束の間の休息(過去振り返り)
悪魔大将軍『エスペティッカ』をゼロが倒し、悪魔たちの強襲を見事に防ぎ切ったナチュラルフロンティア。これによって2度にわたるジルデミオン軍からの侵略を防ぎ切ったワケだが、流石に今回は色々と大変だった。
未だ世界は混沌と化す中、ナチュラルフロンティアのメンバーは新たなる戦いに向けて休息を要していた。
【第6章】
「失敗?」
「えぇ、進攻したエスペティッカたちは皆敗れ消えたようです。」
「信じられんな…。他の者はともかく、エスペティッカほどの者が消されるとはな…。」
薄暗い部屋の中で柔らかなソファーに座る男が、報告をもたらせた銀髪の女性へ驚きを見せた。
「それで、ジルは?」
低いサイドテーブルに置かれたワイングラスを手にしながら、男は確認する。その言葉に、前で立つ女性はゆっくりと頷いてから口を開く。
「はい、流石にジルデミオンもかような結果を想定していなかったようです。」
そう聞いて男は含むように笑いを漏らした。
「フフフ。彼の事だから喜んでいるんじゃないかい?」
伺う様に女性へ上目の視線を向けると、少し困ったように笑みが返される。それにまた笑うとグラスを傾けてテーブルに戻した。
「すまない、意地悪な言葉だったね。だがジルの事だから自ら戦いたくて堪らなくなっていることだろう。だったら任せておいて問題はないさ。」
「はい、きっとジルデミオンならば貴方様の期待に応えてくれると思います。」
そう聞いて男は眉を顰めた。
「期待?」
「えっ?」
急に声のトーンが落ちたことで女は驚きの顔を見せる。その顔に男の厳しい視線が向けられた。
「ミュー、君なら私の本当の願いを理解してくれていると思ったのだが?」
そう言われてミューリアは頭を下げた。
「申し訳ありません。言葉が不適切でございました。」
目の前にいる男が最も望んでいることに対して、今の言葉は軽率だったと反省する美しき女性。その態度に男の態度が軟化する。
「いや、私も思わずきつい態度を見せてしまった…。ちゃんと理解してくれているのならば構わないよ。」
そう言って立ち上がると、首を垂れたままのミューリアを抱きしめる。
「ミュー、私が心を許せるのは君だけだ。どうか私を支えておくれ。」
「…はい…。」
恋人の胸に抱かれ、ミューリアは静かに肯定を返す。その頬に抱かれた火照りと、困惑の表情を入り混ぜながら…。
(あなたの願い…それを私は望んでいないと知れば、あなたはどうするのでしょう…)
愛しているがゆえに、彼への想いと己の願いの狭間で、かつて『慈愛』を司っていたミューリアの苦悩は続く。
一方、大きな戦いを終えたライディンの町では負傷者の介護及び、休息が急務とされていた。特に北門で戦っていた戦士たちの治療は深刻で、腹部を貫かれたバンは安静にしておく必要がある。
死人は出なかったとはいえ、戦闘の激しさから体力や身体の至る部分に関する損傷は出ており、欠損に関して回復薬は効果がない。回復薬はあくまで一時的な体力の回復がもたらされるだけであり、きちんと休息と栄養を摂取して時間をかける必要があるのだ。
ライディンにも医者がおり、そしてダークエルフが作った薬のおかげで何とか負傷者への治療はひと段落する。
そうなれば次は栄養補給だ!
広場に設けられた会場に動けるみんなが集まって食事をとっている。
そんな中で慌ただしく動く者がいた。
「ほら、持ってっちゃってー。」
肉の焼ける音を聞き分け、愛用のフライパンを調理台から外すとすぐにそれを皿に盛りつけ、給仕係の者に後を託す。そして再びフライパンを熱して脂を落とし、溶けたところで香草を落とす。
料理長であるナッチョンは慌ただしく働いている。先にある程度の食事は用意していたので、今はみんなに一通りのメニューはいきわたっている。中には重症のために軽めの食事を用意することもあったが、そこは問題なく用意できた。
そんな中、料理長であるナッチョンだけが未だに肉を焼き続けている理由。それはすさまじい勢いで食べ物を食べ続けている者がいるためだ。
「おかわりですよー!」
予め用意していた食事をみんなで「いただきます。」して食べ始めたのだが、ワオリの食欲が留まることを知らぬほどに暴走しており、このままでは足りないだろうと推測して調理を始めたわけである。
相変わらず少量を次々と口へ運ぶ愛くるしい食べ方をしているが、落ち着けと言いたくなるほどに食べる速度は落ちず、周囲から呆気にとられた視線を受けながら食事を続けるワオリ。
「ワオちゃん…、もっとしっかり噛んで食べないと…。」
ユズナが困ったような表情で声をかけるが、その言葉に咀嚼するための5秒が開いただけで、モノを口に入れるスピードはそれほど落ちない。
前もって多くを食べると推測していたゼロとワオリに至っては5人前を用意していたのだが、ワオリの食欲はそれをはるかに上回っている。もういっその事巨人の食べているボアの丸焼きを用意するべきかと考えてしまうが、そこは友のために腕を振るうナッチョンの矜持が許さない。
「ほら焼けたよー。」
そうしている間にまた新しいお皿が追加される。そこでゼロがナッチョンに声をかけた。
「一旦これで置いてナッチョンも食べよう。みんな食べているときに申し訳なくなる。
ワオリも少しペースを落として一緒に食べる様にしよう。」
「! そうです、ごめんなさいですよナッチョちゃん。一緒に食べるですよ~。」
ゼロの言葉にようやく食べ物だけに目を向けていたワオリの視線がナッチョンに向く。
「は~い、でも足りなくなったらまた焼くから遠慮なく言ってね。」
そう返しながらフライパンをコンロから外すナッチョン。「多分足りないだろうな~」と思いながらすぐに焼ける用意をして席に戻っていく。
こうして皆で食事が再開されると、横の席で見ていたエフェメルが嘆息した。
「いやぁ~、ワオリちゃんの食べっぷりは見事ですね~。」
そう呟く前の席でパァムも驚いた顔で頷いた。
「うん、リオンおにぃちゃんくらい食べてるよね。」
「そうですねぇ、リオン君もすごく食べるヒトですからね~。」
そんな会話を耳にして、周囲の雰囲気が重くなる。その中で、二人に近い場所でウミミンの召喚ネコたちにご飯をあげていたバオが不思議そうに尋ねた。
「リオンってヒトはどんな方なんですか?」
「あ、バオちゃんは知らないんですね~。それならばこのおねぃさんが私の!私の、リオン君について教えてあげますね~。」
やたら強調する言葉に周囲から呆れた視線が送られる。だけどそんな視線など気にせずにエフェメルは話し始める。
「そうですねぇ。せっかくだから物語を語りながらお話ししましょうかね~。
今より30年前くらいですねぇ、この星の北側に漁師たちが住む小さな島がありました。まだその頃は悪魔たちがいない世界で、人々は平和に暮らしていました~。
だけどある日のことぉ、その漁師たちの島に大量のゴブリンが攻め込んでぇ、そこに住む漁師たちやその家族は殺されてしまったんです~。」
話し始めた内容に、バオが固唾を飲む。同じく初めてその話を聞くナッチョンたちも、食事の速度を遅らせながら聞き入る。
「でもぉ、その中で二人の姉弟が隠れ潜んだおかげで無事でした~。
幼い姉弟は変わり果てた島の姿に泣きつつも、このままではみんなが可哀そうだと島に住んでいた皆のお墓を作ってあげたそうです~。
そしてそれから世界を知らない二人はぁ、約2年の間二人だけで生活をしたそうなのです~。」
「え?子供たち二人だけで!すごい…。」
悪魔たちに襲われて祖父たち数名の仲間たちと隠れ住んだドワーフのバオ。もしも祖父たちがいなかったら生きていられたとは思えない。それなのに子供たち二人で暮らしたという事が信じられなかった。
そんな声に微笑みだけを送り、ダークエルフの語りは続く。
「そんな二人に転機が訪れたのはぁ、そこに冒険者たちがやって来たことでした~。
世界をゴブリンたちが襲った『第2次亜人の氾濫』。このせいでぇその漁師たちの島にゴブリンが現れたとされています~。
その調査などのために偶然通りかかった冒険者たちの船でしたぁ。
あ、冒険者たちとは世界中を旅する人たちの事ですよ~。当時はそうやって生計を立てるヒトが多かった時代ですから~。」
多くの種族の者たちが集うこのナチュラルフロンティアで、当時はまだ幼かった者も多く、ヒト科の社会に対して無知な種族も多い。そして悪魔たちの出現によってがらりと変わってしまった世界において、『冒険者』などの知らない言葉が多い。
「当然子供たちだけでは危険だという事でぇ、二人は冒険者たちに近くの町まで連れて行って貰うことになりました~。
そして初めて生まれ育った島を離れた姉弟でしたぁ。
だけどここで事件が起こったのです!」
やたら真剣に聞き入ってくれる様子に、エフェメルの語りがヒートアップする。同時に聞いていたバオや他の者たちが瞳を輝かせて聞き入る。
静まり返った集会場でごくりと誰かが喉を鳴らす音が響く。
その音にエフェメルが涙ぐましい感情を込めて語る。
「嵐で船が揺れてぇ、弟君が海に落ちてしまったのですよ~!」
「「「ええーっ?!」」」
周囲から驚きの声があがる。中には目に涙をためて「かわいそう」などという子もいる。
「当然嵐の中ですから船は止まれません~。姉はすぐに弟を助けるために飛び込もうとしますがぁ、冒険者がそれを止めますぅ。
そして弟君は海に呑まれ、助けられなかった姉は弟の名を叫びながら二人は離されて行っちゃっいました~。
こうして仲良く育った姉弟は、運命によって引き裂かれてしまったのですぅ。」
エフェメルの語りに涙する者もあらわれる。特にそれまで一心不乱にご飯を食べていたワオリなど、
「それでどうなったですか!弟君は無事だったですか?」
などと匙を持ったままバオの横にまで行って尋ねる程だ。
そこに優しい弦の調べが聞こえ、騒ぎかけた集会場が鎮まる。皆の視線の先で、竪琴を指で弾くユズナがいた。
そしてユズナはそのまま音を奏で始める。柔らかくもゆったりとした曲。その音にエフェメルはにっこり笑い、調べに乗せて語り続ける。
「引き裂かれた姉弟。姉はそのまま港町に置き去りにされぇ、途方に暮れる中で『優しく』『美しい』ヒトに出会って生きていきました~。」
妙に強調する修飾語にパァムの白い視線が向けられるが、サラッと流して物語は弟の物語に入っていく。
「そして海に落ちた弟くん。彼はそのまま流されぇ、着いたところは人々が決して寄り付かない島でした~。
そこで彼は世界で最も強く、最も聡明な生物に遭遇したのですよ~。」
聞いている者たちが二通りの反応を示す。この話はかなり有名で知っている者は耳を向けながら食事を続ける。
そして初めてその話を聞くものは手に汗を握りつつワクワクした表情で話の続きを待った。
奏でられる弦がタイミングよく強く弾かれ、その存在が語られた。
「その名はレッドドラゴン。その島はレッドドラゴンの住処だったのです~!」
この世界に住む者であれば、誰であろうと必ず耳にする生物。その存在感は尊敬と畏怖を集め、初めてこの話を聞く者たちも、レッドドラゴンの名は知っている。
竜という強大な力を聞いて、驚きの声が上がった。そんな一喜一憂する様子にエフェメルのテンションはうなぎのぼりだ!
「片や世界最強の巨大な紅い竜王。
片や海に落ちて心細い幼いヒト科の少年。
そこは竜王の住処でヒトが入ることが禁止された場所でしたぁ。
そんな場所へ突然現れたヒトの子~。」
そこで一息つくのに区切られ、聞き入る者たちが固唾を飲む。
「だけどそこは竜王ですう。見た瞬間に海に落ちたと悟り、迷い子だと察します~。そして一方の弟君。彼はそれまで島から出たこともなくぅ、レッドドラゴンの事も全く知りませんでした~。
弟君は恐れもなしに竜王と語りぃ、そして姉に会いたいと言って泣き喚いて竜王を困らせちゃったんです~。」
「それ知ってるですよ!まいごのまいごのこびとちゃんですね。」
実は何度も聞いているお話なのに、初めてのように聞き入るワオリ。これを元に生まれたとされる童謡の事だけ思い出したのだった。
「えぇそうですよ~。
まいごのまいごのこびとさん♪
あなたのおうちはどこですか?
名前を聞いたら泣き始め
お家を聞いても泣くばかり~♪
まぁこの歌はヒトによって作られた歌ですがぁ、実際に弟君とお話ししている中でぇ、竜王が本当に困った事から歌われたわけですね~。」
途中で歌を交えながら語る。その時にはユズナが曲を合わせて奏で、知っているメンバーは一緒に歌った。
今のエフェメルは歌のお姉さん状態だ!
「さて~、そんな竜王と弟君のお話の中でぇ、姉に会いに行くことになります~。だけど弱い弟君がぁ、一人でどこに行ったか分からないお姉さんを探しに行けるはずがありません~。
それで強くなろうと弟君は願ってぇ、竜王に色々と教えてもらうことになりました~。」
聞いているみんなが感嘆の声をあげる。そしてエフェメルが微笑みを浮かべながら語る。
「もうお分かりですね~。その弟君こそ、かつてこの世界で多くの人々に愛された英雄「リオン」君ですよ~。」
「それからリオン君は姉であるシーニャちゃんを探すためにぃ、レッドドラゴンの教えを受け成長しました~。
それから『ノルズウェッド大陸』の『ドワルブの町』でミスリス銀の装備を受け取りぃ、そこから旅が始まりました~。」
「ミスリルだと?!」
それを聞いてドワーフたちが叫び立ち上がる。バオも驚きの表情を見せた。
「どうかしたですか?」
ドワーフたちの慌て様にワオリが伺う。するとバオがそれに答える。
「一般的に普及しているミスリル銀だけど、我々ドワーフのミスリル技術は特殊で、他の種族が作るのに対して魔力の反応がすごくいいの。
魔力を込めれば込める程に硬度は上がり、一方で重量は軽くなるという出来で、かつてこの世界が生まれた頃には多くあったとされる『ドゥワルニウム』という金属を精製した技法が扱われているの。
言うなればドワーフにとっては門外不出の技法だから、それがもたらされたことに驚いちゃって…。」
そう語るバオに後でドゥイが捲し立てる口調で言う。
「それどころではないぞ!下手をすればドワーフの秘術を盗み出されてしまう事にもなるのじゃ。全く北の奴らは何を考えておるのじゃ!」
その様子によほどのモノであると察する一同。
ドワーフという人種はこの惑星エアルスの北半球と南半球にそれぞれ自分たちの王国を作り、それぞれ独立して発展させていった。それほど交流が多かったわけではないが、2年に1回はお互いの技術を語り合う(自慢比べ)交流があり、それによって自分たちの人種が絶えないようにしていたのだ。
憤るドゥイに、ベントが宥めるように言う。
「まぁ待てドゥイ。レッドドラゴンが認めただけに、北のドワーフも覚悟のうえで造ったのじゃろう。お主がもしレッドドラゴンに乞われれば拒否できるか?」
そう言われて何も言えなくなるドゥイ。更にベントは重ねる。
「それにじゃ、かの英雄の装備が我らドワーフの技術のモノだと宣伝してくれたのじゃぞ?竜王もそれを見越していたと考えればありがたいことではないか。」
素直に納得は出来ないがその言葉をしっかり理解出来たようだ。
「話を遮ってすまんな。続けてくれ。」
ベントが謝り、微笑みで返したエフェメルは再び語る。それに続いてユズナが竪琴を弾く。
「そして旅の支度を終えたリオン君はぁ、西に向かって旅を始めました~。レッドドラゴンから様々な知識を得る様にと言われぇ、それに倣って海を渡りぃ、オルハノコス大陸へ渡りました~。
西へという指示に従ってぇ、オヨコトの港町からリーブルサイドへ、それからキャラバン隊と共に更に西へ移動してウインダーマイルで別れ~、バトリスク領内の集落に立ち寄りぃ、そこで依頼を受けて北の村に向かいました~。」
語られる内容を頭の中の地図で追いながら聞き入るメンバーたち。その広大な距離によくぞまだ幼い子供一人でできたものだと感心する。
そこまで語ったエフェメルは隣に座るパァムへ視線を向けた。その合図に頷いたパァムは続きを語る。
「ええ、リオンおにぃちゃんが向かったのは私の故郷…ペレルークの村です。私が初めて会ったのはその時で、いっぱい遊んでもらいました。」
懐かしそうに微笑むパァム。今はすっかり成人した姿のパァムは少し言葉を詰まらせながら、ゆっくりと語る。
「まだ幼少体であった私と、双子の弟ポォムと遊んでくれて楽しかったです。それまで見たこともなかった他の種族のヒトだったけど、優しくて強くて…本当に楽しかった…。」
当時を思い出しながら色々と思い出してしまったパァムは泣いてしまう。そこをすぐに抱き寄せて労わるエフェメル。抱きしめながらエフェメルは語る。
「パァムちゃんは『コロプクル族』の最後の一人なんです~。だから思い出がこみ上げちゃった様のでぇ、また私が語りますね~。」
ぽんぽんと優しくパァムの背中を叩きながら、エフェメルは口を開く。
「その村はコロプクルの村だったんですよ~。やがてリオン君が旅立った後でぇ、魔獣が襲い掛かってきました…。
突然の魔獣の襲来にちょうど私が用事に訪れぇ、リオン君も異変に気付いて戻ってくれたから撃退はしたものの~、村全体が『魔素』(※魔獣の生体エネルギーのこと。負の要素が強く、浴びれば死に繋がる)に侵されぇ、パァムちゃんとポォムちゃん、そして村の長の三人だけが生き残りました~。
それから三人が住める場所を求めて~私たちの長い旅が始まったわけですぅ。」
懐かしがるエフェメルの表情。普段の少し御惚けた感じがなく、パァムを抱く優し気な姿に、彼女を知っているディアたちまでが見入ってしまうほどに美しかった。
そんな見る者が思わず頬を染める中、エフェメルの語りは続く。
「それからリオン君の来た道を戻り~、リーブルサイドでリオン君はようやく姉であるシーニャちゃんの居場所を知ります~。
彼女の居る場所はぁ、当時は世界の中心と言われたイデアメルカートゥン城塞都市でしたぁ。そこでシーニャちゃんはお医者様になるための勉強をしていました~。
リオン君を助けられなかった自分を変えたいとぉ、たくさんのヒトの命を守りたいと思ったみたいですね~。
そしてリオン君たちですがぁ、パァムちゃんたちをこちらの大陸へ送るためにも立ち寄る必要があったため、私たちの次の目的地となったわけです。
でもそこでギルドのサブマスターであった私はぁ、少しの間別行動することになったのです~。少しの間離れる事になりますがぁ、入れ替わりで二人の仲間が加わりました~。」
それを聞いてマフモフの耳が揺れる。
「ミムジアナとトーマスさんとはそこから一緒に旅するようになりました~。」
ミムジアナはマフモフの保護者という存在だった。そしてヒトでありながら平時のリオンと互角の実力を持ったトーマス。ライディン出身者にとっては、リオンよりもトーマスの方が英雄視されている。
「そして一行がイデアメルカートゥンに辿り着く頃、そこは大変な事態になっていました~。」
如何にも不穏な空気を漂わせる物言いに、聞いているみんなが表情を硬くさせる。
「かつて世界で最も強かったレッドドラゴンに並ぶ存在がいました~。その名は『海魔』。その海魔が城塞都市を襲ったのです~。世界で最も大きい海の主はぁ、このライディンを覆うほどの大きさがありました~。
思いもよらぬ来襲にぃ世界最大の町は恐慌に陥っていたのです~。」
ゴクリと誰かがつばを飲み込む。ユズナも少し緊張感を煽るようなテンポの曲に変更していた。
「ですがそんな中において~、シーニャちゃんは医者としてケガしたヒトたちを賢明に救助していました~。シーニャちゃんだけでなくぅ、町にいる様々なヒトたちが自分に出来る事を賢明にがんばっていました~。」
「「「おぉ~」」」
若い子たちから感嘆の声があがる。有名なお話なので詳細を知っている者は多いが、リオンをよく知るエフェメルの語りということで、皆が新鮮な感じで話に聞き入っている。
「ここからはシーニャちゃんから聞いた話ですが~、シーニャちゃんが少し休憩で建物の屋上に行った時にはぁ、すでに海魔は町に上陸していたらしいのです~。遠くからでもわかるほどの巨大さと~、それまで見慣れていた街の風景が無残に破壊されていたのを見て恐怖と悲しみが溢れ出たと言っていました~。」
先ほどは感嘆していたメンバーたちが沈黙する。
「そしてその時でした~。海魔の顔がこちらに向けられぇ、恐るべき攻撃魔法がシーニャちゃんたちのいる建物に向かって放たれたのです~!」
「「「!!!」」」
皆が緊張した視線をエフェメルに向けた。ユズナもその部分は聞いた事がないので奏でる手を止めて聞き入る。
そして皆が待ち遠しそうにしたところで、エフェメルは笑顔を向けた。
「女の子のピンチですねぇ!当然そこに現れたのは空を飛んできたリオン君です~!
盾とレッドドラゴンから教わった防御術を駆使してぇ、海魔の攻撃魔法を防ぎ切ったのでした~!」
「「「わぁ~~~~」」」
聞いていた皆から安堵と喜び、さらに女性たちからはドラマチックな展開に甘い吐息が微かに漏れる。
「そしてリオン君が来たわけですがぁ、当然海魔と戦いに彼は向かい、シーニャちゃんは自分の出来る事をがんばろうと、再びケガしたヒトを助けに向かったのでしたぁ~。
そこから海魔との戦いになるわけですが~、流石の大きさにリオン君も苦戦が強いられちゃいます~。だけどリオン君を見て町にいた人々は立ち上がり共に戦います~。
そしてついに海魔を倒すことに成功したのでした~。」
巨大な敵をみんなで倒したことで、皆から拍手喝さいが起こった。突出した強者だけでなく、ヒトがそれぞれ出来る事を成し遂げた結果と知り、自分たちもまた仲間と協力して成果を出していることに共感を得たのだった。
「それじゃ、そこで姉弟はやっと会えたの?」
興奮した感じでナッチョンが尋ねた。彼女はこの話を聞いた事の無い一人で、他の知らないヒトたちが期待する。
その様子にエフェメルがちらっと視線をある方向へ向けた。
その視線の先の人物が少し困った笑みを浮かべたが、ため息一つでウンと頷いて見せる。
了承と受け取ったエフェメルは、カップの水を少し含んでから話を再開させた。
「実はそこでは会えなかったんですよ~。
攻撃魔法を防いだ時にお互いの存在を確認は出来たみたいですがぁ、戦闘中でしたからね~、そこからまだお話は続くのです~。」
そう聞いてみんなが静まり返り、エフェメルに注視する。ユズナも再び竪琴を奏で、周囲で心地よい音が鳴り響く。そしてエフェメルの唇から言葉が流れ出る。
「実は海魔の正体は『海の女神さま』が悪魔に乗っ取られた状態だったのです~。そしてリオン君は乗っ取った悪魔を引きはがし、海の上で悪魔だけを倒しました~。
だけど彼は海で溺れたことで海に弱くぅ、それまで船旅だったためにご飯もろくに食べずに戦ったのでした~。
その結果、力尽きて海に墜落しちゃってぇ、そのままどこに行ったか分からなくなってしまったのです~。」
「「「えええ~!」」」
納得いかない結果に不満の声があがる。と同時に、その原因となった人物がフイっと視線を空に向けた。
「一方で大きな損害を受けたイデアメルカートゥンは被害の収拾などでばたばた状態~。
そんな中でパァムちゃんの村の長であったサーシェスねぇさんがぁ、海魔に囚われた女神さまと交神しました~。その結果、リオン君の居場所が分かりぃ、そこからリオン君を探しに行く旅が始まったのです~。」
「「「「おおお~~~」」」
ワオリたちが興奮した様子で声を出す。
「シーニャちゃんが自分から迎えに行くと決心して~、パァムちゃんたちのパーティーに加わりました~。同時にその場に駆け付けた私とぉ、私の大事な友人が加わってリオン君を船で追います~。
それから数日後、海上で無事にリオン君と合流した私たちは~、そのまま南の大陸にやって来たわけです~。」
聞いていた者たちがそれぞれの反応を見せる中、ナッチョンが尋ねる。
「ところでさぁ~、リオンさんて海で流されてたの?」
ギクッとする元海賊メンバー。それに対してエフェメルは首を振って答える。
「いいえ~。ある船に拾われてぇ、それでその船を追っていたんですよ~。」
すると今度はバオが疑問を口にする。
「船で拾ってくれたのに、どうしてそのまま大きな町に行かなかったんだろうね?」
再び背筋を伸ばす元海賊たち。じんわりと額に汗がにじみ出る。
「えっと~たしかですねぇ、その船は破壊された町に行けないと判断したからだったはずですね~。」
エフェメルはうまく言葉を選びながら答える。
「気づいたなら助けに行ってあげればいいのにね。」
若者たちの言葉が元海賊たちの胸をえぐる。その話の張本人であるレイラに至っては、覚悟はしていたがそれ以上に厳しい言葉を突き付けられたようで顔を空に上げたままプルプルと震えている。
子供好きなレイラだけに、若い子たちから非難を受けるのを避けたい状況だ。
「まぁ何にせよ、無事に合流できてよかったじゃないか。」
さすがにこのままではレイラたちの心が持たないと察してゼロが話を戻す。当然、リオンやシーニャに世話となったゼロはこの経緯をよく知っている。これで何とか悟られずに済むことで、元海賊たちがゼロに感謝するのだった。
安心した様子のレイラたちに微笑み、エフェメルは語りを続ける。
「そして私の友人は仕事のため離れ~、私たちはそこでレイラさんたちに出会ってぇ、このライディンへ乗せて来てもらう事になったのでした~。」
一斉にレイラの方に視線が向かう。僅かな差で心を持ち直したレイラは、内心では汗をかきながらも不敵に微笑みを浮かべた。
さすがは元海の女帝と呼ばれただけはある。
「海で会ったですか?」
ワオリの問いかけにどう答えたものか?と頷くだけのレイラ。そこにエフェメルが助け船を出す。
「そうですよ~。レイラさんたちがシーゴブリンたちに襲われていたので、それで助けたわけですぅ。
それで仲良くなって、ここまで乗せて来てもらったんですよ~。」
「そうさね。あの時はほんとに助かったさ。感謝しているよ。」
ようやく落ち着きを取り戻してレイラが語る。
そしてここからこの大陸でのリオンの活躍のお話へと移るのだった。
「そして私たちはこのライディンに着いたのです~。ここからのお話はよくご存じと思いますからぁ、簡単にすませますね~。
私たちの旅はぁ、パァムちゃんたちを住める場所に連れていくことでした~。それで当初の目的だったのが『リュナエクラム』という町でした~。」
「知ってるですよ。私が生まれたところですよ。」
ワオリが勢いよく言った。それに頷いたエフェメルは微笑む。
「そうですね~。当時このライディンはヒト科の中でもヒト系の人種のみで成り立っていた町でぇ、他の種族に対して見下した態度をしていました~。それはライディンだけでなくぅ、この大陸のほとんどの場所がそうでした~。
特にひどかったのが、そうした他の種族のヒトを奴隷として扱うことをしていた事です~。
今ではもう信じられないでしょうがぁ、僅か数十年前はそんな世界だったんですよね~。
でもそんな町を変えたのがリオン君で~、そのきっかけを作ったのはレイラさんなんですよ~。」
「ちょっ!やめとくれよ。昔の事さね。」
再び注目を受けて、今度は照れたような仕草を見せるレイラ。
「知っているヒトもいるでしょうがぁ、その取引がされる場所で大立ち回りして~、そして当時の町長と話し合った結果ぁ、他種族を引き入れる事に賛成してくれました~。なので今のライディンになったのはぁ、そこが出発なわけなのですよ~。
そして私たちは目的地であるリュナエクラムへ向かったわけですがぁ、途中でエルフの郷に迷い込んでしまいます~。
当然そこにはエルフの女王であられるセルディア様とお会いすることになったのですが~、何も知らないリオン君は平然と対応する始末…。さすがの私もあの時は震えあがっていましたよ~。」
少しおどけてみせる態度に聞いている者たちから小さな笑いが起こる。しかし、聞いていたダークエルフの一部、特に長であったブダネや年の近いプロイムは「ありえん!」と呟きながら目を見張っている。
「ですがそんなリオン君をセルディア様はお笑いになりながら気にいられてぇ、そのままお目通りもさせて頂きました~。
そして我々を客人としてお認め下さりぃ、同時にお願いをされました~。」
「「おねがい?」」
気になった言葉を尋ねるナッチョンやバオがハモる。
「えぇ、そうです。それはまた別のお話の機会にしましょうね~。
そして私たちは再びリュナエクラムを目指します~。
その矢先でしたぁ。すぐ近くで戦闘が行われているのを知りぃ、更にはそれがリュナエクラムでのことだったのです~。
ちょうどそこで初めてワオちゃんとお会いしたんでしたね~。」
「そ~ですよ!あたしたちはゴブリンに襲われていた所を助けて貰ったですよ。」
勢い込んで言うワオリ。
「あれはホント驚きましたよ~。ワオちゃんたちが森の方へ向かって逃げてきていた方向とぉ、私たちが向かう方向が同じで良かったですがぁ、すれ違っていたら大変でしたね~。
でもそこはこちらのパァムちゃんがしっかり気配を探ってくれて~、リオン君が見つけてくれたことで辿り着けました~。」
少し落ち着いたパァムが頬を染める。コロプクルという小人族で、美しい顔立ちが照れて見せると、場にいた男たちが一斉に赤面する。
そんな男たちの視線にニヤニヤしながら、エフェメルは話を進める。
「コホンっ!…そしてそこでワオちゃんの他にも数名の子供たちとダンガさんがいて~、負傷者をシーニャちゃんが助ける間に、リオン君はリュナエクラムを襲ったゴブリンとグランデュシュテルン軍を打ち破ったのでした~。」
ここで沸き起こると思ったエフェメルだったが、何故かほとんどのメンバーの表情が暗い。どうしてだろうか?と思っていたが、先ほどから自分自身気付いていた疑問を口にした。
「そう言えば、ダンガさんは~?」
その問いかけに誰も答えない。中にはグッと奥歯を噛み締めている姿も見える。それでエフェメルは察し、パァムは驚きの表情で口元を押さえた。
「…そうでしたかぁ…続けますね~。
リオン君が打ち破ったことでリュナエクラムの長であったマドカさんと話し合って~、みんなを連れてここライディンへ戻りました~。そして長同士と、私やリオン君、シーニャちゃんで話し合いの場を作り、この町が生まれたわけですね~。」
ここでようやく、この町が出来たきっかけを聞くことができた面々。幼かったワオリにしても、こうして聞いた内容は初めてであった。
「この町を作るきっかけを作ってくれた人なんだね!凄いヒトなんだね、リオンさんて。」
ナッチョンが感心した風に呟く。それに相槌を打つ他の面々。リオンという名を聞いたことはあっても、単に『凄いヒト』という意識しかなかったわけだが、こうして話を聞いて実感した者は多い。
かつて共に過ごした事のあるレイラなど、空を見上げてはその瞳を潤ませている。
「まぁ、リオン君の名前は世界中に知れ渡っていますからねぇ。特にこの隣のグランデュシュテルン王朝で皇帝陛下と仲良くなっちゃいましたからね~。」
「え?そうなのですか!」
ディアが思わず叫ぶ。これにはダークエルフたちが驚きを見せた。近隣において、長きにわたり王朝から苦汁を強いられた種族である。しかしある時からその心配がなくなったのだが、ここでその理由を知る羽目になる。
「あれ?ディアは知らなかったんですかぁ?というか、ブダネ様も知らなかったですか~?」
「当たり前じゃ。ある日突然攫われた者達が戻ってきて、これからは襲いに来ないとだけ言われたのじゃ。事情も何も、お主自身何も伝えに来んかったではないか。」
叱られ口調に後頭部を摩るエフェメル。
「あ~…まぁ今話しますからそれで~。」
「当たり前じゃ、説明してくれ。」
そんな同族に対する態度に彼女を知る数名は「相変わらずだな」と思いながら微笑み、それ以外の者は更なるお話に興味津々だ。
「と、その前にですがぁ良いですか~?」
エフェメルの真剣な視線がユズナに向けられた。
それに対して「ポロ~ン♪」と奏でたハーフエルフは少し硬い表情で微笑み頷く。
「では、話しますね~。ライディンが新しくなって行こうとする中、私とリオン君とシーニャちゃん、それに数名のメンバーでグランデュシュテルンへ潜入しました~。
理由はエルフの郷でセルディア様と交わした約束を果たすためでした~。
その内容はぁ、そこに居る少女の様子を見に行くこと。で、場合によっては連れ出す事でした~。
私たちはシーニャちゃんの機転で難なく巨大な門を抜けて、目的地へと向かいました~。
目的地は多くの種族のヒト達が強制的に働かされている場所。そこで目的の少女を発見してぇ、その状況からぁ、セルディア様の元へ連れて行くことにしました~。
同時に多くの囚われた多種族の方たちを開放し、皆で南に向かいました~。
でもその先には来る時は通れた巨大な壁があり~、私たちの行く手を遮っていました~。同時に迎えるのはグランデュシュテルンの兵士10万人です~。」
「10万?!」
その数に一同が驚く。
「リオン君はたった一人でその全てと相手しに向かいました~。まずは数千の兵が立ちはだかりましたが、物ともしませんでした~。
そんな中で、相手の一部隊が勝手に行動を開始したようでぇ、それによって後ろで控えていた私たちに襲い掛かり、その最中でシーニャちゃんが凶刃に倒れてしまいます~。」
「キュィーーン」
途端に金切声のような高い音を立てて竪琴が音を止める。皆が驚いた顔でユズナを見ると、その表情はうつむいたままで伺う事が出来ない。
「ユズナおねぇちゃま?」
皆が心配そうな目を向ける中、エフェメルは瞳を伏せる。
「ユズナちゃん、落ち着いて。」
誰もが何も言えない中、ウミミンがその手を握り、俯かせた顔をじっと見つめる。
少ししてユズナはフゥ~っと大きく息を吐くと「ごめんなさい」と言って椅子に座って俯いた。
思わぬことに皆が囁き合う中、エフェメルの声が響く。
「その時、連れ出した少女というのが幼いユズナちゃんだったのです~。閉じ込められた空間でずっと監視されていた彼女を救い出したのはシーニャちゃんで~、目の前でそれを見てしまったから思い出しちゃったのでしょうね~。」
皆の労わるような視線がユズナに向けられる。いつもみんなを励ましたりしてくれる明るいユズナだけに、過去にそんなことがあったのだと知って何とも言えない表情の者ばかりだ。
すると場を一変させようとエフェメルが柏手を一つ鳴らした。
「(パンッ)でも!そこで現れたのはグランデュシュテルン皇帝『ファンネルゼ陛下』でした~。シーニャちゃんが倒れて当然怒り、荒れ狂ったリオン君を止めてぇ、その場でシーニャちゃんの傷を塞いでくれました~。その際、陛下だけでは足りなかった魔力をユズナちゃんが協力してくれたのですよ~。
これによって戦いは収束してぇ、リオン君と皇帝陛下は和睦したのでした~。
依頼、陛下は臣下に任せていた政を取り戻し、王朝を更に発展させていくのです~。周辺の他種族との調和もぉ、その時から変わったわけなんですよ~。」
「凄いヒトですね!聞いたことのある名前の方ばかりでしたが、その全ての方と面識を持っているなんて。」
バオが目を大きくして呟く。
「まぁ~確かにいろんな方に出会った旅でしたねぇ。でも誰と会っても彼の態度はいつも変わらず、誰に対しても同じように接する人でしたから~、それが受け入れられるところがリオン君の魅力なんでしょうねぇ~。」
しみじみとその頃を思い出すように呟くエフェメル。同じくパァムも頷きながら思い出しているようだ。
「そして旅は終わったの?」
待ち遠しそうな感じでナッチョンが尋ねる。それにハッとしてエフェメルが少し慌てたように語る。
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと浸っちゃいましたねぇ。
その後、セルディア様のとこへユズナちゃんを連れて行き、私たちはライディンへ戻っていくのですがぁ、実はシーニャちゃん。ユズナちゃんに懐かれてたから、すごくしょんぼりだったんですよ~。」
そう聞いて竪琴を奏でつつ、ユズナが苦笑する。そしてセルディアの元で、母の精神体と過ごした日々を思い出す。
「まぁ、それもすぐに切り替えさせられる出来事があったわけですが~、ちょうどその頃ライディンに向かって5万もの悪魔の軍勢が押し寄せていたのですよ~。
私やぁリオン君たちが辿り着くまでに戦いは始まっちゃいましたぁ。」
「「「ご、5万?!」」」
聞いていた者たちから驚きの声があがった。
「はいそうなんですよ~。後で知りましたがぁ、その軍勢を率いたのは『イッカク』と『ニカク』という悪魔たちでぇ、目的は今この地を支配 している『ジルデミオン』の復活でした~。」
ちょうどこれから戦う相手の名前を聞いて、一同の間で緊張感が漂う。
「その悪魔たちがぁゴブリンやリザードマンたちを連れてぇ、このライディンへ迫ってきたわけなんですよ~。」
するとワオリが興奮した様子で言う。
「そうでしたよ!すっごく大きいのが二人もいたですよ。そしておかぁしゃまたちが戦いに行ったですから、あたちたちは木の上で応援してたですよ。」
「あ~、そうでしたね~。この中にも当時の事をご存じの方もいらっしゃるでしょうね~。
本当に壮絶な戦いでした~。押し寄せる亜人たちを前にぃ、多くの種族のヒトたちが一緒になってその進行を食い止めたわけですよね~。
その中で最も勇敢だったのがぁトーマスさんでした~。形勢を覆すほどの勇猛な戦いでぇ、単身1万もの亜人たちを倒したのですから~。
その戦いぶりに亜人たちが恐怖を覚えていたと聞きましたよ~。」
戦いの中で負傷を負ったトーマス。その傷が致命的だと悟って、己の命を燃やし尽くさんばかりに『狂戦士』として戦い続けた。傷を負おうとも構わず突き進み、怯まぬ姿は亜人たちを恐怖に震えさせ、仲間たちの戦う心を奮い立たせた。
「そしてトーマスさんが稼いでくれたおかげでぇ先に飛んで駆け付けたリオン君が間に合ったわけです~。その背にはポォム君もいて、残る亜人たちはパァムちゃんたちがまとめてやっつけてくれましたぁ~。
そして残った悪魔たちですがぁ、皇帝陛下が助けに来てくれてぇ、リオン君と二人が両方の悪魔を倒してくれた訳なのですよ~。」
悪魔との戦いに勝ったと聞いて、聞いていた者たちの心も奮い立つ。そうして頑張ってくれた先人たちがいることに感謝しつつ、自分たちもやってやろうと気分が上がった。
「こうしてライディンは無事だった訳でした~。そしてリオン君の旅は終わりぃ、シーニャちゃんと二人で静かに暮らしたというわけです~。」
ちょうどユズナの奏でる音楽もキリが良いとこで終わり、聞いていた者たちから拍手喝采が起きた。
「や~、ありがとう~ございますぅ~。こうしてお話出来た甲斐がありますね~。」
後頭部に左手を添えながらにっこり笑うエフェメル。そしてワオリたちは興奮のまま近くの者たちと語り合う。
大きな戦いを終えた後だけに、話の内容も相まって周囲の状況は良い雰囲気だ。
こうして再び食事戻っていく面々。そこでゼロが問いかける。
「それではエフェメルさん、今リオンさんはどうしているんだ?それと、あなたがここに来た理由は何だ?」
和やかであったムードを一変させる一言。確かにそれほどの強者が今のこの悪魔の世界を静観しているとは思えない。
そしてまた、自分たちの知らない世界ではどのような状況になっているのか?エフェメルやパァムはそれまでどの様に過ごしていたのか?
突き詰めていけばいっぱい聞きたいことはあるわけであるが、その内容は聞きたいような、聞いてはならないような気もする。
せっかく良い雰囲気のままなので、ユズナが視線で非難してくるが、これを聞かない事には前へは進めないという気持ちがゼロはしていた。
「ゼロお兄ちゃまの言う通りですよ。あたちも、今の世界がどのようになっているのか知りたいですよ。」
ワオリが一口肉を齧り付いた後で言う。リーダーがそう言ってしまうと、メンバーも皆がその意見に乗っていくわけで、エフェメルは微笑みのまま様子を見ていた後、大きく息を吐く。
「はぁ~~~~~~。本当はこのムードを壊したくないんですけどね~。だけど知らなければならないのも事実ですしぃ、それを聞いたタイミングが悪かってもいけませんね~。
仕方ありませんね。私の知る限りをお教えしましょ~。だけど、この話を聞くにあたってはぁ、それなりに覚悟はして下さいね!」
いつもののんびりした口調ではなく、最後は毅然とした口調で注意される一同。そのことから、今から聞かされる話がどれだけ残酷なものになるかを物語っているようだ。
「あぁ、すでに多くの事を経験し、そして戦うと決めたんだ。過去にあった事実を知るぐらいの覚悟は出来ている。」
ゼロの鋭い視線が受け止めることを語る。そしてそれはそこにいる皆が共有した思いである。
「…わかりました。それではお話しますね~。
ですけど今一度言います。これは私の実際に見て来たことだけのお話です。事実であり、分からないものは分からないと割り切ってください。」
再び皆の視線が集まり、生唾を飲む音がする。
先ほどとは大きく変わった空気の中で、エフェメルの口調もキビキビとしたもので語られるのだった。
お読み頂きありがとうございます。
そして丸々2か月も時間を空けてしまったことをお詫び申し上げますm(__)m
年末年始で忙しかったのはありますが、実は今回を書くために第1部を読み返しておりました。
その為かなり時間がかかってしまいまして、第6章のはじまりが遅くなってしまいました。
それにしても読み返して思いましたが、誤字があまりにもひどすぎました!
先に別で物語を書いて、それからこちらにコピペしておるのですが、その際に変換が上手くいってないものもありましたが、明らかに私自身の誤りも多く、こんな文章をお読み下さっていたことを改めて感謝申し上げます。
また機会を見てきちんと清書し直しますので、これからあった場合はご指摘くださいますと助かります。
さてさて今回の内容についてですが、これから物語が大きく動くことになり、エフェメルとパァムが登場したことで、必然的にリオンに焦点が移るわけです。
お気付きと思いますが、第2部冒頭でリオンがどうなったかをお察しのことと存じますが、その辺りも含めて、次回エフェメルから語らせることと致します。
世界の状況、エフェメルやパァムのこれまで、そしてリオン達のことと山ほど書くことがありますが、きちんと整理しながら楽しんで頂けますよう努めます。
また少し時間がかかるかもですが、どうぞこれからもよろしくお願い申し上げます。
寒さがなんだか不安定な日々で、コロナの影響で過ごしづらい日々をお過ごしのことと存じます。
ですが日々その中で頑張って下さっている医療従事の方々をはじめ、様々な分野で人々の暮らしを守って下さっている方々に感謝しつつ、自分に出来る事を精いっぱい務めて、みんなでこの状況を改善できたらと願います。
皆様、ご自愛と共に頑張って参りましょう。
それではまた次回まで失礼いたします。




