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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
90/93

切り裂かれた攻殻

1008年 ダーマンの月。

ナハトイデアール大陸を預かる悪魔大公の一柱『ジルデミオン』。

それが持つ重力の結界を前に苦戦を強いられるゼロ達。

闘いはまだ始まったばかりである。

行く手を阻む重力攻撃魔法にゼロは躱しつつも手を考えていた。

「何だ、先ほどまでの威勢はどこへ行ったのだ?」

 ジルデミオンからは退屈そうな煽り文句が浴びせられる。

 だがそんな言葉にゼロが乗ることはない。

「貴様の方こそその武具は見せかけなのか?」

「っ⁉・・・クククッ、ぬかしおるコヤツ。」

 逆に返されたジルデミオンの方が顔を厳めしくさせた。そして右側で持つ薙刀を振り回す。

「貴様は近づけぬとも、我が方は間合である。望みとあらば見せてやろう。」

 そう言って薙刀をまっすぐに振り下ろす。重力魔法が襲う距離より向こうでいたゼロであるが、ここに来て回避行動に移った。

 振り下ろされる速さもさる事ながら、その威力は重く凄まじい。大きく躱したゼロの居た場所が、薙刀の刃によって大きく抉れた。

 その一撃にユズナたちがヒヤリとするが、ゼロはすぐに距離を詰めようと薙刀に沿って前に出る。

 だがそこでもまた重力魔法が襲って来たため前に出られず、引いた先で薙刀が横薙ぎに繰り出されてくる。

 すばやく跳躍して薙刀を躱すゼロであるが、この状態をどう突破しようかと考えていた。


「重力魔法に当たっても、ゼロおにぃちゃまなら大丈夫じゃないですか?」

 その戦いを見つめるワオリがふと問いを漏らす。

 言われてみれば、魔法の効かないゼロであれば、重力魔法を受けてもダメージはなさそうだとユズナも思う。

 だけどそれをウミミンが説明して正す。

「確かにゼロさんならダメージはないと思うよ。あの攻殻は如何なる魔法も効かないはずだからね。

 だけど重力魔法のダメージは無くても、重力という重さが加えられることでスピードが落ちちゃうんだよ。それによって動きが阻害されて、相手の攻撃を受けちゃうからね。

 魔法としては効かなくても、それによって事象の生じた状況に関しては影響を受けちゃうのは覚えておいたほうが良いよ。」

「なるほど!」

 肯いてみせるユズナと、そばで聞いていたアルツェンは納得したが、ワオリは一人わかっていないと言わんばかりに首を左右に傾げる。

 その様子にウミミンは軽く溜息を吐くと説明を続ける。

「要するに、ゼロさんは重力魔法のダメージを受けないけど、その魔法が使われたことで発生する空間の重さは影響を受けちゃうって事なんだよ。

 空間の重さって言うのは、その場所だけ急に何か重いものを持たされた様な感じで体が重くなるってこと。」

 それを聞いてピンときたワオリは勢いよく振り向く。

「つまり、魔法があった場所は巨人のみんなをおんぶしている重さになるですね!」

「…うん、まぁそんな感じで考えて貰ったらいいよ…。」

 あまり難しいことを言ってもワオリに理解が難しいと悟ったウミミンは、本人の思う辺りが適当だと思い、それ以上の説明を辞めた。

 すると傍で聞いていたユズナがそっと呟く。

「魔法のかかった場所に重さが残っている…」

 微かに聞こえるほどの声だが、何かに気付こうとしている様子にウミミンが目を向け、そっと微笑む。

 実のところウミミンはこの現状の打開策を思いついている。これまでの経験などから似た事象を思い出し、更に今ある情報を細かく精査していく事で最も効果的な方法を割り出しているのだ。

 もちろんそれが上手くいくとは限らずとも、そこから更に手を加えて効果を出すつもりだ。

 ヒトである以上、100%『確実』な手段などあるわけがない。絶対という考えは可能性を塞ぎ、より良い方法への道を閉ざしてしまう。

 だからウミミンは現状において、ユズナを学ばせるために口を閉ざしている。当然ゼロが危ういならば自ら率先して動くつもりだが、危険だと思う状態ではないために教え子に経験を積ませているのだ。

 そう考えている間にユズナは決意した表情になってウミミンを見る。

「ウミミちゃん、確かめたいことがあるんだけど。」

 そう問いかけるユズナにウミミンは笑みを浮かべて頷く。彼女が待っていた弟子の表情だったからだ。


「ゼロっ!」

 呼びかけられたことで合間を見て視線を向けると、ユズナが前に出て竪琴を構えていた。その竪琴は音を奏でる形でなく、弓としての形態である。

 矢の不要な弦を弾くとその弾いた音が扇状に広がり、ジルデミオンまで届く。

 ただ、音だけなので当たったジルデミオンに何ら変化はないのだが、ゼロはそれを正しく読み取った。

「何だ?特に痛くもかゆくもないが何か意味があるのか?」

 悪魔大公がからかう様に言うと、ゼロがジルデミオン目掛けて駆け出した。

 これまでは重力魔法の結界によって攻め込まなかったが、ここにきてまっすぐに詰め寄ってくる。

 当然それを黙って見るつもりのないジルデミオンは、右腕の長刀を払う様に横切らせる。

 それを難なく跳ねて躱すと、真上から重力魔法が襲い掛かった。

 魔法によるダメージは攻殻によって受けないゼロに、現象として重さが襲い掛かる。

 そこへユズナの弾いた弦の音が届く。波動となって広がる音によって、

書き込まれていた『加重』が消える。

「ヌっ⁉」

 驚きの声をあげるジルデミオン。だがすぐにその音が魔法効果を打ち消す効果があることを見抜く。


 ユズナの竪琴に秘められた弦の一つ。それが「魔法効果の打ち消し」である。火や氷、風を撃つそれらと違い、攻撃力に関しては皆無に等しい。

 だけど相手の魔法攻撃をかき消す力を持っているならば、魔法を使う者にとってこれほど恐ろしい力はないだろう。


 重力のかからない状態により、ゼロは進んでいく。その距離約5m。まだ、自らの攻撃は当たらず、逆にジルデミオンは様々な攻撃を当てることの出来る『間合』だ。

 未だ腕を組む両腕であるが、左側の大斧が頭上より叩き込まれる。その重圧感から凄まじい破壊力を感じるが、薙刀に比べて直線で来る動きは躱しやすい。

僅かに左に躱したすぐ真横を大斧の刃が振り下ろされた。凄まじい威力は地面を震わせ、土や石をまき散らす。

だけどゼロの速度はそれらを受けるよりも前へと進む。

残り2m。

拳を作り悪魔本体に攻撃を当てる領域へ踏み込む。だがそれは同時に相手の最終防衛ラインへの接近を意味する。

 ジルデミオンが組んでいた腕を解くと、それぞれの脇に備えられた太刀を握る。そしてゼロの足が一歩進み寄ったのを見て、両手の太刀を抜き放った。

 左右の刃が交差しながらゼロの首へと襲い掛かる。その速さはエスペティッカよりも速く、僅かに踏み出された巨人の左足は、ゼロとの距離を瞬く間に縮める。


「流石だ。」

 そうして迫る二刃にゼロは右腕を突き出す。その腕の上腕部から黒い片刃『クレッセントサイス』が飛び出し、迫る刃を真っ向から受け止めた。

 激突音と共に両者の動きは止まり、互いに鍔迫り合いの形となる。

「ほぅ、我が太刀を受け止めるとは。」

 巨大な目がゼロを睨みつける。

「そういう割には嬉しそうだな。」

 ゼロが突き出したままの右腕そのままに受け応える。するとジルデミオンは満足げに言う。

「当然だ。我が太刀を抜かせる者はこれまでにおいて僅かしかおらぬ。しかもそれを防いだのは更に少ない。

 ならばこれから存分に死合えると期待するではないか。」

 そう言い終えると同時にゼロの真上から大斧が襲い掛かる。頭上からの攻撃に直ちに避ける必要があるが、ゼロは左手のクレッセントサイスを出すと、交差するジルデミオンの太刀を下から突き上げる。

 その攻撃にジルデミオンはサッと下がり大斧はそのまま振り下ろしながら右腕の薙刀を袈裟に斬りつける。

 ゼロからすれば頭上と左上方からの攻撃に対して避ける判断をするが、彼の避けるに下がる判断はない。

 離れた間合いをさらに詰める様に足を前へと踏み込ませ、尚も相手の側面を取ろうとジルデミオンの左側へ回り込む。

 大斧が地面をえぐった瞬間、ゼロの右拳がジルデミオンの左足を打つ。

 何層もの魔力結界がガラス片のように砕かれ、本体であるジルデミオンの足を穿った。

 しかしすぐさま魔力によって再生されると、ジルデミオンは左太刀を薙いでゼロを引かせる。

 ゼロにしても攻め方を変えようと距離をとった。


「久方ぶりの痛みだ…。良い、実に良いな貴様。」

 ジルデミオンの喜悦溢れるつぶやき。それに対してゼロは溜息交じりに言う。

「せっかくのダメージを喜ばれると、こちらとしては困るんだがな。」

「フッフッフ。まぁそう言うな。こちらとしては一撃を受けるなど数百年以来なのだ。

 それに、それだけ貴様が…否、貴様たちが闘い甲斐のある証拠になる。

 さぁ、思う存分に死合おうではないか。」

 更に溢れ出す魔力を帯びた闘気に、ユズナたちの前に立つアルツェンが苦しげな声を漏らす。

 守られているとはいえ、ユズナやウミミンも先ほどまでよりも強い威圧を受けて歯を食いしばる。

「まだ本気じゃなかったんだ…。来るよっ!」

 ウミミンが叫ぶと、ジルデミオンが動いた。

 自分たちよりも倍ほどもある巨体が一瞬のうちに間合いを詰め、薙刀が迫って来る。

 即座に後方へ跳ねて避ける。しかし薙刀は振り下ろすや否や向きを変えてユズナへと襲い掛かる。

「ユズナっ!」

 ゼロが慌てて叫ぶが、ジルデミオン自身がユズナたちとの間に割って入っており、救いに行けそうもない。

「ユズナちゃん!」

 ウミミンが対物シールドを張り、アルツェンが盾を構えてユズナを守ろうとする。

「あの結界を打ち消す『力』、後々厄介になると判断できる故に先に潰させて貰おう。」

ジルデミオン必殺の一撃として繰り出された薙刀に、アルツェンもろともユズナが斬られる事が予想できた。

アルツェンは悔し気に奥歯を噛みしめ、ユズナは身を固めて目を瞑る。

何とか救わなければとウミミンが魔法を詠唱し始めたその時、

「そーはさせないですよー、ちょんわぁー!」

 短刀を両手で持ったワオリが回転しながら薙刀を迎え撃った。

 そして次の瞬間、短刀によって薙刀の刃が斬られ、慣性力を無くした刃は地面へと落ちた。

 地面へと刃が落ちるのと同時に、ワオリもクルクル回った後で両手を空へ掲げて着地のポーズをする。

 そしてすぐにジルデミオンに向かって構えをとった。

「「「ワオちゃんっ!」」」

 驚きと喜び、そして称賛を交えた声でイヌ耳の少女を称える。

「あたちがいる以上、ユズナおねぇちゃまたちに攻撃はさせないですよ!」

 エスペティッカの短刀と、これまでの鍛錬によって成長したワオリ。

 さすがに自分の獲物を斬られるとは思ってもいなかったジルデミオンに、大きな動揺を与えた。

 その隙をゼロが見落とすはずもない。ピンチを凌げばチャンスあり。

 僅かに動きの鈍った瞬間、振り下ろされたばかりの太刀を持つ左手に蹴りを放つ。

 その打撃にすぐさま左手を引かせたジルデミオンだが、素早いゼロを更に懐へと招き入れてしまう。

 蹴った足を踏み込ませ、空いた左わき腹へ拳を突き入れる。

 ここが勝機と右、左と両拳を乱打させるゼロ。

「双烈弾!」

 左右の拳が次々と襲い掛かる。狙うは一点。集中的に両拳が突き込まれ、結界はおろかその鎧さえも破壊して本体へとダメージを与える。

 当然回復されていくが、怒涛のように押し寄せる両拳に回復が追い付かず、ジルデミオンへ深刻なダメージを与える。

 だが四大公の中で最も猛々しいジルデミオンがそれで倒れるはずもない。

「い、いい加減にせんかぁー!」

 ジルデミオンが挙げた左腕の肘をゼロに打ち込む。それをまともに受けて攻撃を止めたゼロを今度は捕まえようとしたが、流石にここまでと

引き下がっていった。

 間合いを取った状態で睨み合う両者。

 かなりのダメージに回復を急がせるジルデミオンに対し、ここで決めようとして不意の攻撃を受けたゼロも思った以上にダメージを受けた。

 互いに戦闘態勢を崩さないまま向かい合う。そこでゼロはワオリを呼ぶ。

「ワオリ、さっきはよくやった。」

「あい!任せるですよ。」

「ワオちゃんありがとう。」

 体勢を崩さぬまま言葉を送り合う。今はまだ戦闘中であり、相手は強力な悪魔なのだから隙を作るわけにはいかない。

 だけどジルデミオンの薙刀に刃はなく、左わき腹に今も魔力を纏っている事から酷いダメージが残っていることは伺える。

 状況はこちらに『流れ』があると言ってもいいだろう。ならばここで一気に畳みかけるのがセオリーかもしれないが、相手は悪魔の中でも支配する側にいる存在だ。まだ底知れぬ何かを持っているかもしれないと用心する。

「ゼロ、だいじょ…」

「ユズナちゃん、気を抜いたらダメ!」

 ゼロを労わるユズナに対し、ウミミンがその言葉をかき消すように言う。

 ハッとして視線だけを横に向けたユズナに、ウミミンは前を見据えたままいう。

「今、この状況が一番危険なんだよ。さっきはワオちゃんのおかげで防げたけど、あのスピードで不意を突かれたら命はないよ!」

 そう聞かされて今一度気持ちを集中させるユズナ。既に狙われていることが分かっているのだ。そんな自分が気を抜いたら、他の誰かに迷惑をかけてしまうかもしれない。

 それこそ自分が一番したくない事だけに悪魔の動向を見張る。


 それから数度呼吸を繰り返した時だ。

 突然目の前にいた巨人が姿を消す。それまで目にしていた自分より大きい存在が、突如として姿が消えたことにキョロキョロと左右を見回す。

「え?どこに…」

 見渡すどこにも姿が見えない。しかしその魔力や存在感はこの場を覆っている。

不安を感じた時、ユズナの首筋にぞくりとする危機感が生じる。

 そして冷たい何かが触れた瞬間、慌てた顔をしたウミミンがユズナに手を差し伸べる。

 アルツェンも驚いた顔で振り返っていく。その動きがやたら遅い。

 そしてユズナの身体が何かに引っ張られ抱き込まれる。黒く硬いものに顔が触れる。それがゼロであることが分かった。

 その瞬間、時間の流れが元に戻る。


「ザシュッ!」


 堅い何かが切り裂かれた音。

 同時に自分の顔に赤い液体がかかる。

「え?」

 それが血であることがすぐに理解できた。

 熱い血が頬にかかり、その出所を視線で追う。

 そして知った時、私は心の底から絶叫した。



「ゼロォーーーーーーーーーーーーー!」


 ユズナを庇う様に抱くゼロが、その左腕を断たれていた。

 黒い攻殻が肘の少し先の部分から両断され、夥しい流血が噴き出している。

 そして目の前にはジルデミオンが立っており、左右の腕にある太刀が交差して切り裂いたことが分かった。

 更にその刃が追撃を行おうと真上に掲げられる。

「なにしてるですかぁー!」

 ワオリが短刀で斬りつけていくが、それを真上に掲げた太刀で防がれる。

「みぃちゃんたち、お願い!」

 そこでウミミンが三匹の猫たちを召喚させ、ワオリに加勢させる。

 アルツェンもそちらに加わり、出来る限りゼロから距離をとらせようと牽制する。


「ゼロ、ゼロォォォォ。」

 気が動転したユズナが抱かれた状態からその名を連呼する。

 さすがに出血で膝つくゼロは、ユズナに目を向ける。

「心配ない。それよりしっかりしろ!」

「でもっ」

「お前が無事だった。そして今は戦闘継続中だ。状況を知覚しろっ。」

 やや怒鳴るように言われ黙り込むユズナ。その瞳に涙が溢れる。

「……フゥ…、何とか止血した。だから心配はない。」

 闘気をコントロールして止血したゼロは、ユズナを離しワオリたちを見る。

 何とかワオリが動いて注意を引き、猫たちやアルツェンが上手くけん制することでその場は持っている。だがそれが長くは続かないことは分かる。

 するとウミミンが斬られた左腕をもって近寄ってきた。

「ゼロさん、少しウミミに時間ちょうだい。」

 その真剣な顔に任せる気になったゼロは屈んで斬られた腕を出す。

 そこにウミミンが斬られた部分を押し付けると呪文を唱え始めた。

 これまで聞いたこともない言葉がつづられ、大量の魔力がそこに集まると光が生じた。

「ユズナちゃん、地脈お願い!」

 ウミミンが叫ぶがユズナは慌てふためくばかり。状況に思考が届いていないのだ。


 自分のせいでゼロに傷を負わせてしまったこと。

 彼が心配で他のことが何も判断できなくなっていること。


 常にそばにいたゼロが負傷を追う事などこれまでなかった。

 だからこそその状況に信じられない私情が働き、幼い頃にゼロを看病していた記憶が作用してしまう。

 そんな状態では何をすればよいのか分からなくなり、ユズナは身動きできなくなっていた。

「ユズナっ…。」

 ゼロが声を掛けようとしたその時だった。

「ユズナちゃん!」「パンッ!!」

 ウミミンが右手を伸ばしてユズナの頬を叩いた。乾いた音の後、頬を押さえるユズナの目がウミミンに向けられる。

「しっかりしなさいっ!どんな状況かもわからないなら、せめて言われることを実行しなさい。

 地脈をすぐにこっちにつなげて。あなたのできる事を熟しなさい。」


 叩かれたことで意識がはっきりする。

「私がこの場にいてできること…。」

 そう呟くと即座に竪琴を奏でて地脈をウミミンへと繋げる。

 すると光は一層強く眩くなり、その光がゼロを呑み込む。

 一方でウミミンの額に汗がびっしりと浮かび、苦悶の表情を浮かべながら目を瞑っている。


 時空魔法でゼロの腕が斬られる前に遡らせているのだが、それはウミミンに腕を斬られる苦痛を与える『痛みの代行(アーチンペイン)』を負わせる。

 大量の魔力とアーチンペインによってその事象は引き戻されるのだ。

 やがて光は収まって行くと、ゼロの腕が元に戻っていた。

 さすがのゼロも難なく動かせる左腕に驚きを隠せないが、今はそれどころではない。

「ウミミン、感謝する。」

 即座に動き出すと、ワオリたちへと加勢に跳んだ。


「ウミミちゃん、ありがとう…。」

 勢いよく飛び出したゼロを見送り、ユズナがしょんぼりした様子で伝える。

 するとウミミンは未だに汗いっぱいの顔に笑みを浮かべる。

「どういたしまして。それより叩いちゃってごめんね。」

「ううん、私が狼狽えちゃってたのが悪いし、ちゃんとすべき道を示してくれたから、それにも感謝しているの。」

 どうやら自分のせいでという意識が強いのだと察するウミミンは、あえてもう一度きつい口調で言う。

「ユズナちゃん、誰だって経験していなかったらそうなっちゃうものだよ。

 だからその場でできることを懸命にすることだけしかないの。

 そして反省はこの戦いの後でしよう。今は兎に角集中して!」

「…はいっ!」

 ようやく目に力が入ったユズナ。その髪はゼロの左腕と共に斬られ短くなったが、今の彼女はそれよりも大事なことに集中するのだった。


 ゼロが戦線から離れ、ワオリは自分がやらなくてはという決意をもって攻める。

 しかし、いつもの白刀ならばいざ知らず、短刀ではイマイチ上手く戦えないもどかしさを感じていた。

 だけどそれも自分が白刀を修理してもらう事を忘れていたため、自分を責める以外にどうも出来ない。だが…

(くちょ~、あの槍髑髏が折らなかったら今も白刀ちゃんで戦えたですよ!

 そーすれば怒られたりしなかったですよ!

 これもみんなあの槍髑髏が悪いですよ!!)

 まだ幼いワオリにすれば、白刀を折ったブラングチュール(ちなみに名乗ったが名前を憶えて貰えなかった)の責任に擦り付けている。

 そんなことを頭の片隅で考えながらも、自分より数倍も大きな巨人を相手に立ちまわっている。

「ホントにもう腕6本もあるのはめんどくちゃいですね。タコさんやイカさんですかまったく。」

 突拍子も無い文句をブツブツ垂れながらも、全く相手を寄せ付けずに立ち回るワオリ。

 するとみぃちゃんたちが戦いに加わり、随分と戦いやすくなった。

「加勢ありがとですよ~。」

「がんばるニャ!」

 ウミミンのペットのような猫たちは強く、三体がそれぞれの役割をもって戦っている。

(ホントすごく強いですよ)

 そこへ更にアルツェンが矢で注意をそらすように牽制してくれる。

 より戦いやすくなったワオリであるが、どうしても決定打を欠いているため戦い切れない。

「う~、刀が欲しいですよー!」

 そんなことを言い出したワオリに、囁きかける声が聞こえた。

「・・リ・・・・・・オリ・・・」

「ん?誰ですか?」

 戦闘中にそんな近い距離でいる存在なんていない。

 不思議がるワオリに、今度はきちんとした声が届く。

「ワオリッ」

 その声に覚えはないが、誰が言っているのかははっきりと理解できた。

 その声の主はワオリ自身の中にいる。

 母・マドカより授かった『キュウビ』の力そのものだ。

(キュウビちゃんですか!?)

「そう、やっとコトバおぼえた。」

(おぉ、すごいえらいですよキュウビちゃん!)

「それよりワオリ、カタナある。」

(え?)

「カタナあるよ。」

(どこにですか?)

 心の中で語り合うワオリは期待を持って尋ねる。

 するとキュウビは和いらしい笑みを浮かべながら右手を差し出した。

「ここ。マドカのつかっていたカタナ、ここにあるよ。」








お読み下さりありがとうございます。

暑さなどでばててまたも遅くなってしまい申し訳ありません。

何とか今月中に書き込むことができました。


さて今回、ユズナ自身の成長を促してみました。

これまで何でもこなしそうな彼女でしたが、これからの闘いにもう少しレベルアップさせなければと考えた内容です。

そしてゼロとウミミンに痛い思いをさせてしまいましたが、二人にとって大事なユズナが成長することで許してもらおうと思っております。


そしてもう一つはキュウビが喋るようになっちゃいました。

まだ難しい言葉は分りませんが、ワオリと会話できるようになったのはこれからのワオリの成長にかかってくるためと思ってください。

次回、その一端を覗かせてみようと思います。


では今回はここまでに致します。


梅雨も明けて一気に暑くなりましたね。

皆様、体調などには十分ご留意くださいませ。


次回もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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