表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

"タナバタ"・始まり

「まず死刑になるべき者達がこの国にはいまーす。それは、この絶世のイケメンであるボクチンを差し置いて女の子とイチャッ♡ラブッ♡な生活を営んでいる男共でありまーす。ですが、ボクチンは絶世のイケメンであるというだけでなく心まで美しく優しいのです。というわけで"タナバタ"の日だけしか恋人達が会えなくなるだけで許してあげまーす」

 そう言った男の顔立ちは決して悪くはなかった。


「ボクチンは『リア充に天バツ』という崇高な集団のリーダー、サドルペローン様だ」

 その男はサドルペローンと名乗った。


「ボクチンは頼れる六体の部下と一緒に一年に一度しかイチャッ♡ラブッ♡な営みが訪れない日本を作り上げるよ」


 サドルペローンがそう言い終わると映像が途切れた。


「以上が各テレビ局に送りつけられてきたメッセージです。ですが安心してください最近身分を隠してチャンネル登録者70万人の小学生動画配信者として活動ををしていたことが発覚した異世界から転移してきた勇者の息子である優厳くんが野望を止めてみせると断言してくれました」


「優厳くんといえば、やはり山賊二大頭のビーターヌスットと虎群奮盗を倒した功績が有名」

 ここで俺はテレビの電源が切った。そろそろ学校へ向かわなくてはいけないからだ。


 正直、サドルペローンとやらが何をやらかそうとどうでも良いと思っていた。


 なにせこの俺は探せばどこにでも行るようなありふれた凡人で、恋人いない歴=年齢=14の中学生だからだ。


 ぶっちゃけ14だから女の子とイチャッ♡ラブッ♡なことはしたいけれどどうやってそんな関係を持って良いか分からないような小心者だし、そうなった自分が全く想像できないし、サドルペローンとやらと戦ってる姿なんてもっと想像できないしでいつも通りの日常以外なにもする事がないのだ。


 家から出て近くのバス停でバスを待つ。数十年前は中学生は歩きで学校へ行ってたらしいがそんな事はあまり興味がない。



 空を見ると普段よりも空飛ぶ箒に乗ったエスパーポリスの数が多い。明らかにサドルペローンを警戒しているようだ。この青点市は全国で148しかない超科学能力研究都市の中で7番目の規模だから特に警戒が厳重なようだ。


 超科学能力とは数十年前の科学では説明できない現象の総称だと授業で習った。ぶっちゃけ生まれる前のことなんてあんまり実感がないのでそれ以上は説明が出来ない。

 ただ、当時現れたという神様みたいな者と呼ばれる宗教上面倒くさい存在が言うには現実の均衡を保つのが面倒になったということらしい。


「なあ、天夫(てんぷ)

 そんな事を考えていたら後ろから声をかけられた。


「どうしたんだ、虎作天夫」

 そう言って俺の名前を呼んだのは柳ヨウゾウ、俺と同じ学校に通うたった一人しかいない友達で俺の二つの秘密の片方を知る唯一の存在だ。


「ああ、おはようヨウゾウ」

 俺はそうしてヨウゾウに挨拶した。


「なんかサドルペローンやばいな。ここ半年ぐらいああいう手合いが出ないと思ったら来たな」

 ヨウゾウの言うとおり半年に一度ぐらいテレビなんかにこんなことをしてやると宣言するアホが現れる。


「生まれつきの超科学能力者様がパパっと解決してくれますからね」

 俺はそう言ってヨウゾウを見た。そう、ヨウゾウは生まれついての超科学能力者なのだ。


「アホ言うな。有名な学者の研究によると超科学能力者は百人に一人、そう言えばスゴそうだが探せば無限にいるぞ。俺みたいなスゴい疲れた上でうちわの方がマシなぐらいの風を起こせる奴なんてそれこそごまんといるわ」

 ヨウゾウが常識的にツッコむ。


「まあ、だよな」



「ただ、天夫ならどうなるか分かんないけどな」


「ばっ、ばか言え」

 そう、俺は秘密なんだが実は超科学能力者なんだ。そしてこれはヨウゾウにしか話していない。


「天夫、5年前の山賊造反から父ちゃんいないじゃん。超科学能力者登録すれば生活費ぐらい国が払ってくれるぜ。母ちゃん楽できるぞ」

 ヨウゾウはこれ見よがしに超科学能力者登録手帳を撫でながら言った。


「その、嫌なんだよ」


「まあ、天夫の能力は人を傷つけることにしか使えないからな」

 そんな会話をしているうちにバスが来た。


 バスが学校へ近づいていく。

「なあ、天夫、この小説家になろうの作家さんスゴいぞ、受験生が聞いたら嫌な気持ちになりそうな名前なんだけど7月になってもひな祭りの話を……」

 そこでヨウゾウが話を止めたのはバスを鳥の化け物が襲ったからだ。


「大鷲と白鳥が混ざったような化け物? "タナバタ"関連魔物予測にあった奴だ!」

 バスの運転手が叫びながら急ブレーキをかけた。


「とりあえず、エスパーポリスに通報しよう」

 ヨウゾウはそう言って携帯を操作した。俺も同じく通報した。


 魔物の類が出現した場合は身の安全を確保した後、通報するよう小学校から仕込まれている。


 俺たちはバスから降りて散り散りになって鳥の化け物から逃げた。


「なんで俺の逃げた方に襲ってくるんだよ」

 そう言いながら俺は逃げた。


「こうなったら見せてやるぜ。俺の能力」

 そう言って俺は鳥の化け物を見ながら瞬きした。


 鳥の化け物は妙な翼の動きをして墜落した。


 どうやら俺の能力はあの鳥の化け物にも有効らしい。


「やっぱり天夫がやったのか」

 ヨウゾウが俺に近寄り安堵の表情を浮かべる。俺は鳥の化け物が飛び立とうとする度、瞬いた。鳥の化け物は不自然な動きをして上手く飛ぶことが出来ない。


 そう、俺の能力は特定の相手を見て瞬くと相手を一瞬だけ放心状態にさせるというものだ。


 歩いている人や走ってる人に使えば転ぶし、飛んでる鳥に使えば墜ちる。もし、これを車の運転手に使えば……


 我ながらぞっとする能力だ。だが、この能力は思っているほど使い勝手が良くない。まず、一度に一人しか放心状態に出来ないので複数人相手が苦手なこと、相手が明らかに変な挙動をするため目立ってしまいスリなどには使いにくい、そもそも誰かを傷つけることにしか使えない等々、俺自身ここまで便利に使ったのは初めてってぐらいの能力だ。


「やっぱスゴいよ天夫」

 ヨウゾウの言葉に俺は鼻が高くなる。エスパーポリスが適正人数到着するまで耐えれば大金星だ。


「あっ、あれは美少女侍ロボットのアンカタだ」

 ヨウゾウがそんな事を叫んだ。


 アンカタとは現存する唯一の人間に近い感情を有するプログラムで動くロボットだ。感情を学習するのに妖刀の魔力を使ったという噂もある。


 アンカタは馬型のロボットに乗ってここまで走って到着して一太刀で鳥の化け物を殺した。


 そして鳥の化け物の体液が俺とヨウゾウにいくらかかかった。


 俺は悲鳴を上げた。ヨウゾウも悲鳴を上げたようだ。


 それぐらい不気味な感覚だった。腐った鉄棒みたいな臭いがするが鼻を塞ぐために鼻に手を触れたくない。鼻についた気持ち悪い粘着質の何かに触れたくないのだ。眼も痛い。


 俺とヨウゾウはのたうち回った。


 なにか布のようなもので俺の顔が拭われた。


 拭いてくれたのはアンカタだった。ヨウゾウの顔はすでに拭かれた後らしい。


 アンカタは申し訳なさそうな表情で俺たちを見つめていた。



 かわいい。アンカタのボディを設計した人にハグしてあげたい、たぶんおっさんだろうけれど、おっさんでもハグしたい。つい、そんな意味不明な思考に至ってしまうぐらいにアンカタは可愛かった。


「どっちがやったんですか?」

 アンカタは俺たちに聞いた。


「なんの事でしょうか?」

「意味が分からない。力になれなくてゴメンな」

 俺たちはすっとぼけた。俺の能力は危険すぎるから隠しておきたいのだ。


「だから、あのベガルタイル。あの鳥の魔物を錯乱させていたのはあなた方ですよね?」

 アンカタはそう言ってベガルタイルと言うらしい鳥の化け物の血にまみれた刀を俺たちに向けた。


 ヨウゾウと眼が合った。


「あの、俺たち何もしてませんよ……」

 俺はふるえながらそう言った。


「あのベガルタイルに有効なレベルの精神介入能力は現状データに入ってません。あなた方のどちらかがその能力者だとしたら革命的に大変なことなんです」


 アンカタがそう言って刀を俺たちに近づけた時、俺は諦めて全てを白状しようと思った。サイレン音が遠くから聞こえてきた。


「おい、アンカタ? なにしてる」

 エスパーポリスが今更到着して俺たちの会話に入ってきた。


「お前ら全身血塗れだな。これだから無能力者は嫌なんだよ。さっさと病院で検査受けてこい」

 エスパーポリスに怒鳴られた俺たちは言い返す気力もなくとぼとぼと近くの病院へ歩き出した。


「待って、彼らには聞きたいことが」


「困るんだよなあ、アンカタ。それとも俺とデートでもしてくれるってんなら別だがな」

 エスパーポリスにそう言われるとアンカタは馬のロボットに乗って去っていった。


 俺たちはホスピタル ビョイーンで検査を待つも目立った外傷がないため検査は後回しにされ続け7時間ほど病院で待たされた。今日の学校は休みだと連絡があった。


 このベガルタイルはサドルペローン六体の部下の一体だったらしい。このベガルタイルによる死者は119人にもなり怪我人となるとその十倍はくだらなかった。


 だが、ベガルタイルの暴れた青点市の被害はサドルペローンの部下の暴れた場所で一番軽微だったらしい。


 他にサドルペローンの部下が現れた地区では少なくとも500人、多ければ1000人の死者が出ている。


 しかし、サドルペローンの部下は全員死亡が確認され後はサドルペローンを倒すだけだと報道があった。


「はっはっは、諸君、我が部下を全て倒すとはやるではないか、だがボクチンはまだ負けてない。というか、まだこの戦は序盤に過ぎないのさ」

 サドルペローンがそう言うだけの動画が拡散されていたが俺は強く疲労していたので帰って寝た。


 朝起きてテレビをつける。


「まず死刑になるべき者達がこの国にはいまーす。それは、この絶世のイケメンであるボクチンを差し置いて女の子とイチャッ♡ラブッ♡な生活を営んでいる男共でありまーす。ですが、ボクチンは絶世のイケメンであるというだけでなく心まで美しく優しいのです。というわけで"タナバタ"の日だけしか恋人達が会えなくなるだけで許してあげまーす。ボクチンは『リア充に天バツ』という崇高な集団のリーダー、サドルペローン様だ。ボクチンは頼れる六体の部下と一緒に一年に一度しかイチャッ♡ラブッ♡な営みが訪れない日本を作り上げるよ」


 サドルペローンがそう言い終わると映像が途切れた。昨日の朝と全く同じ映像だ。


「以上が各テレビ局に送りつけられてきたメッセージです。ですが安心してください最近身分を隠してチャンネル登録者70万人の小学生動画配信者として活動ををしていたことが発覚した異世界から転移してきた勇者の息子である優厳くんが野望を止めてみせると断言してくれました」


 昨日の朝と全く同じコメントに驚きテレビの電源を消した。


 そして調べるとどうやら今日は昨日と同じ7月7日らしい。


 俺ってループ能力持ってたの?


 全く分からないしピンとこない。


 父親の形見である虎の仮面をギュッと握った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ