第八話
五人での話が終わり、顔色の悪いリリアは自分の部屋へ引き上げて行った。
公爵はライオネルに今後の話をするため、自分の執務室へライオネルを連れていく。
その場に残ったのはキースとエドモンドだけだった。二人は向かい合うように座り直す。
「ウィアー殿、この度は来てくれて、ありがとう。レオを頼むよ」
「それはもちろん。頼まれなくても愛しい人のためだから」
エドモンドはライオネルの事を考えたのか、迫力のある顔に甘い笑みを浮かべるのだった。
「それは安心だ」
キースはそう言って苦しさを含んだ笑いをうかべた。
その様子を見たエドモンドは一瞬体調が悪いのかなと思ったが、キースのリリアからライオネルを守ろうとしてた態度などを思い出しハッとした。
「君ももしかしてレオの事が……」
エドモンドがライオネルを好きだと気持ちを確認しかけるとすべてを尋ね終わる前にキースは寂しそうに首を振る。
「いいんだ。レオは知らないんだ。それに知らせたいとも思わない」
「私が言うのも可笑しいが、いいのか?」
「いいんだ。好きなら隣にいれると言うものでもないと思う。公爵家を俺かレオが継がなくてはならないから、元々隣にいるのは難しい。けれど、レオを守る地位を得るため、レオに代わって公爵を継ぐことにしたんだ」
キースはエドモンドを真正面から見据えて話を続ける。
「君の地位ではレオに何かあった時に守りきれない。俺はレオの為なら悪魔にでも魂を売れる。横でレオを守る役目は君に譲る」
「君は、それでいいのか?」
そう言って、エドモンドは心配そうにキースを見つめるのだった。
「いいも何もレオは男とか女とか関係なくお前だから好きになったんだろう」
「すまない」
「君に謝られても困る」
エドモンドに謝られたキースが困った顔を見せた。そして、フッと笑う。
「この思いが報われるとは、端から思っていない。レオが赤ん坊の頃から俺の心はあいつに囚われてる。最初は俺を慕うあいつが可愛かっただけだったと思うが、気付いたら心奪われていたんだ。だが、うちは公爵領の統治を補佐する仕事をする家系だ。結婚して子供を作らないといけない後継ぎのレオとどうこうなろうと端から思わなかった。気持ちに気付いた時から仕事としてではなく、せめて自分の為に俺はあいつを支えたいと思ってる」
「そんな……」
キースの話を聞いたエドモンドは困惑するような表情を見せた。キースは首を振るのだった。
「俺の気持ちはいいんだ。それよりレオの嫁になる奴、あいつ、注意した方がいい」
「あんな痛い奴をか?」
エドモンドが不思議そうにキースに尋ねた。
「レオが学園の卒業パーティーでやらかしたのを知っているか?レオを唆したのがあいつだと思う」
「何故、そう思う?痛い女なだけだと思う」
「そもそもレオが自分が国王のスペアとして次期王になるかもしれないなんて考えていたとは思えない」
「そこまで考えそうにないからな」
エドモンドがキースの意見に賛同する。
「ウィアー君、君も恋人にひどいな」
「深く考えない馬鹿正直なレオも可愛い」
何かを思い出して笑うエドモンドにキースは気持ち悪そう。
「思い出し笑いしてんなや。気持ち悪い」
「申し訳ない」
エドモンドが謝るが、キースは気にした素振りを見せずに話を続けようとする。
「話を戻すとして、本来なら公爵家を継ぐはずだったレオを継げなくしたのはあいつが洗脳したからだと思ってる。レオは単純だから、毎日言われてその気になっただけかもしれないが」
「確かにレオの事だから、好きな女から言われたらその気になりそうだ」
リリアについて二人の話が終わりかけたと思ったが、キースは思い出したように話し出す。
「ウィアー殿とは長い付き合いになりそうだ。俺の事はキースと呼んでくれ」
そう言われてエドモンドは全力で拒否するように首を横に振った。
「流石に公爵家の後継ぎの方に呼び捨てと言う訳にはいかないかと思いますが嬉しいです」
「でも、砦に行っていた君も普段俺みたいなしゃべり方だろう。畏まったしゃべり方されるとしゃべりにくいから、ラフに話をしてほしい」
「出来るだけその様にいたしますが、呼び捨てと言う訳には……キース様」
呼ばれたとたん、キースは一瞬気持ち悪そうな顔をするのだった。
「慣れなくて気持ち悪いが仕方ないか。エドモンドさん」
エドモンドに何か仕返しをしたいのか、キースはとっさにエドモンドをさん付けで呼ぶ。
「それは気持ち悪いです。私が年上とは言え、公爵家に仕える者に『さん』ってないと思います。そこは呼び捨てでお願いします」
エドモンドが頭を下げて頼むのを見たキースはしぶしぶながら承諾する。
「分かったよ。エドモンド、これからよろしく頼むよ」
それから、二人はニヤっと笑いながら、がっちり握手をするのだった。
◇◇◇◇
その日の夜、食事も終わり各自部屋で寛いでいる頃、ライオネルの部屋をエドモンドが訪れた。
ドアを開けたライオネルは嬉しそうにエドモンドを招き入れたのだった。
そして、二人はソファに腰かける。会えて自然に笑みがこぼれて嬉しそうにする二人。エドモンドと引っ付きたいのか、ライオネルから手をつなごうとする。しかし、手をつなぐ前にエドモンドがライオネルの肩を抱き、自分の体にライオネルの体を密着させる。お互いの吐息がかかる距離に顔が近づいた。ライオネルがエドモンドを見上げる。
「エド、大好き」
「レオ、俺は愛してる。オーバーじゃなく、レオの為なら俺の命も差し出せるぐらいに」
見つめ合う二人は軽く口づける。話したいことがあるのか、唇を離すと話を続ける。
「エド、僕も愛してると思う。昼に言ったように僕の為にいろいろ考えてくれるエドに気持ちを返したいと思ってる」
「レオ、本当か?」
「本当って? 愛してるってこと? 気持ちを返したいって思っていること? どっち?」
エドモンドは返事をする前にライオネルをぎゅっと抱きしめる。
「どっちもだ」
エドモンドがライオネルの唇にそっと口付ける。そして、ライオネルを優しく見つめる。
「愛してるってレオから言ってもらえて嬉しいし、気持ちを返したいと言ってもらえて嬉しい」
「僕もエドから愛してるって言ってもらえて嬉しいよ」
ライオネルがエドモンドを力強く抱きしめながら、微笑んだ。エドモンドはライオネルに微笑みながら優しく話しかけた。
「レオ、愛してる。ずっと一緒にいたい。一生大事にする」
懇願するような、プロポーズのようなエドモンドの語り口にライオネルは瞳を潤ませて嬉しすぎて泣きそうな顔になるのだった。
「……エド、ぼ、僕も……あ、愛してる」
嬉しすぎて感情が高まったためか、一言一言がうまく伝えられないライオネルは気持ちを伝えるように、エドモンドを改めて抱きしめ直す。
エドモンドは上目遣いでエドモンドを見つめるライオネルの濡れた瞳を見つめ返していると、愛おしさがこみ上げてきて、ライオネルの可愛い唇に口づけをしたくなり、エドモンドの体はじんわりと熱を帯びてくる。
エドモンドはライオネルの頬に片手を当て、感触を確認するように親指で唇をそっとなぞってみた。触られてびっくりしたライオネルの顔が可愛くて、そのまま、ライオネルの口の中に親指を入れてみる。抵抗するでもなく、ライオネルはエドモンドの親指を口の中へ招き入れ、そして、舌を絡ませる。
ライオネルはエドモンドの親指に舌を絡ませていると、知らず知らず体が熱を持ち始めていた。が、ライオネル本人はそれに気付かずに夢中で舐め続けるのだった。
エドモンドは美味しそうに自分の親指を舐めるライオネルが可愛すぎて下半身が熱くなる。
「レオ、すまん。これ以上抑えが効かない」
ライオネルの口から自分の親指を抜くといきなりエドモンドは立ち上がり、ライオネルを横に抱き上げ、ベッドへと大事なものを運ぶかのように運んでいく。そして、ベッドの上でお互いの熱くなった体を重ね合わせたのだった。
※今、ライオネル20歳キース25歳
今は容姿端麗なライオネルですが、赤ちゃんの頃は天使の様なかわいさで、キースは公爵家に舞い降りた天使(キースの目にはそう見えたらしい)の笑う顔みたさにしょっちゅう会いに来ては世話を焼いてました。(考えていたエピソード入れられなさそうなので、説明入れました m(_ _)m)