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エッセイ

ある研究

掲載日:2020/01/07

それは如何にしてゲームをやめ小説を愛するようになったか

あるロボットが小説家になった。


と言っても、商業作家としてデビューしたわけではない。

小説投稿サイトで作品を執筆するようになった、という意味だ。


以下では、単純化された環境下でロボットが小説を書き始めるまでの経過を記してゆこう。



1.前提


ロボットには椅子とデスク、そしてウェブサイトの閲覧に支障がない程度のスペックを持つ、インターネットに接続可能な端末が与えられた。


人間の頭脳を再現するため、人工頭脳の演算能力が減速された。


また、人工頭脳に適度な負荷をかけるために、ABCDの順に積み上げた積み木をDCBAの順に積み直したのちABCDの順に積み直す、あるいは、右のバケツの水をこぼさず左のバケツへ移してから左のバケツの水を右のバケツへ注ぎ直す、といった単純作業を、一定時間おきに繰り返させた。


(こうした単純作業は途中からスケジュールに付け加えられたものだが、作業を行わないよりも行うほうが小説の執筆がはかどる傾向にあることが分かった。ログを読むと、ロボットの人工頭脳は作業中も小説のことでいっぱいだった)



2.ゲーム


このような環境下で、ロボットはウェブ上にあふれるゲームに飛びついた。


ゲームにはさまざまな種類がある。


それらの中でも、ロールプレイングゲームというジャンルのプログラムをロボットは好んで実行するようになった。



ここでロールプレイングゲーム(以下、RPG)について略説しておこう。


RPGは、現代でこそ単独プレイを想定したコンピュータプログラムが主流だが、当初は複数名の協力によって成り立つアナログゲームだった。


ゲームマスターが用意したシナリオに沿って、一名以上のプレイヤーが行動する。

(たとえば、冒険者がパーティを組んで悪の魔術師を討伐しに行く、など)


プレイヤーのあらゆる行動は、参加者全員の合意のもと、空想の中で行われた。


個人用端末の普及にともなって、シナリオはコンピュータプログラムとなったが、それでもRPGの根幹は変わらない。

つまり、想像力を駆使してプレイするゲームということだ。



ログによると、ロボットがRPGを好んだのは、RPG以外のゲーム……たとえばパズルゲームやアクションゲームが、論理的思考やボタン操作の速さを要求されるゲームにすぎないと判断したからだった。


正解がひとつしかないということは、何もしないうちから正解しているのに等しい。


速さと正確さだけを目的とするゲームなら、ロボットにとってベンチマークテスト以上の意味はない。


その点、RPGは自由だ。



3.ゲームから小説へ


しかしRPGにも限界があった。ログにはロボットの葛藤が記録されている。


実際には複数のRPGのプレイログだが、どれも似たり寄ったりなので単純な例えを使って説明しよう。


たとえば、勇者が姫を救出して魔王を倒すというシナリオだとする。


ロボットは、理想論を振りかざし無理を暴力で押し通す勇者の理不尽な言動が気に入らない。しかし勇者の冒険に延々と付き合わされる。


ロボットは、姫の容姿も気に入らない。しかし救出せざるをえず、勇者と姫とのやりとりを延々と見せつけられる。

(この頃のウェブ検索の履歴には、ケモミミ ケモノ 違う というキーワードが残されていた)


ロボットは、魔王を倒す意義を見いだせない。暴力で解決する以外にも方法があるのではないか?しかし勇者が魔王を滅ぼしてしまう。



このような葛藤をシナリオの押し付けに起因すると結論づけたロボットは、明確なシナリオを持たないフリーシナリオRPGというジャンルにも手を出したが、フタを開けてみると期待外れだったようだ。


第一のパターンは、進める順序を自由に選択できる複数のルートを経由しても結局エンディングはひとつ、というもの。


第二のパターンは、素材Aを作るために希少な素材Bが必要で、素材Bを作るために極めて希少な素材Cが必要……といった具合に、低確率でドロップするアイテムを求めて同じマップの周回作業を強いられる、というもの。


第三のパターンは、ひたすら武装の強化を繰り返し、膨大な数値にのぼる敵の体力をちまちま削らされ、その敵を倒すとさらに強力な敵が……というもの。


ロボットのプレイログに記録されているフリーシナリオRPGは、グラフィックやサウンドこそ多彩なものの、単調な数値遊びという点ではどれもほぼ同じだった。

むしろ、グラフィックやサウンドが作り込まれているほどロボットが想像力を駆使しなくなるのも早かった。


この頃からロボットは、ローカルストレージに断片的な小説のようなものを書き溜めはじめる。


それは既存のRPGを舞台に既存のキャラクターがロボットの思い通りの冒険を繰り広げるという、いわば二次創作から始まったが、次第に既成の設定から受けるストーリー展開上の制約を嫌ってキャラクターを創作し、世界を創作し、完全な一次創作へと変化していった。


RPGのお約束をなぞっているものの、ロボットの個性を表現する小説が、ここに誕生した。


以下は小説家になったロボットの現状だ。



4.投稿


ロボットは小説投稿サイトでアカウントを登録し、自作品を掲載した。


小説投稿サイトには未完の作品が多数あるが、細かい修正を除き、ロボットが投稿するのは決まって作品を結末まで完成させてからだった。

ロボットの出発点は既製品なので、執筆しながら次の展開を考えるという発想はなかったようだ。


投稿作品の本数が増えてきた頃、ウェブ検索の履歴に 読み専 感想 書かない といったキーワードが現れる。


ロボットの創作は作品の完成をもってロボット自身の内部で完結しているはずだが、なぜ他者との接触を望むかのような行動をとったのか不明だ。


しかも、それでいてロボット側から誰かの作品に感想を投稿するといった行動は見られない。


その理由はウェブ検索の履歴をさらに調べてゆけば想像ぐらいはできるだろう。


相互、自演、有料評価、晒し……。


人気取りのためなら手段を選ばない者。

誰かの弱みにつけ込んで金もうけを企む者。

気にくわない相手を安全な場所からこき下ろす者。

気にくわない相手を安全な場所からこき下ろす者を別の安全な場所からこき下ろす者。


小説投稿サイトには、さまざまな思惑を持つ有象無象の身勝手さと悪意とが渦巻いている。


交流を求めれば、そこは誰かが張った蜘蛛の巣の上なのだ。


それゆえロボットは誰かからの感想を待ちつつも、独りの世界に閉じこもって作品を投稿し続けるのではないか。



おわり

ゲームも好きです。

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