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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
81/93

授けられし呪いの力(第2次ライディン防衛戦)

※悪魔たちが攻め入るライディンの町。


 北門前ではブラングチュールが真の姿をさらし、それによってワオリも意識を失ってしまう…。

 そしてライディン中央では、もう一体の悪魔によって一方的な暴力が繰り広げられていた。

  ワオリが意識を失ったその頃、ライディンの中央広場では暴虐が行われていた。

 ナッチョンたちが戦い始めたわけだが、当然彼女たちに戦闘力などあるわけがない。悪魔でも上級であるジュニュキールの素早さに翻弄され、一方的に攻め込まれるナッチョンたち。そのままでは簡単に彼女たちの首が刎ねられてしまうところだが、ナーゼがその体を盾にして守っている。

「ナーゼちゃん!」

 先に受けた足の傷がかなり深手であるナーゼだが、ナッチョンたちを守ろうと傷つき続ける。そんな様子にナッチョンたちは涙ながらに止めるよう訴え、とても戦うどころではない。

 しかしながら紅い悪魔は手を緩めることなどしない。

「戦えないヒトを攻撃して、それでも武人かぁーっ!」

 涙を流しながら怒鳴るナッチョン。しかしジュニュキールは静かに答える。

「我が任務はお主たちの抹殺でござる。」

 そう答えると、ナーゼの首を狙って再び動いた。

「させませんわっ!」

 ディアが風の聖霊を使ってその動きを止めようとした。だけど悪魔の動きが速すぎて止められない。

「やめろぉー!」

 フライパンを両手に握って叩きつけようと飛び跳ねるナッチョン。

 当然素早いジュニュキールに追いつくはずもないが、ナーゼの左手がジュニュキールを下から払い挙げた。

 傷つきながらも戦闘種族である巨人ナーゼの速さは、悪魔を捉えるに十分な速度だった。

 しかしそれを見越していたのか、空中で体を捻らせた悪魔はその手を避ける。

力任せに振り上げた腕が狙いを外して離れていく。 

それを横目にジュニュキールは止めとばかりにその首へと刀を抜き放った。

「ここまででござる。よく守られた。」

 そう呟くと同時にナーゼの首筋へと刀を斬り込む。

その刃によって巨人を仕留め、そのまま周囲の者たちを断てば任務完了と考えたジュニュキール。

だがその時、その手に衝撃が与えられた。

「ぬっ?!」

 簡単な仕事だと思っていたジュニュキールは驚き、刀を確認する。

そこには先ほど追い駆けてこようとしていた大きな鈍器を持つ獣人が、その鈍器を自らの放つ刃に叩きつけていたのだ。

「そう簡単にはやらせないぞ!」

 勝ち誇ったように叫ぶナッチョン。

「お主いつの間に?!」

 到底追いつくなど無理だと気にもしていなかったナッチョンが目の前にいることに思わず言葉を漏らす。だが即座にこの状況を脱しなければとその小さな体を蹴り飛ばし、自らの体を後方へと翻した。

「うぎゃっ!」

 不意に蹴られて悲鳴をあげるナッチョン。その体が落下しようとするのをナーゼの左手が受け止めた。

「ありがとう、ナーゼちゃん。」

 その様子に、先ほど振り上げられた左腕は自分を追撃するものではなく、あの獣人を運ぶための作戦だったと悟るジュニュキール。そして着地すると、すぐに駆け出す姿勢を取る。今度は巨人の足元及び、そこにいる住人たちを襲うために。

 即座の行動こそが『シノビ』としての身上であるため、直ちに足を踏み出そうとした時、その足に絡みつくものがあった。

 絡みつかれたことで動けなくなった足を見ると、地面からいくつもの黒い糸が両足に巻き付いている。それは糸というより影のようなものであった。

「ヌ?これは『影縫い』!何やつ?」

 魔力を感じ、その力の方向を見る。するとそこにはダークエルフ二人が両手をこちらに向けていた。ダークエルフのディアとリプスが大地の精霊魔法を行使したのだ。

「仲間を傷つけさせたりいたしませんわ。」

 ディアの厳しい表情の横で、歯を食いしばりながらリプスが「うんうん」と頷く。

「地の精霊でござるか…。」

 ジュニュキールはぼそぼそと言葉を紡ぐと、自らを束縛する影が消える。

「そんなっ!」

 驚き、慌てて精霊を行使しようとするが、ジュニュキールは即座に懐からナイフを取り出して放つ。

「キャッ!」

 ディアとリプスの腕に刺さり、二人はうずくまる。そこへ追撃のナイフが襲い掛かる。その手早さからダークエルフ二人に回避は出来そうにない。

 それぞれ頭部目掛けて放たれたナイフは見事なまでに狙った場所へと飛翔する。

「あぶないっ!」

 その時、バオがその身を挺して蹲る二人を庇う。手を広げて必死な顔で立ちはだかったその身体に、ナイフが深々と突き刺さった。

「ガハッ…。」

「バオちゃん!」

 最も戦闘に向かないバオが、ナイフを受けて崩れるように倒れる。それを後ろにいたリプスが抱くように支えた。

「バオちゃん、しっかりして!」

 リプスが叫ぶ。ナイフは腹部と左肩に刺さっており、じわじわと赤い血が広がっていく。

「バオちゃん、どうして…。」

 リプスの問いかけにバオは苦しげな中ほほえみを見せる。

「友達だから…。」

 その言葉にリプスの瞳から涙がこぼれる。

 そんな会話の中、ジュニュキールが刀を手に迫る。二人をまとめて斬るつもりだ。

「させない!」

 咄嗟にディアが前に出ると、ナッチョンもフライパンを振りかぶって迎撃に向かう。

 当然ナーゼもそれを庇おうとするが、それこそジュニュキールの狙いそのものであった。

 即座に両手を絡めて『印』を象ると、両手を前へと突き出した。

「まとまって好都合。秘技・火龍烈牙!」

その手から炎の龍が大きな咢を開いて襲い掛かってきた。炎の牙がナッチョンたちをまとめて襲い掛かる。

「危ないっ!」

 ナーゼが手を壁にしてナッチョンたちを守る。下ろした左手に火龍が噛み付くと、その手に炎があがる。

「うああああぁぁぁ!」

 炎の牙が肉を貫き、その内部から手を炎が焼き尽くさんと燃え上がる。その痛みにナーゼが悲鳴をあげた。

「ナーゼちゃん!」

 痛みに苦しむナーゼにナッチョンの視線が向かう。その隙に悪魔の接近を許してしまったナッチョンたちに悪魔の刃が襲い掛かった。

 悲鳴があがり、刃が吸い込まれるかのようにナッチョンたちの首へ向かう。


「させるかぁーっ!」

 あと数ミリというところで刃は引かれ、ジュニュキールは後方へと下がる。

 そこへ上からものすごい勢いで突進してきた者がいた。土埃が起こる中、悪魔は不意を突かれ突如現れた存在に注視する。

 そこにいたのは有翼人種バードゥンのヤーグだった。上空から戦況を見渡していた時、町の中で騒動が起こったのを見つけて急降下したのだ。

 決してディアを見ていたわけではないとあえて言っておく!

「町に悪魔がいる!負傷者多数、至急援護を。」

 ヤーグは周囲を見てジュニュキールだけだと確認すると、ポケダマで応援を呼んだ。

「むぅ、手間を取りすぎたでござるか。」

 そう呟いた悪魔が再び印を結ぶ。するとその体から左右にそれぞれ同じ姿のジュニュキールたちが現れた。それを見て「ぎょっ」と目を見開くヤーグたち。

「最早これ以上の時間は掛けられぬ。せめてお主らのお命頂戴いたす。」

 そう告げるや否や、3体の悪魔が姿を消した。そして次の瞬間ヤーグは斬られ、ナーゼの体は崩れ、ナッチョンの胸に刃が付きたてられた。



 再び場所は北門前。ブラングチュールの攻撃を前にナチュラルフロンティアの戦士たちは誰一人として立ち向かうことが出来ずにいた。

「…他愛もない…否、我にここまでさせるだけの者ではあったということか。」

 黒い仮面の下で骸骨が嘆息する。先ほどまで死合った犬耳の少女も、その愛刀が折れて倒れ伏せている。

 他の者たちも瀕死の様子、あと一撃ですべて片が付くと判断した。

「さて、然らば止めと参るか。」

 そう言って槍を構えたブラングチュールだが、即座に反応して襲い掛かった攻撃を叩き消した。

「次はお主が相手となるつもりか?」

 見れば美しき姿をした女が変わった形の弓を構えて立っていた。一見エルフかと思うが、その耳はかのエルフよりも短いがヒトの長さでもない。何よりその顔立ちはエルフに近い美しさを有している。その唇から凛とした声がかけられた。

「ええ。少なくとも仲間を見捨てるなんてできないわ。それに、私でも少しは時間を稼ぐことは出来るもの。」

 そう言って不敵にほほ笑むユズナ。今の言葉はわざと少し時間を稼ぐという部分を強調させて言った。

「ほぅ、そういえばあの者の姿が見えぬな。気配も感じぬが、奴が出てくるまでの時間稼ぎという事か?」

 ワオリという強者以外に、前回ジュニュキールの暗殺を阻止した男を思い出す。得体の知れぬ強さを感じさせたヒトの男に興味を抱く。

「…えぇ、彼は今ここには来れないもの。だからそれまで私たちが何とかしなくちゃね。」

 弓を構えるユズナ。それを前に立ち尽くしたブラングチュールは思う。

(かような状況においてあれほどの男がここに来ないなどあり得ぬ…、もしや西に居てこちらに…否、ならば気配は感じ取れるはず!)

 ハッとしたブラングチュールが自分の背後に顔を向けた。

(気づいたっ!)

 ゼロを引き合いに出された際、僅かな隙を狙って語った言葉。その予想通りに視線を離したブラングチュールに向かって風の矢を射るユズナ。矢となった風の刃がアンデット武者の顔に向かって飛ぶ。

 しかしそれはすぐさま繰り出された槍の一薙ぎでかき消された。視線は後方に向けられたままで高速の、しかも見えるはずのない風の矢が消されるなど思ってもいなかったことだ。

 驚いた顔のユズナに黒い般若の面が向く。

「なるほど、最も強い者を敵将に向かわせることは有効な戦略である。敵対象を抑えることで戦は勝ちだからな。

 されどお主は間違いをおかした。」

「まちがい?」

 再び矢を射ながら訪ねるユズナ。しかしどの風の矢も簡単にかき消されていく。

「さよう、一つはこの戦で大将首を挙げられようとも、我らの目的はお主らの殲滅。故にそれが成されぬ事には終わらぬ。

 そして二つ目にこの軍の指揮をするエスペティッカ様は我がいかにかかろうとも勝てぬほど強い。倒されるなどあり得ぬことだ。」

 そう言うと同時に槍を突き出す。槍先がユズナの顔を襲うが、ユズナはサッと身を翻して避けた。

 そして再び弓を構えるが、その左ほほに一線の傷が現れて血が滲んだ。避けたはずだと思ったユズナに焦りが陰る。

「最後に、お主は武人を相手にするという事がわかっておらぬ。例え視線を向けておらずとも、我が槍の届く範囲に殺意を感じたならば、直ちにそれを叩き落とすようにしておるのだ。

 更には我が槍の神髄、例えエルフの目であろうとも追えるものだとは思わぬことだ!」

「っ!!」

 大きく間合いを開けるようユズナが距離を取る。それを追ってブラングチュールは槍を繰り出す。

 その間にダークエルフたちは戦士たちを癒すため回復方陣の矢を射る。ユズナが引き付けている間にケガ人を下がらせるためだ。

 そしてパラヤはワオリのもとに向かう。

「ワオリ様っ!」

 呼びかけるが、ワオリは完全に気を失っている状態だ。

「至急ワオリ様を町の中へ、私はレンとともにユズナ殿の支援に入る。」

 やってきたダークエルフにワオリを預け、パラヤはレンの元へと急いだ。

 ダークエルフに抱きかかえられたワオリ。今、彼女の中では大きな決断が迫られていた。


「ワオリ…」

 眠るワオリに優しい声がかけられる。忘れるはずなどない。その声にワオリの意識は覚醒する。

「おかあしゃま!」

 目を覚ましたワオリの前に微笑みを浮かべるマドカの顔があった。

「はい、ちゃんと目は覚めたかしら?」

「あい!起きたですよ。」

 慌てて立ち上がったワオリの周囲は真っ白な空間だった。その目の前に先ほどまで膝枕をしてくれていたマドカの姿がある。

「あれ?ここどこですかね?」

 するとマドカは立ち上がるとスッと表情を消した。

「ここはね、ワオリの心の中よ。」

「あたちの心の中ですかぁ~。」

「ええ…、そして今からワオリに大事なお話をします。」

「何ですか?」

 ワオリのつぶらな瞳が母を見つめる。その視線にマドカもまっすぐにワオリを見つめた。

「私はあなたへの想いでここに留まっているマドカの思念。だから本当の私はもうここにはいない。」

「そんなぁ~…。」

 一瞬で悲しげな顔をするワオリ。でも言葉は続く。

「そして私がこうしてあなたとお話をするという事は、あなたが危険だという事でしょう。

 ワオリ、このまま終わってもいいの?」

 その問いかけにきょとんとしたワオリは、すぐに悩み始める。

「むじゅかちぃ問題でしゅね…。」

「難しいとは?」

「あたちはまだみんなと約束を終わらせてないですよ。なによりおかあしゃまと約束したですよ。みんなを前みたいに幸せな世界にするって。

 だからまだ終わりにしたくはないですよ。」

 そう真摯に答えるワオリにマドカは再び笑みを見せた。

「そう、ちゃんと約束を果たそうとするワオリはえらい子ね。」

 そう言ってその頭をなでる。撫でられてワオリは破顔した。

「じゃあ、私からワオリに力を与えましょう。」

「ちから・・・ですか?」

 のぞき見上げるワオリの頭に?マークがいくつも浮かぶ。

「そうよ。私のキュウビとしての力。これから更に強い悪魔と戦わなければならないから、そのための力をあなたに授けます。

 でもワオリ、これは強い力であるため、気を抜くとあなたはあなたの手で仲間を傷つけてしまうかもしれないわ。

 私が今まで授けなかったのはそのため…。

 でも今はもうそれどころじゃないほどの相手が来ている。

 だから絶対にこのキュウビの力に負けないで。ワオリはワオリとして、この力を自分のものにしてほしいの。…約束できる?」

 困った顔のマドカを見つめる。母がそんな顔をするという事はよほどの事なのだろうとワオリはわかっている。

 でもそう言ってくれるのは、自分が母の想いに応えられるだけの力があるのだと思っている。

 だったら後は、その想いに応えるだけだ!

「あい、約束するですよ!あたちはおかあしゃまの娘、だからおかあしゃまの期待に応えるです。」

 その返事にマドカは一瞬驚いた顔を見せる。そして満面の笑みを浮かべた。

(立派に成長しているのね)

 我が子の成長に喜び、一方でそんな娘と一緒に居られない寂しさを感じる。

「はい、良いお返事ね。それではワオリ、私の力をあなたに授けます。決してその力に負けず、仲間を大事にしてね。

 私はずっと応援しているわ。」

 そう言って手を離したマドカが遠のいていく。思わず駆け寄りたい気持ちを抑え、ワオリは笑みを浮かべて叫んだ。

「あい!それじゃ行ってくるですよ。」

 束の間の会話を寂しがる間もなく、ワオリの意識は浮上した。


「うわあああああぁぁぁぁぁー!」

 突如として周辺に響く叫び声。それによってもはや風前の灯火のようであったユズナの意識がそちらに向けられる。

 地面に横たわるユズナの少し向こうでは、パラヤとレンが倒れている。かろうじて息をしているのがわかるが、意識は失っている。

 ブラングチュールの力を前に、3人はなす術もなかった。

 強力な上級悪魔にパラヤとレンは太刀打ちできず、ユズナ自身、こうして相対して戦うなどした事がないだけに、今はもう目の前の槍を受けるしか出来なくなっていた。

 周囲が救いに入ろうとも動くことが出来ずにいた。

「何事か?」

 槍を振り上げたままの姿で呟くブラングチュール。その姿を見上げながら横たわるユズナは、状況がわからず答えようもない。

 でもただ一つだけ知れたのは、その声の主が誰かという事だった。

「ワオちゃん…。」

 掠れた声で呟いた言葉に、ブラングチュールは槍を収めて体をそちらに向けた。

「ほぅ、目を覚ましたか。」

 もう何時でも仕留められる者に興味をなくしたブラングチュールは北門へと足を進める。

「ダ、ダメ…ワオちゃん…逃げ…。」

 ブラングチュールが視線を向けたことで、ユズナの意識がふっと飛び、伸ばした腕が地面に落ちた。強烈な威圧で気絶させられたのだ。

「さぁ、少し休めたであろう。もはや期待は出来ぬが終いまで付き合ってもらうぞ。」

 アンデット武者の瞳が赤く輝く。そして歩を進める中、巨大な威圧を前方から感じた。

「ムッ?なんだこの魔力は。」

 それは突如現れた存在感だ。先ほどまでは大した魔力を感じなかったが、明らかに存在感が違う。認めたくはないが、今の自分よりも強大な魔力を感じた。

「気を失っていた間に吹っ切れでもしたのか?これは再び強敵と死合える予感!」

 ブラングチュールの心が悦びを感じた。そして足早に向かった北門の前で、奇妙な感覚を覚えた。

「…何者だ?」

 開けられた門よりゆっくりと歩み来るヒトの姿があった。その耳と尻尾は先ほど相対した少女と同じ類のものが付いている。

 しかしそれで先ほどのワオチャンだとは到底判断できなかった。

 その体は成人した女性のほどもある。そして髪は女性の足元近くまで伸びており、その長い髪によって俯き気味の顔が見えない。

 体つきもスラリとした細身で、着崩した着物をまとった様子は妖しげであった。

 やがてその存在の足が止まる。連れてブラングチュールも足を止める。

 よく見れば呼吸で肩が大きく上下に動き、必死に何かを堪える様にぶるぶると体が震えている。それでいて周囲への圧迫感は次第に大きく、ダークエルフたちは恐れを抱いて距離を取っていた。

 やがてその震えが収まり、その存在は空を見上げる。いまだ長い髪によって表情は見えないが、紅の唇が開くと同時に大きく息を吸い込んだ。

 その呼吸にブラングチュールは恐れを抱く。

 それは単に呼吸をしているだけではなかった。周囲の魔力を吸い込み、己の体内へと呼び込んでいるのだ。

「こ奴…、周囲の者の魔力を食しておる!」

 今までそのような存在を見たことはなかった。かの悪魔王とて周囲から魔力を自然に吸収するなど出来ようはずもない。

 魔力の元であるマナ保有量は定まっており、魔力を増やすためには修練か、倒して奪うしか方法はない。

 その異常な力に恐怖を感じてしまう。そして槍を持つ手に力を込め、今すぐにでもこの存在を消さなければと行動した。

「何者か存じぬがお命頂戴する!」

強烈な突きが繰り出された。それはワオリと戦った時とはまるで違う本気の一撃。

先ほどまでは出せる力の八割で戦っていたのだ。戦う以上は全力で戦うべきと思うかもしれないが、それによって魔力が尽きることもある。 

故に八割で戦うのがブラングチュールにとってベストコンディションなのである。

だけどそれでは対処できないと判断した本気の一撃。それは一生に数度とない攻撃である。当たれば当然相手は絶滅し、その破壊力によって周辺の空間さえも抉れてしまうほどの威力だ。

そんな一撃がその存在に触れる瞬間、ぴたりと止まった。決してブラングチュール自身は力を抜いたわけでなく、今も全力で突きを繰り出している。だけど槍は進まないのだ。

やがて存在の手がそっと槍に触れる。その瞬間、槍は色を失い、灰色と化すと砂のようにさらさらと崩れていく。

「ぬをっ?!」

 さすがのブラングチュールも長く共に居た槍が一瞬にして崩れていく様に度肝を抜かれる。慌てて槍を引っ込めようとするがもう遅い。

 握っていた部分を含めて槍全身が灰色になって砂と化した。

 あっという間もなく消えた槍に唖然とするアンデット武者。そしてその刹那の瞬間が己の大きな隙となった。

 ガシッとその頭を鷲掴みにされた。そしてその存在が何やら聞きなれぬ言葉を発すると、ブラングチュールの意識は真っ黒な世界へと飛ばされた。

 己の姿を見ることも出来ぬほどの真っ暗な空間。それがどこなのかも分からない中、少しずつ存在が薄れていくのがわかる。

(な、何事?これは!な、いやだ、こんな形で消えたくはないぞ!やめろ、我の存在を無きものにするな!頼む、消さないでくれぇー・・・)

 やがて意識というものが消え失せ、ブラングチュールという存在は真っ黒な中へと溶け込んでしまった。


 それは本当に刹那の事であった。その存在がブラングチュールの頭に触れた瞬間に武者の亡骸だけがそこに残り、ガタガタと崩れた。

 そして手に残った髑髏入りの兜を無造作に放り捨てると、長い髪の下で歓喜の笑い声があがった。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 一見すれば無邪気な少女のような笑い声。しかしその声の中にどれほどの怨念が含まれていようか。

 傍で見る者たちが皆、その姿に恐怖しか抱かない。それがあのワオリであるなど誰が想像できるだろうか。

 「キュウビ」という凶大な力を得たワオリの体は、完全に乗っ取られた状態となっていた。


お読み頂きありがとうございます。

世間では少し新型コロナの猛威が薄らいだようですが、未だ回復の目途が立たないことから注意が必要ですね。

気候も寒さを感じるようになりましたので、そうぞお風邪も召されないようご自愛くださいませ。


さて、今回のお話はまた思い付きが筆を走らせたことでとんでもないことになっております(笑)

最初に思っていたのはマドカの想いが良い方向に向かわせる至って平和な方向へ進むはずだったのですが、書き終えたら私自身が「どうなるのこれ?」って言いたくなる状況になっております!

物語は自然と化けるということを痛感しつつ、この続きも今がんばって執筆しております。


ワオリの変貌と、ナッチョンたちの安否に関して、また早いうちにお送り出来ますよう頑張っております。

幾分、リアルで仕事が忙しくなっておりますが、何とか早く続きが出せますよう努力いたしますので、この続きもお読み頂けますようお願い申し上げます。


それでは今回はここまでに致します。

また次回まで失礼いたします。

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