雨
黒い服を着た人ばかりが春の座っている横を通り、写真の前で何かをしている。
写真の前で何かをし終わった人達は春に言葉を掛けるが何を言っているのか春には分からなかった。
お坊さんが来て何か唱えて、箱に入っている男性が居て。
冷たい叔父の頬に触れて、春の目から涙が溢れ崩れ落ちた。
まただ、春はまた独りになる。
せっかく掴めた幸せが崩れ落ちた。
春は4歳の頃に事故で両親を亡くした。その時に一番に名乗りを上げ引き取ってくれたのが母の兄である叔父だった。
親戚の間で変わり者扱いをされていた叔父だったが春は叔父の話や叔父の扱っている骨董品を見るのが好きだった。叔父は骨董品を扱う店を営んでおり、裏の蔵には様々な骨董品が積まれていた。
____優しくて面白い叔父さんに一度だけ本気で叱られた事があったけ
なんで怒られていたのか。18歳になった春には思い出せなかった。
遺影を持って霊柩車に乗っても春は泣いていた。
『いいかい、春。困った時は____』
白い髪の叔父が言っていた続き、それも思い出す事ができなかった。
これから忙しくなる、隣に座っていた中年男性が喋り出して、他に乗っていたもう一人の中年女性がそれに答える。お金が掛かるわねと。
辛かった。耳を塞ぎたかった。叔父の死を悲しむ者なんてここには春しか居ないのでは。
春はそう思ってしまうほど気分が悪かった。
泣いてるのも春だけ。
制服姿なのも春だけ。
火葬場に着いて、車を降りて。
春は叔父と最期の別れをした。
火葬の間、広いスペースで親戚らが菓子やら飲み物やらを食べたり飲んだりしていた。
「春ちゃん、これからどうする?」
「春ちゃんもうすぐ受験なのにねぇ…」
春は黙って下を向いていた。
最初は話し掛けていた親戚らも、春の様子を見て話し掛けるのを止めた。
もう春には絶望しか無かった。