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■火と夢の中央路・ルキヤ




 エメラルドとアレクが結婚して風魔法と土魔法持ちの男の子を生む。

 ルビーとサファイアが結婚して火魔法と水魔法持ちの女の子を生む。

 その男の子と女の子が結婚して四属性持ちの男の子を生み、その男の子がダイヤモンドの花嫁と結婚することで全属性の魔法使いが生まれる。

 これが初代皇帝が作り上げた製錬の大魔法の全貌だ。


 ただ、その仕様のため、四属性の花嫁の城はいつ皇族から依頼が来てもいいよう常時開かれているが、ダイヤモンドの花嫁の城だけは「その時」になるまで閉ざされているという現実がある。

 帝城の上空、宝石の子供たちが集められ教育を受ける「原石領」のさらに上空にある「光王領」の城は、ゆえに今も廃城の如きままだった。


「……確かに俺たちの孫の世代にならなければダイヤモンドの花嫁は姿を現さない」

「でしょ? だから僕は君に絶対結婚して欲しいわけ」

「君がダイヤモンドの花嫁に会いたいのはなぜ?」

「うーん……多分、血縁者だから?」

 多分血縁者?

 レイが、「アイラさんやクレハさんと同じく、あなたも攫われた花嫁の子孫ってこと?」と聞けば、「んーん、そうじゃなくて」と首を左右に振る。

「ガチの家族。姉だったか妹だったか従姉妹だったかは忘れたけど、めちゃくちゃ近しい女性だったはずなんだよね、おそらく」

 めちゃくちゃフニャフニャなことを言った。


「……おそらく」

「他意はないよ。ふざけてもいない。長く生きてるとだんだん自分の歳を忘れていくっていうでしょ。それと同じで、もう詳しい間柄も思い出せなくなっちゃっただけ。でも家族だったのは間違いないよ。じゃなきゃあんな契約は交わせなかったしね」

「契約?」

「ブラックカルセドニーが光の魔法使いを欲しいと言って、僕がそれにいいよと返した。そんな感じの契約をして、僕が僕の名においてそれを履行したんだ。だから彼女は僕の血縁者で合っているはずだ」

「……ルキヤはいくつなの?」

「さあ、それも忘れた」


 視界の端で、クレハがアイラを気にかけたのを感じる。

 目の前に得体の知れないものがいる。それから彼女を守ろうとする走りだった。


「……初代皇帝と知り合いなのね」

「仲は良くなかったけどね。あいつの不遜で不健康そうな無愛想ヅラは今思い出しても腹が立つよ」

「……でも家族を差し出したのね」

「あいつと賭けをして、その流れでね」

「……どんな賭けをしたの?」

「どっちのやり方が自分の名前を後世まで残せるかって賭け」


 ルキヤは、懐かしそうな、楽しそうな、嫌なことを思い出したような、複雑な表情をした。


「知っての通り、あいつは国を興した。そうして、その名、その国力を保持することで自分の名を残そうとした。でも、所詮あの時代の『国』だからね。一族に強い魔法使いが生まれなくなれば途端に終わる。僕はあいつもそうなると思っていたんだ」

 だが、そうはならなかった。

 初代皇帝が自分の血筋の保護を「優先しなかった」からだ。

 彼は「自分の領土の確保」こそを至高とした。帝国がそこにあって続く限り、その初代として名が残り続けるという事実を重視した。

 実のところ、いつかのレイが思った通り、「魔力」はともかく、製錬の大魔法は皇族の「血筋」を曖昧にする。

 だが、帝国が領土を誇り続ければ「ルキヤとの賭けには勝てる」。

 賭けのためだ。だから初代皇帝は、子孫が自分の血を引かなくても領土の磐石だけは守られる大魔法を編み出したのだ。

 ――ハルシオン帝国は初手から空虚な国だったのだ。


「…………」

「僕は僕単体が有名になることを選んだ。最高の称号を手に入れ、時代を超えて語り継がれるような『放浪の賢者』になることで、すべての国の人心の中に永遠に残り続けようとした。――だが、今、世界中の何人が僕の名を知ってる?」

 ルキヤは肩をすくめてため息をつく。

 確かに、帝国でもラリマール領でも「魔法使いルキヤ」の名を冠する物語は聞いたことがない。

 ルキヤは初代皇帝との賭けに敗れたのだ。

「……でも納得したわ。あなたの神出鬼没さと社交性の高さってそういうことだったのね」

「褒めてくれてる? そうならありがと。でも、今思えばあいつの方が賢かったな。いや僕が馬鹿だったのか。自分ひとり長く生きて何になる? なにをするにしても僕自身が頑張り、僕自身が自ら功績を上げ続けなければならない。あいつはそういうことを全部わかった上で、名を残す手段として国を選んだんだろうな」


 そしてね、とルキヤが呟く。

「最近、すごくつまらないなって。一人は自由だけど、なんだか心が安らぐ時がないなって。そう思った時、今も一人だけ僕と血が繋がってる人間がいることを思い出したんだ」

「……ダイヤモンドの花嫁」

 そう、とルキヤが晴れやかに笑った。


「僕は今、無性に彼女に会いたい。血が繋がっているんだ。会えば正真正銘の家族になれるはずだろう?」


「…………」

 自分で初代皇帝に引き渡しておきながら……と思う一方で、レイはルキヤに若干の痛々しさを感じた。

 賭けに勝った初代皇帝が羨ましいのもあるだろう。

 だがそれ以上に、彼は。

 ――独りが寂しい、と言っているのだ。


「で、知っての通り、他の花嫁と違い、ダイヤモンドの花嫁は条件が揃わないと現れない。だから僕は、なんとしてもお兄さんに火の魔法使いの女との間に子供を作って欲しいんだよね」

「なるほど」

 サファイアが納得する。話はわかったし、聞く限り、大昔に血縁者を差し出したこと以外に彼はさして悪さをしていないように思える。

「あの氷の中の女性、火の魔法使いなんだろう? そして君は彼女を憎からず思っている。ならもう氷を溶かして結婚してしまえばいいじゃないか。なのに何を血迷ってこんな地に来てるんだ?」

 どうやらルキヤはリノアンが夢の魔法使いであることを知らないらしい。なんでも知っている風なのに、なんだか妙にアンバランスだ。

 いや……。

 どこかで聞いたことはあっても、意識的に、あるいは無意識的に忘れ、あれは火の魔法使いだと思い込んでいるのかもしれない。


「海に戻り、氷を溶かせ」


「…………」

 高圧的に言われ、サファイアは考えた。


 ――皇弟とルビーの花嫁の一件から、「光の魔法を使えば花嫁を初代皇帝の闇の魔力から解放できる(仮)」ことがわかっている。

 ということは、「光の魔法使いであるダイヤモンドの花嫁の血縁者」であり「時代を超えて語り継がれるような『放浪の賢者』になることを目指したルキヤ」ほどであれば、皇弟と同じことを、死なずに完遂できるのではないだろうか。

(どれくらいの力量なんだろ。光の魔法一点特化だし、先代より強いといいけど)


 ぼんやり思い、一方で頭は冴えている。

 サファイアは、帝都でクレハとアイラを凍らせた時以上に速やかに「害意なき反射の迸り」、いわゆる戦闘態勢に入っていた。


 ――うん、よし。ルキヤを捕獲しよう。




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