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■帝城と地上・訪村




「今一度確認しますけれど、サファイア様」

「はい」

 サファイアとレイが貴族仕様の会話を交わしている。

 なぜってすぐ近くに皇太子がいてラフな会話ができないからだ。


「昨日に引き続き本日も魔法師団の魔法使いたちをご覧になっていただいているわけですが、やはりピンと来る女性はいない、そういうことでよろしいでしょうか」

「そうですね、いません。そういうことで相違ないです」

「ここにいるのは国内有数の有能な魔法使いたちばかりですが、それでも?」

「それでもです。申し訳ない」

「お気になさらず。……魔法とつく団体は一応他にもあるのですが、そちらをご案内しましょうか?」

「団体に関係なく城内からこれといった魔力を感じないので結構です」

「そうですか。では一度帝城から出て市井の魔法使いを見に行くという当初のプランに移行しても?」

「構いません」

「わかりました。行き先はわたくしが決めさせていただきますね」

「お願いします」

「……少々物騒な場所を選んでしまうかもしれませんが」

「問題ないです」

「……(小声で爆速)わたくし先日どこぞの殿方にあっさり背中を取られたことが悔しくて悔しくて剣の修行がしたくてしたくてたまらなくて賊がいるところとかクマが出るところに行って戦ったり暴れたりすることが無きにしも非ずというかそうしたい気持ちしかないのですけど大丈夫です?」

「付き合いますよ」

「ありがとうございます」


 グッ。

 サファイアとレイは皇太子の目が離れた一瞬の隙に熱く固い握手を交わした。




***




 この世界には、クマとかトラとかクジラはいるが、デミヒューマンと呼ばれるお隣の亜種や魔物と呼ばれるアグレッシブな獣、魔族と呼ばれる悪意ある異人は存在しない。

 ならばなぜ傭兵や剣士や騎士や魔法使いという戦いに特化した職業人がいるのかというと、単純に悪人を取り締まる必要があるからだ。

 凶悪犯、粗暴犯、窃盗犯、知能犯、風俗犯、その他諸々の軽犯罪から重犯罪まで、善性や他者への思いやりがない人間のやることといったら際限がない。田舎道を普通に歩いているだけで「有り金全部置いてきな」とか言われる世界なのだ。商人が傭兵を雇うのは必須であり、護衛を雇う余裕がない者は自分自身が強くなるしかなかった。


 とはいえ、傭兵や剣士と違い、魔法使いは才能がすべてであり、なろうと思ってなれるものではない。

 いつだったか説明したが、学ぶことによって魔法使いに成る人間というものは存在せず、「突然変異」「遺伝」「呪い」――生まれつきこのどれかに当てはまらなければ一生涯魔法使いにはなれないというのがこの世界の絶対の法則なのだ(レイにはあまり納得できないが。魔法使いが生まれるということは人間には魔法を使う/使える素地があるということだ。ならばなぜ修行をすることによって魔法を使えるようになれないのだろう? 生まれ持った脳や身体がそんなに違うのだろうか?)。


 さて、基本「対人戦力」止まりな傭兵や剣士と違い、滅多に生まれないだけある魔法使いは頑張れば「対軍戦力」まで行ける。

 つまり帝国の魔法師団に在籍する魔法使い、特にその上位者は、実に使い勝手のいい「人間兵器」と見なされるのだ。

 中でも火や氷、雷の魔法使いの反則度はひどい。自己研鑽の度合いにもよるが、土地に隙間があった昔であれば確実に一代で国を築ける勢いだ。

 だからこそハルシオン帝国は、代々の皇帝を必ず複数属性の魔法使いにするよう苦心し、その威光をして自国の領土を鬼確保しているのである。



「正直、初代皇帝が『製錬の大魔法』を編み出していなかったらこの帝国ってとっくに滅びていたと思うのよね」

「そんなに?」

「ええ。歴史の所々で浮島の大魔法の申し子が皇位に就いてバフ散らかしてくれなかったら今頃絶対廃れてるわ」

 賭けてもいい。レイは準備運動のように剣を左右に流しながら百パーセントの確信をもって断言した。

「そもそも魔法が子供に遺伝する確率自体が五十パーセント以下と言われているんだもの。自然に任せていたら廃れるのが正しいわけで、だからこそ任意の時期に強大な魔法使いを補充できる『製錬の大魔法』は帝国を帝国たらしめる秘術にして人類最大の大発明なのよ」

「へえ」

 普通に感心するサファイアだった。



 ちなみにだが、「浮島の花嫁の子供が皇帝の座に就いたら皇族の血が置き換わってしまうのでは」という懸念は、半分論ずるに値し、半分論ずるに値しない。

 なぜなら、「浮島の花嫁たちは初代皇帝の魔力を帯びており、彼女たちの子供はみな初代皇帝の魔力を継承して生まれてくるから」――つまり血脈ではなく魔力を以て「継承は果たされている」とみなされるからだ。

 魔力はそうでも血筋は違ってくるんじゃ……と思わなくもないが、レイは「まあ好きにしたらいい」で流していた。



「皇室は要所要所で大魔法の申し子に来てもらい多産で強大な魔法使いの遺伝子を繋いできた。それこそが基本にして原点にして頂点だったの。先祖代々がそうしてきた以上、今代も素直にそれに倣うべきだったのに、今の皇帝のバカ野郎ときたら!」

 サファイアはこんなにも三秒に一度舌打ちしたいくらいの勢いで刺々しく愚痴を垂れ流し続ける女性を見たことがない。

「また無能者が生まれたらどうしよ~とか言ってまったく子供を作らなかったから! 十人産めば無能者は私だけだったかもしれないのに! よりにもよって皇子ひとりに全賭けって! 馬鹿すぎでしょ、当主なら子々孫々のことを考えろっつーのよ!」

 大声で愚痴っていたら、「なんだテメェら、どっから来た!」とガラの悪い声に誰何された。



 サファイアとレイが今いるのは、城から離れた城下町、から少々離れた地方都市に向かう山の中だ。

 ゴロツキがたむろして困っているという情報を胸に、(主にレイが)意気揚々と乗り込み奉ってきた形である。


「ここは俺らの縄張りだぞ! 何勝手に入ってきてやがる!」

「さてはハーノ村の奴らに頼まれやがったな? 俺らをこっから追い出せって」

「ザケやがって、誰が出ていくかよ!」

「お前らをぶっ殺してあの村の連中に思い知らせてやるァ!」

「……いっぱいいるね」

「どうせこの歳になっても終ぞ分別が発生しなかった有象無象よ。では相手の足止めを頼みます」

「三対一以上にならないように、だね。気をつけて」

「ええ。大丈夫そうだと思ったら四対一にしてくれても五対一にしてくれても構わないから」

 よく通る声でそんなことを言うものだから、怒りの波動が一斉にカッ飛んでくる。



 それからしばらく、サファイアは水と霧と氷による足止めでレイに向かっていくゴロツキの数を調整し、レイは踊り子のように舞い暗殺者のように刺す作業に明け暮れたのだった。




***




 さて、件のハーノ村には「焼き芋をものすごくイイ加減に焼ける火の魔法使い」がいた。

「美味しい……」

「本当ね……」

「これを食べるためにずっとここにいてもいい……」

「本当に……」

「や~だ、こんな男前さんと別嬪さんに褒められたら照れちまうよォ! まだまだあるからたんとお食べェ!」

「兄ちゃんたち、あのゴロツキ共をやっつけてくれてありがとうなあ!」

「ほんと助かったぜ。人は見かけによらねえんだなあ」

「上には上がいるけどね。でも褒めてくれてありがとう。嬉しいわ」

「ははっ。二人ァ恋人なのかい?」

「いいえ、ただの親戚よ。結婚するような間柄じゃないわ」

「そうなのかィ。なんつーか理想がバカ高くなるしかねえ親戚だな」

「兄ちゃんに姉ちゃんがダメで姉ちゃんに兄ちゃんがダメなら、うちの村の奴らじゃ相手にもならねえなあ」

「違えねえ!」

 はっはっは。



「……つまり、魔法師団以外の魔法使いというのは軒並みこの程度のレベルなのよ」

 村のおばちゃんが火の魔法で作った焼き芋をぽくぽくと食べながらレイが世界の常識を説いた。

「よくわかったよ。城にいた魔法使いは、あれはあれで強かったということが」

「ええ。ここのおばさんの魔法も素敵だけど、あなたの結婚相手には程遠いわ。日常に強いグルメ系魔法使いは論外、非日常に強い軍人系魔法使いにしても選考外。そんなあなたのお眼鏡に適う伝説級の魔法使いが仮にどこかにいるとしましょう。だけどそういう魔法使いはほとんど辺鄙なところに隠棲していて、会えることはほとんどないのよ」

「世知辛いよね~」

 隣で焼き芋を食べている金髪の青年がしたり顔で相槌を打つ。いや誰?



「……思ったんだけど、強い魔法使いは広い場所にいるんじゃないかな」

 サファイアが言った。

 強い魔法使い=広い場所にいる。……どゆこと?

 基本ド世間知らずなため有益な答えは期待しないものの、「どうしてそう思うの?」とレイはサファイアの考えを聞いた。

「狭い場所ではロクな魔法が使えないから」

「……詳しく」

「俺たちは日々免許皆伝を目指して修行してるんだけど、魔法の余波って結構広範囲に及ぶんだ。風魔法、土魔法、俺の水魔法、全部そうだ」

「あなたたちの魔法ってどこまでも規格外っぽいものね」

「うん。つまり狭い場所だと環境破壊が気になって魔法の腕を磨きたくても磨けないんだ」

「被害エグくなっちゃうもんね~(※金髪の青年の合いの手)」

「頭の中で基礎の反復はできるけど、実際にどこまでできるかを試すとなると、どうしても広い場所が必要になる。だから、ある程度破壊してもいい場所……具体的には台地、荒野、砂漠、海岸、平原、草原、湿原、雪原。強い魔法使いたちはそういった場所で腕を磨いているんじゃないかと思うんだ」

「……むしろそういう場所での試行錯誤を終えて街や森で暮らしている完成品の魔法使いを探した方がいいのでは?」

「海に行こう」

 これ海に行きたいだけだな?

 レイは察し、「しょうがない、付き合うか」と腹を決めた。



「いいね! 何がいいって広い場所という着眼点が素晴らしい! そして朗報だけど、実は僕、たくさんの魔法使いが集まってる海辺のスポットを知ってるんだよね! みんなそこで腕試ししてるんだ。仮にやりすぎたとしても海岸線が変わるだけで済むのが賢いよね!」

 一緒に焼き芋を食べる仲になった見知らぬ青年が営業のごとく勧めてくる。輝くキラキラの笑顔が眩しい。


 だが、いやほんと誰?




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