急に求婚なんて困ります①
叔父が亡くなって三日後、春は叔父の遺品整理をしていた。
久しぶりに蔵に入り掃除をする。
「あれ……?」
奥の方の掃除をしていると、木箱に大量の御札が貼ってある物があった。
一瞬何かに重なったような気がして少し嫌な予感がした。
「蔵の掃除は後にしよ……」
春は1週間後には子供のいない親戚の家に行く。
18歳で一人暮らしでもと考えていたが、まだ高校生ということで預かってくれる事になったのだ。
この家ともさようならだ。
蔵から出て、全体を見渡す。春は14年過ごして来たこの家が好きだった。
チリン、と鈴の音がした。
振り返ると男性が立っている。
春が身構えると、男性が真顔で言った。
「迎えに来た、結婚しよう」
***
そして冒頭に戻り、現在。
「なんでこんな事してるんだろう……」
春はコスプレイヤー(?)を家に上げ、緑茶を出す。
コスプレイヤー(?)は綺麗な手を出して、丁寧に湯呑みを持って一口飲む。
「我が妻の茶は愛がこもっている」
春はつい緑茶を吹き出してしまった。
「大丈夫か?これを使うといい」
春の前に差し出されたのは艶々としている布。
「あ、ありがとうございます」
「これは私の体毛を職人が丁寧に編み込んだ逸品だ」
「……笑えない冗談やめてください。警察呼びますよ」
この変人コスプレイヤー(?)を早く追い出して整理の続きをしなくては、春は立ち上がった。
「お茶を飲み終わったならお帰りください」
「一緒にか?」
「一緒に帰るわけないです。何言ってるんですか」
「……私の事を忘れたのか?」
「え?」
変人コスプレイヤー(?)は扇子を取り出し、広げると先程までの真顔を更に引き締めて、春を睨むように言った。
「何者だ。私は四大貴族白家17代目当主、白蓮であるぞ」
「貴族なんて今の時代無いですよ」
「…初めて会った時の真似をしてみたが、完全に忘れてしまっているようだな」
変人コスプレイヤー__白蓮は貴族らしい。
「長くここに居る訳にはいかない」
白蓮がやっと立ち上がったので、春は安心した。
しかし、春はいつの間にか白蓮の腕の中に居り、状況が飲み込めない。
「帰るぞ。春」
無表情のまま、白蓮が手を前に差し出すと、庭に大きな黒い扉が現れた。
春がえっ、えっ、と口をパクパクしているのを白蓮はなぜか嬉しそうに見つめていた。
白蓮と春が庭に出ると、黒い扉がゆっくり開く。
「…言い忘れていたが、あれから私は強くなった」
「え?」
固まる春を白蓮がおんぶする。
「しっかり捕まっていろ」
「えっ?…っ!!」
その瞬間物凄いスピードで落下していく感覚がした。
「え、モフモフ…?」
白蓮の姿は次第に白い動物に変わっていく。
春は落とされないように必死にしがみついた。
景色は目まぐるしく変わっていく。一瞬で四季を感じているかのようだった。
黒い扉の先は、雪景色かと思えば、一面花畑、桜が舞って、気付いたら夏のような暑さと広がる青空、そして白蓮が止まった場所は木々は紅葉で赤や黄色に染まり、涼しい場所。
「降りていい」
春はゆっくり降りて、白蓮の全体を見た。
とてつもなく大きい虎。ホワイトタイガー?
いや、これは__
「白虎?」
ホワイトタイガーがこんなに大きいわけないし、などと思いながら春は見つめる。
白虎なんて架空の生き物とかで普通なら驚くはずなのに春は落ち着いていた。
「私は白虎の加護を受けているただそれだけだ」
白蓮はすりすりと春の背中に大きなモフモフの頭を猫のように擦り付ける。
「なんか猫みたい……モフモフ」
春も振り返って、つい頬擦りしてしまう。
頭を撫でて、ギュッと抱きしめて、モフモフして。
顔を大きな舌でぺろぺろ舐められて、倒れながらやめてよ〜と言ってから春はハッと我に返る。
「……白蓮さん退いてください」
「にゃーん」
「退いてください。サラッと押し倒さないでください」
「にゃーん…」
「にゃーんではありません。そんな耳を垂らして悲しそうな顔をしてもダメです」
可愛いけど我慢しないと、春は白蓮をジッと見つめた。
白蓮はしぶしぶ春から離れて元の姿に戻った。
「春とふぁすときすというものをしてしまった」
無表情だったのが、少し頬を赤らめ嬉しそうに笑う白蓮を見てに春はなぜかゾワッとしたのだった。