第壱話 「ウツリカワリ」
『怪異邂逅クロニクル』スタートです。よろしくお願いしますっ!
「――やっべぇ! 遅刻するぞ、走れぇ!」
「そんなのわかってるよぉ!」
ぼくは今、友達のケンちゃんと一緒に通学路を走っている。あと五分、五分しかない。その時間までに校門を潜らないと、また田中先生にどやされてしまう。もう、遅刻は嫌なのだ。
「はあはあはあ。頑張れっ、コウタ! あと少しだっ!」
「うんっ!」
お互いに声をかけ合いながら、ぼくたちは最後の曲がり角を――、
「――おい、コウタ……あれ」
突然、ケンちゃんが足を止めて、田んぼのほうに指を差した。そして、その指の先には――、人。白い服を着た人が、田んぼに倒れているではないか。
ぼくたちは、慌てて駆け寄った。
「――あの、大丈夫……ですか?」
ぼくはその人の背中を手でさすりながら、そう問い掛けた。すると、急に白い服を着た人が笑い出して――、ぼくの視界が黒く塗り潰された。
――何も見えない、聞こえない。そして、動けない……。その暗闇の世界には、『自由』が無かった。
□◆□◆□
何時間、経っただろうか。
――とん。
不意に背中に何かが当たった。その瞬間、ぼくは笑った。なぜかわからないけど、大笑いした。
すると、笑った影響なのか目が見えるようになり、動けるようにもなった。そして、音も。――完璧に元通りだ。
道路に鼻を押しつけると、ケンちゃんの匂いを感じる。だけど、大分目線が低くなってしまった。まるで、赤ちゃんにでもなったみたいだ。
しばらくそうしていると、ぼくとケンちゃんが笑いながら歩いてくるのが見えた。