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急に求婚なんて困ります⑦




「私が居れば良く眠れるんですね?」

「春が居れば二日間は軽く寝られる」



春は白蓮と寝る事にした。

ここに至るまでがとても大変だったが。


風呂に入るのも、着替えるのも歯を磨くのも全てが白蓮によって大変な事になった。

正直に言おう。春は思い出したくなかった。



「…」


春はベッドに倒れ込んだ。

どうしてこんな事しているんだろう、と考えながら。


白蓮はというと、もう言葉では言い表せないほど嬉しそうに春の隣にちょこんと横になった。春はベッドを大きく占領していた事に気付き、急いで小さく縮こまった。


「春、そんなに小さくならなくてもいい」


先程まで喜んでいた白蓮は冷静さを取り戻し、いつもの真顔で春に言った。


白蓮の行動はもう変態レベルカンスト(カウンターストップ)しているんじゃないかと疑ってもおかしくないのだが、神がかった美しい容姿によりなんとかその変態さはカバーされているような気がする。

そして白蓮が嬉しそうに微笑む姿は本当に惹き込まれてしまうのである。

春以外が相手だと表情は決して変わらないのだが。

秋明や凛の前では眉一つ動かなかった。

そう考えると少しだけ笑いそうになった。


「いや、これじゃあ白蓮さんが寝れませんし…」


春はゆっくり白蓮との間にクッションを並べ壁を作る。

それを一瞬で破壊し腕を春に伸ばす白蓮。


「春」

「白蓮さん、私はまだ18です。いいですか?」

「あぁ。春の歳も誕生日も初めて会った日も春関係のことを忘れた事など一度もない」


それもそれで鳥肌レベルなのだが、と思いながら春は続ける。


「白蓮さんはさぞかし女慣れをしていらっしゃるでしょうが、私は全く耐性がないので…これぐらい……クッションぐらいのガードがないと…」

「私は女慣れなどしていない。むしろ私は春以外の女に微塵も興味がない」

「白蓮さん、分かりましたから…クッションバリア破壊しないでください」

「なら、春。結婚しよう。春、春、春っ」


真顔のまま名前を連呼してくる白蓮に春は遮るように言った。



「そういうのが!!はぁ…白蓮さん!」


春はまたクッションをそっと白蓮との間に置く。

白蓮が破壊しようとするのを急いで止める。



「白蓮さん」

「クッションを許したら、春は私の春になるのか?」

「許してくださらないのなら一緒に寝ません」

「分かった」


白蓮はそっとクッションを春との間に置き直した。

その後、白蓮がパチンと指を鳴らすと、辺りの照明がゆっくりと消えていった。


暗闇に目が慣れてきて数分後隣から白蓮の声が聞こえた。

春は目をつぶりながら、話を聞くことにした。


「…私は女慣れなどしていない…これは本当だ」

「女慣れしてない方なら一緒に寝ようとか、お風呂着いて来たりしませんよ」

「春だから…春を見ると心がこう……なんと伝えればいいのだろうか」


白蓮の困ったような声を聞きながら、春はふわりと現れた睡魔に身を任せた。




***




『春』



また何者かが春の名を呼んだ。

あの酷く懐かしい声。


何かが込み上げてくる感覚に襲われる。


__誰なのだろう



夢の中だからなのだろうか。上手く声が出せない。何かが詰まったかのように声は掠れ、相手に上手く伝わらない。誰?せめて名前だけでも聞き出したい。


『愛しい私の…』



濃い霧が邪魔をしてよく見えない。


__だ、れ……だれっ……



『春、私は……』





***





「はぁ…っ!?」


春は勢いよく目を開いた。心臓は殺人鬼にでも遭遇したかのように激しく鳴っていた。

外はまだ暗く、まだ夜…なのだろうか。


外が明るくなったり、暗くなったりするから、太陽と月はあるのだろうか。

春は隣で気持ちよさそうに寝ている白蓮を確認してから、ベッドから下りる。

自身の背中を触ると汗でびっしょりと濡れていた。


裸足で床の大理石みたいな綺麗な石の上を歩くのはひんやりとしていて気持ち良かった。


カチャンッ


ゆっくりと金の装飾が施された窓の鍵を外し、窓を開けた。

涼しい風が春の頬に触れ、髪の間をすり抜けていく。


「…涼しい」


窓から身を乗り出して、空を見上げれば月も星もなかった。

__来た時も辺りは明るかったが、太陽は見なかったような…



「春、逃げようとしているのか」


突然後ろから声が掛かり、体が跳ねた。


「っ…白蓮さ」

ふわりと辺りが明るくなった。春は眩しさに目を細める。

脅かさないで、と言う前に白蓮が一瞬で春の前に降り立ち、春を抱き上げ窓を閉め、鍵を閉めた。


「ちょ、白蓮さん!?」

「ダメだ。逃がさない、絶対に許さない」


ギュゥゥゥ、と効果音が付きそうなレベルで抱き締められる。


「ちょ、違っ…あー!もうっ!白蓮さん!!」


背中を何度も叩いても離してくれる様子はない。


「白蓮さん…離さないといくら神獣だろうが、王だろうが歳上だろうが噛み付きますよ。これは正当防衛です」

「春に噛まれるなら別に構わない。これも一種の愛の…」

「正当防衛です!!」


___忘れてた…この方変態レベル余裕でカンストしてる方だ


春は噛み付いてやろうという気が削がれた。



「…白蓮さん、私逃げようとしたわけじゃないです」

「あんなに身を乗り出して、逃げようとしていたとしか考えられない」

「ここに月は無いのか見てただけです」

「…?…あぁ、月か」


白蓮はゆっくり春を抱き締めるのをやめて、ベッドに下ろした。


「今は月は出てこない」

「出てこない?」


見えないでもなく、出てこない。

春は不思議そうに白蓮を見つめると、白蓮は嬉しそうに目を細めた。


「春、結婚しよう」

「…どうやったらそういう話に持って行けるんです……」


春はため息をついた。


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