急に求婚なんて困ります③
秋ノ宮の中は春の想像していた通り、白を基調とした建物、加えて豪華な金の装飾が施されていた。白蓮はやはり貴族だったらしい。
春は秋明と凛を交互に見る。どう考えても幼稚園児かその辺である。
目の色、髪の色、耳が少し尖っている以外は普通の人間と変わりない。
「春様?」
秋明と呼ばれていた男の子が春を見た。
肌も髪も真っ白で、瞳だけが青く、キラキラしている。
秋明の隣に居る凛も同様に、肌も髪も白い。
「いや、まだ状況が飲み込めなくて」
「てっきり春様はもう慣れていらっしゃるのかと!」
「ちょ、秋明っ……」
秋明はふわりと笑い、宮殿の案内を続ける。
時々すれ違う妖は春を見て、深々と頭を下げる。
「…そしてこちらが春様のお部屋にございます!」
大きな扉が開かれ、春は中に入る。
「…私は長期滞在の予定はないのですが…」
大きなベッドがまず目に入り、次に大きな姿見、クローゼットのような扉もあり、明らかに長期滞在用というより住む、という感じである。
「春様はこれから妖界の王妃として白蓮様を支え…」
「えっ?」
「え?」
「春様?」
秋明と凛が不思議そうな顔をして春を見つめる。
春は嫌な予感がした。王妃という言葉も初耳である。
「…私は白蓮さんと結婚しませんよ」
「え」
「あと…白蓮さんって王なのですか?」
その場が静かになり、春は後退りをする。
「白蓮様はこの妖界を統べる王であられます」
凛が部屋から秋明を追い出す。
戸惑う春に凛が微笑み、クローゼットだろう扉を開けて服を取り出した。
凛が取り出した服は白を基調とした上着や羽織。そこに丁寧に刺繍が施され、ふわふわとしたその服はまるで天女のような服だった。
「えっと、まさか…」
春が身構えると凛が微笑んだ。
「ふりふり…」
「白蓮様が春様にはこれがお似合いだと」
「…えっと、私はこの服のままでよくって、Tシャツが好きなんです、着替える必要なんて…」
「秋ノ宮は安全ですが、この先を出ますと春様のそのお姿では妖に襲われ、食料になってしまうかもしれません」
春は目が点になる。
凛はさぁさぁ、とコスプレイヤーとかがよく着ている漢服を前にグイグイ持ってくる。
___食料って
「もっとこう…フリフリしたものでは無くて、鎖骨辺りが見えないような上着…そういうものありませんか?」
「ふふっ」
凛は笑うだけである。
「上は凛さんと同じような…下は秋明さんのようなズボンタイプが…」
「ありません」
「…少しその衣装箱を見ても?」
「ふふっ」
凛が前に立ち塞がり、よく見れない。
「凛さん」
「凛とお呼びください、春様」
呼び捨ては少し抵抗があった春は小さな声で言った。
「…凛ちゃん」
驚きで固まっている凛の横を笑顔ですり抜け、春は服を見る。
「やっぱりあった!」
シュッとした袖の上着と、一片式のスカート。このスカートを腰にグルグルと巻いて紐で止める。これを合わせるのだ。
「春様はこちらの服の方が絶対に…皆が虜に…」
可愛い顔してとんでもない事を言う凛に春はクラっとくる。
少ししょんぼりしている凛に手伝ってもらい春は着替える。
「…わぁぁ」
見ていただけの物をいざ着てみると少し気分が上がった。
「春様っ!!」
扉の向こうから秋明の声が聞こえてくる。
「秋明、うるさい!!」
凛は牙を出して目が鋭くなる。
春が凛を見ると、すぐに可愛らしい顔に戻る。
「一通り秋ノ宮を案内しましたが…気になる所でもございましたか?」
「人間界と妖界を行き来できる扉ってありますか?」
「無いわけではありません。ですが扉を開けるには莫大な妖力が必要となるのです」
「妖界では四大貴族の当主レベルでしか開けることが出来ません」
「そういえば…四大貴族って…」
春が不思議そうな顔をすると、勢いよく扉が開いた。
「春様!説明はこの僕にお任せ下さい!」
「秋明…」
凛に怯えながら秋明が話し始めた。