第拾捌話 「エギリドリ」
「――クゥゥゥゥゥ、クゥゥゥゥゥ」
「なんだ? この音?」
どこからともなく聞こえてきた音。俺はその音の正体を探すために、夜空を見上げた。すると――、
「なんだよ、あの……鳥っ」
体の色は黄緑で、翼は真っ白に染まっている――だけではなかった。よく目を凝らして見ると、翼には左右一つずつ、大きな黒い目がついている。
おまけに、その鳥には頭がなかった。首から上が消失しているのだ。――いや、正確には違う。首の先には、触覚みたいなもの――細長い何かが生えている。
一目見た瞬間、体に悪寒が走り、俺は自分の家に向かって駆け出した。幸い、あと二分ちょっとで着くはずだ。そう思い――、
「クゥゥゥゥゥ、クゥゥゥゥゥ、クゥゥゥゥゥ!!」
おぞましい鳴き声を上げながら、『アイツ』は俺の真上を通り過ぎた。
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「う、うぅ、ああ、頭が、割れるッ」
うめき声を上げながら、俺はスマホへ手を伸ばす。――救急車を呼ぶためだ。
一昨日――『アイツ』と出会った翌日から、熱や頭痛などの症状が俺の体に出始めた。
普段、病気を一切しない俺は一日横になれば治ると思い、病院に行くことはしなかった。そして、どんどん辛くなっていく症状に耐えきれなくなり――今に至る。
奥歯を噛み締めながら、俺は救急車を呼んだ。なんと言ったかは、よく覚えていない。覚えていることといえば――、
「助けて」
こう言ったことぐらいだ。
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「次の、ニュースです。発熱や強い頭痛などを訴える原因不明のウイルス性髄膜炎の感染が先月、沖縄県北部で確認されました。患者は三十七人に上り、うち六人が重症です。今のところ人から人への感染は確認されておらず、政府は――」