04. ヒメハジメ、しよ?
新年の宴で薔薇酒を一気飲みしてふらふらになったルリは、サクラとキウイに支えられながら、サロンの近くの控室に入った。
ふかふかのソファに座らせられ、ルリは「ふう」と息を吐いた。
「キウイ、ルリを支えてくれてありがとう。しばらく私が見てるから……二人は下がっていいわ」
サクラの言葉に、ルリの心は沸き立った。
(ついに、ふたりきり……ついに、ヒメハジメ……!)
しかしサクラの言葉に、キウイが焦るような声を出す。
「え、あ、あのっ……」
サクラの指示に、キウイが言葉を探すように言い淀む。
ルリがぼんやりとした視線を向けると、キウイはなぜか額にびっしりと脂汗をかいて、おろおろと視線を泳がせていた。
「どうしたの、キウイ? 何か心配事?」
不思議に思ったサクラが尋ねると、キウイはびくりと肩を震わせ、すがるような目をサクラに向けた。
「い、いえ、その……。……サクラ様、私たちもお側におりますよ。二人きりだと、何かと……ゆっくりできないかもしれませんから」
「キウイさん、何を言ってるんですか? 二人きりの方が、静かにゆっくりとできるに決まってるではありませんか」
キウイの突拍子もない提案に、横にいたチェリーが呆れたように一刀両断する。
「しかしチェリーさんっ、サクラ様の御身に『危険』が迫った時に、私にはお守りする義務がありますので……っ」
「この城は結界魔法で守られていて安全ではありませんか。ほら、行きますよ」
「危険は外から来るとは限りませんっ。むしろ、もっとも警戒すべき獣……い、いえ、……『危険因子』は、すぐ近くに潜んでいる可能性が……っ」
「何を訳が分からないことをおっしゃっているのですか。……ほら、二人のお邪魔になってしまいますよ」
必死にその場に留まろうとするキウイの腕を、チェリーが容赦なく引っ張った。
「あ、ちょ、チェリーさん……っ。……サクラ様っ、お側に控えておりますので……何かあればご相談をっ……」
「ふふ、キウイはルリが心配なのね。ありがとう、大丈夫よ」
ばたんと扉が閉められ、部屋にはルリとサクラだけが取り残された。
外の喧騒が嘘のように、部屋の中は静まり返っている。
聞こえるのは、自分の少し早い心臓の音と、サクラの衣擦れの音だけだ。
「……ルリ、大丈夫?」
サクラがルリの隣に座りながら、心配そうな声を出す。
うるうるとした目で見つめられて、ルリの胸がきゅうっと締めつけられた。
(サクラ……サクラがほしくて、たまらないよ……)
そんな愛おしい想いで、お酒で熱くなった胸がいっぱいになる。
「サクラ……むねが、くるしいの……っ」
「そうなのね……。じゃあ、少しドレスとコルセットを緩めてあげるわ」
サクラが立ち上がり、ルリの前に立つ。
ソファに座るルリに覆いかぶさり、ドレスの背中の留め具に手をかけた。
途端に、視界がサクラでいっぱいになる。
サクラの柔らかい胸が目の前にある。
サクラの匂いに包まれている。
ドレスの留め具が外される音を聞きながら、ルリの頭はサクラのことしか考えられなくなっていた。
「……んっ」
しゅる、と背中の紐が緩む音がした。
ぎゅっと締めつけていたコルセットが緩み、肌との間に空気が入る。
少しだけひやりとして、でも解放感が心地いい。
「ルリ、どうかしら? 楽になった?」
「うん……ありがとう」
サクラに触れて、少しだけ安心した。
でも、もっともっとサクラに触れたい。
それには……サクラのドレスも、邪魔だ。
「サクラのも……ゆるめてあげる」
「えっ!?」
ルリはそう言うと、自分を覗き込んでいたサクラの肩を押し、くるりと反転させた。
そのまま背中から、サクラに抱きつく。
「る、ルリ!? 私は大丈夫よ……?」
「サクラ……じっとしててね」
サクラに自分の胸を押しつけると、二人の心音が重なって聞こえるようだった。
有無を言わさぬルリの力強さに観念したのか、サクラは抵抗を諦め、ルリになされるがままになっている。
ルリは熱い吐息をこぼしながら、酔っておぼつかない手つきで、サクラのドレスの留め具を外していく。
さらりとした深紅のドレスの背中が左右に割れると、その下から白いコルセットで締め上げられた、美しい曲線が現れた。
(サクラのせなか……きれい……)
ルリはコルセットの腰元の紐に指をかけ、しゅうっとリボン結びを解いた。
そのまま、交差して編み上げられた紐を、下から順に緩めていく。
「あっ……」
紐が緩むたびに、サクラがくすぐったそうに身じろぎをする。
しゅる、しゅる……。
衣擦れの音が響くたびに、締め付けられていた白い肌が、ふわりと露わになっていく。
それはまるで、大切な宝箱の封を解いているようだった。
すっかり緩んだコルセットの隙間から、雪のように白く、滑らかなサクラの白い背中が見えた。
ルリはその温かな背中に、すり、と頬を寄せた。
「んっ……」
サクラの肩がほんの少しだけ跳ねる。
無防備で、何の痕跡もない、真っ白な肌。
そこから広がるサクラの匂いと温もりが、ルリの身体の芯まで満たしていく。
(ここに……わたしのしるしを、つけるんだ)
誰にも渡さない。
サクラはみんなのお姫様だけど、今だけは――。
(わたしだけの、おひめさまなんだから)
ルリはとろんとした目つきで、愛しいサクラの背中に、熱い口づけを落とした。
「ひゃうっ……る、ルリ……っ」
「サクラ……ヒメハジメ、しよ?」
ルリの甘い囁きに、サクラが耳まで真っ赤に染まる。
窓の外では新年を歌う歓声がまだ響いていたけど、二人の部屋には、甘くて濃厚な時間だけが流れていた。




