急に求婚なんて困ります⑤
また寝ようとする白蓮に春は急いで話し掛ける。
このまま寝られたらたまったもんじゃない、春は白蓮の腕を退かそうとすれば白蓮の長い睫毛が揺れ、綺麗な黄色の瞳に春が映る。
「春」
「……白蓮さん、お腹空きました。なので人間界に帰っても?」
白蓮は大きく目を開いて驚く。
春はその様子を見ながらイケメンは驚く姿もイケメンなんだなぁ、と目を細めた。
「……すまない、申し訳ない。私の配慮が足りなかった」
「え、いや…え…?」
春を離して、悲しそうに謝り出す白蓮に春は戸惑う。
何もそこまで謝って欲しい訳でもない。ただ人間界に帰して欲しい、ただそれだけなのである。
「春、私を嫌いにならないで欲しい」
「えっと、それぐらいで嫌いになんてなりませんが……とにかく私はお腹が空いたのと叔父の事もあるので人間界に帰していただけるなら……」
「春は優しい……私はそんな春が好きだ」
白蓮は嬉しそうに春を抱きしめようとするので春はベッドから降りる。
「お腹空きました、ので!」
「あぁ」
白蓮も起き上がり、銀色の前に垂れた髪を指先で耳に掛ける。
その姿に春は目を奪われていた。やはり白蓮は綺麗だ。
「秋明達が用意をしてくれているはずだ」
白蓮は指先でそっと春の髪を撫で、微笑んだ。
「あ…りがとうございます、えっとでも……私は叔父の事もあるので人間界に」
「今は人間界への扉を開けるだけの妖力がないのだ。すまない」
白蓮がまた春に触れようとすると、春は思わず後ろに下がって避けた。
その様子を見て白蓮が固まった。
「……えっと、ごめんなさい」
春は少しずつ白蓮と距離をとる。
「…春が私を避けるのはよく分かる。勝手に連れて来て帰せないなんて、嫌だろう」
少しずつ白蓮が近づいて来ているのが春には分かった。
春もまた少しずつ白蓮から離れた。
「でも、ここで叔父を亡くした春の悲しみを少しでも和らげてあげられたらと思う」
「…そのお気持ちは嬉しいのですが、急に私が消えたら親戚の方も困るだろうし、叔父さんの事もあるので……」
「親戚の事については問題は無い、この世界に来たら、人間世界の者達は春の事を忘れる」
「え…?」
「大丈夫だ、春が人間世界に戻ればまた記憶は戻る」
春の背中がトンっと壁にぶつかった。
「春の叔父の大事な日には人間世界に連れて行こう」
「私を人間世界に帰したままとかじゃないのですか」
捕まえた、と呟きながら白蓮は春を抱きしめた。
「私は春とまた会えて嬉しい、もう離したくない、結婚しよう」
白蓮の言葉に押され戸惑う春に白蓮は仕留めにかかる勢いである。
「春、ここは春より先に死ぬ者なんて居ない。ずっと春の隣に居る」
「……」
『春より先に死ぬ者なんて居ない』その言葉は春の心にズンっと突き刺さる。
春はずっと失ってきた、大好きな両親も、大好きな叔父も。
やっと幸せを掴めたと思えば、それは簡単にすり抜け消えてしまう。
「……白蓮さんはいいんですか?」
「なんだ?」
「私の方が先に死ぬのに、それが分かっていても一緒に居たいんですか?」
残された者の気持ちは痛いほど分かる春は、上を向いて抱きしめている白蓮を見た。
「あぁ。私は春が好きだから」
「好きなら尚更離れた方が白蓮さんにとってはいいと思います」
「なぜ…?」
白蓮は目を細め首を傾げる。
「なぜって……別れが辛くなるからに決まってるじゃないですか」
「春は自分が死んだ後の私の心配をしてくれているのだな」
春が黙り込むと、白蓮は嬉しそうに笑う。
「私は春と会えるのに会わないのが一番苦しいから」
「私の死よりもですか?」
おかしな方、と笑いながら春は言う。
「死んだら二度と会えないのに。白蓮さんは変わってる」
「死んだら、今度は春の骨を愛でるつもりだ」
「…あは………やば」
やはり白蓮はとんでもねぇ奴だったらしい。