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◆ ジェシカの軌跡6 観察




 ドレスを脱ぎ捨て、いつもの動きやすい服装に着替える。

 応接室に戻ると、少し緊張した様な面持ちでベネフィカがソファに腰掛けて私を待っていた。

 …裏商会の長でも襲撃は怖いのかしら?

 私は心配そうな顔でこちらを見上げる彼の後ろを通り、足音を立てずに窓際まで近づいた。


 応接室の巨大な窓、緞帳の様な分厚いカーテンの僅かな隙間から、外をそっと覗き見る。

 丁度そこに、外から戻って来たパックが耳元に来て囁いた。

 「ジェシカ…来てるよ。いっぱい居る」

 「わかってる、裏の公園の木々の間に五人…かしら?」

 個々人の練度がチグハグで読みづらい。

 あまり洗練された部隊ではなさそう。

 なかなかの手練れと思しき気配がひとつ…。

 まぁまぁなのが三つ。かなり素人くさいのが一つ。

 木陰に隠れながら移動している。けれどバレバレ。

 

 「ふふふん!残念。更に、そいつらの背後に二人よ」

 後から戻って来たエインセルが胸をそらして威張る。

 「アンタもまだまだね!私に感謝しなさい!」

 耳元で騒ぐ小バエをギュッと握り込む。

 「ちょっと…!アタシの…ぐむ…」

 軽く黙らせて、耳に神経を集中させる。

 確かにエインセルの言う通りだった。

 前の五人の背後を隠れながら追う気配が二つ、木の上を移動していた。

 こちらは完全に熟達者。笛の使徒(トゥーバ・アポストロ)仲間達(わたしたち)に匹敵するレベル。


 予想外に数が多い。

 「まずいわね…思ったより腕の立つのがいるわ」

 呟きが漏れる。

 「なっ!?……避難した方が良いでしょうか?」

 ベネフィカは驚いて立ち上がった。

 私は手を振って座らせる。しばし沈思黙考。

 「今、下手に動けば悟られるわ。警戒されるよりも素人と思わせた方が……」

 言い掛けた時、公園の方から特殊な音波が飛んできた。

 …この波長は…!


 「何か聴こえたね」「何かしら?」

 パック達が窓の外を気にしてる。

 ベネフィカには何も聴こえていない様子。

 首を傾げながら、私の方を見つめている。


 「多分…屋内の人数と位置を探ったのね」

 「今の音で?」「ニンゲンって、意外と凄いことが出来るのねぇ…」

 …光を屈折させたり、現実と区別のつかない幻覚を見せられる方が凄いと思うけど。


 反響定位が使える相手が居るのは厄介。何処に潜もうとバレちゃう。

 「少しプラン変更。警戒レベルを上げるわ。

 襲撃に備えて武器を用意して」

 「か…かしこまりました」

 「あんた達、エリンシア達にも知らせてきて頂戴」

 「「りょーかい!!」」

 小バエ二匹が人間の敬礼を真似て飛んで行った。

 …変な仕草を覚えているのね。


 その後、幾ら待っても襲撃は来なかった。

 …わざわざ待ってあげてたのに!

 目を凝らして公園の闇の中を見つめるが、仲間同士で互いに何か言い争っている様子。

 彼等が動き出したのは、熟達者である二人が立ち去った後。私は首を傾げた。


 「…結局、此処に侵入するのは三人だけみたい。何故かしら?」

 熟達者達が去った後、更に、五人の内二人が離脱して行ったのを確認。

 私の言葉に、ホッと息を吐くベネフィカ。

 襲撃者が三人程度ならば、ベネフィカ本人の実力でも身を護る程度の事は出来る。


 「武力行使するつもりが無いなら、こちらも大事にはしないけれど…。

 貴方はこの場に残り、私と話してる様に振る舞ってね」

 私はベネフィカに応接室で待機する様に指示を出し、静かに部屋を出た。



 「エインセル、裏庭の連中の様子を観察してきて。

 パックは私と同行。『姿消し』をお願いね」

 「まっかせなさい♪」「わかった!」

 エインセルは廊下の通気窓から出て、裏庭に向けて飛んで行った。

 私は足音を消しながら廊下を走り抜け、階段を駆け下りた。


 地階は明かりが少なく、薄暗くて潜むのに丁度良い。

 私は天井にあるアーチ梁の窪みまで飛び上がり、僅かな出っ張りに足をかける。

 梁と石壁の間に潜み、身体を陰に溶け込ませた。

 …固有魔術式展開…『無音の魔術式』発動。

 僅かだけれど周囲に漏れ出る私の心音と呼吸音。それを完全に消す。

 更にパックが『姿消し』を重ね掛けし、私を石壁と同化させた。


 そのまま待つこと数分。

 外から警備兵達の話し声が耳に届き、金属の何かが硬いものにぶつかる音が漏れ聞こえた。

 「よく聞こえないね…何が起きたのかな?」

 「壁が分厚いからね。…そろそろ来るわよ、口閉じて」

 無駄口を叩くパックを黙らせ、感情を殺して気配を消した。


 カチャカチャ…カチャン………キィ……

 微かな金属のぶつかる音が数度響いた後、鍵が開く。

 錆びた丁番の音が響き、裏口の扉がゆっくりと開かれていく。

 

 …子供…?

 扉の隙間から中の様子を伺うのは、私と変わらない位の年齢の男の子だった。

 色黒の肌、違う髪質、聖教国人とは少し異なる骨格。

 …南方国家群の連中かしら?


 聖教国の南側には小国家が幾つも林立している。それを纏めて『南方国家群』と呼んでいる。

 聖教国(ウチ)と仲の良い国もあれば、当然、険悪な国もある。

 数年前までは、国境付近で小規模な戦争が頻発していたらしい。

 その争いで国境付近の町が幾つも壊滅し、逃げ遅れた人々が捕まり、奴隷として売買されたとか何とか…。お互いに…だけれどね。


 …元奴隷が裏社会(スラム)組織に買われて兵隊(捨て駒)にされた…とか?単に、不法移民が食うに困って…かもだけど。

 戸籍の無い子供達が碌でもない仕事をしなければならない世界はそこら中にある。

 …一体何処の組織(やつら)なのかしら…。


 息を潜めて眺めていると、その子の背後から、顔のそっくりな男女が姿を現した。


 …双子の男女。こちらは明らかに聖教国人。

 髪、肌の具合からすると良い所の出に見えるけど…?なんだか随分とチグハグなチームねぇ…。


 三人は警戒しながら廊下の隅々までも確認している。

 しかし、完全に気配を消した私には気が付かない。


 三人が侵入すると、彼等の後に続いてエインセルが入って来た。

 『エインセル…こっちよ』

 私は『声の魔術式』で、彼女だけに聴こえる波長で呼び掛けた。


 エインセルはキョロキョロしながら、音の聴こえた方に向けて飛んでくる。

 手探りで天井に引っ付いている私の所まで来て、私の頬に触れた。

 『わ…びっくりした!』

 彼女が驚いて叫ぶ。…が、私の『無音の魔術式』が無音化する。

 下を歩く三人には彼女の声は届かない。


 『で…どうだった?』

 『なかなか()()連中ね。

 誰も殺してないわ。…あのバカ犬達も含めてね』

 『それは凄い。あの子達相手に無傷で、しかも無力化するなんてね』


 庭に放っていたのは訓練された軍用犬。それを私達の組織(トゥーバ・アポストロ)が引き取り、飼っていた。

 主人と認識させた相手以外には決して懐かない。

 私の作戦の都合上、あまり素人を巻き込めない。なので、足りない戦力を補う為にイリアス枢機卿(おじいちゃん)に頼んで私に付けて貰った。

 懐かない上に、あの子達は妖精(エインセル)()遊ぶ。だから彼女は犬達を嫌っている。


 「…三人とも居るみたいだ。

 ちっ、ドロシーの言った通りか。つまんねー」」

 「…楽しそう…お友達欲しい…」

 「お願いだから…静かにして…」

 エリンシア達が控えている女中部屋を指してヒソヒソと話している。


 …人の家に不法侵入してるくせに随分と呑気な連中ね。

 あの一番小さな男の子がこの隊の指揮官?

 ……苦労してそうね。


 その時、女中部屋からメネア達の話し声が聴こえ、彼等は一目散に隠れ潜んだ。




 

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