第玖話 「メンクイ」
「クソっ、だいぶ飲んじまったな……」
独り言を言いながら、俺はおぼつかない足取りで道路を歩いていた。家に帰るためだ。
空はまるで、墨をぶちまけたかのように黒く染まっている。
すると、電柱の後ろで、何かがもぞもぞと動いているのがわかった。結構大きい。子どもぐらいの大きさだ。
俺は気になり、電柱を通り過ぎた直後、スマホのライトで辺りを照らした。すると、
そこにいたのは、肉の塊だった。腕や脚も辛うじてあるが、無いに等しい。そして、何より俺が恐ろしかったのが、
肉の塊に乱雑についている、目、鼻、口。前にも後ろにも、ずらっとついている。気持ち悪い。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁ――!」
俺は瞬く間に絶叫を上げ、全力で走った。しかし、酒を飲み過ぎた影響なのか、ふらつき――、転倒する。
でも、大丈夫だ。あんな体の奴が、速く走れるわけがないだろう。そう自分を安心させながら、俺は体を起こすと――、
吐き気を催す肉塊が、目の前にいた。必死に逃げようとするが、腰が抜けて動けない。
「やっ、やめろ。来るなああああぁぁぁぁぁ!!」
血を吐く思いで叫ぶが、肉塊には意味を成さない。そのままその肉塊は短い脚で跳躍し、俺の顔にのしかかってきた。
ぬめっとした温かい感触が顔全体に伝わり、息ができない。い、きがっ……