第十話
ライオネルとリリアの結婚式から3日後、キースの養子縁組の手続きも終わり、ライオネルとエドモンドは領地へ旅立つことになった。領地へは王都から西へ馬車で1週間の道のり。エドモンドの荷物があるため、二人は馬車で旅立つ事となった。
二人の見送りには公爵、キース、そしてリリアが出て来ている。
ライオネルは公爵と、エドモンドはキースと話し込んでいた。一人ポツンとしているリリア。
それぞれ話が終わり、ライオネルとキースがハグする。
「キース兄、よろしくお願いします」
「おう、まかせとけ」
「キース兄、素が出てます。後継ぎっぽい話し方をしないと……」
それを聞いて公爵とエドモンドが笑う。キースは任せろと言わんばかりのおどけた表情を見せる。
「もちろんわかっている。お前とだから砕けて話しても問題ないだろ。心配無用!」
「心配はしていませんが……」
言いかけたライオネルの言葉を遮るようにキースが言い返す。
「それよりお前の方が心配だわ。彼氏との暮らしに浮かれすぎんようにな。前に言ったようにうちの領地の国境付近で怪しい動きがあるから、気を引き締めてな」
「はい、ありがとうございます」
ライオネルはキースに礼をするのだった。キースの表情がはおどけたものから、真面目なものへと変わる。
「エドモンドにいろいろと注意事項は伝えてあるから、あちらへ言って聞いてくれ。気をつけてな」
「はい」
ライオネルとキースは改めてハグをしたのだった。そこへ二人の話が終わったと見たリリアがぐいぐい入ってくる。
「ライオネル様~リリア、妻としてやっぱり一緒に行きます~」
ライオネルはたじろぎながら答えた。
「王都に残るよう父上に言われただろう」
たじろぐライオネルをものともせず、リリアは更にすり寄る。
「でも~妻がいた方が何かといいんじゃあないですか~?」
怖い顔をしたキースがリリアとライオネルの間に入ってくる。
「君は王都で暮らすんだろ」
「……はい……」
キースの強い口調とあまりの怖い顔にリリアは返事を返すのが精一杯だった。
五人での話し合いの場で王都にいるように言われたにも関わらず、それでも付いて来ようとするリリアに四人は苦笑することしかできなかった。
◇◇◇◇
公爵領へ旅立って、一週間。二人はデルヴィーニュ公爵領の領都リーランドに到着した。
デルヴィーニュ公爵領はもともと農業の盛んな所だったが、隣のベルンハルト国との地の利を生かし、交易も盛んな土地だった。そんなデルヴィーニュ公爵領の領都のリーランドは王国の西の端とは思えない栄えた都市であった。ただし、国境に近いため有事の際を考えて、城壁で囲まれているのだった。
領都リーランドの公爵家の屋敷で暮らすことになったライオネルとエドモンドは私兵団に馴染んだり、ベルンハルト国が怪しい動きを見せる国境付近の警備強化などをして忙しく過ごしていた。領都の屋敷ではそれぞれの部屋が隣同士になるようにあてがわれた。そして、毎晩どちらかの部屋で一緒に休む日々だった。
そんなある日、王都の公爵家からの早馬がやってきた。使いとしてキースが公爵からの手紙を持ってきたのだった。
内容は二つ。
一つは国境が接するベルンハルト国の兵が国境付近に集結していて、フロナディア王国にちょっかいを出そうとしていると言う情報。
もう一つは、リリアが二日ほど前より行方不明になっており、ライオネルの下へ姿を現すかもしれないので注意するようにと言う事であった。
三人は話をするため、屋敷の執務室に集まり、ソファに腰かける。ライオネルの横にはもちろんエドモンド、机を挟んだ向かいにはキースが腰かける。
ライオネルが話を詳しく聞きたそうに身を乗り出して、キースに尋ねる。
「キース兄、国境の警備の強化を既にしているのですが、国境を分ける渓谷の川の吊り橋を落とした方がいいのではないでしょうか?」
キースは否定するように首を振る。
「レオ、確かに最終そうした方がいいと思うが、向こうに行ってる国民もいるからそう気軽に出来ることではないよ。エドモンドはどう思う?」
キースに話を振られたエドモンドは一瞬考えて答えるのだった。
「キース様、まずは国境にある検問所を補強するか、あるいは、橋からこちらへ来る途中、敵から見えにくい位置に臨時の砦を至急造成するべきかもしれません」
「ではエドモンド、一先ず、検問所の補強の手配を頼む」
キースの返答を聞いたエドモンドはすぐさま部屋の外で控える兵士に指示を出した。そして、二人の方へ戻る。
ライオネルが更にキースに尋ねる。
「それから、リリアが行方不明とはどういうことでしょうか?」
「あのバカ女、」
キースのリリアの呼び方にライオネルはびっくりした顔を見せた。
「キース兄! 女性にそのような言い方は……」
ライオネルの忠告を気にせず、キースはよほど腹に据えかねることがあったのか、話を続ける。
「バカ女はバカ女だ。こんな忙しい時に行方不明になりやがって。実家にも戻ってないらしい。不確かな情報だが、王都の辻馬車乗り場から西行きの辻馬車にそれらしき女が乗ったらしい」
エドモンドが話に入る。
「キース様、それではリリア様はレオに会いに?」
「分からんが、その可能性はある。修道院の時もどこをどうしたか抜け出してレオに会いに来ただろう?」
「確かに厳しいミラルデル修道院を抜け出してました」
エドモンドは北の砦の事を思い出したように頷くのだった。
「エド、キース兄、僕はどうしたら……」
リリアが来るかもしれないと知って、ライオネルはそわそわしだす。キースが心配ないと言わんばかりにライオネルに向かってニヤッと微笑む。
「エドモンドがいるんだ。お前はエドモンドと離れずにいたらいい」
「しかし……」
エドモンドがライオネルを落ち着かせるように横からやさしく抱きしめる。
「レオ、俺が傍にいるから、な」
「うん」
ライオネルとエドモンドがしばし見つめあう。
場を切り替えようとキースが拍手するように一度パンッと両手を打つ。
「お~い。二人の世界じゃあないんだ」
「キース兄、ゴメン」
「キース様、申し訳ありません」
キースはライオネルとエドモンドから同時に謝られるのだった。
「謝られたら尚更、俺がかわいそうな子みたいじゃん。二人っきりになるまで我慢しろ!!」
「「はい」」
二人は慌てて離れるのだった。
キースは二人を見返す。
「じゃあ、邪魔者は退散する。一度王都の義父上に報告に戻る。その後、こちらの守りを手伝いに来るからそれまで頼んだ。見送りは結構。じゃあまた」
二人の返事も聞かず、忙しそうにキースは部屋を出て行った。
部屋に残されたライオネルとエドモンドは見つめあう。ライオネルは心配そうな顔をみせるのだった。
「レオ、大丈夫だ。俺が傍にいる」
ライオネルを安心させるかのように力強く話すエドモンド。
そして、抱きしめ合い、どちらからともなく口づけあったのだった。




