大な魚――


『痺れアンコウ』が横たわっていた。


「おい、やめとけ! 触っただけで痺れて倒れるんだぞ!」


「そんな呪いの魚だ! そんなもん買うやついねぇよ!」


「おい、やめとけ! 触っただけで指先が動かなくなるんだぞ!」


周囲の大人たちは、恐怖と迷信から遠巻きに見るばかりだ。

この魚、本来は一部の貴族が珍重する「高価な滋養強壮食材」なのだが、調理には高度な魔力中和技術が必要とされる。

ミアの父親は腕利きの漁師だったが、嵐で怪我を負い、この獲物だけを娘に託して倒れたのだ。

ミアは父親を助けるために必死に運んできたが、捌き手も買い手もいない下町市場では、ただの『危険な化け物』として扱われていた。


「……あら?」


リゼットの足がぴたりと止まった。

彼女は人だかりをかき分け、ミアの前にしゃがみ込む。


「ねえ、お嬢ちゃん。それ、売り物?」


ミアは涙で濡れた目を見開いた。


「う、うん……! 本当は“高級食材”なんだってお父ちゃんがいってたのに……。

でも、みんな呪いのさかなだって怖がって……」


「呪い? あはは、面白いこと言うわね!」


リゼットは迷いなく、その「化け物」の顎を素手で掴み、中を覗き込んだ。 周囲の客が「ひぇっ!」と悲鳴を上げて下がる。


「見てよ、この立派なエラ。それに、このお腹の膨らみ……。お嬢ちゃん、あんたツイてるわよ。これ、正しく捌けば王都の高級店がひっくり返るくらいのお宝なんだから!」


「お、お宝……?」


リゼットは腰のポーチから、一本の包丁を抜き放った。


「言葉で説明するより、食べたほうが早いわ。お嬢ちゃん、ここで捌いてもいい?」


追っ手の騎士たちがすぐそこまで迫っていることも忘れ、リゼットの瞳は「未知の美味」への好奇心で、黄金色に輝いていた。

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