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第参話 「傘くれおばけ」
「ねえねえ、傘ちょおだい?」
何も、何も聞こえていない。
「ねえってばあ、傘ちょおだい?」
何も、何も見えていない。
「ねえねえ、傘ちょおだい? ちょおだい?」
そんな声、私には聞こえていない。
頭に両腕がついていて、巨大な一つ目と下駄を履いている一本足が特徴的な、舌が長い子どもなんて、私には見えていない。
「ねえねえ、壊さないから、傘ちょおだい?」
あともう少しで家だ。そこまで耐えれば、大丈夫。
「ねえねえ、ねえねえ、傘ちょおだい? ねえねえ、傘、傘、傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘傘ちょおだい!?」
その瞬間、私は勢いよく家の扉を閉めた。
「ねえねえ……あ」