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泣き虫王子と悪役令嬢

作者: てんきどう

ほのぼのした気持ちで、物語で書き上げました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


よろしくお願いいたします。


月間36位いただきました。本当にありがとうございます!



「メアリー・ヒルハーブ公爵令嬢。婚約解消……いや婚約破棄を受け入れてほしい!」



 王太子オリヴァー・グリント・ルフト様が、王宮のパーティー会場で気弱そうに宣言されました。

 彼は、金髪碧眼の見目麗しい方です。

 わたくしメアリーは、ため息をつきました。

 いつかはこうなるかもと、わたくしは予想しておりました。

 彼は、融通がきかない所があるのです。

 彼の後ろには、可愛らしいピンクブロンドの聖女ソフィア・ウィカムが控えています。


「オリヴァー様。それは、今ここでしなければいけないお話でしょうか?」

「ああ。そうだ。誰が正しいのかを皆に知ってもらわなければいけない。ぐすっ」

「困った方……」


 オリヴァー様は、緊張されて涙ぐんでおられます。

 彼は人前が苦手なのです。

 ソフィア様が、一生懸命オリヴァー様を励ましています。


「王太子様なら言いたいことを言えますよ! 応援しています!」

「ソフィア嬢! ありがとう……!」


 わたくしは、扇子を広げました。

 こちらの感情を教えないことは貴族の嗜みですから。


「ここに、君が嫉妬に狂って、影でソフィア嬢に酷い虐めを行なっていた証拠がある」

「まあ。全く身に覚えがございません」


 宰相閣下のご令息が、書類を抱えて前に出てきました。

 書類には、私が行なったとされる事が書かれているんでしょう。

 オリヴァー様は青ざめて声が震えてます。


「確かに僕は、このソフィア嬢が次々に起こすトラブルで奔走していた。君とのことがおろそかになってしまっていたと思う」

「そうでしたわ。本当に大変そうでした」

「テヘッ」


 ソフィア嬢が腕で胸を寄せて、可愛く笑っています。

 それで騙される女性はいませんよ。

 希少な聖女ということで、世話係をオリヴァー様がまかされたのです。

 いつも野生児のように叫んで、学園の備品を壊し、希少な光の力の練習から逃げ出してましたね。

 オリヴァー様は、彼女を追いかけて先生方に謝罪され弁償されていました。

 逃げる彼女をお菓子で釣って、練習させていました。

 涙ぐましい程でした。

 わたくしは、そのことに嫉妬などいたしません。

 

「彼女の持ち物を壊し、ドレスを引き裂いて、階段の上から突き落とした証言がある」

「覚えがありません」


 わたくしがそんなことをして、何になるというのでしょう。

 彼女に嫉妬した誰かの仕業だと思われます。


「多くの証言が出ているから無視はできない。僕の気配りが足りなかったから、君に嫉妬させてしまった。だから僕の有責で婚約破棄を受けてほしいんだ。慰謝料も支払いたい」

「オリヴァー様! なんてことを仰るのですか!?」


 わたくしは腹が立って、思わず大きな声をあげてしまいました。

 淑女として失敗です。己が情けないです。


「だって、メアリーを傷つけてしまった僕が悪いから……。君はずっと王子妃教育として努力してくれた。公務も手伝ってくれた。学園でも、僕より成績も良くて、社交もできて勇気のある素晴らしい女性だった」

「……そんなことを思われていたんですか」


 オリヴァー様の突然のお言葉に、わたくしは赤面しました。

 扇子で顔を覆っていてよかったわ。


「僕は情けないんだ。何をやっても三流だ。弟のハロルドに剣と魔法で勝てたことがない」

「それは違うんです! 俺は兄上を守りたくて強くあろうとしていたんです!」


 第2王子のハロルド様が、会場の奥から出てこられました。

 彼は、背も高く筋骨隆々の美丈夫です。

 母親が平民で後ろ盾がありません。

 彼は慌てて、オリヴァー様に訴えました。


「兄上は、いつも暖かく優しかった。俺のために、同じ教育を受けられるように取り計らってくれたでしょう。いつも笑顔で話しかけてくれた。嬉しかったんです。ずっと兄上のお役に立ちたかった。おっとりした兄上をお守りしたくて鍛練に励んだのです! 平民の母をもつ俺を、兄上は分け隔てなく可愛がってくださった。俺を馬鹿にする貴族達へ、いつも兄上は注意をしてくれた。俺は全て覚えています!」

「……ありがとう。ハロルド!」


 ハロルド様のお言葉に、オリヴァー様の気持ちが浮上したようです。

 涙ぐんでおられます。

 良かったわ。


「でも僕は、成績はソフィア嬢にも敵わないし……」

「そ、それはですね! 前世チートというか。試験の内容を知っていたわけで。全然凄くないですよー。むしろ、学業と公務と私の世話もしてて凄いです! 助かりました! ありがとうございます!」


 ソフィア様が、過激な告白をされました。

 試験の内容を知っていたとは、どういうことでしょうか。不正ですか?

 後できっちり聞き出さないといけません。

 前世チートとやらも、調べあげましょう。きなくさいですわ。


「公務で土砂崩れの現場へ行った時も、失敗してしまった。私が復興作業を手伝い始めると、見ていた侍女長が悲鳴をあげて気絶してしまった! 私がなにか至らなかったからだろう。……僕は王太子に向いていないんだと思う」


 オリヴァー様は、どうも自信をすっかり無くされておられたようです。

 今度は侍女長が、前に飛び出してきました。青ざめています。


「あ、あの時は、殿下が最高級シルクのオーダーメイドで仕立てられたお洋服を着たままだったのです。それで泥だらけになられました。つい、頭が真っ白になってしまったのです。その節は申し訳ありませんでした。あの時は王太子はじめ現場の皆様に介抱していただきました。大変感謝しています!」

「え、そうだったのか。驚かせてすまなかった。服は全部任せてあるから、知らなかったんだ」


 青ざめて震えている侍女長のために、わたくしは殿下にお伝えしました。


「それはノブリス・オブリージュです。オリヴァー様」

「うん?」

「身分の高い者は、それに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるのです」

「そうなんだ」

「ええ。人は己より立場の低い者に対して本性が現れるといいます。ノブリス・オブリージュを行わない者は、人間性に問題があるとみなされます。こちらが困った時に、助ける気持ちや余裕がないと思われるからです」

「そんな意味があったのか……」

「ですから、オリヴァー様はたくさんの方に慕われているのですわ。自信をお持ちになって」

「あ、ああ……」



 わたくしへの断罪は、始まりませんでした。

 オリヴァー様が、ご自分の有責を申し出たためです。

 書類を持った宰相のご令息も、困った様子で固まっています。

 オリヴァー様は、わたくしを真っ直ぐ見つめられました。

 この方の真っ直ぐな所は、嫌いじゃありません。照れてしまいます。


「メアリー。君を苦しませてしまった。すまなかった」

「いいえ。オリヴァー様。婚約破棄はお受けしません。オリヴァー様は、公爵家で孤立していたわたくしの為に、何度も我が家に来てくださいました。その度に、家族や家令や侍女達にお話されましたね。わたくしが、どんなに素晴らしい女性かと。おかげで皆に認められましたの。今は仲良し家族ですわ! 気恥ずかしいくらいです!」


 本当に困ったお方です。

 婚約破棄などしたら、オリヴァー様がどれ程困った立場になることか。

 廃嫡もあるかもしれません。


 こんなことを言い出したのは、わたくしが悪役令嬢と言われているから?

 ……こんなに愛されていますのに。

 こんなにもお慕いしておりますのに。

 他の殿方のことなんて考えられないと、どうして分かってくださらないのですか!


 まったくもう……。

 この泣き虫王子め!


 私はオリヴァー様の前まで歩いていきます。

 彼の手を握りしめました。


「オリヴァー様が私の夫になるのです。逃げられませんよ!」

「に、逃げるとかそういうんじゃなくて……」

「まだ言いますか」


 わたくしは、殿下の頬に軽いキスをしました。

 オリヴァー様は真っ赤になって硬直されたのでした。


 会場中から、歓声とあたたかい拍手が巻き起こりました。

 ハロルド殿下は、いい笑顔で見守ってくれています。

 ソフィア様も、満面の笑みで胸を撫で下ろされています。




 王族には、王家の影がいつもついています。

 もちろん、準王族である婚約者であるわたくしにもついているのです。

 わたくしは手を叩きました。


 事前に指示を受けていた影の者達が、報告書を持って現れます。

 会場中がどよめきます。

 彼らを動かす許可は、国王様からいただいています。


 オリヴァー様を苦しめた者達の罪を、わたくしは決して許しません。

 きっとずっと悩まれていて、婚約破棄を言い出したのでしょう。

 犯人は反王権派? オリヴァー様を貶めて成り代わりたい者達?

 報告書を手に取って、わたくしは宣言します。


「さあ。本当の断罪劇を始めましょう」







 その後、私達は無事に結婚式をあげました。

 オリヴァー様を追い詰めた一派は、じっくりと炙り出して対処いたしました。

 

 オリヴァー様は、質素で身内だけの結婚式を挙げたいと申していました。

 しかし、まるっと無視させていただきました。

 こんなにも国外からのお祝いが届いているのです。

 身内だけなんて無理なのですよ。

 結婚式の時のオリヴァー様は、困ったお顔が子犬のようで可愛いと評判でした。






 オリヴァー王太子とメアリー王太子妃は、男女の双子に恵まれました。

 生涯、周りが砂糖を吐くほど仲睦まじい夫婦だったと伝えられました。

 慈悲深い王と賢妃として、永く民に語りつがれたのです。






最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。


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