◆ ジェシカの軌跡3 二匹+三人娘
「ジェシカお待たせ〜。エインセルを連れてきたよ」
「このアタシを呼びつけるなんて、いい度胸よね」
私の周りをブンブンと飛び回っているのは、妖精のパックとエインセル。
キベレ侯爵の愛娘、ルーナのフンであるパック。
いつも彼女の周囲を飛び回っている手のひらサイズの妖精。多分一応、男の子。人間みたいに性別があるのか知らんけど。
性格は人見知り。内弁慶。
昔は、ルーナが傍に居ないとイライラして癇癪を起こしていたけれど、近頃は私の傍でも落ち着ける様になった。
とはいえ今でも、知らない人、慣れない人が傍に近付くとすぐに姿を消す。
この子の得意な魔術式は光。姿くらまし。
自分と直ぐ側にいる人間の姿を見えなくする。
光の屈折が云々…。光が曲がると物が見えなくなるとか…よく理解らない理屈。鏡みたいなモノ?
コイツが本気で隠れると、私でも見つけるのが難しい。親友は簡単に見つけてたけどね…。
もう一匹はエインセル。
こちらはヘルメス=リンドバルト枢機卿の娘であるヴァネッサの契約妖精。
先日の旅行中、森に落ちているのを拾ったらしい。こちらは女の子?姿形からの予想だけど。
妖精の体型は貧弱だから、男女の区別がつきにくい。
我が儘で煩い。口が悪くて皮肉屋。
自分に素直な性格とも言える。
基本的に嘘は吐かないし、陰口も叩かない。
嫌なことは嫌と言うし、嫌いな相手に媚びへつらわない。
貴族学校の同級生連中よりは、余程付き合いやすい。
彼女の得意な魔術式は幻覚。脳の錯覚。
自分を中心とした一定の範囲内に立ち入った相手に、リアルな幻を見せる。
範囲内に居る間、景色は当然、匂いや音までが本物とは区別出来ない。視覚を起点として、五感を騙す魔術式。
対象の脳に直接働きかけるので、範囲外の人には何も感じ取れない。
一度、私も試した。
おしっこ臭くて狭い路地裏が、一瞬で、かぐわしい花畑へと変わった。しゃがみ込んで足下の赤い花に触れようとしたら止められた。…ネズミの死骸だった。
幻覚の範囲自体は狭いけれど、知らずに迷い込んだら、絶対に偽物とは気付けない。
ただし、目の見えない相手には通用しない。ヴァネッサとか。
「ヴァネッサからも協力する様に懇願されたから、仕方なく手伝ってやるわよ」
「さっきまで、面白そう!って言ってたくせに…」
「あ、てめっ!余計な事言うんじゃないわよ!」
私の周りをブンブンと飛び回りながら、じゃれ合っている。
…うるせぇ。
こいつらの能力が有用でなかったら、捻り潰してたかも…。
◆
「始めまして、ジェシカ様。
わたくしはエリンシア。どうぞ、エリーとお呼び下さいませ」
ビシッとした姿勢で、私に向けて丁寧な挨拶をする女性。
長くて明るい茶髪を綺麗に纏めて団子にし、長い銀のかんざしで止めている。
長いまつげに綺麗な黒目、すらっとした小顔を細かい装飾の入った銀縁眼鏡で纏めている。泣きぼくろまで有る完璧さ。
女が惚れるタイプの高身長美人。
「家庭教師の資格を所持しております。
座学のみならず、芸術から護身術まで、一通り網羅しております」
彼女は、キベレ家侯爵から派遣された教育係。
「今回、ラザフォード様を含めた周りの方々に対し、各役割に沿った教育を行う様にと仰せ付かって参りました」
勉学・作法についての専門家。
学校に入学する迄の間、貴族子女に対して基礎教育を施す資格を持っている。
加えて彼女は騎士課程も修了しており、子供達の護衛も出来る文武両道の才女。
元々はキベレ侯爵の娘であるルーナの家庭教師として就く予定だった。しかし彼女に懐かれなかった為に諦めた。
今は、キベレ侯爵夫人の世話係兼、護衛役の一人でしかなく、せっかくの技能を生かせずにくさってた所、侯爵から今回の仕事を回された。
「こんにちは。貴女がジェシカね?噂は聞いてるわ。
私がメロディエラよ。メロディと呼んで頂戴。ロディは嫌よ。男の子みたいだからね」
エリンシアとは打って変わって、クソガキ少女。
肩より下で纏められた黒髪は静謐な雰囲気を感じさせ、金色の瞳は魔性の魅力を漂わせている。
エリーとは対照的に背が低く、幼く可愛らしい顔つき。
実年齢は私よりも上らしいが、どう見ても年下にしか見えない。まだ成人はしてないらしい。
彼女はメディナ家から派遣された連絡要員兼、アルカディア中央区統括教会所属の助祭…見習い。
膨大な魔力を有しているギフテッドであり、イリアス枢機卿の親戚の娘。いわゆる超エリート組。
今回、教皇直属諜報機関というものを知る為に、権力を活用し、私の作戦に参加したらしい。
教会の表の世界を捨てて、トゥーバ・アポストロに成りたいとかいう変わり者。
…今回の仕事はトゥーバ・アポストロとは基本的に無関係なのだけれどね。
面倒臭そうな娘だから、私に丸投げした?
「フレイ…じゃなかった。ええと…あっ!クラウディア!…の親友なんですってね?貴女。
イリアスお祖父様は、いつもあの子の事を褒めちぎるのよ。でも、私は数える程しか会った事無いから、良く知らないのよ。
久し振りに会って、ちゃんとお話したいわ!
今、何処にいるの?いつ会えるのかしら?
今度、あの子の事を聞かせて頂戴」
…よく喋る年上。舌が縺れて絡まないのかしら。
私の親友であるクラウディアの縁戚らしい。
でも、性格はあの子とは真逆っぽい。
感覚主義的な感じ。あの娘と違って五月蝿い。
そもそも、イリアス枢機卿がクラウの実祖父だなんて初耳なんですけど?
同じ街に居たくせに、全く交流がある様に見えなかったわよ?どんだけ秘密主義なのよ!
…イルルカとクラウディアは叔父姪の関係になるの?同い年で?
「始めまして!アタシはメネア。
よく友人達には、ミーアとかメーアとか呼ばれてます。
当然偽名ですけどね。アハッ!」
先の二人とは違い、目立たない顔の女性。
くすんだ金髪。ありふれた茶色の瞳。
顔は太くも細くもなく、化粧も薄くて映えない。
特徴的なのは、薄いそばかすくらい。…でも、これは化粧みたいね。
身長は私より少し上。成人女性としては平均的。
性格は明るい…振り。注目されない程度に大人しい。絶妙な加減を計算しながら口を開いている。
会話が巧みで、他人の懐に潜り込む『話術』。
目立たない容貌を利用しての『変装』や『潜入工作』を得意としているらしい。
「噂のジェシカさんとお仕事出来て、アタシ…感動ッス」
…ッス?訛りかしら?
特徴が無いな…とか考えていたら、急に特徴付けてきた。
彼女はエレノア様から派遣された現役諜報員。
トゥーバ・アポストロの一員であり、元スリで詐欺師。
歌や踊り、軽業等を得意とし、旅芸人の一座に紛れて諸国を渡り歩いていた事もあるらしい。
その際に周辺国の言葉も修得しており、他国の重鎮を何人も誑かして情報を抜き取ってきた一流女諜報員とのこと。…どこ迄本当か分からないけど。
諜報員としては私より先輩。程よく卑屈。偉ぶらないし、目立たない。つまり、凄腕。
三者三様。
先日のベネフィカの大根演技をエレノア様に報告したところ、選帝侯キベレ侯爵とイリアス枢機卿、そしてエレノア司教(仮)様から、各一名ずつ派遣されて来た監視役。
…約一名、押し付けられた感があるのだけれど。
信用されてないな…という不満はあるけど、人手は欲しかったので正直助かる。
スラムの三大組織と殺りあう可能性がある以上、下手な素人さんを雇う訳にもいかなかったからね。
自衛出来る程度に訓練された娘達なら、私が気にかける必要もないし。
二匹と三名。
必要な人材も揃ったし、そろそろ幕を上げましょう。
舞台の上の役者達は、この私にどの様な演技を魅せてくれるのかしら。
今からとても愉しみ。
今週はこれだけ。
確定申告頑張らなきゃ。
次の投稿は来週。
クラウディア過去編の方かな?
どちらも在庫はあるので、その時の気分で。
…在庫はあっても、店頭に並べる前の調整で半日掛かる効率の悪さ。何とか出来ないかな…




