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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
84/93

黒き鎧と攻殻(第2次ライディン防衛戦)

ライディン北門での悪魔の侵攻が終わり、ワオリ自身も何とか落ち着きそうになったことで、

この戦いもようやく最後の戦いを残すこととなった。


そしてここでようやくナチュラルフロンティア最強の戦士が動き出す。

 ライディンの町への悪魔側の進攻が途切れたことで、上空にて偵察を行っていたバードゥンたちは安堵のため息をつく。

 実際に悪魔側の進攻があったのは北門だけではなく、陸地に面した西側からも亜人たちを中心とした部隊が襲い掛かっていた。

 ワオリたちがこのライディンを取り戻すために進攻した西門。当然そちらからの軍勢を想定していたウミミンは、その防衛としてアルツェンをリーダーとしてダークエルフの部隊と巨人たちが配置された。

 強力な巨人たちを前に亜人たちは踏み潰されるしか出来ず、また数体いた悪魔たちもダークエルフの魔法と巨人たちの連携によって事なきを得た。

 こうしてライディンの町は無事に防衛することが出来たのだった。

 

 しかしこの戦いはそれで終わりではない。向こうからの進攻は途絶えても、悪魔側の此度の目的はライディンの町にいるヒトたちの殲滅である。惑星エアリスの各地にあった反抗勢力根絶のため、各地で多くのヒトが散っていった。

 当然、悪魔たちにすれば相手を根絶やしにするまで戦いを終えることはない。だからブラングチュールやジュニュキールといった強力な特級悪魔がやられようとも四大公である『ジルデミオン』は健在であり、この軍の指揮官である悪魔大将軍『エスペティッカ』は本陣で戦いの様子を覗っていた。


 漆黒の鎧をまとい、仁王立ちしている武者がいる。地面に鞘のままの愛刀を立てて両手を柄尻に置いた姿は『威風堂々』という言葉を思い起こさせるほどに雄々しい。この存在こそが侵攻する悪魔たちの指揮を執っているエスペティッカだ。少し高い丘の上で木々を越してみる果てにあるのは、自分たちが今滅ぼさんとするヒトの町だ。

 およそ10km先にあるその町の門前で、先ほど青い鎧が倒れ落ちたのを見た。その後、次々と悪魔が倒されたのも確認している。

 自分の腹心の部下である青い槍使いの武者。前回は強力な超範囲魔法によって敗軍の将となったあの者は、この戦に己の名誉をかけていた。

 そして此度は自分の配下として参戦し、前回の雪辱を晴らさんと攻めていったのだが、結果は奴にとって無念であったことだろう。

 自分にとって刀を極めんとするのと同じく、奴は槍を極めんとしていた。故によく刃を合わせ、共に戦いあったものである。そんな存在であったが、もはやここへ戻ることは叶わない。

 ヒトであったならば居なくなったことを哀しむやも知れぬ。

また、ヒトであったならば怒りに震えていたかもしれぬ。

されど自分は悪魔であり、部下を倒されても何も感じることはない。

 自分にとっては刀がすべてだ。剣術を磨くことでここまでやってきた。その中でジルデミオンと出会い、自らが勝つべき目標として仕えている。

 そして自分の家来が倒された以上、自らが戦うだけだ。この戦はヒトを殲滅するのが目的であり、それが成されるまで終わることはないのだ。


 体内の核に意識を向ける。身体中に魔力が満ちるのを感じ、戦意が沸き上がるのを感じる。

「あ奴を倒すほどの手練れ…、さぞ斬り甲斐があろう。」

 兜の面部分がにやりと笑う。戦うという事のみに悦びを感じ、愛刀を操って敵を斬ることをただ一つの目標とする。

 純粋なまでに戦いを好む正に『戦闘狂』であるが、悪魔たちは己の欲求を満たすこと生業とするモノ。そしてジルデミオン直近の悪魔たちは『戦闘』を好むモノばかりである。

 強者との戦いによって己の技が磨かれ、倒した相手の魔力を得ることで身体も強化される。そうすれば更なる強者と戦うことが出来る。

 そのためには戦うために剣技を磨くことになる。

 己の欲望が見事に循環していく道理に、ジルデミオンの家来たちは強者ばかりだと悪魔たちの間で認識されている。


 十分に己の体内に魔力が満ち、戦意も上がったことでエスペティッカは刀を抜いた。そして背後に向けて刀を振る。

真横一文字に閃光が走り、斬撃が空を斬る。それによって時空が裂かれ、即座に修復する。

 空間の歪みによって周囲の空気が吸い込まれる。同時に石が転がり、草木が引き抜かれる。瞬間的な現象で大きな被害は見られないが、放たれた剣撃はそのまま奥へと進み、やがて激しい音を立てて打ち消された。

「ほぅ…。」

 意外そうな声になかに、悦びの色が混ざっている。背後より迫った気配に対して遠慮なく放った攻撃だった。当然その気配を斬るつもりだったが、それを防がれた意外感の言葉に、強者が現れたという愉悦の感情が漏れたのだ。

 エスペティッカが正面を向ける。そしてその目で相手を見定めようとした。

 そこに現れたのは真っ黒な攻殻に覆われたヒトの形をした者だった。

頭部にカブトムシのような一本角を生やし、全身を覆う攻殻は昆虫をイメージさせる実にシンプルな印象のフルプレートメイルである。

昆虫のような攻殻を身に纏う者たち。当然エスペティッカはその種族に予想を立てるが、敢えてそれを口にはしない。

「我が太刀を受けきるとは強者と見える。我は大将軍エスペティッカ。そなたの名を聞こう。」

「…ゼロだ。この軍の大将はお前か?」

「左様。我が軍の者たちを相手に見事な戦いである。」

 そう答えるエスペティッカにゼロは北門や西の方角を一瞥する。

「あとはお前だけしか残っていないようだが?」

「うむ、我が家来たちは倒されたようだ。あ奴らは決して弱くはない。ヒトと思って甘く見ておったわけではないが、まさかここまでやりおるとは思ってはおらんかった。」

 そう言いながら抜いていた刀に左手を添える。両手で掴んだその太刀を右足前に構え、左足を半歩下がらせる。

 その姿勢にゼロはすぐさま動けるよう膝を軽く曲げて腰を下ろし、両手をそれぞれ腰の横に添える。

 ゼロが態勢を取った瞬間、黒い武者がその眼前に迫った。一瞬で10メートルほどの間合いはなくなり、下から斬り上げられた刃が喉元へ襲い掛かる。

 しかしそう来るであろうと分かっていたかのようにゼロは身体を僅かに右へと寄らせ、刃は顔のすぐ左を通り過ぎる。それと同時に、右拳を繰り出し空いた脇腹を狙う。

そこへエスペティッカの左足が蹴りを放ちながら牽制し、ゼロは攻撃を止めて大きく下がる。

 下がると同時に頭のあった場所へ、刃が振り下ろされた。もしもあのまま攻撃を繰り出すか、蹴りを受けながら攻撃したなら、今頃頭部は切断されていただろう。

 ゼロはあまり離れすぎない間合いで先ほどのように構える。相手の動きに対して即座に対応できる構えだ。

 エスペティッカも先ほどの下段の構えでゼロを正面に捉える。

「よくぞ躱したものだ。これほど見事に躱されたのは実に久々である。」

 下から迫る攻撃は、何かと距離感を掴みづらく難しい。大概は大きく引くなどして躱し、次に振り下ろした攻撃で勝負が決まることは多かった。

 だけどそうはならず最小の動きで躱し、更には反撃してくるという相手は、実のところ初めてだった。

「さて、ならば次はどうだ?」

 再び目の前まで一気に間合いを詰めてきたエスペティッカ。そしてゼロにぶつかるかというほどまで近づくと、手にした刀を薙ぐように放つ。顔を向けることで相手の意識をこちらに向けさせる中で、狙いは相手の足元。派手さはなくとも、実践において最も効果的な攻撃だ。

 当然迫る相手に攻撃を繰り出してくることもあるが、それらは必ずこちらの顔に向けられる。来ると分かっていれば如何様にも躱したり防いだりできる。どのように攻撃されようとも、それを躱してこちらは致命傷を与えることはこれまで幾度もの死合いの中で磨いてきている。

 このまま何もできずに足を斬り落とされて終わる相手も幾度も見てきている。だからこそ、絶対的な自信をもって刃を相手の足へと向かわせた。

 斬ったと思ったエスペティッカ。

その瞬間、自分の眼前にあった一本角の顔が突如と消え、その刃が止められる。同時に自分の腕に衝撃を感じ取り、咄嗟に間合いを開ける。

下がる瞬間、自分の刃の近くに相手の顔があり、右側を前にした半身となってしゃがんでいた。そしてその右拳が突き出されていることから、自らの左上腕に拳が入れられたことを知る。

「ヌッ!」

 左腕に力が入らず、態勢が不利と感じ取ったために後方へ飛んだが、今度はゼロがその距離を詰める。

 攻守が入れ替わり、ゼロの両拳が襲い掛かる。それを片方は躱しつつもう片方を刀の柄で防ぎ、反撃の間合いを狙う。

 当然相手が刀を振る間合いを作ろうとしていることは分かっているゼロ。無手として絶好の間合いである今、相手に刀を振らせぬよう近接状態で攻めていく。離れようと動きながらしっかりと柄尻や膝でこちらを牽制する悪魔と一進一退の攻防を繰り返す。

 エスペティッカも長く戦いの中で生きてきただけに、至近距離で攻撃されることも経験している。こうした場合の戦いも出来なくては、悪魔大将軍という地位には居られない。

 それでもゼロの攻撃は過去のどの相手よりも激しく、そして正確にこちらを攻めてくる。

 躱しきれずに鎧で受け止める度に痛みを感じる。その拳の一突きごとにズシリと重みがあり、鎧を通してダメージを負わされる。それでいてこちらの攻撃は両手で見事なまでに往なされ、有効打を与えることが出来ない。

 そんな苦しい戦いを強いられていながら、エスペティッカは悦びに震える。強いモノと戦う事が楽しく、これまで自分の得てきた技を駆使出来る事が嬉しい。

 戦いにおいて自分の望む状況を維持することは難しく、相手との明らかな力量差があるならば自分の望むように進められるが、そうでなければ不利な状況で戦う事が当たり前となる。

 そうした場合において、「しまった」や「何とか状況を変えなければ」などという焦りや不安を感じてしまうと、それが余分な力を出させたり動きを鈍らせたりして、敗因へと結びついてしまうだろう。

 だがその状況を当然と考え、更にはそれを良い経験と割り切った場合、危機的な状況であっても冷静に対処する余裕が生まれる。

 エスペティッカはそうした精神の持ち主である。だからこそ攻撃を受ける事さえも当然であり、不利に陥ることも楽しむことが出来ている。

 一方でこうした優勢な状況になると勝機に焦ったり、攻め立ててしまおうと逸ったりしやすい。一気に勝負を決めてしまおうとして大振りな動作を行い、そこを相手に突かれるという事は、逆転されて敗れる大きな理由だろう。

 千年を生きる悪魔エスペティッカに対し、僅か二十数年という時間しか生きていないヒトであるゼロ。今この状況でゼロが焦らずにいられるかが重要となる。

 エスペティッカは当然相手に焦りなどから隙が生じるものだと経験上理解しており、それを覗っている。すでに左腕の状態は戻っており、ゼロの攻撃を防ぎつつ流れの変化を待っている。

 それなのに相手の動きは一片の隙を見せずに続く。しばらくしてエスペティッカは自分の考えが不適当だと思いなおす。

 エスペティッカはゼロの種族がインセクティアだと予想している。魔力を一切通さぬ攻殻という鎧を身に纏った戦闘種族。自分たち悪魔にとって最も脅威となる存在で、この次元に戻った時は最優先にインセクティアを絶滅させた。

 普通に戦ったならば悪魔にまず勝機はない。しかしインセクティアには大きな欠点があり、限られた時間を過ぎると自我が纏う攻殻に喰われ、やがて魔蟲へと成り果ててしまう。そうなれば理性の無い魔蟲など悪魔にとっては容易い相手である。

 だからこそ先ほど見た時点でエスペティッカは生き残りがいたことに驚きつつ、時間を稼ぎながら相手が焦ることを待つことにした。

それなのに相手は微塵も焦りなどしない。考えてみればすでに姿を現した時点で攻殻を纏っており、時間とすればとうに過ぎているはずだ。

ならば相手は自分の知らぬ存在なのだと認識し直したのだった。

一方のゼロであるが、戦いの中で勝機を見出し、それを逃さず一気に畳みかける状況であっても、細心の注意を払いながら着実な手を重ねるようにしている。ここで急いで強力な攻撃を与えようとも、それによって僅かながらに隙が生じて状況が覆る可能性を知っているからだ。

ヒトとして、更にはこのインセクティアの攻殻を纏う事になったとしても僅か10年余りしか経たない短い時間の中で、ゼロがここまで戦い慣れている理由。それは教えた者の影響が一番だろう。

彼も生まれたときはごく一般的な少年で、戦いとは無縁な旅商人の両親のもとで生まれた。両親の愛を受け、優しく朗らかな少年と育ったが、悪魔の進攻によって両親の所属する旅団は襲撃を受けた。

それはほんの一瞬の事だった。父親の操る馬車の中で母と語らっていたら、突然馬車が大きく揺れて横転した。

気が付けば母に抱かれた状態であったが、その母は馬車の壊れた木片を背中に受けて死んでいた。横転する馬車の中で我が子を守ろうと抱きしめ、その身を挺して子を守ったのだ。

返事のない母を助けようと何とか馬車から出たゼロの目には、悪魔たちが他の馬車を攻撃しており、目の前では父親がその体に無数の刃を突き立てられたところだった。

悪夢のような状況に幼いゼロは悲鳴をあげて逃げる。しかし子供の足では到底逃げる事など出来ない。

そんなゼロの身体に悪魔たちが襲い掛かった。弄ぶようにその体に傷を負わせ、腕や足を引きちぎった。

痛みと出血で死にそうになると、魔力を用いて血を止め、精神系の魔法で意識をもうろうとさせた。

その結果、ゼロの身体は魔力障害を起こす事となったのだ。

最早虫の息というところでリオンたちが通りかかり、そこでシーニャがいたことで一命を取り留めたゼロ。

それから多くのヒトたちのおかげで、ゼロは動ける程に回復した。正確に言うと元の身体とは大きく変態してしまったが、ゼフィルートという旅団で生まれた少年の心は変わりない。

命は助かったが、その後がどれほど過酷であったことか。魔力を受け付けられない事で、魔力に秀でた種族であるエルフたちとの暮らしは、緊張と不便な生活だった。また、魔力の代わりに霊力を取り入れるためにその身へ宿した霊蟲の影響は、痛みと嘔吐が慣れるまでずっと続いた。

そして新しく生まれ変わった身体を馴染ませるため、辛い体調のまま修業が行われた。慣れるためには動かなければならず、その気が狂いそうなほどの身体状況のまま日常生活はおろか、戦闘訓練までも行わされた。

教えるのは当然リオンであり、かつて自分がレッドドラゴンから受けたことをそのままゼロに強制した。

流石に加減が分からないリオンの暴走に対して、シーニャが徹底管理することでゼロは日々を送れたし、魔力の影響に対しては常にそばでいてくれたユズナが助けてくれた。

幼い故に愚痴や泣きべそは何度も漏らした。

あまりの過酷さに親と一緒に死んでいたらと思ったこともある。

かつての楽しかった日々を思い出して悲しみに暮れたりもした。

だけど、そんなゼロをリオンやシーニャ、そしてユズナは懸命に支えてくれた。

そしてある時、ハイエルフであるセルディアが教えてくれたことが、ゼロの今後を指示した。

馬車の中で母親が自分を抱きしめて庇ってくれた理由。それは自分よりも息子を守ろうとした行動だ。それにはゼロ自身に生きてほしいという気持ちが込められているとセルディアは語ってくれた。当然母の言葉を聞くことはもう出来ない。だけどそれまで自分をどれほど大事にしてくれたか気付くことも出来た。そう考えればその意見に納得できる。

ならば自分は両親や世話してくれるユズナたちの想いに応えなければとゼロは懸命に訓練を行ったのだった。


その結果、ゼロはリオンに鍛えられ、シーニャやセルディアから多くの知識を学んだ。短い期間であるがレッドドラゴンにも教えを乞うことも出来た。

世界最高のヒトやエルフたちから教習を受け、更にそれらを精進してきたゼロ。彼の強さはこうした理由から為された結果なのだ。


 己の経験のみで強さを得たエスペティッカ。

 様々なヒトたちから学び、修練してきたゼロ。

 時間的には大きな差があるが、経験不足を知識として得たゼロは、その知識から様々なことを思い巡らせ、己の身体に刻み込んだ。

 追い詰められた時、相手は奥の手を持っていることも想像できる。隙を見せてこちらの出方を見ているという事もあり得る。

 隙をつかないという事は愚か者の行動であり、功を焦って無理をすると、逆にこちらが隙を見せてしまう事になる。

 だからこそこのチャンスにおいてもゼロは焦らず、堅実に攻めていく。確実な勝利を手中に収めるため彼の攻撃は変わらず続いた。


「ヌゥゥ…」

 刀を振るには近すぎる間合いで防戦一方のエスペティッカ。何とか防ぎつつ状況を覆す方法を探っているが、相手の攻撃が不規則でタイミングが掴めない。

(この者、我ら以上に強い!)

 そう素直に認めなければならぬ状況だ。そしてこの者が4大公であったパルドスを倒したのだと実感する。

(パルドス卿を倒したと聞いたときは、どのような方法を取ったのかと思っておったが、この強さならば頷ける)

 4大公の中で魔力が大きかった巨人族のパルドス。しかしその強大な魔力と巨人族という戦闘に恵まれた身体から力任せな戦いだけをするため、他の3名に比べて大した脅威とは思っていなかった。

 だが強大な魔力はそれだけで相手を圧倒できる。だからこそあの地位で居られたわけだ。

(致し方ない、覚悟を決める!)

 エスペティッカは左腕を背後に回す。当然その間にも拳は迫っており、鎧へ無数の打撃が加えられる。重く、衝撃は鎧の内部までにも達するほど強烈な攻撃だ。黒い胸部装甲が凹み、更には亀裂が走る。それを魔力で次々に修復させるが、強者の拳は容赦なしに打ち込んでくる。

 そしてついに亀裂が裂けて穴が開く。鎧そのものが自分の身体であるエスペティッカに懐かしい痛みが生じた。

 だがそれと同時に退けた左腕が目的の短刀を引き抜き、大きく回しこむ様にして斬りつける。刀が刃渡り92cmあるのに対し、エスペティッカの使う短刀は20㎝弱ほどだ。しかしその分短い間合いで扱うには最も適している。

 ゼロは相手の左腕が大きく動いたのに気付くと、自分の右側に異様な気配を感じた。それで無理せず相手との間合いを開けると、避けたその場を短い刃が空を斬った。

 刃が走り抜けた空間を風が走る。そしてその空気が刃となり、至近距離から斬撃がゼロに襲い掛かった。

 避けきれずにゼロの首にあるネックガード部分がスパッと斬り離される。それを知ってゼロはそのまま間合いを取って構え直した。

 エスペティッカも油断なく直ぐに短刀を腰にしまうと、再び刀を構える。先ほどまでの下段の構えではなく、へそ部分の前で刀を持つ正眼の構えだ。

 互いに構えたまま睨み合う。

「見事な戦いぶり。もしやお主がパルドス卿を倒した者か。」

 エスペティッカから声をかける。それに対してゼロも左手を胸の前に添える左半身で構え、腰には右拳を作っている。

「シュラハティニアの巨人か?確かに倒したな。」

「はっきりせぬ答えだな。されど、それだけの強さであれば納得できる。ならば我も全力をもって相対しよう。」

 チャキッと刀が鳴る。その音と共にエスペティッカの足元から魔力が走り、ゼロに向かって亀裂が襲い掛かる。魔力の刃が大地を切り裂きながら放たれているのだ。

 襲い来る魔力の刃はすぐに気づいていたゼロ。しかしその刃を避けることは止めた。この刃は牽制の一撃。十分な殺傷力を持つ斬撃ながら、それを避けたところで相手の突進力であれば即座に間合いを縮めて来るだろう。

 即座にそう判断したゼロは、大地に向かって拳を打ち込む。

「豪・砕破!」

 地面が抉れると、そのすぐ向こうで噴き上がる。大地の盾ともいえる土柱に魔力の刃はかき消された。

 突然の土柱に放った刃は消え、同時に相手の姿を見失ったエスペティッカ。魔力の刃に対してどのように動くかを見定めようとしたが、思わぬ防ぎ方に驚き、そして即座に身構える。こちらが見失ってしまった以上、向こうが仕掛けてくると判断したからだ。

 真正面に土柱があって左右どちらから来るのか?もしくは土柱を超えて上からかもしれない。

 気配を探り、相手の出方に神経を研ぎ澄ませる。その間に刀を鞘に仕舞い、即座に斬り放てるよう鯉口を切っておく。

 エスペティッカの持つ最速の技「居合い斬り」。

 自分の周囲に結界を纏い、それに触れた途端に必殺の刃が切断に襲い掛かる。収めた鞘の中で刃を滑らせ、抜刀状態から斬るよりもその一点への反応速度はエスペティッカの持つどの剣技よりも速い。

 だからこそ相手を視認できない今、この技で対応するしか方法はない。

(すぐに終わってしまうのは忍びないが、致し方ない)

 せっかくの強者との戦いに時間をかけて楽しみたいと思ったが、居合いを抜く以上、もはや相手が無事であることはないだろう。

 そう気持ちを切り替えた矢先、前方から動きが生じた。土柱から、更に土柱が攻めてきたのだ。

「む…!」

 土柱がエスペティッカを飲み込まんと襲い掛かる。それを居合い抜きで切り裂くと、迫る土柱が真二つに裂けて砂と化して地に零れる。

 勢いを殺したことで即座に第二撃にはいるエスペティッカ。流れる動作で刀を鞘へと戻していく。

 正にその時である。ゼロはその斬り砕かれた土柱と共に正面から突っ込み、鞘へと戻す僅かなタイミングを狙って攻撃した。

 納めきらぬ間を突かれ、中途ながら攻撃に転じるエスペティッカ。しかし十分な状態ではない状態では素早く抜くことは出来ない。

「貰ったぞ。」

 ゼロはそう言うとエスペティッカと間合いを詰めて、右拳をその兜に叩き込んだ。いくつかの魔力障壁がガラスのように砕け、兜の面部分に黒い拳が当たると、面が音を立てて割れた。

「ぬぐぅっ!」

 しかしそこは大将軍。頭部の破損に唸りはしても、即座に相打ちを意識して刀を繰り出す。すでに抜く体制になっていたことから、至近距離であろうとも刃を当てることは出来る。そして至近距離だからこそ抜き放てばそのまま相手の胴を斬りつけることが出来る。

(面はくれてやろう、されどその命は貰う!)

 心で叫び鞘から走り出た刃がガラ空きの右脇腹へ放たれる。

(貰った!)

勝利を確信したエスペティッカだが、抜き放たれる途中で、ゼロの左掌が刀の柄尻を強打した。それによって刀の動きは阻まれ、抜き出した右手が鞘を滑ってゼロの手に掴まれた。

握り込んだ利き腕と共に刀を阻まれ、更に滑り抜けた刀が鞘へと弾き戻される。

愛刀を失った右手をゼロの左手に掴まれ、エスペティッカは成す術を失った。

(見事である…)

 エスペティッカはフッと体の力を緩めた。渾身の一撃を見事なまでに防がれ、己の持つ技が敗れたために潔く負けを認めた。


「あっさりと負けを認めるんだな。」

 ゼロは割った面の中に拳を入れた状態で語り掛けた。そのまま相手のコアへ一撃を入れれば済むのだが、それにしてもあっさりと諦めるものだと意外に感じたのだ。

しかしエスペティッカは何もしない。敗れたうえで言葉通り相手に命を握られているのだ。ならばあとは相手に生殺与奪の権利を任せるのみである。

これこそがエスペティッカという悪魔でありながら、自らの生き方に誇りを持った者の生きざまであった。

「分かった。ならば生き恥を晒させん。…魔壊拳!」

 右腕に闘気を込め、エスペティッカのコアを砕く。それによって黒い武者鎧は少しずつ塵となって浮かび消えていく。

「相手としてあの巨人よりも戦い甲斐があった。」

 腕を戻して消えていく悪魔に語り掛けるゼロ。憎き敵であっても、その武人としての生き様に敬意を持ったことから出た言葉だった。

 それに対して消えゆくエスペティッカから笑みが聞こえた。微笑みうっすらとした声は満足げな様子だと感じ取れた。

 やがてその姿が消え去ると、そこには二振りの刀が残った。エスペティッカの愛刀とゼロの攻殻を斬った小刀だ。

 消え去った悪魔の墓標というわけにもいかず、逆に揃って柄をゼロへと向けた様子は如何にも使ってくれと言わんばかりである。

「…刀はあまり使ったことがないんだがな…」

 そう言いながらも、武人としての想いに頂戴するゼロであった。


 こうしてライディンへと押し寄せた悪魔たちの進攻は何とか無事に防ぐことが出来たナチュラルフロンティア。

 あれだけの進攻であっても何とか死人なしで終わったワオリたちだったが、この悪魔たちの進攻の中で生き残った彼らに、更なる災いが迫りつつあった。

 そして、ここから様々な思惑が絡み合いながら、大きな大戦が巻き起ころうともしていた。


お読み頂きありがとうございます。

前回、早めにと言っておきながらこんなに時間がかかってしまいました事、

お詫び申し上げますm(__)m


今回のお話、完全な戦闘パートとして書いてみましたが、私自身が思い描くシーンを

どの様に文章化して行けば良いかなどと考えていて遅くなってしまいました。

また、今後どのように繋げるかなどを考えていた結果なのでご容赦くださいませ。


さて、私自身戦闘シーンがあまりだらだら長引くのは好きじゃないタイプでして、

特に達人の域に達している武人の戦いは一瞬の駆け引きが大切だと考えております。

それでやけにあっさり終わった印象かもしれませんが、エスペティッカは本当に強い悪魔です。

実際、設定上では4大公に次ぐ元帥と張り合うほどの戦闘力を有しています。

ただ、魔法に関しては身体能力の向上しか使っておらず、それゆえ魔法を使っていないという印象があったと思います。

純粋な剣士として戦う悪魔として作ったキャラですので、その辺りは察して頂ければと思います。


さて、今回でこの5章は終わりとなります。

次回から新たな章が始まり、エロエロダークエロフおねぃさん(笑)たちの登場で、リオン達のことを語らせる予定です。

エルフたちも動き出し、悪魔側も残ったナチュラルフロンティアを標的に定め始めます。


そうした大きな動きをはらんだ第6章…また時間を頂くかもしれませんが、お待ちくださいませ。


それでは今回はここまでに致します。

今年ももう一ヶ月をきりました。様々なことが起こっておりますが、皆様どうぞご自愛くださいませ。

では、失礼いたします。

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