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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第2章 王都編

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第19話:清書されたレシピ

執務室には、湯気と香草の香りが満ちていた。

リゼットが要望に応え追加したスタミナ団子を、シグルドはゆっくりと口に運ぶ。


「……これは……」


改めて料理として味わい噛んだ瞬間、彼の肩から力が抜けた。

胃の奥に温かさが広がり、張り詰めていた神経がほどけていく。

「久しく……食事で心が落ち着くという感覚を忘れていたな」

シグルドは深く息を吐き、机の書類の山を見ても胸が痛まない自分に驚いていた。


そんな穏やかな空気の中、


――ドタドタドタッ!


廊下の向こうから、慌ただしい足音が響いた。

次の瞬間、執務室の扉が勢いよく開かれる。


「シグルド閣下、お聞きください! その娘は……そのリゼットという娘は、かつて我が宮廷料理局を素行不良で追放された問題児なのです!」


宮廷料理長バルトロは、シグルドの執務室に駆け込み、必死の面持ちで訴えかけていた。

その背後には、彼が「自分の手柄」として発表してきた魔力回復レシピの正当性を守るため、冷や汗を流す部下たちが控えている。


「……ほう。問題児、か」


シグルドは、リゼットの「スタミナ団子」のおかげで数か月ぶりに血色の良くなった顔を上げ、冷ややかにバルトロを見た。その傍らには、リゼットの料理を解析しようと勝手に居座っているカシアンと、彼女の背後でバルトロを睨みつけるガイアスがいた。


「左様です! 彼女が作るものは、魔物の部位や得体の知れない野草を煮込んだ、毒同然の代物。閣下の御身に万が一のことがあれば……!」


「――毒、か」カシアンが低く笑い、手元の魔導書を閉じた。


「バルトロ。君が『最高傑作』として陛下に献上している魔力回復スープ。あれを飲んだ後の魔力安定指数は、わずか 15% だ。一方、この娘が適当に煮込んだスープは、私の魔力を 98% 完全に調律した」


「そ、それは数値の誤差で……!」


「誤差で片付けるには、あまりにも絶望的な差だな」


ガイアスが一歩前に出る。その圧倒的な武人の威圧感に、バルトロの膝が笑い始めた。


「リゼットは辺境の砦で、百名の騎士を一人も欠けさせることなく食で支え抜いた。……お前が言う『毒』で、我が軍が強化されたとでも言うのか?」

その時、執務室の隣の給湯室から、パカッという景気のいい音が響いた。


「おじさんたち、お話終わった? スープが飲み頃よ!」


リゼットが、重厚な執務室には似合わない使い古した鍋を抱えて現れた。

彼女はバルトロの存在に気づくと、首を傾げた。

「あら、料理長さん。お久しぶりね。……なんだか前よりお腹が出たんじゃない?」


「き、貴様っ……! 閣下の前でなんという失礼な!」


「失礼なのはお前だ、バルトロ」


シグルドが、リゼットの差し出したスープを当然のように受け取りながら言った。


「お前が『無能だ』と切り捨てたこの料理のおかげで、私は今日、三日ぶりに眠れそうなのだ。……対して、お前の料理はどうだ? 喉を通るたびに胸が焼け、砂を噛むような思いだったが?」


「そ、それは……閣下のご体調が……」


「体調を整えるのが料理人の役目だろう。……リゼット」

シグルドがリゼットを呼び止める。


「お前が宮廷にいた頃、この男に自分のレシピを奪われたというのは本当か?」

リゼットは「うーん」と人差し指を頬に当てて考え込んだ。


「奪われたっていうか……『お前の書くものは字が汚くて読めないから、俺が清書してやる』って言われてました!」


「「…………(それは奪われたと言うんだ、リゼット)」」


ガイアスとカシアンの心の声が一致した。


「なるほど、字が汚いか。……清書しただけのバルトロより、書いた本人のスープの方が効くというのは、当然の結果だな」


シグルドの目が、政治家としての獲物を狙う鋭さに変わる。


「バルトロ。お前には後日、改めて『宮廷料理の正当な技術継承』について、魔術師団と騎士団合同の調査に入ってもらう。……今日はもう下がれ。スープの匂いが濁る」


バルトロは顔面蒼白になり、蛇に睨まれた蛙のように震えながら、命からがら部屋を飛び出していった。


「……ふぅ。宰相さん、あんなに怒らなくてもいいのに。はい、団長さんも魔術師さんも。!せっかくのスープが冷めちゃうよ」


「宰相……さん?」


シグルドが眉をぴくりと動かした。今までのおじさん扱いよりはるかにましだが王国宰相を「さん」付けで呼ぶ人間など、この王宮には一人もいない。


カシアンにしても、魔術師にはちがいないが、最強の筆頭魔術師として知られている彼を誰一人として「魔術師さん」などと呼ぶような人はいない。

が、そんなことはカシアンにとっては些細なことである。


差し出されたスープの香りに、シグルドも追求する気力を失った。


「……ああ、いただく」


「……解析させてもらう」


王都の権力者たちが、リゼットの鍋を囲んで一息つく。

その平穏な光景とは裏腹に、リゼットを追放した宮廷料理局という巨塔は、その足元から音を立てて崩れ始めていた。

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