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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
87/93

過酷な中で生きるモノ

大きな戦いで勝利したワオリたちに、エフェメルがこの世界について語ってくれている。

そのお話は懐かしきヒトを思い出させてくれるのであった…

ワオリの問いかけに一同の動きが止まる。質問を許可したエフェメルにしても、先の流れから「シーニャちゃんの身体はどこにあるのか?」や「ある方って誰だろう?」と尋ねて来ると思っていた。

しかしこの小さなリーダーは前振りもなく一番みんなが気にかかっていることを切り出してきた。

「ワオリちゃん、そこは流れ的に「ある方って誰?」って聞くもんだと思うんだけど…」

思わずそうツッコむユズナであるが、そんなこと気にする我らがリーダーではない。

「そうですか?だって今の話からすれば、シーニャおねえちゃまはどこかで守って貰えているわけですよね?そしてエフェメルさんが慌てた様子でもないし、心配はいらないと思うですよ。

 それよりリオンおにいちゃまがいるなら、どうして一緒にいないのかが気になるですよ。あのおなかペコペコ大王なリオンおにいちゃまが、これだけおいしそうな匂いに釣られない方がおかしいですよ。」

「た、確かに…。」

 的を得ているというか、言われてみれば納得する説明に、リオンを知る者たちが大きく頷く。今のワオリと同じくらい食欲旺盛なリオンが、これだけのごちそうを前にじっとしていられるはずがない。

 だとすればエフェメルとは別行動していると考えることが出来る。そうした考えからワオリの質問は発せられた。

 その質問にエフェメルは少し驚いた表情をした後で微笑んだ。

「あらぁ~、まさかワオリちゃんからそう切り出されるとは思っていなかったですよ~。

 ですが流石リーダーですねぇ。しっかりとヒトの話を聞いているので安心ですね~。実はユズナちゃんの言う通り、そう尋ねられると予測して私は話を誘導していたんですよね~。ヒトの社会もそうですが、悪魔は巧妙に語り掛けてきたりしますからね~。みんな、その辺は注意するべきですよ~。」

 悪魔は言葉巧みに語り掛けて、相手を焦らせたり動揺させたりすることがある。戦いを有利にさせる一つのテクニックであり、ヒトの社会でも言葉は強力な武器にもなる。商談に然り、会議や裁判などは言葉一つで結果を大きく左右する。

 幼いころは散々ヒトによって騙されてきたユズナだけに、今一度気を引き締める思いになった。

「さて、注意はこのくらいにしてぇ、ワオリちゃんの質問に答えますね~。

 ずばり、リオン君は先ほどまでこっちに来ていたんですよ。でも、私たちにこっちを任せて行っちゃいました。」

「え?リオンさん来ていたの?」

 今度はウミミンが驚いた。彼女の張ったこのライディンを覆う結界に、リオンの気配を感じなったからだ。

「そうですよ~。あ、ウミミンちゃんの結界、かなり弱まってますよ~。気付いてますかぁ?」

「え?・・・あっホントだ!ちょっと張り直してくるね。」

 そう言い残してウミミンが慌ててその場を離れていく。

「私たちが入る前に結構弱まっていましたがぁ、更に大きな魔法でも使ったのでしょうね。そのせいで結界が薄れていて、その間に私たちが入ってこられたわけですね~。」

「あ、あれだ!」

 その言葉に思い当たったナッチョンが声をあげた。同時にその場にいたバオや向こうでいるナーゼも大きく頷いた。

「いまだに私も信じられませんわ…。」

 ディアがそう呟き、リプスがこくこくと興奮した様子で同意した。

「何があったんだい?」

「…とても私からは説明できそうにありません。考えがまとまってからお話させて下さい。」

 隣に座る父親のアルツェンが尋ねるが、深く考え込む娘にそれ以上は尋ねなかった。

 その間に町を覆う魔力の密度が上がり、周囲を暖かな空気が漂う。そしてウミミンは戻ってくると、ワオリを見て深くため息をつく。

「うっかりさんだったよ…。弱まってるどころか、かなり消えちゃってたみたい。多分、キュウビちゃんが吸収しちゃったんだろうね。」

「はうぅぅぅ…。」

「あぁ大丈夫だよ、それはちゃんと戻せるからね。キュウビちゃんも気にしないでね。」

「わかったですよ!」

 項垂れかけたワオリにすぐさまフォローすると、即座に立ち直った。

 その後の説明で、実際に結界は無いに等しいほどの状態で、環境維持程度しか出来なくなっていたらしい。大きな戦いの後は環境においても、やはり損傷が激しい状態であった。

「それじゃ、揃ったようなのでお話ししましょうかね~。今、世界がどうなっているかも併せてお話ししますね~。」

 そして妖艶なダークエルフの唇から、世界の状況が語られるのだった。



 場所は移って惑星エアリス北側にある『サントゥアリア諸島』。かつてこの地はレッドドラゴンによって如何なる者の侵略も許されない自然溢れる大地であった。

 しかし先の戦いでレッドドラゴンの消息は絶たれており、今はこの地を守る存在は存在していない。

 当然悪魔たちが好き勝手に暴れると思うところであるが、悪魔たちとてすべてを壊してしまっては何の楽しみもないことは分かっている。

 そのため、この地は悪魔王自身がレッドドラゴンの栄誉を称えて手出しさせない事にしている。

 そのおかげで世界中において、この諸島だけは昔と変わらない自然溢れた地となっている。当然そこには様々な生物が生息し、それぞれが進化して食物連鎖が成り立っている。強き生物が弱い生物を糧とし、やがてその強者も死んで微生物の糧となって自然界に循環される。弱きものの方が数多く、強いほど数が少ないという法則の中で、腹が減れば食べるが、そうでなければ狩ろうとしない事で、その営みは成り立っている。

 食をせずとも居られる生物はこの連鎖からは外れる訳であるが、自らの体内で栄養を作り出せる存在など『超越した存在』でなければ不可能であり、外部から栄養を摂取して生きる生物はこの連鎖からは抜け出すことは出来ない。

 そんな状態が永きに渡りレッドドラゴンによって保たれてきたのだが、レッドドラゴンが消えてもこの自然の法則は変わらず保たれている。

 この諸島は大きな4つの島と小さな島々を総称しており、『オルハノコス大陸』南西部から『ナハトイデアール大陸』北部まで至っている。

北から『ドラゴン島』『ラフィンウィッチ島』『シーザークラブ島』と南に連なって3島があり、東の1島は『サントゥリアス火山』という惑星で最大の火山が島となって今も煙をあげている。

位置としては、ちょうど北半球と南半球を分け隔てる『黄道』を跨いでおり、気候は年中高温で、森林が茂っていることからもわかる様に雨が多く湿度も高い。言わば熱帯雨林気候である。

そんな諸島の中央に位置するラフィンウィッチ島は南北に細長く、北側はヒトにとって比較的過ごし易い気候である。しかしながら、ヒトにとって過ごし易いという事は、他の生物にとっても過ごし易い種族が多いわけで、危険な動物たちが数多く生息している。

そんな危険な環境の中、実は悪魔たちから逃れたヒトの集落が存在していた。


 広大な森林の中、闊歩している一体のジャイアントボア。その全長は10mもあり、高さは5mほどもある巨大な猪である。本来は体長2mほどの『ビッグボア』であったが、この諸島で生きる中で体が大きくなり、進化した結果である。

 のっしのっしと巨体を揺らし、目の前の木は薙ぎ倒していく。そんな我が物顔で居られるのも、この周辺がこのボアの縄張りであるからだ。

 雑食であるジャイアントボアは草木などに限らず、動物をも喰らう。そのため、この大きな猪を恐れて小・中型の動物は気配を察するとすかさず逃げる。大型の動物であってもその突進力や堅く尖った体毛によって攻撃を阻まれ、倒された種族も多い。

 そんな悠々と歩くジャイアントボアの向かう先で、背の高い草木に身を隠しながら待ち構える者たちがいた。

「来たぞ。」

 小声でささやきながら合図に手を振る。それを見て高い木の上にいた者が了解の相槌を打つ。傍でその様子を見ていた者たちが気を引き締めると、それまで何もなかった空間にピリッとした緊張感が漂った。

 やがて距離が縮まった時、それまでゆったりとしていた巨大な猪もそこに漂う空気に気を引き締めた。ここまで生き続けてきた以上、自分を狙う気配などには敏感でなければならない。

 本来、野生の動物は危険を察知すればその場を逃げようとする。小動物や草食動物などはおろか、熊も用心深く近づくことは避けるものだ。

 しかしこのジャイアントボアは違った。ここは自分の領地であり、己の力を示すためにも不穏な存在は消さなければならないと考える。ましてや相手は弱いと直感する。ならば恐れる事などない。そう自信をもって戦う態勢を整えた。

「気付かれたか!」

 予想を裏切られ焦りを見せる集団。空気が変わり相手がそれまでと違って身構えていることを悟り、一気に緊張感を高める。そして予定変更で別の作戦を実行に移した。

「1の計画を破棄、2番目の計画を実行っ!」

 そう叫ばれた途端、ジャイアントボアの左右から同時に石が投げられた。その巨体にすれば大したことのない礫。体毛に防がれてダメージというものはないが、左右に敵がいることを認識させた。

 左右同時のために咄嗟に動けず、ジャイアントボアは左右に首を振るだけ。そこに見えたのは数名のヒトの姿。それは初めて見る存在だ。これまで見た覚えのないその生物に戸惑いはあるが、自分の足くらいしかない体長に恐れる必要を感じない。ただし、石をぶつけられたという事は注意すべきだと悟る。

 そんな状況でジャイアントボアは痛みを感じた。左右に気を取られていた隙に、正面方向から数本の矢が飛んできて、その鼻などに突き刺さったからだ。

 猪特有の突き出した鼻。表面は硬質化しているために何ともないが、小さな矢がその鼻の穴に突き立ったのだ。当然そこは柔らかく、しかもニオイなどを感知するために感覚が研ぎ澄まされている箇所であり、神経が集中している場所である。そこを傷つけられるという事は、強い痛みを感じてしまうという事だ。

「グヒィイイイイイイイイイッ!」

 今まで味わったことのない痛みに悲鳴をあげて、大きく動揺するジャイアントボア。それを見て木の上から号令が飛ぶ。

「投てき開始ぃー!」

 その声にジャイアントボアの周囲3か所に潜んでいたヒトたちが姿を見せると、手に持っていた槍を一斉に投げつけた。

 2mほどある木の柄の先端に、金属製の刃が取り付けられた投槍だ。それらが戦士たちによって勢い良く投げられると、一直線に巨大な猪目掛けて飛んでいく。

 しかしジャイアントボアの表皮は、鋼鉄のような毛で覆われている。堅い体毛に阻まれて槍が届くことは叶わないと予想できる。そこでこの集団は更なる速度を加える。

「風よ、吹き飛ばせ!」

 それぞれの場所で魔法使いが唱えると、それらの槍目掛けて追い風が吹いた。初級魔法の『エアショック』で、対象を吹き飛ばす攻撃魔法だ。濃密な空気の圧が投げ出された槍に加わり、勢いが数倍にもなってジャイアントボアを襲う。

 槍の先端に取り付けられた金属も、単なる鉄ではなく、その表面に削り出されたクリスタルの粉を塗している。この周辺では純度の高いクリスタルが発掘でき、それを加工する際に出る水晶の粉を鉄に塗して熱することで、高い硬度を得ることが出来た。

 この世界には金属にレベル設定がされており、鉄が一般的に硬度レベル3とされているのに対して、鋼鉄はレベル4であり、単なる鉄では歯が立たない。しかしクリスタルの硬度はレベル8とされており、その粉を塗した鉄はレベル8近くの硬度レベルを有している。

 つまり、鋼鉄では防ぐことは不可である。


 5mもの高さのある巨体に槍が次々と突き刺さっていく。その痛みにジャイアントボアは泣き声をあげる。これまでこの島で生きてきたが、これほどの痛みを受けるのは久しい。

 ジャイアントボアとて、生まれてすぐからこのような巨体だった訳ではなく、当然幼い頃は産んでくれた母体と共に暮らしていた。

 しかしこの大陸は弱肉強食。自分を逃がすために母体は強力なモンスターと戦って散った。

 それからこの大自然の中で強く逞しくなろうと生き続けた。エサを求め、同じくらいの野獣と戦いながら己を鍛え、やがて母体を食った巨大な熊を倒したジャイアントボアはこの辺りでボスとなる。

 それからは自由に生きてきたが、今ここに来て生命の危機を感じ取った。

 数年前から見かけることはあったヒトの存在。奴らは矮小でこちらを見た途端に逃げていった。

 食い甲斐もないと判断してこれまで気にもしていなかったが、まさかこれほどの痛みを受けるとは思ってもいなかった。

 痛み、苦しみ、そして恐怖。

 そうした負の感情に野生で生きてきた意地が抗う事を決意させる。

 深く食い込んだ槍からおびただしいほどの血が流れ出るが、このままやられてなるものかと野生の意地が全身を奮い立たせた。


「効いてるな!」

 数十本の槍が巨体に突き刺さり、そこから大量の赤い血が流れ出ている。見るからに致命傷だと見て取れたことで、ヒトの集団から歓声が沸いた。

 そして更に攻撃を加えようと、それぞれが手慣れた近接用の武器を手にして猪に止めを刺そうと動き出す。だがその勢いを木の上にいた狩人が制した。

「気をつけろっ!まだやる気だぞ。」

 その声にヒトたちの気が引き締められる。その瞬間、ジャイアントボアが咆哮を発した。大音量にヒトたちが堪らず耳を塞ぐ。

 そして咆哮したジャイアントボアは地面を踏みならし、正面に向かって突進した。

「回避ぃー!」

 リーダーの声に反応して正面から真横に飛び退くヒトたち。しかし方向によって反応の遅れた者が2名おり、瞬く間に迫ってきたジャイアントボアの突進に巻き込まれて一人は踏み潰され、もう一人は弾き飛ばれた先で地面に頭から落ちて絶命した。

 仲間の死に動揺する者もいたが、鬼気迫るジャイアントボアを前に嘆く暇などない。この戦いに挑んだ際に死は覚悟したのだ。

「正面に行くなっ!回り込め。」

 そう叫ぶ声があるが、ジャイアントボアの突進は凄まじい勢いで、速度も巨体と思えないほど速い。小高い山が襲い掛かってくるその恐怖に回り込むなどという余裕などない。

 木の上にいた狩人が矢を射るにも速すぎて狙いが定まらず、ましてやあの速度と硬度では矢など簡単に弾かれるだけだ。

 左右にいた者たちもその巨体とすばやさに何もできず、やがて追われる身となる。せっかく深手を負わせたジャイアントボアだが、それ以上のダメージを与えるのは困難となっていた。

 そこに突如笛の音が聞こえた。荒れ狂うジャイアントボアによって重い足音しか響かぬ中、高く美しい音は皆の意識を向けるに効果があった。

 それは巨大な猪にも聞こえ、状況を確認するために突進を止める。

 ぎろっと憎しみや怒りに染まった瞳を向けると、そこには色鮮やかな赤があった。


 小柄な体格に、幅広いつばの帽子を深々とかぶり、ケープのようなマントを羽織っている。その服装は赤の強い紫で、肩の辺りでまとめた髪も同じ色だ。その手には木で作られた横笛があり、そこから高い音が奏でられている。

 それは音楽だった。リズムよく小刻みに指を動かして穴を塞ぎ、息を吹き込むことで様々な音を作り出す。

 その様々な音が連なって曲を作り出していく。その曲に思いを乗せて聞く者の心を動かす。

 ジャイアントボアにすれば初めての体験であった。その音に驚いたが、耳に聞こえてくるのは決して嫌な気持ちにはならない。先ほどまでの怒りを忘れ、穏やかな感情が戻ってきた。

 一方でヒトたちはその曲で恐怖心を払った。追われて絶命を覚悟したところだったが、その恐怖であったジャイアントボアは立ち止まり、怖いと思っていた気持ちは安心へと変わる。

 そして再び戦う気持ちを得るが、下手をすれば再び追われるのではないかという恐怖が決断を鈍らせた。自分たちより倍以上の高さがある野生の動物。恐怖は拭えようとも、不安まではそう易々と消えることはない。

 このまま時間が停滞してしまうと思われた時、笛を奏でる小柄なヒトの肩から何かが跳んで行った。大きく跳ねるそれは小さいためにジャイアントボアには見えない。だからこそそれは至近距離まで接近することが出来た。

 やがてそれはジャイアントボアの目の前で大きくなる。否、元の大きさに戻ったのだ。1m強の体長で顔の形はほぼ楕円形。その天辺に黒い大きな円が二つ付いている。それは瞳であり、今は目の前の倒すべき相手を睨むように半開きの状態だ。

 そして胴体はやや細いが、腕や脚は細長い。その先端の手足は水かきが付いている。

 全身が淡い緑色の姿はカエルだ。しかもその姿はゆるキャラのような愛らしさを感じさせる。

 そんなカエルが突如としてジャイアントボアの鼻先の上に現れたのだ。正に目の前の存在に巨大な猪は驚くしかなかった。

「ケロォーッ!」

 甲高い鳴き声と共に、そのヒト型のカエルは右腕(?)を溜めてから突き出した。勢い良く突き出されたその右手は、柔軟なカエル特有の筋肉によって伸びる。激突するポイントを見定めて発せられた攻撃は狙い違わず、ジャイアントボアの眉間を叩きつけた。


 堅いジャイアントボアの皮膚に、圧倒的に質量の劣るヒト型カエルの水かきが「バチッ」と音を立てて叩いた。

 見た目でいえば、単に『ツッコみ』を入れたかのような叩きにしか見えない。しかしこのカエルの攻撃は、その水かきを以て繰り出される『波』の攻撃なのである。

 4本の指と、それぞれを繋ぐ水かきで出来た掌撃。そしてその柔軟な筋肉を使った攻撃の威力は、激突した部分から内部へと響く。

 特に生物の身体は血液などの水分から出来ている。その体液を津波のような衝撃が全身へ浸透していくのである。

 皮膚によって堰き止められたジャイアントボアの体内で衝撃波が激しく揺さぶる。当然体内の臓器がその振動によって無事で済むわけがない。

 巨体であれば巨体であるほど、体内に発生した津波は大きく激しさを増して全身を駆け巡った。臓器の歪みで目まいや吐き気などのバッドステータスを引き起こし、そして血液の氾濫によって毛細血管が破裂。これによってジャイアントボアは体中から血液を噴き出しながら、その巨体を横たわらせたのだった。


 戦闘を終えてジャイアントボアが解体されていく。今回の戦闘の目的は狩猟であって、その肉だけでなく、皮膚や体毛も生活用品や武具として活用する。

 大掛かりとなるその作業の隅で、先ほどのカエルと小柄なヒトが言い争っている。

「まったく、せっかく僕が見せ場を作ろうとしたのに、全部持っていくなんてずるいじゃないか!」

「ケロケロケロ~!」

「え?無事に倒せたんだから問題ないだろだって?それはそうだけど、せっかくの僕の活躍のシーンがないじゃないか。」

「ケロー、ケロケロケッケグワ~。」

「クッ、何が良いだろうだい!君が攻撃して注意を引き付けてる間に僕が魔法をって、オイっ聞いてるのかい?」

 切り株の上に座り込んだカエルに視線を合わせ、手を腰にした赤紫のヒトが怒っているのだ。

 よく見ればその顔は愛らしい少女であり、尖った小さめの耳と体格から、彼女がホビット族だと確認できる。ただホビット族にしてはお洒落な服装をしており、彼ら独特の大自然の中で駆け回るという雰囲気は感じられない。

 そしてそれより少し小柄で足を組んで切り株に座るヒト型のカエル。独特の言葉は少女でなければ分からないが、今はそのゆるキャラ風な顔が醜く勝ち誇ったように見える。

 そんな二人(?)の元に一人の戦士が歩み寄ってきた。

「まぁまぁ、あの突進でどうしようもなかった状態を止めてくれたんだ。我らみんな心から感謝しているよ。」

 堅い革の防具を纏い、腰には古めかしいロングソードを帯びたそのヒトは、深い皺が刻まれた初老の男だ。ヒトに好まれそうな笑顔で両方を宥めようとしている。

「うぅ~、まぁとっておきの魔法はまた今度お披露目するよ。せっかくみんな喜んでるから言い合うのはここまで!わかった?」

「ケロケロケロロ。」

「え?私が言うから相手しただけで自分は最初からそんなつもりなかったですって!このぉ~」

「まぁまぁまぁ、とりあえず作業が順調なんだ。それでもし良かったら一曲お願いできないか?」

 再び言い争いが起こりそうなのを慌てて制した戦士。すかさず少女が得意とする演奏を催促して話題を逸らせる。その狙いは見事に当たり、少女は笑みを浮かべた。

「そうだね。せっかくだから一曲奏でるね。ほら、君もせっかくだから手伝って。」

「ケロ~。」

 満更ではなさそうにカエルは同意の笑みを浮かべた。そして少女が再び横笛を吹くと、カエルは息を吸っておなかを大きく膨らませ、指先の丸い球体で軽く弾かせる。すると「ポンポンポン♪」と指によって高低の違う柔らかな太鼓のような音が鳴った。

 少女の優しい調べに合わせ、カエルのお腹から柔らかなアクセントのような音が奏でられる。それを調べに、解体作業を行うメンバーたちは心地よく作業を進めていく。


 少女の名前は『カイゼリン』。ホビット族出身で音楽をこよなく愛する事から世界中の音楽を知りたいと思い、旅をしている。ホビットにしては知力が高く、様々な魔法を習得している。またホビットならではの脚力で、今まで危険を感じれば走り抜けてきたのだった。

 そしてもう片方のヒト型カエルの名は『ノエープ』。彼女の旅の途中で知り合い、それから一緒に旅を続けている。

 その容貌からして一般的なカエルとは異なり、またリザードマンたち亜人種とも全く違う姿は、彼自身がオリジナルであるからだ。

 彼曰く、元はヒトであった。そんなある日、彼は『呪い』を受けたことで今のような姿になったのだという。以来その姿のまま長い時間を過ごしているのだそうだ。

 なぜそのような姿になったのかは覚えがないのだが、愛らしい姿は逆にヒトから警戒心を持たれ、野生では食の対象として狙われた。

 元々格闘に関しては訓練していたため何とか自分の身を守ることは出来たが、己のカエルとしての身体を自覚していくには時間がかかった。 

そして言葉が通じぬために誰とも分かり合うことが出来ず、孤独と戦い続けなければならなかった。

 そんな彼が寂しさを紛らわすように覚えたのが、お腹を膨らませてそれを指で弾くことで高低ある音を発せられることを知り、その音を楽しむことだけであった。

 月夜の夜になると水面に大小二つの月が映り、それを眺めながら音を出していた。そこでカイゼリンに発見されたわけである。

 カイゼリンからすれば、珍しい音を発する池に興味を惹かれ、その音を探ろうとしたわけであった。

 互いに初めて見た時、カイゼリンは世にも珍しい可愛いカエルが独自の柔らかな太鼓のような音を鳴らしていることに感激を覚えた。

 一方のノエープも最初は驚いたものの、これが千載一遇のチャンスとばかりに必死にアピールした。その結果は今に至るわけである。

 しかもカイゼリンには不思議な能力があり、ノエープの言いたいことを理解することが出来るのだ。これは音に携わってきたカイゼリンだからこそ出来るのである。以来、世界を共に旅していく中で友情が芽生え、行く先々で様々な音楽と出会い、共に曲を奏でていた。

 だが世界が悪魔に覆われた時、二人はリーブルサイドにいたことで今に至るわけである。


 ようやく一通りの解体が終わり、今度は運搬作業の支度に入る。そんな集団から離れた場所で、リーダーは一人で穴を掘っていた。

 ちょうど自分が横たわっても良いくらいの大きさの穴が二つ。それは先ほどのジャイアントボアとの戦いで戦死した者たちを埋葬するための穴である。

 穴の底を整え、それぞれに遺体を寝かせる。

「ここまでご苦労だった。どうか安らかに眠ってくれ…。」

 黙禱を捧げ、その上に掘り出した土を被せる。それが終わると、それぞれの頭上へ各々が扱っていた剣と槍を墓標代わりに突き刺した。

「…やはり堪えるな。」

 皆の前では平然とするよう心掛けている。だからこそ、こうして一人で埋葬してから心に整理をつけているのだった。

 このリーダーの名は『ヘンリケット・ドノバン』。かつては傭兵として『狂剣のドノバン』として名が知られた。それから傭兵を辞めて宿屋兼酒場を切り盛りし、地図にも載る『リーブルサイド』という町を起こしたそのヒトなのである。

 あの悪魔の襲来によってリーブルサイドは焼かれ、多くの住人が命を落とした。

 何とか町から逃げ出した皆をまとめて安住の地を探しに出たものの、当然悪魔たちによって支配された大陸に、求めることは不可能だった。

 生き残った者たちと移動するだけでも多くの者が体調を崩し、当然文句が出て去っていった者もいる。

 一方で途方にくれた冒険者たちがいて、一緒に行動することもあった。

 どの町も壊れ、国さえも機能しなくなった世界。

 行けども行けども亜人や魔物と戦い続けた結果、彼らはレッドドラゴンに遭遇する。

 もはやここまでという絶望感を抱いたが、レッドドラゴンは自らの島に渡ることを許してくれた。

 少なくとも、悪魔たちに追われても隠れる場所のないこの大陸よりも、自然豊かなこの地を選んだ彼らはこのラフィンウィッチ島で今も生きている。


「今はとにかくこの島で生き続けるしかないんだ。そして強くなって、リオンの仇を…。」

 『マスター』と呼んでくれていた幼げな青年の顔を思い出す。

 今でも信じられないが、エフェメルから真実を聞いている。

 それによって妻であるエゥバがどれほど悲しんだことか…。

 だが、悲しんでばかりいる訳にはいかない。

 強く生きること。そしてヒトとして生き続けること。

 きっとこの世界のどこかで自分たちの想いと同じ人が生きていると信じている。

 だからこそ、エフェメルはそうした人々を探しに旅に出たのだ。

 状況は決して良くはない。

 だけど生きている。

 これまでも逆境の中で自分の力を信じて生き抜いてきた男の瞳は、決して絶望などしていなかったのだった。

 ここはサントゥアリア諸島 ラフィンウィッチ島。ヒトにとっては過酷な生活環境の島だ。

 だが、大陸に比べたら食糧を得ることができる。また悪魔たちから身を隠せる場所がある。ならばその環境で生き続けてやろうとするヒトたちの戦いは今も続いているのだった。


 そんな彼らを見つめ続ける優し気な瞳があった。

 いざとなれば助けに入る気ではいた。しかし何とか無事にすんだ事で胸を撫で下ろした。

 そこに助けに入ることは容易であるが、それでは彼らがこの先を生きていく事など出来ない。

 ましてやあのジャイアントボアも敵ではなく、悪魔たちから守るべき対象なのだ。

 大自然の中で生きようとするヒトたちを微笑ましく見ながら、彼はそっと翼を広げて飛んでいった。

お読み頂きありがおうございます。

そしてまたもお待たせしてしまいまして申し訳ございませんでした。

当初は早めにと書いておりましたが、今回書いていたマスターたちの状況をまとめるのに

結局時間がかかってしまいました。

己の想像力が乏しかったがためです。本当にすみませんでした。


さて、今回のお話でリオンの行方は?となっておりますが、もう少しだけ詳しい内容は引っ張らせて頂きます。

そして懐かしいマスターたちですが、ちゃんと生きていました。

世界の状況からして生きてはいないだろうと思われるでしょうが、やはり第1部であれだけ活躍(?)したわけです。他にも生き残っているヒトはいますので、随時登場させますね。


あと新キャラですね。

実は今回の二人は、前回のあとがきの時点では考えておりませんでした。

だけどマスターたちだけで生き残ることは可能か?と考えた際に、難しいだろうという考えがあり、

どの様に描こうかと悩んでいたのです。

そんな際、ゲーム仲間から「出たい」と申し出があり、せっかくだからそれぞれのキャラを活かして登場させようかと考えた結果が、カイゼリンとノエープの誕生となったわけです。

ただ、ノエープの「カエル」という演出の仕方にまたも時間がかかってしまいました。

と申しますのも、この第2部で彩世にワオリたちを襲った悪魔がカエル顔でしたので、やはりカエルに対する印象を全く違う物にしたいと思った次第なのです。

そこでふと薬局に飾ってあったカエルの置物を思い出し、そこから検索をかけて行った結果が

愛らしいヒト型のカエルとなったわけです。

こちらは今回だけかと思いましたが、このコンビ何かと面白そうなのでまた出番を予定しております。今後も二人をよろしくお願いします。


では今後ですが、次回はまたワオリたちの方に戻します。

エフェメルのお話の途中ですし、決して戦いは終わったわけではありませんから、まずはこの大戦の後で4大公のジルデミオンがどう出るか?そこを進めていきたいと思います。


それと、色々リアルが忙しくなっていますので出来る限り一月ペースで進めていく事に致します。

余裕があれば早めにしたいのですが、もうすぐ5月のGWも仕事でなくなってしまいました…。

なのでどうか、お待ち頂けますようお願い申し上げます。


では今回はここまでに致します。

どうか皆様、体調などには十分ご留意くださいませ。

また次回もどうぞよろしくお願い申し上げます。


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