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■帝城と地上・不審者だらけ




 期せずして芋友となった金髪の青年はルキヤと名乗った。

 ルキヤはハーノ村の住人ではないらしく、「世界各地を旅行中で~、面白い魔法使いを見つけるのが趣味!」なのだそうだ。

 実際、彼は貴族図鑑ならぬ魔法使い図鑑みたいなものを頭の中に持っており、帝都に戻る道すがら、ものすごく美味しいかき氷を作る魔法使いのところに案内してくれた。


「美味しい……」

「本当ね……」

「これを食べるためにずっとここにいてもいい……」

「本当に……」

 ハーノ村の焼き芋の時同様、二人は民間の魔法使いの研究され尽くした腕前に心の底から感動した。

「地上の魔法使いは奥が深いな……。後で俺も挑戦してみよう。免許皆伝の一手になるかもしれない」

「食べ物や工芸品に関して言えば、その道の長いおじちゃん魔法使いやおばちゃん魔法使いの作品ほど素晴らしいものはないのよね」

「魔法や魔力の強弱じゃなく仕事へのこだわりがモノをいうからねー。教えてくれるかどうかはわからないけどコツくらいは聞いといたら?」

 一球入魂こそ「なりたい私」への登竜門。三人は満足げに頷き、かき氷屋の魔法使いに相場より高い料金を支払うのだった(サファイアはレイに払ってもらった)。



「で、魔法使いたちが腕試しをしてる海辺ってどこ?」

 夕刻、レイがルキヤに問いかける。

 質問がここまで遅くなったのはまさかルキヤが帝都の城下街までついてくるとは思わなかったからで、ここまでついて来たからには引く気は微塵もないんだろうなと悟ったからだった。

 若干詰問口調なのはご愛嬌だ。サファイアの護衛を自負すればこそ神経が尖るのである。


 当のルキヤは「アウイナイト領だよ~」と素直に答えた。大海に面した帝国の最東端だ。少し遠いがサファイアご注文の海ではある。

「……あそこでそんな催しをやってるなんて聞いたことないけど」

「そりゃそうだよ、秘密裏にやってるんだもん」

「秘密裏に?」

 なにそれ、と首をかしげた。


 ルキヤが言うには、

「いや、アウイナイト領にさ。誰が見つけたんだってくらいわかりにくいし、よく見つけたなってくらいわかりにくいし、逆になぜ見つけたってくらいわかりにくいし、見つけた奴はこの洞窟をつくった奴だろってくらいわかりにくい洞窟があるんだけど」

 所在地がわかりにくいのはわかった。

「その洞窟の中でたくさんの魔法使いたちがコソコソと腕試しをしていてね」

「コソコソと」

「なんでコソコソしてるかって言ったら、そこ、その辺を治めてる水の魔法使い一族の私有地でね。つまり見つかったら止められちゃうの。だからコソコソするしかないし、噂も広められないんだよね」

「他人の私有地で何してるのよ」

 レイは呆れた。

 しかし民間の魔法使いが集まっているという情報に心惹かれたのは確かだ。魔法使いがそんな一箇所に集まることがあるなんて思わなかったし、もしかしたら掘り出し者に出会えるかもしれない。



「でもアウイナイト領はさすがにちょっと遠いわね……」

「飛んでいけばいいのでは? レイ一人なら運べるよ」

 サファイアが軽く言った。

 飛んでいけばいいのでは、とは? レイは宇宙猫顔になる。だが「きっとこの人レベルの魔法使いならなんでもアリなんだわ」と即座に認識を更新した。それにしたって風魔法ではなく水魔法で飛んでいくというのは意味不明ではあるが。

「長距離を飛ぶのは未経験だけど、方向を定めて行き止まりの海を目指すだけならたどり着けない道理はない。遠すぎて疲れたら休憩を挟めばいいし、明日実際に試してみよう」

「…………はい」

 ものすごく海に行きたすぎてた。


「すごいね、すぐ行けちゃうんだ! じゃあ僕は先に行って待ってるね! あそこの腕試し、もうずっと膠着状態だからさ。君を連れていけばたくさんの魔法使いたちの唖然とした顔が見れちゃうかも! ものすごく楽しみだよ!」

 ニコニコ笑い、「またね~」と手を振りながらルキヤが元気よく去っていった。


 その後ろ姿を見ながら「……誰なんだろうね、彼」と基本的なことを呟くサファイア。

「ほんそれ」とレイが同意した。



 確かに、ハーノ村での歓待によって、レイが剣士、サファイアが魔法使いであることはその場の全員に知られたので、そこに居合わせていたルキヤだけがそこから除外される道理はない。

 だが、サファイアの「強い魔法使いを探している」という事情を理由も問い質さずに受け入れ、都合よく有用な情報を披露し、流れるように誘導した上、「飛んで海に行く」という非常識な言葉に驚きもツッコミも入れないところが、いかにも「どんでん返しの黒幕」すぎた。

「アイラさんとクレハさん同様、あれもあなたの正体を知ってる曲者……と見るべきよね」

 サファイアが行くことによって膠着中の腕試しに決着がつくと確信しているところなんかまさにそれだ。

 面白い魔法使いを探すのが趣味というのは本当のようだし、必然的にサファイアもそのカテゴリに入ったのかもしれないが、「無邪気な言動で相手を煙に巻こうとする手法」とかが、かえってべらぼうに怪しすぎた。


「あの男のことも調べなきゃだわ……」

「地上って結構怖いところなんだね。エメラルドはともかく、これじゃあアレクは招けないな」

 相変わらずサファイアは身内女子に超絶紳士だ。

「何があっても守るけど、何かあったら森羅万象を氷漬けにしてでも自分の身を守ることを優先してね」

「最悪俺が俺を凍らせれば大抵のことはやり過ごせるから大丈夫だよ。アレクみたいな土魔法使いに氷ごと壊されたらさすがに死ぬけど」

 紳士というか、戦ったら敵わないから浮島女子を尊重している説出てきた。




 ……ところで、帝城に戻り、明日からアウイナイト領に行きますと報告したら、皇帝と皇太子が解せぬ系の渋顔になった。

 特にレイを見るラウルの目は「帝都にはすべてが揃っているというのになぜいちいち遠出するんだあなたは」という色を隠そうともしない(※心配している)。

 海に行きたいと言ったのはサファイアなのでレイは自身の冤罪を主張してもよかったがまあ控えた。この兄だか弟は明日も公務と勉強の二重苦なのだ。一方の姉だか妹だけが海にバカンスをしに行こうというのだから、そりゃ許せないに決まっていた。謗りは甘んじて受けよう。

 そして、「では馬車を用意させよう」という言葉に「いえ、飛んでいくので結構です」と返された皇帝の宇宙猫顔がすっげえレイにそっくりだったのだが、その新発見をサファイアが己ひとりの胸に秘めたため、今日も皇族一家の溝が埋まることはなかった。




ルキヤが言う「誰が見つけたんだってくらいわかりにくいし、よく見つけたなってくらいわかりにくいし、逆になぜ見つけたってくらいわかりにくいし、見つけた奴はこの洞窟をつくった奴だろってくらいわかりにくい洞窟」はティアキンの洞窟をイメージしています。

普通に見つけられねえよ。

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