第五話
デルヴィーニュ公爵は公爵家をライオネルの従兄弟に託す事に決め、公爵家の私兵団の団長をしているライオネルの従兄弟のキース・フォスターを王都の屋敷へ呼び寄せた。
顔立ち身長共に平凡で人畜無害そうなキースと公爵は客間に入り、応接セットのソファへと腰掛る。
「お久しぶりです。叔父上」
そう言って、キースは公爵に会釈した。
「キース、忙しい所を呼びつけて申し訳ない。手紙でも知らせたが、後継ぎを頼まねばならなくなったのだ」
「ライオネルが後を継ぐと思っていましたが……」
「継がしたかったが、嫁になるものが公爵夫人の素質が無さすぎるのでな」
「私はライオネルが公爵になった暁には支えられるよう努めて参りましたが、私に公爵を務める力があるかどうか......」
「キース、頼む」
普段人に頭を下げることのない公爵がキースに頭を下げた。即答できないキースはしばし悩む。
そして、キースは意を決したような表情をしたのだった。
「若輩者の私に務まるかわかりませんが、お請けさせていただきます」
「ありがとう。それでは、ライオネルを呼ぶのでしばらく待っていてくれ」
キースの受諾にほっとした様子の公爵はライオネルを呼びにいかせた。
しばらくしてライオネルが執事に呼ばれてやって来る。
ライオネルはキースを見るやいなや久しぶりに会う嬉しさにハグをしたのだった。
「キース兄! 久しぶり」
ハグを終えてライオネルと離れたキースはライオネルの顔をマジマジと見た。
「レオ、この度は何と言っていいか」
言うのも憚られると言わんばかりのキース。ライオネルはいいんだとばかりに首を振る。
「私が選択を間違ったから。それより、キース兄こそ、団長としてやってくれていたのに私が至らぬばかりに公爵家の後を継いでもらわないといけなくなって申し訳ありません」
ライオネルはキースに深々と礼をする。
キースは礼をするのを止めようとする。
「昔に言っただろ。俺はお前のために何でもしてやるって。任せとけって!」
「キース兄、ありがとう」
公爵が口を挟む。
「と言うわけだ、ライオネル。キースに公爵家を託す代わりにお前が公爵領の私兵団の団長を勤めるんだ」
「父上、この度は申し訳ありません。承知いたしました」
キースは話が落ちついたのを見てライオネルに忠告する。
「レオ、団長を受けるなら、誰か信頼できる人間に副団長をまかせた方がいいと思う」
「信頼できる人……」
「お前は正直者だが、正直者過ぎる。補佐する人間がいたほうがいいと思う」
信頼できる人と聞いてライオネルの頭に浮かんだのは北の砦の隊長エドモンド・ウィアーだった。
◇◇◇
キース・フォスターがライオネルの代わりに後継ぎになることが決まって1ヶ月程が経った。
ライオネルからの知らせを受け、エドモンド・ウィアーが仕事を辞めて、デルヴィーニュ公爵家の私兵団の副団長になるために王都のデルヴィーニュ家の屋敷にやって来た。
屋敷に着いたエドモンドは早速公爵へ挨拶するのだった。
「閣下、ご無沙汰してます」
「ウィアー君、久しぶりだな。いつもお父上には世話になっておる」
「いえいえ、閣下にお仕え出来て父も喜んでおります」
「それにしても、今回は君をうちの都合に巻き込んでしまって申し訳ない」
頭を下げようとする公爵をエドモンドは制止する。
「いえ、ご子息には、砦にてお世話になりましたし、私自身、伯爵家の三男で、身軽なものですからお気になさらず」
「いやいや、うちのライオネルの方が君には世話になった。君の元なら安心だと思ったが、間違いなかったようだな。目を覚ましてくれて感謝する」
礼をする公爵にエドモンドも頭を下げた。
「閣下、勿体無いお言葉」
「ライオネルを呼びに行かせているので掛けて待っていてくれ」
「ありがとうございます」
しばらく二人が雑談をしているとライオネルが部屋へ入ってきた。
三人は砦での話やらこれから行く公爵領の話で盛り上がるのだった。
◇◇◇◇
公爵との話が終わり、ライオネルの部屋へライオネルとエドモンドはやって来た。ふたりっきりになるのは砦以来だった。
部屋の扉を閉めたとたん、どちらからともなく見つめ合いながら近付いていく。
「レオ、久しぶり」
「エド、会いたかった」
二人はしっかり抱き締め合う。
「レオ、会いたかった。会えないのは辛すぎる」
「本物のエドだね。こうしたかったよ」
抱きしめるエドモンドの胸にライオネルは顔をこすりつける。そして、ライオネルは見上げるのだった。エドモンドはライオネルの瞳を見つめて、優しく微笑んだかと思うと目線を唇に移す。そして、ライオネルの唇にそっと自分の唇を合わせた。啄ばむように、何度も角度を変えて、唇を合わせたのだった。
そして、軽く合わされていた唇がだんだん深くなっていく。ライオネルは夢中で息をするのも忘れてエドモンドの唇を味わった。そして、エドモンドが唇を離す。
「レオ、鼻で息をして」
「エド、ごめん」
「謝ることじゃあない。久しぶりのレオをたくさん味わいたいだけだ」
そう言って、エドモンドは優しく頬笑む。
「僕も味わいたい」
そう言いながら、微笑み返すライオネル。
「そんな可愛い顔で言わないでくれ。キスだけで止まれなくなる」
苦しそうな顔をしたエドモンドにライオネルは心配そうに顔を近づけた。
エドモンドは我慢できないと言わんばかりに性急にライオネルに深く口づけた。そして、エドモンドの分厚い舌でライオネルの唇をノックする。迎え入れようとライオネルが唇を開けたとたんエドモンドの舌が侵入してきた。そして、ライオネルの薄い舌を捕らえ、絡みつくのだった。