武者と剣士(第2次ライディン防衛戦)
※悪魔たちが攻め入るライディンの町。
迎え撃つ戦闘部隊の奮闘で北門前は守られているが、ジルデミオン軍最強の部隊「ブラングチュール隊」の猛攻に、守りの要であるバンが倒れる。
しかしそこに駆け付けたのはナチュラルフロンティアのリーダー「ワオリ」。
そして戦いは熾烈となっていくのだった。
「どっせぇーーーいっ!」
腹の底から唸るような叫びをあげながら、防衛部隊の面々が腰を落とし前へと突進する。その手に自分たちを守る大きな盾を前面に並べ、押し寄せるアンデット武者を押し戻す。
日頃の訓練などによって、ナチュラルフロンティアの戦士たちは地力を底上げしている。
それぞれが違う個体能力を有していても、それらを束ねて同じ方向へ向ける事により、その力は相乗効果によってより強い力となる。
たとえ相手がいかに強大な悪魔の部隊であろうとも、防衛部隊の『押し返す』という力に関しては劣ることはない。
副隊長であるバンが負傷し後退したことで士気が傾きかけた戦闘部隊であったが、ワオリの参戦によって勢いを盛り返した。
「俺らの後ろには大事な仲間たちがいるんだ!」
「俺たちが守らなきゃ誰が守るってんだっ!」
「副隊長の分まで俺たちが守ってみせるぞ!」
「「「おぉぉぉぉ―――!!!」」」
北門の前で今一度防衛部隊員たちの威勢の良い声が響いた。
そんな様子を城門上から見つめるユズナとダークエルフたち。
戦う者たちを鼓舞する歌声が周囲に響き終えると、再び竪琴を弓の形に戻したユズナが戦況を確認した。
「うん、ワオちゃんが来てくれたから戦況はまた戻ったわね。」
周囲のダークエルフたちもその声にうんうんと頷く。
「一先ずこのままアンデット武者たちを抑え込めたらいいんだけど、やっぱりあのリーダー格の武者は厳しそうだね。」
ユズナの視線が防衛部隊から少し北側へと移る。そこでは長い武骨な槍を振り回すアンデット武者と、白い刀を持つイヌミミの少女が戦いを繰り広げていた。
重そうな槍を凄まじい速さで振り回す中、ワオリがそれらの攻撃をかわしつつ間合いを詰める。
接近されれば不利とみるアンデット武者『ブラングチュール』は、ワオリを近づけさせないように上手く立ち回る。
その動きは洗練されており、これまでどれほどの戦いを熟してきたのかが理解できる。
「それにしてもワオリ殿、槍相手にここまでの立ち回りは見事なものですね。」
その戦いでダークエルフたちの目に留まったのは、槍を操る上級悪魔相手に、未だ傷ひとつ負わずに戦い続けるワオリの姿であった。
果敢に攻めてはいるがさすがに長い槍相手では白刀は届かず、逆に槍の攻撃を見事に躱したり反らしたりしている。
「ええ、ワオちゃんずっとゼロに鍛えてもらっていたから、かなり強くなったわ。」
妹のように可愛がっているワオリを褒められて笑みを零すユズナ。だけどその表情はすぐに引き締められた。
「なんとか進行はくい止められているけれど、あのリーダー格の悪魔を倒さなければ安心はできないわ。…なんとか助太刀しようにも、下手に手を出すとワオちゃんの邪魔になるだろうし…ここはワオちゃんに任せるしかないわね。」
すでに一度、矢で援護を試みたのだが、二人があまりの動きの速さであるため、全く見当違いの場所に矢が飛んでしまった。
それで再び射ようとした所を「援護はいらないですよ~」と叫ばれてもどかしい気持ちのまま見守っているワケである。
「とりあえずあっちはワオちゃんに任せて、私たちは他のアンデット武者を倒しましょう。」
ユズナの指示を聞いて、ダークエルフたちは直ちに行動を開始した。
風が迫ってくる。様々な角度から自分目掛けて放たれる槍先が、何度も繰り返されることでワオリの体に風圧がかかる。しかもその鋭さから風に切断力が加わっており、すでにワオリの体にはいくつもの傷が出来ている。
だけどどの傷も、ワオリの勘によって皮一枚切れただけのものばかりで、特に心配するほどの傷ではない。
それにしても凄まじくも見事な槍さばきに、ワオリは敵ながら相手を称賛する。
一方のブラングチュールも、いきなり現れた小さな獣人を評価した。
「フンッ!」
ブラングチュールが大きく槍を薙ぎ払うと、ワオリが後方へ跳躍して互いに間合いから離れる。
アンデットであるブラングチュールは休息など必要ないが、ワオリと少し語りたいと思って一度槍を立てた。
「ウムッ、見事なものである。よもや一人で我とやり合う者がいるとは我、歓びに震えておるぞ。」
その言葉に一度大きく息をついたワオリは刀を中段に構えながら応じる。
「それはあたちの言葉ですよ!一本しかないはずの槍が思いもよらない所から来るんですから。それにあたちを寄せ付けない技は見事ですよ!」
それを聞いて肩を揺さぶりながら大笑いするブラングチュール。
「かっかっかっ。それはありがたき言葉であるな。こうして強者と相対するのは武人として誉れであり、しかも相手に褒めて貰えるのは実に喜ばしい。
かような時を得られたことを感謝しよう。」
「???感謝するですか?」
ブラングチュールの言葉に首をかしげるワオリ。戦っている相手、しかも相手は悪魔が何に感謝しているかよくわからないのである。
「そうだ。我は自らを鍛え、そしてこの槍とともに強くなることを信条としている。当然強くなるのは戦いで負けぬため。しかしただ倒すだけでは自らの磨き上げた技は錆びる。
ゆえに技を駆使して戦えることが我が望みであり、そのうえで相手を倒すことで我はまた強くなれると信じておる。
そしてお主は我が技を称えてくれた。これまで磨き上げてきた我が努力を認めてもらえるという喜び、お主とて分かるであろう?」
それを聞いて少し考えたワオリはすぐに頷いた。
「わかるですよ。あたちもおかあしゃまやゼロさんに褒めてもらえたら嬉しいですよ!」
「ウムッ、故にそのような想いを持つ者とこうして相対できる事もうれしい限りなのだ。
されば今一度名乗ろう。
我こそはジルデミオン軍ブラングチュール隊を率いし『ブラングチュール』也!
我と相対するに足る者として名をお聞かせ願いたい。」
そう問われるワオリは、それまでよく分からない言葉ばかりだと思いながら、名前を聞かれたことに大きな声で答えた。
「あたちの名前はワオちゃんですよ!」
「ワオチャンであるか。返答忝い!
ならばワオチャンよ!我が槍の冴え、冥土の土産としてご覧あれっ!」
「わかったですよ!あたちは負けませんから、覚悟するですよっ!」
互いに『名乗り』が終わり、再び表情から闘志があふれ出す。
「参るぞっ!」
「行くですよっ!」
互いに気合の籠った声があがった瞬間、ワオリがその白刀を上段から振り下ろした。間合いは遠く、一瞬何をしているのかと思ったブラングチュールであったが、直ちに行動した。
ワオリの白い刀身より放たれたのは斬撃。闘気を込めた一筋の剣筋が、まっすぐにブラングチュールに迫る。
「ぬっ!斬撃を飛ばすだとっ?!」
これまで斬撃を飛ばす相手はごく僅かしかおらず、ヒトでその技を扱った者は見たことがなかった。
完全に不意を突かれたワケであるが、愛槍をすぐさま薙いで斬撃を打ち消しにかかる。
単に槍だけで防ごうものなら、槍はすぐに折れたことだろう。相手の闘気に対して自らの闘気で相殺しなければならない。
そしてその闘気を込める武器も、生半可な武器であれば闘気ですぐに崩れてしまう。長い年月を共に戦い抜いた、己の体の一部と化したこの無骨な槍だからこそ己の闘気に耐えられるのだ。
そして振り抜いた事で斬撃を消したブラングチュールの目の前に、一気に間合いを詰めてきたワオリの姿があった。
槍という長い武器では小回りは効かない。しかも力いっぱい振り抜いた直後だ。ブラングチュールは舌の無いしゃれこうべで舌打ちした。
「たぁーーーーー!」
気合の籠った声とともに、ワオリの白刀がブラングチュールの左肩から右腰目掛けて振り下ろされた。
「グオオオオオオオッ!」
左肩から白刀を受け、そのまま刀は袈裟斬りで右腰へと向かう。
されどこのアンデット武者は歴戦を戦い抜いてきただけにそれをそのまま受け入れるわけにはいかない。
青い鎧に斬りつけられた白い刃を受けながら、体を捻りつつ槍の柄でワオリを叩きつけようとした。
「あぅっ!」
こちらも思わぬ反撃に、叩きつけてきた槍の柄をまともに受けて弾き飛ばされる。幸いにも白刀は飛ばされた勢いでその手にあるが、ブラングチュールの傷は左胸の辺りまでしか斬り込めなかった。
宙をクルクルと回って着地するワオリだが、斬り込んでいた体勢からの攻撃をカウンターのように受けたため、ダメージは大きい。だけどそれを気付かせないように構えた姿勢をとる。
一方で、左肩からヒトでいう心臓のある位置まで深い傷を負ったブラングチュールも、腰を落として半身の姿勢で構える。
「クククク、カッカッカッカッ!やりおるなぁワオチャン。まさかヒトの身で飛ぶ斬撃を放つなど思っても見ていなかったぞ。」
「あなたも斬られながら攻撃するとはやるですね。」
互いに睨み合いながら称賛を送る。傍から見れば何とも不思議な風景なのだが、ブラングチュールが一介の武人として優れた人格者であることが見受けられた。
しかしその身は悪魔であり、根底にあるものは「戦闘狂」である。だからこそ、相手を仕留めることを切望する。
「よもやこの世界では無駄な殺戮しか出来ぬと思っておったが、かように『死合う』ことが出来るとは悦びでしかない。
さぁ、共に更なる高みへと死合おうではないかっ!」
虚空な骸骨の目に赤い光が灯る。その揺らめく光がワオリを見つめ、右腕の槍をぐるりと回した。一方の左腕も動くが、やはり斬られた影響からか肘は動いても肩の辺りは動きが鈍い。
ワオリはその様子を見て左から攻めるべきだと確信した。
「行くですよ!」
両手で白刀を持つと一気に駆け出す。当然槍が襲ってくるが、片手のためか速度が先ほどより遅い。当然、槍先の数も減っているため、ワオリは迷いなくブラングチュールの左側に回り込み、両手で持った白刀を下から斬り上げる。
ブラングチュールは、相手がそう来ると想定していたため、回り込まれたところで槍を脇に携え、サッと躱す。そのまま体をひねらせ、脇に抱えた状態の槍を薙ぐ。斬り上げた姿勢のワオリを再び横から叩きつけるのが狙いだ。
だけどワオリもそれは警戒していた。先ほど受けたダメージを更に貰わないよう斬り上げた姿勢のまま飛び跳ねる。そして足のすぐ下を槍が横切ると、体を前転宙返りさせて斬り込んだ。
貰ったと思った上段からの攻撃。
それをブラングチュールは体を反転させ、槍の石突部分で斬撃を受け止め、薙ぐ勢いのままワオリを弾き飛ばす。
空中での宙返り姿勢であったワオリは弾かれ、後方へ飛ばされる。
そこを空かさず距離を詰めにブラングチュールは追撃し、着地と同時に突き刺さるよう、槍を繰り出した。
空中という不利な体勢であるため、止めとばかりに渾身の一撃で突きにかかる青いアンデット武者。
「ワオちゃんっ!」
それを見ていたユズナが悲痛な叫びをあげる。
するとワオリは空中で体をひねって、白刀をその槍に向かって振り下ろす。
槍の切っ先と刃が甲高い音を立てて衝突すると、その叩きつけた部分を軸にワオリは再度体を捻る。
そして地面に槍が突き刺さると同時に、捻ったことで着地地点をずらしたワオリが地面に倒れ落ちる。槍を躱す為に着地姿勢をとれなかったことから、地面に落ちると同時に体を転がした。少しでも衝撃を和らげるための受け身だ。
ゼロによって散々転がされたワオリは、その体の柔軟性によってどのような落ち方からでも受け身をとれるようにしているが、さすがに先ほどの槍を躱す動きから、無理な体勢で地面に落ちた衝撃は大きい。
「ぎゃふんっ!」
痛みで悲鳴を上げながら転がると、ばたりと地面に倒れ伏せた。
ブラングチュールもキメにかかった攻撃だったため、地面に大きな穴を掘った槍を引き抜きながらワオリを見た。
「さすがは我が認めた剣士。まさかあの姿勢から躱すとは思っていなかったぞ。」
無表情な骸骨が笑っているように見える。そう、このアンデットは悦びに満ちていた。
悪魔王がこの世界に顕現してからというもの、戦いは一方的な殺戮であり、こうして自分の目の前に立つ者などいなかった。
故にその戦いへの渇望を満たすべく仲間と戦い合っていたのだが、当然そこにはすでに手の内を知り合った悪魔しかいない。
そんな最中に現れたヒトたちの群がる集団。聞いたときはそれほど期待していなかったが、自分よりも魔力の高い四大公の一角『パルドス』を破ったと耳にした事で、永らく燻っていた戦いへの思いが再燃した。
それから戦う機会に恵まれたのが前回の戦いであるが、仕えるジルデミオンから大軍で攻めよと命令を受けて、それに従うしかないと諦めて出陣した。
どうあがいても数万の悪魔を倒せるものではないだろうと高をくくっていた結果、相手の超広域魔法によってこちらが敗戦を強いられる形となった。
せめて相手の姿を見ようと向かったところ、ジュニュキールの暗殺を防ぐほどの手練れがいたことに、敗けた悔しさどころか強敵と会えた嬉しさに身が震えた。
戻って敗戦の責を如何に問われるかと覚悟していたが、さすがはジルデミオンも強者がいると知って、次戦…つまりこの戦いで勝つことによって不問にすると言ってくれた。
「ジルデミオン様の寛大な御心に沿うためにも、我が槍の神髄をもってお相手しよう。さぁ、立つがよい。そして今一度死合おうぞ!」
ブラングチュールの瞳に灯る紅い揺らめきが強まる。
その先でワオリがむくりと体を起こした。
「むむむむぅ~、強いですね。斬ったと思ったら逆にこちらが危なかったですよ…。」
そう言いながら立ち上がると、少し待ってという風に手のひらを突き出し、そして体を伸ばした。
「ちょっとタイムですよ!うまく受け身が取れなかったですから体が変ですよ。
あなたはそんなに切れているのに痛くないですか?」
体の状態を確認するように腰をひねったり肩を回したりするワオリ。ここが戦場だというのにと周囲の皆が呆れた視線を送る中、ブラングチュールは槍を立てて準備を待つ。
「痛いという感覚は遠の昔に無くした。されどここまで斬られておると体の動きに支障はある。
戦い難さは感じておるぞ。」
「そうですか。 …よし、お待たせしたですよ。」
互いになぜそうも正直に語っているのだろうと、傍から見るものは感じるのだが、ワオリとブラングチュールは命のやり取りをしながらも、奇妙な友情めいたものを感じ合っていた。
そして互いに笑みを浮かべながら、再び己の武器を信じて死合い始めた。
二人だけで戦うその空間は凄まじいものであった。
ワオリが飛ぶ斬撃を加えて接近を試みる一方、ブラングチュールは何とか自分の間合いを守りながら相手を攻める。
そしてワオリが一気に間合いを詰めても、ブラングチュールは槍を巧みに操って攻撃を躱し続けた。
やがてパラヤたちが他のアンデットたちを撃退した時、二人の攻防も間合いをとって中断された。
「ほぅ、我が部隊を全滅させるとはやりおるな。」
気づけばアンデット武者たちが大地に転がり、それらを倒した敵によって周囲を取り囲まれているブラングチュールだが、その言葉は嬉しそうに聞こえる。
ワオリと死闘を繰り広げた結果、鎧に無数の傷を浴びているが、最初の一撃で受けた左肩の傷以外に大きな損傷は見られない。
またワオリにしても細かな傷は変わりないが、大きなけがを負った様子は見られない。
だが両者にひとつだけ大きな違いがある。
それはアンデットと生きるもの故の大きな違いだ。
「随分と楽しい時間を過ごさせてもらったようだ。しかし、そろそろ潮時であるな。」
名残惜しそうな風にも聞こえる言葉。その言葉に、ワオリが苦しげに応える。
「ハァハァ…ま、まだでしゅよ…。まだ決着はついてないでしゅよ…。」
大きく肩を上下させるワオリ。そう、ワオリのスタミナがすでに限界であった。
常に元気いっぱいのワオリは、仲間たちの中でもスタミナに関してはかなりある方だ。そんなワオリが疲労により激しい呼吸を行い、体中に大量の汗をかいている状態だ。
「ワオチャンよ、ここまで我と死合い抜いたその器量と強さに敬意を送る。
されど残念ながら、そなたはまだ若い。そして生きているからこそ疲労が蓄積され、打ち合い始めたころに比べれば能力が明らかに低下している。
それだけに惜しいと悔やむ心もあるが、ここは戦場。我らが主のためにお主との死合いは此処までとさせて戴く。
一時の悦び、感謝するぞ!」
そういったブラングチュールが槍を空に掲げ、そして叫んだ。
「我が主ジルデミオン様。これよりは一兵士として敵を蹴散らして御覧頂きましょう。ぬんっ!」
気合とともに地面に槍を突き立てる。グサリと大地に突き刺さった槍から異様な魔力が溢れると、それまで周囲にあったアンデット武者の遺体が地面へと吸収されていく。
そして彼らの魔力が地面に突き立てられた槍に集まっていった。
「この者たちは皆、我が魔力を与えた者たちだ。故に我が指揮下に置いて見事に働いてくれる。
されどワオチャンに限らずお主たちは強い。
ならば我もここからは悪魔として相手致そう。」
そう言い切ったブラングチュールの体に、巨大な魔力の渦が巻き起こる。それに伴ってブラングチュールの体が一回り大きくなり、それまで骸骨であった顔の部分を黒い般若のような面が被された。
鎧の傷なども全てなくなり、先に負った深手も回復されている。
「悪魔ブラングチュール。これより殲滅に参る!」
さっきまでのアンデット武者とは全く違う魔力量。そしてそれを備えた強力な体躯。その強大な魔力に、周囲を取り囲むパラヤたちは戦慄する。
「こ、これは…。」
ここまで鍛え、幾度も視線を乗り越えてきたパラヤたちにして怖気づいてしまうほどの威圧と恐怖がそこにあった。
「各自心をしっかり持って!呑み込まれないでっ!」
ユズナが叫び、戦士たちが我に返る。戦場で相手に呑まれるということは、もはや相手に命を預けているということだ。
「一旦下がれ!陣を立て直すぞ。」
パラヤが叫ぶことで取り囲んでいた攻撃部隊員たちが門へと駆けていく。
「ほぅ、見事に鍛錬されている。しかしそうはいかぬ。」
ブラングチュールが頭上で槍を回し始める。その回転が次第に速くなると同時に、魔力を帯びた真空の刃が生まれた。
「喰らえぃ!」
槍を振り払うと、真空刃が輪を広げて飛び散った。
「伏せろぉー!」
その飛び散った真空の刃によって攻撃部隊のほとんどの者がその鎧もろとも斬られた。幸いにもベントたち特製の防具によって命は助かるが、ほとんどの者がその場に倒れ伏せた。
そして防衛部隊の盾もまた真二つに割られ、部隊員たち自身も斬られて出血している。
周囲をただ一撃の防御不可能な斬撃によって形勢を変えてしまったブラングチュール。門の上で信じられないというダークエルフたちが動けなくなっていた。
そんな動揺しているダークエルフを可憐な声が一括する。
「回復方陣用意してっ!」
ユズナの声によってダークエルフたちがすぐに矢をつがえる。そして、負傷した仲間たち目掛けて矢を放った。
それぞれの矢は仲間たちや、地面に刺さる。それを見てブラングチュールは不快感を露わにした。
「ここまで勇敢に戦った者たちに対して酷い仕打ちではないか?それとも、慈悲の介錯であるか?」
そう言っている間に、突如殺気を感じて槍を構える。
激しい衝突音と同時に、ワオリとレンが同時に斬りかかっていた。
「おぉ、先ほどの技を潜り抜けて再び相まみえるとは、流石であるなワオチャン。」
「よくも仲間たちを傷つけてくれましたね!許さないですよ。」
怒るワオリが白刀で斬り込む傍ら、レンが隙をついて短刀を繰り出す。
だがどの攻撃もたった一本の槍で見事なまでに弾くブラングチュール。その視界に次第に立ち上がるナチュラルフロンティアの兵士たちの姿が映った。
さっきまで血みどろになって倒れていたはずが、出血が止まって歩き始めている。
よく見れば、先ほど放たれた矢は消えて、代わりに魔法陣らしきものがうっすらと浮かんでいた。
「ほぅ、見たことのない術式であるな。術の文字がエルフの使っているものであるから、エルフの技であるか。」
先ほどユズナが一斉に指示した『回復方陣の矢』は、それぞれの矢に回復薬を含ませ、更に矢自体にダークエルフの長であるブダネとその側近プロイムによって、大地の聖霊による癒しの術式を組み込んだことで矢が刺さった一定の周囲に回復の効果を与えるようにしている。
これによって傷を塞ぐことは出来たのだが、体力などが回復したわけではなく、何とか一命をとりとめるため緊急処置としての効果しかない。
「これ以上、みんなを傷つけさせないですよぉー!」
ワオリが力を込めて白刀を振り下ろした。しかし簡単にその一撃は槍に防がれると、同時に攻めていたレンに向かって槍の石突が襲い掛かる。
「グゥッ!」
短刀を十字に重ねてその攻撃を防ぐレンだが、攻撃を仕掛けていたところで受けた攻撃により、そのまま後方へ弾き飛ばされてしまった。
「レン君っ!」
「仲間の心配より自分の心配をするのだ。」
ワオリが視線で追った隙に、今度は槍の刃がワオリを襲った。それに白刀をぶつけて防ぐワオリ。
しかしここまで激しい戦いを繰り返した白刀に異変が生じた。
「よくぞここまで戦った。お主もそうであるがその刀も大した一振りである。見事であったぞ!」
突き出された槍に対して、白刀の刃に亀裂が走り、そして甲高い音と共に砕け折れた。
「あぁっ!」
「さらばだ、ワオチャン。」
折れた白刀に驚くワオリ。そこに槍が薙ぎ払うようにワオリを襲い、ワオリの体は後方へと弾き飛ばされた。
「ワオリ様っ!」
「ワオちゃん!」
北門の前まで飛ばされたワオリ。受け身を取ることも出来ずに地面に倒れ伏せたワオリは気を失い、その右手には折れた白刀が握られていた。
お読み下さりありがとうございます。
何とか今月中に続編をお送りすることが出来ました。
新型コロナや熱中症で大変な時期ですが、どうぞ皆さまご自愛くださいませ。
さて今回は少し戦闘シーンに力を入れてみました。
本来ならもっと長く戦う事になるのでしょうが、余り長々tぽ時間をかける戦闘シーンは苦手なため、小尾幼な表現をさせて頂きました。
何だかあっさりした状況かもしれませんが、もう少し色々勉強しながら迫力あるシーンを書けるようになりたいと思います。
さて、この続きや前回の続きが私自身どうしても気になってしまい、今も出来る限りお話を書いておりますが、本業が忙しい状況と暑さで疲れがたまりやすい為、どうしても時間がかかってしまいます。
何とか早いうちにお送りできるようがんばりますので、次回もどうぞよろしくお願いします。
それでは今日はここまでにします。
健康にご留意くださいませ。




