仲違い
北の地で生きる者たちがいると知って奮起するナチュラルフロンティア。
そしてこれからどのようにしていくかを話し合う。
第6章
悪魔からの攻撃をしのいで10日が過ぎた。皆で懸命に片づけた事で城門の修理は終わり、余りなかった町の被害も問題ない。
しかし負傷した者たちの回復は未だ完全と言える状態ではなく、バンに至ってはようやく体を起こして歩けるといった具合だ。本人は大丈夫だというが、ウミミン曰く、
「魔法で無理に回復をさせるよりも、出来る限り自然治癒させる方が将来的には良いの。だから安静第一だよ。」
と、強制させるような深みある笑顔で言われて大人しくしている。
他の戦士たちは日々の鍛錬を行う傍らで治療しながら過ごしている。
そんな日常で主要メンバーたちは毎日集まり、これからの予定などを話し合う。当然その中には今回来てくれたエフェメルとパァムも含まれる。
「一先ず、皆の身体も回復してきたと思うよ。だけど、戦いに向かうにはまだ少し時間は必要だと思う。」
ウミミンの言葉にパラヤとレンの二人は暗い表情で頷く。先の戦いで悪魔と激しい戦いをしたのだから当然身体的な負担は大きく、日増しに回復しているが、全身の気怠い感じは拭えない。これは戦闘部隊にいるほとんどの者が同じ症状だった。
また十分な鍛錬も出来ず、要である防衛隊長が不在な今、万が一に戦いが起こっても大丈夫だろうかという不安がある。
そもそも彼らの身体的な負傷はほぼ完治に至っており、休息もそれなりにとれた状態である。それなのに体の調子が戻っていない現実に、自分が何か呪いや病にかかっているのではないかという不安が彼らの表情を曇らせている。
そんな彼らの不安をウミミンはお見通しだ。そして何が原因であるかも推測はしている。
原因はワオリと共に居るキュウビだ。あの時、キュウビが周囲の魔法力を奪う様に吸い上げたことが、彼らの体調不良を起こしている。
魔法力とは『マナ』と呼ばれるエネルギーの事であり、このマナは生命力と結びついており、生物であるならば少なからず持っている。
このマナは個人によって保有量が異なり、それによって魔法が使えるかどうかも違う。このようにマナは持ち主である自分が扱うものなのだ。
自分が魔法を扱えば当然減少し、それが危険域まで達すると体調不良などで自覚させて、生命の危機を感じさせる。故に死にかける程の魔力枯渇は稀である。
だが今回のキュウビはそうした魔法を使う者以外の者からもマナを奪ったのだ。戦士たちはマナを扱う術を知らないため、この気持ち悪い症状が続いているのだ。なのであの時、キュウビに大量のマナを奪われたユズナはすでに回復している。
ユズナも自らの状態から原因を察したが、ウミミンから告げることを止められている。
「もし、それを聞いたらワオちゃんはどう思うかな?」
キュウビによって皆の体調が良くないと知れば、彼女を取り込んだワオリ自身が気に病むことは目に見えている。それどころか、変な気遣いをして空回りの斜め上を行く大変な事態を引き起こされては堪ったものではない。ワオリの行動は予想不能なのだ。
放っておいたら自然と体が馴染むだろうし、これから先の戦いで同じことに陥ることも考えられることから、慣れるためにも自然治癒をさせているわけだ。
「まぁ、いい機会だよ。これから先、今まで以上の激しい戦いが予想されるんだ。今回の戦いを元にこちらの戦術も見直さなければならないさね。」
腕を組むレイラがウミミンの発言を支持する。
今回の戦いで被害が最小限で納められたことは奇跡に等しいと思っている。300にも満たない集団が、一人の死亡者も出さずに悪魔たちの攻撃を凌いだのだ。しかも単に凌いだだけでなく、相手を全て倒した。皆が死に物狂いで頑張った結果だが、次なる相手は4大公の一人ジルデミオン。その配下たちがあれほど強かったのだから、当然それらを纏めた相手が弱いはずなどない。
「前回の悪魔たちを倒したことで、悪魔側はすぐにこちらへ攻撃を仕掛けられないと思われます。出来るならばこの機にこちらから攻撃を仕掛けたいところですが、こちらの準備が整うまでは難しいですね。
相手は4大公の一角ジルデミオン。かなりの強敵と思われます。」
ダークエルフの部隊を指揮するアルツェンの発言に、皆が納得を示す。
「まぁ焦っても仕方ないですからぁ、準備が出来たら倒しに行きましょうね~。」
エフェメルがニコニコ笑みを浮かべながら言う。そんな彼女にユズナが不安を向ける。
「だけど出来るだけ急いであげなきゃ、北で助けを待ってる人たちがいるんでしょ?」
「…確かに出来る事ならこちらと合流するようにしたいですねぇ。だけど無理しても良いことはないのです。まずはこちらを終わらせて、それからでも十分間に合いますよ~。リオン君がいるのですからぁ。」
この間聞いた話で、リオンが北にいる生存者たちを守っていることは分かった。彼が生きている以上心配はないだろう。
何より彼がいると知ったことで、ここにいるメンバーたちも安心している。リオンの存在はとても大きいのだ。
そこからダークエルフたちを交えた戦闘部隊の再編成や、町の運営状況などについて報告や相談が行われて、細かな調整は後日という話に纏まった。一先ず今日の話し合いはここまでかな?と進行役をしていたウミミンが深く息を吐いた時、隣でピンっとまっすぐ腕が上がった。
これまで大人しく話を聞いていたワオリである。難しい話に一生懸命ついていこうとする彼女だが、まだまだ難しい内容だとは思う。
「どうしたのワオチャン。何か相談かな?」
ウミミンが笑みを浮かべて尋ねると、ワオリは不思議そうに言った。
「さっきのお話を聞いて分からなかったですけど、4たいこうってなんですか?」
「ええっ?」
ワオリの問いかけに皆が驚くしかなかった。
「ワオちゃん、本当に知らないの?」
「ん~、名前は聞いたような気はしますが、分からないですよ。」
ユズナの問いかけに首を傾けるワオリ。その表情は本当に知らない様子だ。
「ワオリ、あんた今まで相手の事も分からず戦ってきたのかい?」
今度はレイラが呆れたような感じで問う。
「相手は悪魔だってことは知ってるですよ。でも4たいこうって言葉は分かんないですよ。みんなよく言ってるですが、あたしは悪魔の事がよくわかってないですよ。教えてほしいですよ。」
みんなが話をしている内容がイマイチ分からないワオリ。このままではリーダーとしていけないと思い、思い切って尋ねたのだった。
「よく考えてみれば、ダンガ様がずっとここまで引っ張ってくれましたからね。そしてその後は十分お伝えせぬままでした。
申し訳ありません。これは私がきちんとお話しなければならない事でした。」
パラヤがその場で跪いて謝罪する。
「パラヤ君のせいじゃないですよ。あたしが知らないから教えてほしいだけですよ。」
「まぁ確かに、ここまであっという間に来ちまったからな。ワオリ様に説明とかも十分にできていなかった。これは傍にいた俺たちの責任だ。申し訳ありません、ワオリ様。」
レン自身も思う事があって謝罪する。二人を謝らせたくてした事ではないワオリが、非常に困った表情を浮かべる。
それを見かねてウミミンが「ほぅ」っと一息つくと、二人に席へ戻るよう言った。
「二人は席に戻って。そうじゃないとワオちゃんが困っちゃってるよ。」
指摘されて二人は今一度「申し訳ありませんでした。」と言って席に着く。それを確認してからウミミンが口を尖らせるワオリを見た。
「まぁ、ダンガさんから頼まれたから二人が責任を感じてるんだろうね。というか、ワオちゃんは今まで悪魔の情報をどこまで理解してたのかな?」
ウミミンの質問にワオリが尖らせていた口に指を添えて上を見上げる。考えている時のリアクションだ。
その隙にウミミンはパラヤたちに視線を向けて頷く。ワオリを拗ねさせてしまった事に二人は後悔していた。
だからさっきまでの会話をこれ以上続けるなと、気にする必要はないという意味の合図だ。二人は渡りに船で深く頷いて見せた。
そんな間に考えがまとまったワオリが口を開いた。
「あたしたちが倒す敵だと思ってるですよ。」
その答えにその場にいる皆が肯定した。
「そうだね。実際今闘っている相手は悪魔と、その従僕たる亜人たちだね。
それじゃ、ワオちゃんは倒すべき悪魔をどれくらい知っているか確認してみよっか。」
「わかったですよ!」
微笑むウミミンの誘いに、ワオリは元気よく返事した。
「この間、エフェメルさんが話してくれたけどおさらいするね。みんなが知るように、今からちょうど8年前にこの世界は悪魔に支配されました。それ以前にも悪魔が現れたようだけど、どれも下級で弱い悪魔だったから、特に問題はありませんでした。
だけどその1年前…今から9年前にパルドスが復活したことが大きな影響を及ぼしました。
すでにワオちゃんたちが倒したこのパルドスだけど、悪魔たちの中でも上位の存在で、4柱しかいない事から4大公とされていたらしいの。あ、柱とは神や悪魔を数える単位だからね。」
ウミミンの説明にワオリが頷く。
「という事は、大公という悪魔は他に3柱いるって事ですね!」
「うん、その通りだよ。
そして今、ウミミたちが戦っているのは4大公の1柱、ジルデミオンという悪魔なの。」
「なるほどですよ!」
ワオリが理解を示した。その後ろには先ほど会議にいたメンバー以外にも、話を聞こうとナッチョンやバオたちも集まっており、ウミミンのお話を聞きながら自分たちの知識をすり合わせようという事になっている。
「他には4大公で一番強いという『ヴェルフェゴトン』。それと唯一の女性型悪魔で『ミューリア』がいます。
そしてこのミューリアが付き従っているのが、悪魔たちを統べる『悪魔王 デュート』。その強さはこの間聞いた通りだね。」
先日パァムから聞いた話でリオンが敵わなかったことは十分に理解できているはずだ。
「それと、悪魔王の代わりに悪魔たちを指揮する権限を持った『元帥』という称号を持った悪魔がいて、その下に『大将軍』という地位を持った悪魔が3柱います。
この間攻めてきていた悪魔たちを束ねていたのが、その大将軍の1柱だったようだね。」
ウミミンがゼロに視線を向ける。それに頷くとゼロが語った。
「あぁ、『エスペティッカ』という黒い独特の鎧を着た悪魔だった。正直、大公であるパルドスよりも強かった。」
その言葉に皆が驚く。だけど、実際に見ていたわけでもなく、戦ったゼロの言葉だからその通りなんだろうと納得するしかない。
「強さが地位という訳でもないのか…。」
ぼそっと誰かが呟いた。その言葉に不安が混じっており、これからの戦いを不安視しているように思える。
だからこそ、ウミミンはそれを指摘する。
「多分、悪魔にも色々いるんだと思うよ。だけど、基本的に悪魔は魔力の強さで地位が決まるみたい。
だから大公の魔力はかなり高いんだろうけど、いくら魔力が高くても、その使い方が上手じゃなかったら強くはないと思うよ。」
その言葉にゼロが追従する。
「その通りだろう。パルドスは所持する膨大な魔力を抑えようともせず戦うのに対し、エスペティッカは微量の魔力の漏れさえなく、己の武器に魔力を集中させていた。どちらが戦うのに適しているかは言わずともわかるだろ?」
その言葉に皆が神妙な面持ちで頷いた。膨大な魔力を持っての攻撃は強力な破壊力を生み出す。しかし当然無駄に消費させてしまううえ、続ければ長くは保たない。
「それなら、あれだけの悪魔たちを従えていたジルデミオンという悪魔は、かなり強い悪魔なんだね…。」
前回の戦いにおいて初めて悪魔と戦う現場におり、あわや死んでしまったかもしれないバオ。その時の恐怖を思い出した不安がついつい口から出てしまう。
すぐにバオが自分の失態に気付いて口を押さえるが遅かった。
不安は伝染するものである。つぶやきを聞いて周囲が次第に不安を抱く。ただでさえ語られる悪魔の強さに脅威を感じているのだ。言葉を聞いて自分の心に抱いた不安が、大きくなっていく。
そんなつもりはなかったのにと後悔するバオ。何と言ったらいいか分からず涙目になる。
それを吹き飛ばすのはやはりこのヒトであった。
「なんでそんな暗い顔になるんだぁ!今までだって絶対無理だって思う戦いを生き抜いてきたじゃんか。
ここは「今度もやってやるぜ」って気合を見せるところだろー!」
ナッチョンが立ち上がり、目の前で右拳を握り締めて叫ぶ。
それによってハッとする周囲だが、それでも不安がる者はいる。
「だけど今回は死にかけたんだ。今度は本当に死んでしまうかもと考えたら…。」
ぼそっと漏れ出た言葉に、今回は本当に死にかけたナッチョンも態度そのままに言葉を詰まらせる。
ウミミンの時空魔法によって何とか死なずに済んだが、あの時あの場でいたメンバーは後でウミミンから「内緒にしてね」と強く言われている。
ディアが色々聞きたがっていたが当然それも却下された。
死んだけど生き返ったという事実に、皆が緊張感を無くしてしまう恐れと、いつでもウミミンが助けてくれるという驕りは避けておきたいという理由が理解できるためだが、今の状況に何と言えばいいか困ってしまう。
そんな様子にゼロが呆れた感じで嘆息する。
「戦う気が無いなら戦わずともいい。」
そう切り捨てるような言葉にさらに空気は重くなる。それを見かねてユズナが注意する。
「ちょっとゼロ、そんな良い方しなくても…。」
「無理に戦いに出させるつもりはないんだ。戦場で一瞬の迷いは死に繋がる。死ぬために出るような事はしてほしくはないだけだ。」
毅然と言い放つ言葉に、ユズナはゼロなりの思いやりを感じるが、それは彼らに対して良い効果があるとは思えない。
落ち込む戦士たちが悔しそうな表情をしている。そこには自分たちだって戦わない訳じゃないという思いが見える。だけど『死』という恐怖を感じてしまった以上、それを簡単に拭い去ることは出来ないだろう。
「俺たちだって、ゼロさんみたいな力があれば…。」
またも囁かれる言葉。ゼロの強力な戦闘力を羨んでいるのは分かる。だけどゼロはゼロで、ここまでそれこそ死を直面するほどの鍛錬を自らに課し、誰よりも努力してきた結果手に入れた力である。
だからこそ、それをそばで見てきたユズナはその言葉を看過できなかった。
「今言ったのは誰?」
普段穏便なユズナが眉を吊り上げ、厳しい言葉を発した。途端に落ち込んでいた周囲の空気が張り詰めた緊張感を纏う。
驚いた顔で皆がユズナを見た。
「ゼロだって好きで強くなったわけじゃない。本当だったら違う道だって望めたはずだよ。だけど世界を視て、そして自分が出来る事を精一杯やろうとしているの。
自分の命を削るような努力をして得た力を、軽く見るようなことは言わないで!」
美人であれば怒った顔に迫力は増す。しかも彼女が怒ると魔力を纏ってしまう。『威圧』するような瞳が声がした方向にむけられ、そこに居るメンバーが呼吸もしづらい状態に陥った。
「ダメ、ユズナちゃん!」
咄嗟にウミミンが止めるように叫び、ゼロがその瞳を覆うように彼女の顔を手の平で覆った。
「やめるんだユズナ。仲間を威圧しているぞ。」
ビクッと身を震わせるユズナ。そして肩の力を抜くと目を覆われたまま席に座らされた。
威圧の効果が消えて、安心したように深く呼吸するメンバーたち。だけど、その場の空気はこれまで共に戦ってきた仲間としては最悪の状況となっていた。
見えずとも、その状況を精霊の動きで感じ取るユズナは、咄嗟にしてしまった自分に反省する。
一方で自分たちの弱気な態度からこのような状況になったことで、視線を俯かせるしか出来ない戦闘部隊員たち。
ゼロはユズナを落ち着かせることに専念し、ウミミンもここでどのように言うべきか考える。
その場の空気に皆が言葉を詰まらせている。そんな様子にエフェメルが残念そうに発言した。
「あらあら~?せっかくここまでやってきているのに、仲間割れですか~?」
いつも以上に相手を侮辱しようとする物言い。それを耳にして戦士たちが驚きを見せた後で彼女を睨む。
「せっかくここまで来たというのに、期待外れですねぇ。パァムちゃん、北に戻りましょうか。」
「えっ?…あっ、えっと…。」
突然振られたパァムがエフェメルと周囲を見比べながらソワソワする。それを微笑みで見つめた後、エフェメルは席を立つ。
「ちょっと待つですよ。」
そこでワオリが呼び止めた。いつの間にか自分の目の前に肉や野菜を挟んだパンを置いており、黙々と食べていたせいか口の周りは食べかすや肉汁で汚れている。
「なんですか?ワオリちゃん。」
「あ、エフェメルさんはそのまま座っていてほしいですよ。まだ説明してほしいことあるですから。
それよりもあたしは皆を怒るですよ!」
突然言い出したワオリに皆が驚きの視線を向ける。
眉をつり立たせ、いかにも起こっているという表情のワオリだが、その口元は未だ食べかすで汚れたままだ。
「戦いたいヒトなんかこの中にいるとは思ってないですよ。誰もが死んじゃうのが怖いと思っているはずですよ。
だけど最初の戦いに向かった時、あたちたちは死を覚悟で出たはずですよ。あたちは皆の命と覚悟を預かった覚えがあるですよ。
そう、あの時ダンガおじちゃまから教わったですよ。」
悪魔に支配された世界の中で、自分たちがまた楽しく暮らせる世界にしようと立ち上がったころの話だ。
まだ幼く未熟なワオリを補佐し、皆を上手く引っ張って行ったダンガ。彼によってこの地まで来ることが出来たとっても過言でもない。
そして老兵は己の命と引き換えに、自分たちに未来を託してくれた。
「あたちが弱かったから、ダンガおじちゃんに無理をさせてしまったです…。
そしてお母さまも、あたちが強かったら一緒にいてくれたはずですよ。」
泣かずにきちんとみんなへ伝えようとするワオリ。その言葉に今不安を抱いている初期からのメンバーたちが何かを気付かされたように驚きを見せる。
「だけど、それを乗り越えてみんなでがんばって来ているですよ。もうすでに何度も死にかけたでしょ。
だけど、あたちたちは生きてるですよ。
ゼロおにいちゃまやユズナお姉ちゃまのおかげで最初の悪魔から救ってもらったですし、向こうの大陸を勝ち取ったですよ。
そしてこの町も、ウミミお姉ちゃまのおかげで取り戻せました。
今回だってマフモフちゃんたちやダークエルフのみんな、それにエフェメルさんやパァムちゃんたちも加わって、悪魔たちを退けたですよ。
死なずに済んだという事は、それだけ強くなっているということですよ。なのになんで死んでしまうかもと弱気になるですか!」
戦士たちはおろか、ナッチョンたち生活班のみんなもワオリを見つめる。
「もう一度言いますよ。みんなで頑張って悪魔を倒すですよ。
それまでに死にそうだったらみんなで助け合うですよ。
みんなでがんばるからこそここまで来たですよ。
だから『みんななかよし』でがんばらないとダメですよ!
でしょ?ウミミお姉ちゃま。」
勢いよく力説したワオリが隣に座るウミミンにどや顔を向ける。自分は良い事言ったとほめて欲しいという瞳の輝きだ。
それをウミミンは称賛半分、呆れ半分な気持ちで立ち上がると、ワオリの席にあったナプキンでワオリの口元を拭う。
「ハイハイ…良い事言ったのに、その汚れたお口では合格はあげられないよ。」
「ふがふがふがー(しまったですよ)」
そのまま自分で口を拭かせるようにしたウミミンは、エフェメルに礼を述べる。
「エフィーさん、わざとみんなを煽ってくれてありがとう。でも、バレバレだったよ。」
「あちゃ~、久々だったからですかね~。もう隠密ギルドにいた頃ほどは無理ですね~。」
席について頭をかくエフェメル。その横でほっと安心をするパァム。
ウミミンは皆を見回してから、戦士たちに告げる。
「もうワオちゃんが言ってくれたから分かっているでしょう。それに、さっきの状況を良くしようとエフィーさんが芝居をしてくれたのもわかっているでしょ。
だからウミミからはこれ以上言う事はないけど、まだわからないっていうヒトはいませんよね?」
威圧を含んだようなウミミンの笑みに戦士たちは深く反省を示した。その上で皆がエフェメルに謝罪したことで、元の和やかな雰囲気に戻った。
「ユズナちゃんも、落ち着いたかな?」
「ええ。ご心配おかけしました。それと皆ごめんなさい。」
ゼロの手が離れており、少し恥ずかしそうなユズナはそのまま縮こまって座っている。
「あぁ、俺の為に怒ってくれてありがとうユズナ。」
「だから…そこでそれを言わないで。」
なんだか甘ったるい雰囲気に皆が少しげんなりした視線を向ける。
それをぶった切るように元気な声がした。
「そうだワオちゃん、エフェメルさんに聞きたいことって何なの?」
ナッチョンが話題を替えるように大きな声で尋ねる。
ようやくナプキンで口を綺麗にしたのに、またもパンを頬張って汚れ始めたワオリが「あっ」と言ってパンを更に戻した。でも嚙みついた分はしっかり咀嚼している。
「マグマグ…んとですね、さっきの話を聞いて、やっぱりあたちは悪魔についてよく知っていないと思ったですよ。
それで悪魔とはどういうものかをエフェメルさんから聞きたいですよ。」
「ウミミから教えなくていいの?」
隣から少し寂しそうなウミミンの質問にワオリは肯くと、ウミミンに聞こえるくらいの声で囁いた。
「なんだか退屈そうでしたからお願いしたですよ。だからウミミお姉ちゃまは一緒に聞いて確認してほしいですよ。
元々悪魔とはどういう存在だったか、世界の常識として知られている悪魔の事を足りない所は教えてほしいですよ。」
こういう事が出来るようになったのかと少し驚きながら、微笑みを返すウミミン。
こうして元々していた悪魔の話が戻ったのだった。
「それではワオリちゃんからのご指名を受けましたのでぇ、このエフィー先生が分かりやすく教えちゃいますね~。」
どこから取り出してきたのか、細長い眼鏡をかけたエフェメルはあっという間に髪をまとめ上げる。
「「「はぁ~い」」」
彼女の前で陣取るように座るバオやマフモフ、リプスたちが手を上げながら応える。幼さを感じさせる3人だけに年商クラスの授業風景を感じさせる。
「それでは今日の内容は『悪魔』についてです。みんなは悪魔について知っていますかぁ~?」
ノリノリで話を進めるエフェメル。そこに手を上げたのはマフモフだ。
「悪魔は悪いヒトたちだニャ。」
「そうですね~。今のところ、悪魔は私たちに酷いことをする悪いヒト達です~。」
正解という事で、エフェメルの手がマフモフの頭を撫でる。それに喜んでいる様子がネコミミが垂れて分かる。
「このヒトが住むようになった世界においてぇ、悪魔は我々ヒトを傷つける事ばかりしてきました~。
だけどですねぇ、この悪魔が生まれたばかりの時はぁそうでもなかったようなのですよ~。」
「え~~~!」
「うっそだぁ~~~~」
幼い者たちから疑いの声が漏れ、大人たちからも疑うような視線が向けられる。
「にわかには信じられないでしょうけど、この機会に悪魔が誕生したお話しをしましょう。」
エフェメルはそう言うと胸の前で手を重ね、祈りを捧げる。そしてそれを解くと口を開いた。そこにはいつもの間延びした柔らかな喋り方ではなく、毅然とした少し怖いくらいの厳しさを纏う喋り方だった。
「それはこの世界が誕生した時のお話。
この星『エアルス』を作り出したのは『絶対なる存在』。
彼の方は『神と悪魔』を生み出した。
そして神と悪魔にこの世界を作るよう命じた。
神と悪魔は互いに協力し、海を作り、地を作り、そして命を生み出していった。
その時のエアルスはこの世で最も美しい世界だった。
しかしある日のこと、突如悪魔の暴挙が起こり、神と悪魔の間で戦いが繰り広げられた。
やがて戦いは神が悪魔たちをこことは違う世界へ封印することで終わりを告げた。
僅か三日の闘いであったが、その戦いの激しさに作り上げた世界がいくつも壊れ、多くの命が失われた。
何よりも絶対なる存在が姿を隠してしまったことで、世界を癒す力が失われた。
壊れた星を治すため、神たちは己の肉体を用いた。
そして神は精神の存在となり、世界各地で様々な人種が生活を始めた。
依頼ヒトなる者たちは神への感謝を忘れぬよう、それぞれの神へ進行していった。」
ここまで語り終えて、エフェメルは再び祈りを捧げた。そして終えた後、いつもの口調が戻った。
「今語ったのがこの世界の誕生について語られているお話です~。この様にぃ、昔は悪魔も神様と同じくこの世界を作っていたわけなんですね~。」
「ほほ~」
「そうだったのか~」
聞いた者達から感嘆が漏れる。それが本当かどうかは不明であるが、大人たちも噂程度には聞いてきたことがあり、相槌を打っている。
「ん~、でもなんで悪魔たちは暴れたですかね?」
いつの間にか最前列に混ざっているワオリが首を傾げた。誰もが気付かなかったわけだが、そのワオリの疑問に皆も首を傾げる。
すると話を聞いていたダークエルフの長老ブダネが告げる。
「悪魔が神の作るものを嫉妬し、あるいは奪おうとしたためじゃ。」
視線が集まり、ブダネは髭を撫でる。
「わしはこの世界が生まれた時より生きておる。故に今の話をより細かに聞いてきたのじゃ。
悪魔たちが欲望にとらわれて神と諍いを起こし、その結果悪魔はこの世界を追われたのじゃ。
故に悪魔は忌むべき存在とされておる。」
些か憤慨している感じの口調であるが、理由としては何となくわかる内容だ。みんなが納得したような雰囲気でいる。
「…ともかく~今はこの世界を戻すためにはぁ、悪魔を倒すしかありませんからね~。みんなでがんばって行きましょ~。」
「「「「「オー!」」」」」
悪魔について語り終えて、皆が気持ちを一つに団結することができた。
その時だった。突如として強大な魔力をその場にいる皆が知覚した。
あまりにも強大で、圧倒的。かつてパルドスと対峙した時以上の強烈な魔力に、多くの者が体調を崩す。
「神樹よ、みんなを守って!」
ウミミンが杖を振り上げて叫ぶと、圧し潰されそうなほどの魔力が薄らいだ。
「助太刀いたそう。」
ブダネとプロイムが両手を掲げ、魔力を神樹へと向ける。
その間にゼロとワオリがその魔力に向かって駆けだした。
「戦闘部隊で動けるヒトは準備してここで待機。他のみんなも待機してて。」
ユズナが急いで指示を出す。幾分調子が悪そうに表情をしかめているが、今の非常事態にじっとしている訳にはいかない。
「ユズナちゃん、地脈を神樹に多く流して。」
「ハイっ。」
ウミミンに頼まれて地脈の流れをいつもより多くする。それによって先ほどよりも活動しやすい状況となった。
だが魔力は薄らいでも、その存在感は変わらない。マフモフたち獣人の中には耳や尻尾が垂れて怯えてしまっているのが分かる。
「みんなここでいて。指示はポケダマで伝えるからいつでも動けるようにだけ準備してて。パラヤ君、ここは任せるよ!」
「了解しました。」
ウミミンの指示にパラヤが全体へ目を向ける。そしてウミミンはその場を出て行く。
当然のようにユズナもその後を追う。同じくアルツェンも動いた。
「万が一に警戒し、護衛します。」
ダークエルフの指揮官だけに、その動きは頼もしい。
そして3人で城門の方向へと向かうと、小高い丘のような物が見えた。
だがそれは明らかにヒトの形だ。しかも腕が左右3本ずつあり、身体にはブラングチュールのような鎧を纏っている。
4mほどもある高さのそれが何者であるかがすぐに分かった。
惨殺のジルデミオン…4大公が単身で攻め込んで来たのだった。
お読み下さりありがとうございます。
今回は悪魔について少し語らせようと思った内容でした。
一応設定では悪魔について書いた気になっていまして、改めて確認すると
詳しく書いていないことに気付きました。
それで今回は悪魔について語ることにいたしました。
そして次回、まだ癒えぬままですがジルデミオンと激闘が始まります。
この勢いでどこまでいけるかですが、パルドスのようにはいかないだろうと考えています。
新たな力を得たワオリやゼロの戦いぶりなど、お待ち頂ければと思います。
では今回はここまでに致します。
梅雨の時期、そして明ければ気温も上がると思われます。
皆様、体調などには十分ご留意くださいませ。
次回もどうぞよろしくお願い申し上げます。




