◆ 大切なお仕事 荷運び
ピオニー助祭視点
読み聞かせを終え、私は子供達と一緒に教会入口に向かいます。
「突き立つ槍が地を混ぜて〜♪」
中庭を横切る際、子供達は新しく覚えた歌を歌いながら歩きました。
すれ違う信徒達が、微笑ましいものを見るようにクスクスと笑っていました。
「ピオニー姉ちゃん!
この歌詞もマイア様のやったことなの?凄いことなの?」
「う〜ん…これはマイア様ではなくてね…」
私は、マイア様以外の神様について説明しました。
世界各地に散らばる『神代の魔導具』は判明しているだけで20以上。
各遺物には、それぞれ違う柱の名前が付けられているそうです。
そして、教皇庁に保管されている秘典には、少なくとも20以上の魔導具の正式な名前と位置、管理者が記載されている…らしいです。
…私の立場では閲覧が許されていないので、又聞きなのです。
この国の『聖遺物』は、女神マイア様の御名を冠しているそうです。当然ですね。
彼女は己の知識を他の神々に分け与える事で、各地の『聖遺物』製作の手助けをしたそうです。
つまり、神様達の先生と言っても過言ではありません。
二千年以上もの間、壊れずに稼働し続けている魔導具なんて、まさしく神の御業。
私達が、今こうして地に足をつけて生きていられるのは、彼女達のお陰なのです。
マイア様以外では、ご家族である兄神ルクサス様や父神マカリオス様等の主神達。
カリディア様やトニトルス様などの自然神。
他にも、季節や文明・知識を司る神々がいらっしゃいます。
中には、忌み嫌われているけれども、功績を讃えられて神名欄に並び記されている闇神の方々も。
有名なのは、毒と呪いのテネブラム様や、暗殺者の護り神であるウンブラ様などですね。
他にも戦争の神や血の神等、御名を思い浮かべるだけで背筋の寒くなる神々がいらっしゃいます。
騎士や軍の方々の中には、積極的に闇神を崇めていらっしゃる方も多い様ですが、私には少々縁遠い神々ですね。
とはいえ、どの神々も女神マイア様の御友人。
彼女の様な博愛の心で接せねばなりません。
彼等を悪しく言う事は、神職に携わる者として恥ずべきこと。
「…多すぎて覚えられない…」
女の子が俯いてしまいました。
「大丈夫よ。マイア様だけ理解していれば」
私は、彼女の頭を撫でながら慰めました。
そうです。
聖マイア正教国、首都アルカディア。
この大国を発展させたのは、間違いなく『マイア様』の功績。
もし可能ならば…マイア様の御名を冠した魔導具、私が神々の世界に旅立つ前迄に一度拝見させていただきたいものです…
◆
私達が入り口に辿り着くと、丁度、集会を終えた親達が会議室から出て来る所でした。
子供達は親の顔を見ると嬉しそうに駆け出しました。
私は、親に抱き着く子達の様子が眩しくて、思わず目を細めてしまいます。
…私は孤児だったので、この光景は…少し羨ましくもあります。
最後の子供を親に引き渡し終えると、ようやく私の役目は終わりです。
「ピオニー、そちらは終わりましたか?」
私が最後の一人を引き渡して手を振っていると、背後から声を掛けられました。
私は、袖で目元を拭ってから振り向きました。
「…ジョーグ。ええ…子供達は残ってません…。
後片付けと整理を任せてしまいましたね。ありがとう存じます」
私は軽く目を伏せて礼を言いました。
彼の名はジョーグ。私と同じ助祭です。
茶髪黒目で目立たない顔立ち。
物静かで落ち着いた雰囲気の男性です。
いつも黙々と仕事をこなすので、お喋り好きな女性達からは距離を置かれがち。
反対に、上司であるアルトゥール司祭達からの評価は高いみたい。
彼も私と同じで、集会所の管理責任者です。
加えて、彼の管理する集会所は、私の管理区域に接しています。
つまり、お隣さん。
此処の教会をこの区域の幹とすると、私達は、その枝葉となる集会所の管理を任されています。
基本的に各教会には司祭以上が最低一名、その下の各集会所には専任の助祭が最低一名ずつ、同区域の信仰所には近場の信徒が、それぞれの区域管理担当者として振り分けられています。
振り分けの基準は大体が地縁。
地元に顔が利く方が、色々とやり易いですから。
普段、私達は各々が担当する集会所に詰めてます。
何かしらのイベントがあると、管理する教会まで来て、直属の上司のお手伝いをします。
今日、私達が此処でアルトゥール司祭のお手伝いをしているのは、週に一度ある礼拝の日だからですね。
「アルトゥールから、帰るついでに荷運びをする様にと言われたのですが、何処に何を運べば良いのですか?」
アルトゥール司祭は、彼に詳細を伝えていなかった様です。
私の区域に必要な品なのだから、説明責任は私に…という事かしら?それとも単に面倒だっただけ?
「ほぼ私用なのですが、私の集会所の近所で…」
私は彼に荷物の内容と詳細を伝えます。
彼には完全に無関係な内容なので、手伝わせるのは心苦しくもあります。
「成る程、わかりました。任せて下さい」
「申し訳御座いません。
本来なら私一人で行わねばならない事なのに。
後片付けを任せた上に…」
「構いません。貴女には子供達を任せてしまいましたから。
力仕事ならば問題ありません」
そう言って、彼は自分の腕を叩きました。
彼は子供が苦手です。
私は力仕事が苦手です。
お互いに苦手な仕事を割り振られた時は、仕事を融通して補います。
本当は、自分の担当する仕事を他人に任せる事は良しとはされないのですが。
アルトゥール司祭は、その辺り寛容です。見て見ぬ振りします。
とても合理主義な人です。
本当ならば助祭には許されていない儀式の執行であっても、手が空いているならば…という理由で任せたりしますし。
お陰で仕事がスムーズに進むので、誰も文句は言いません。
「…ふむ、結構重いのですね」
「小型軽量の魔導具でも、嵩張ると意外に…」
置いてあった小さな木箱を抱えると、ズシリとした重さが手に伝わりました。
彼が二箱、私は一箱を抱えて、私達は教会を後にしました。
◆
「ありがとう存じます。この御礼は後日…」
小さな木箱を集会所の隅に積み上げて、私はジョーグに礼を言いました。
「いえ、礼は必要ありません。教会の為、信徒の為の行いですから」
彼はそう言うと、すぐに私の集会所を後にしました。
教会を出てから今この時まで、彼の発した言葉はこれだけです。
…本当に無口な人ですね。
帰り道、私は彼に少し会話を振ってみましたが、頷くか首を振るだけ…。
まぁ…私もそんなにお喋りが好きではないので良いのですけど。
…地が出るとまずいのです。
私は、積み上げられた木箱を眺めながら一息つきました。
…さて、この荷物は明日にでも依頼人に届けましょう。
もう一つの荷物を先に届けないといけません。
私は、胸元に仕舞ってある小包に触れて、薬がある事を確認しました。
「さて…後は、この医薬品をお兄ちゃんの所に届けるだけですね。
皆、元気かしら?」
私は集会所の扉に鍵を掛けた後、貧民街へ向かって歩き出しました。