追憶
1008年 ダーマンの月。
ライディンの街へと突如現れた悪魔大公『ジルデミオン』。
立ち向かったワオリたち。
その戦いの中でワオリは己の中にある「キュウビ」から助力を受けて
真の姿に目覚めた結果、4大公を討ち果たしたのだった。
「まずはご挨拶を。
この語りをお読み下さって下さる皆様方、はじめまして。
私の名前は『マドカ』。
かつてはこの地で獣人族を束ねていた『キュウビ』なる種族の女にございました。
そして今は肉体を亡くし、精神体となってこの地の『神樹』に宿りし者でございます。
しばし時間を頂き、ここまでの出来事を語らせて頂きとうございます。
この地『ナハトイデアール大陸』は、『惑星エアルス』の南半球に位置する大きな陸地です。
その南西部に私の生まれ育った地区がございました。
この大陸の東側を巨大な『ヒト』の皇国が支配し、西側を様々な種族たちが住んでおりました。
私が居たのは西側で、当時は獣人たちの集落でした。
獣人は誇り高く強い者たちを敬う性質がありますが、仲間を思う心はたとえ弱くとも大事にします。
その一方でヒトは自分たちを秀でた者と奢り、自分たちとは違う種族を時には敬い、時には妬み、挙句には自らより劣った者と見下します。
故に我らはヒトの横暴に対して団結し、大陸西側の種族を集めて『リュナエクラム』という集落を築きました。そして『ヒト』と長きにわたって戦ってきたのです。
個々の力であればヒトに後れは取りません。されどヒトは狡猾で器用な種族です。
様々な策や道具などで身体的な差を埋め、中には我々に匹敵するほどの力を持つヒトも現れました。
そして次第に戦いは膠着状態となっていきました。
やがて双方とも人手を失うばかりとなり、ヒトは我らとの境界に巨大な石の壁を築きました。
それによって互いに不可侵となり、しばらくは争いが沈静化いたしました。
戦争によって疲弊した集落の回復に努める中で、私は子を宿しました。
普通であれば獣人の男女によって子を宿すわけですが、私は特殊な種族である故、子を宿す場合は己の力を分けて産み出さねばなりません。
当時は集落を治める長をしていた身でした。
それ故、周囲の者たちからは反対の声が上がりましたが、私は長き戦いに疲れ果てていたのでしょう。
反対を押し切り、私は子を授かりました。
当然、私の力は子に分け与え弱まりましたが、愛くるしい我が子を育てれば何の悔いもありません。
生れ出た赤子を抱き、その温もりを感じた瞬間に私は生まれて初めて涙を流したほどです。
それから暫くは穏やかに暮らしました。
そんな安らいだ日々の間にも世界では様々な動きがあり、このナハトイデアール大陸も不穏な影は広がっていきました。
『デュリュヴ信者』たちが活発化したのです。
かつてこの世界で一柱の悪魔が現れました。
世界共通の年号「光天歴」666年、ハーヴェンクローというその悪魔が世界中を絶望に陥らせた事で、世界では悪魔に対して最大の注意を払っていました。
しかし中には悪魔に魅入ってしまった者もいます。
そんな悪魔に魅入ってしまった悪魔崇拝者を「デュリュヴ」と呼び、今では悪魔自体をそう呼んでいます。
そのデュリュヴ信者であるゴブリンやリザードマンたちが攻め入るようになり、再び戦いの日が訪れました。
そしてある日、よりによってヒトまでもが同時に攻め入ってきたのです。
デュリュヴであるゴブリンたち『亜人種』に対し我々はヒトに一時的休戦を求めました。
ですが事もあろうにヒトは亜人と共に我らの集落に攻め入ったのです。
私たちは命をかけて戦う決意をしました。
北からヒト、南から亜人たちが攻め入る中、幼い子供たちを逃がすことにしました。
西の森にはエルフたちが住んでおり、無垢なる子どもたちであれば助けて貰えると願っての行動でした。
我が子と最後の別れも告げぬまま戦場に赴いた私でしたが、一族を率いる者として戦いに向かいました。
厳しい戦いでした。
信頼した仲間達が次々に倒れ、最後は此処で命を落とす事も覚悟したほどに劣勢を極めました。
ですが、神は我々を見捨てませんでした。
エルフの隠れ集落からこちらに向かっていた一団があり、その中に強大な力を持った者がいたのです。
竜の力を宿したまだ幼いその『ドラゴニクス』という種族の子『リオン』は、瞬く間に亜人を滅し、ヒトの軍を退け、私たちを救って下さいました。
しかも、子どもたちも危うかったところを助けて下さったらしく、只々感謝するしかありません。
また、彼の姉であるヒトの『シーニャ』も、瀕死の仲間たちを救ってくれました。
ここで初めて、ヒトにも様々な方がいるのだと感じ入りました。
なんとか命を取り留めた我らの獣人族でしたが、多くの被害を受けました。
多くの仲間を亡くし、暮らすにも厳しい状況となりました。
そこでリオンたちの仲間、ダークエルフの『エフェメル』から提案を持ちかけられました。
それまで睨み合っていた南にあるヒトの町で暮らさないか?という内容でした。
我らを労働させるために隷属させていた『ライディン』という名の町。
当然信用出来るはずもありません。
ですが我らを命を懸けて救ってくれたリオンたちを信頼し、一先ず話し合いの席へと向かいました。
生き残った者たち2000名で向かったため、ライディンは武装した集団が待ち構えていました。
ですが直ぐにやって来たライディンを治める『エルディヴァン』によって争う事はなく、皆迎え入れて貰いました。
そしてエルディヴァンの館に招待されて話し合うわけですが、そこで私は驚かされました。
リュナエクラムでかつて過ごしていた同胞たちがそこで居たのです。
皆、攫われてしまった者たちでしたが、その表情はイキイキとしており、苦汁を飲まされている様子はありません。
その幸せそうな様子に私はこのヒトの町を信じることにしました。
これによって私たち獣人族はヒトと共存の道を選んだのです。
ヒトと獣人族のみならず、様々な種族が共に手をとって暮らせる町として、ライディンは大きくなっていきました。
近隣の集落とも交流が生まれ、明るく素晴らしい街となるはずでした。
だけど、我々の期待した未来は訪れませんでした。
光天暦2000年を迎える前に、世界は滅びへと辿り始めたのです。
世界の至る所にある封印の祠が破られ、ハーヴェンクローよりも強大な悪魔が世界に顕現してしまったのでした。
悪魔の中でも上位である4大公と絶大なる存在『悪魔王デューク』。
世界の有力者たちが結束して立ち向かいました。
ですが悪魔たちの力を前に一矢報いることさえ出来ませんでした。
そして皆の希望である英雄リオンも、悪魔王の前に屈しました。
更には世界最強の存在であった『レッドドラゴン』も倒されてしまったのです。
それを機に悪魔たちは世界中に侵攻しました。
最早、我らに抵抗する力はありませんでした。
ライディンの街も悪魔が攻め入って来ました。
私は我が子を再び逃し、悪魔たちと戦いましたが敵わず、囚われてしまいました。
キュウビなる特殊な存在ゆえでしょう。
この身の妖力を吸い上げる檻に入れられて、ただただ痛みだけを強いられる日々を負わされました。
幾度も死を願っても敵わぬ結界の中で、来る日も来る日も、只々娘の無事だけを願い続けました。
それから何年か経った時、私はふと耳にした声に顔を上げました。
なんとそこに我が子の姿があるではないですか。
更には信頼し子を預けた『ダンガ』の姿もありました。
仲間を伴って私を救いに来てくれたのです。
大きく逞しくなった我が子の姿に涙が溢れました。
そんな我が子と私をよりによって私を操って戦わせる悪魔。
命を繋ぐ水晶から解き放たれ、悪魔から生きるための魔力を受けた私。
思うように体が動かせない中、必死に私を応援する娘の声。
そのひたすら純粋な娘の想いに私は呪縛から逃れ、この手で悪魔を断つ事が出来ました。
ですが、一時的に水晶から逃れた身は最早維持する事が出来ない状態でした。
更には悪魔が残った力で我が子を殺めようと動きます。
ならば私は最後の力で我が子を守り、この手で悪魔を討つ事が出来ました。
もう救われないこの身で最後に我が子を抱けた。
ちゃんと最後の別れを告げられた。
そして大事な我が子を救う事が出来た。
私は幸せな最後を迎えられたのでした。
だけど、その状況を納得できなかった娘は泣きじゃくり、挙句には我が骸と共に死のうとしたのです。
頼るべきダンガも、我が子たちを逃すべく悪魔たちの多くを屠り死んで逝きました。
霊体となった事で、娘が多くの仲間とがんばってきた事を知る事が出来ました。
だからこそ、ここで死のうなどと考える我が子に何とか止まらせたい悲しみと憤りでいっぱいになりました。
そう思った時、頼れる存在がそこに現れてくれました。
彼女の名は『ウミミン』。
かつてリュナエクラムで居た子。
孤児であったのを皆で育て、聡明で不思議な存在だった。
面倒見が良く、子供たちが尊敬し慕っていた。
やがてある時期に旅に出ると言って出ていったが、その身に宿る魔力は私にも計り知れない程であった。
そんな彼女が私の思いを汲み、そして娘と夢の中で話をさせてくれたのでした。
再び我が子とゆったりと話せる時間に、心から感謝した事です。
募る思いを娘に告げて、自らのキュウビの力を娘に与え、私は思い残す事なく死を迎える事が出来ました。
心配といえば心配な我が子ですが、ウミミンが居てくれるから安心できます。
そしてウミミンによって私は成仏し、見守りたいという思いから神樹となって町に居るのです。
それから幾度も悪魔たちがこの新しいライディンに攻め込んで来ました。
かなり厳しい戦いだったでしょうが娘たちは戦い抜き、見事このナハトイデアール大陸から悪魔を退けたのでした。
我が子はこの戦いを経て、私の中に居た『キュウビ』の力を得ました。
実を申せば、あの力を私は力でねじ伏せて己の力としていました。
されど自我を持つあの力は強大で、その力をずっと解き放つ事は私にも出来ません。
髪型金色に輝くときは力を解放した時であり、自前の黒髪の時は力を抑え込んでいました。
そうしなければ仲間達をも手にかけそうで恐ろしかったのです。
生まれ持った力であありましたが、私はあの力を使いこなせてはいませんでした。
だけど我が娘は、あの力を使い熟せています。
否、あの子から言わせれば仲良くしていると言いそうですね。
あの力は言葉を持たなかったのに、我が子は己の中で会話し、そして名付けました。
そんな事を誰が思いつくでしょう。
ウミミンでさえ、その力を抑え込む事しか考えなかったのですから。
そして力を合わせて、私の自慢の太刀『黒天夜叉丸』を使い熟せています。
あの太刀は私が産まれた時に持っていた一振りで、私の体の一部とも言えます。
あの太刀も、凄まじい力を秘めていますが、きっとあの子たちなら使いこなす事でしょう。
いよいよ悪魔たちも本気で襲ってくることと思われます。
だけど仲間達と力を合わせて、どうか自分の望む未来を掴み取ってね。
頑張るのですよ、我が愛しき『ワオリ』。
ご無沙汰しておりました。
まずは随分と間を空けてしまったことをお詫び申し上げます。
そして、改めてこのお話を読んで下さったことに感謝いたします。
あれから仕事がかなり忙しくなり、今もなお休みを取るのが難しい状況になっております。
またこの内容を納めていた記憶媒体が破損してしまい、続きを書くのに一から確認しなければならなかった事も原因です。
何にせよ、随分とお待たせしてしまったことを心からお詫び申し上げます。
さて、今回はマドカ視点で以前の話を追ってみました。
自分でも記憶媒体に書き込んでいたデータを思い出しつつ書きました。
そしてようやく終着地点を見据えられた事から、再び分を書き始めております。
まずは今回と次回は本編と少し違った形でお送りする予定で、
それからいよいよ最後の将へと向かって書いていきます。
何とか月1のペースでお送りできるよう頑張りますので、
どうかお付き合いくださいますようお願い申し上げます。
それでは今回はここまでに致します。
次回もどうぞよろしくお願いします。




