内部襲撃(第2次ライディン防衛戦)
省略します
「何でワオちゃんがいきなり出ているの!」
最前線に現れたワオリに驚いたのは敵ではなく、現状この戦いの指揮を統括しているウミミン自身だった。ついさっきまではおなかペコペコと言って食堂へ軽食を食べに行っていた筈であり、悪魔の襲来にこちらへ戻る様にと伝令をお願いしていた筈だ。
するとその伝令係であったマフモフが申し訳なさそうにウミミンの前へ戻ってきた。
「ごめんニャ~。そこまで連れてきていたんニャけど、バン君が倒れたって聞いて一気に駆けて行っちゃったんニャ。」
そう語るマフモフの言葉にウミミンは嘆息するしかなかった。
「仕方ないか。こうなったら作戦を変更だよ。」
そう呟くとウミミンはポケダマに声をかけた。
「ワオちゃん!」
魔力スピーカーで呼ばれてビクッと背筋を伸ばすワオリ。呼ばれていた事を今になって思い出して、内心ビクビクと言葉を待った。
「な、何でしゅか…?」
叱られると感じる子どもの様に恐る恐る奥へと視線を向けるワオリ。その様子につい微笑ましくなってしまう気持ちを抑えて、ウミミンは指示する。
「現状、その鎧武者の集団があちらの主力と思われます。だからそこはワオちゃんに任せます。パラヤ君たちと協力してとにかく敵を通さない様にして。」
「わかったですよっ!」
そう言われて笑顔を見せると、ワオリはまん丸の瞳をブラングチュールへ向けた。
「さぁ、ウミミおねぇちゃまから許可を貰ったですから、ここからはあたちの出番ですよ!」
「フムッ、我が前に立つ勇気に免じて相対することを許そう、小さな獣人よ。」
虚空の瞳がまっすぐにワオリを見つめる。青い鎧武者から強大な魔力が迸り、周囲に対して威圧を与えた。
「クッ、ワオリ様!」
周囲にいたパラヤ達がその威圧に顔をしかめる中、まっすぐに当てられるワオリは白刀を構えたまま動かない。威圧された様子もなくじぃ~っとブラングチュールを睨み返す。
「ほぅ、我が前に立つだけのことはあるという事か。」
あまりに幼い元気だけの獣人と思っていたブラングチュール。だが魔力を込めた威圧を受けない様子に、自分の考えを改めた。
そんな皆の視線を受けていたワオリであるが、じっと睨み返す中で口元からツーッとよだれが垂れた。
その様子に周囲の敵も味方も皆が呆然と見つめる。
そんな視線にハッとしたワオリは慌てて腕で口元を拭った。
「あわわわ、ちょっと恥ずかしいですよ!」
「ワオリ様、大丈夫なのか?」
レンが思わず声をかけた所、僅かに頬を染めたワオリが姿勢を変えずに言った。
「うぅ~、さっき食べた骨付きお肉がおいしかったですから、骨を見ていると思わず思い出してしまったですよ…。
と言うかそうですよ!さっきはよくもやってくれましたね!!」
スケルトンを見て食欲が出たワオリであったが、突如として怒りを露わにした。その変化に周囲の誰もが口出しなど出来ない。
ワオリは白刀の切っ先を向けると、怒り露わに叫んだ。
「さっきの振動でお肉が1つ飛んで行って食べられなかったですよ!
食べ物を粗末にしてはいけません!とお母様が言っていたですよ。
美味しいお肉の仇を取るですから覚悟しなさぁーい!」
そう怒り露わにしたワオリに誰もが何も言えない空気が漂った。
僅かながらに静まり返った空間。その静寂をウミミンが壊す。
「戦闘中だよぉーッ!」
その声で敵も味方もがハッと気づかされたように意識を取り戻した。
「不覚っ!…あまりな戯言に我を失ってしまっておった。
我が意識を飛ばすとはなかなかやりおるなお主…。」
ブラングチュールが槍を構え直す。
「ならそのまま意識を飛ばしたままで良かったですよ!その間に倒しちゃってあげたですから。」
左足を前にして半身になり、白刀を両手で持ちなおすとそのまま胸の前でまっすぐに立てる構えを取ったワオリ。
両者が構えると同時に両軍の者たちも構え直した。
「パラヤ君っ、守るより攻めるですよ!」
ワオリが叫ぶと、パラヤは即座に部隊に攻撃を指揮した。
「守備隊はそのまま城門への侵入を阻止!攻撃部隊は複数で各個撃破。
レン、攻撃側は任せる。」
「わかったぜ!」
「ユズナ殿、歌と支援はお任せします。」
「分かったわ。」
門の上でいるダークエルフたちが弓を構える。そしてユズナは竪琴を奏で、戦士たちを鼓舞する歌を歌い始めた。
「数多の苦難に挑みし勇者たちよ 汝らの心は広大なる空の下で
その崇高なる志を称えたもう…」
歌を耳にして、戦士たちは自らの体に力が宿るのを感じた。心は高揚し、体の疲労は消えていく。
「いくぞぉー!!」
レンが気合の籠った号令を飛ばすと、攻撃部隊のメンバーたちが大きな声で呼応した。遅れずパラヤも「守るぞ!」と叫べば、防衛部隊のメンバーたちも気持ちを込めて呼応する。
そしてワオリがグッと白刀を握りしめると、その大きな瞳で前に立つ青い鎧武者を睨む。
「さぁ、勝負ですよ!」
白き刀を構える小柄というよりも更に幼く見えるイヌミミの少女。先ほど突如として現れ、戯言を抜かしたと思っていたが、こうして相対して改めてこの小さな獣人がかなりの強者であるとブラングチュールは認識した。
「…侮っておったことを詫びよう。これほどの強者、挑まれずともこちらから望むところである。」
重そうな槍を頭上で回し、半身になって槍先をワオリに向けたブラングチュール。骸骨となっているが、その顔は微笑んでいるようだ。
他のアンデット武者たちも各々が武器を構え、両軍一度静まり返る中、ユズナの歌声だけが響き渡る。
そして一拍の後、両軍は同時に攻撃を開始した。
「はじまった!」
時間は少し前。悪魔軍が激突を開始した頃、ライディンの中央広場へは非戦闘員たちが集まっていた。
戦闘には向いていない為に戦いに加わっていないが、戦う仲間たちの裏方役としてそれぞれの仕事を熟していく。
予め決めていた用意が完了して手を止めた者もいる中、今も忙しなく働く者たちがいた。
戦闘という事でいつでも食事が出来る様にと食事係の面々が、各々の調理を熟していく。
最も手軽に大量の栄養を摂取するため、大きな鍋を巨人であるナーゼが掻き混ぜる。その横でバオや新しく加わったディアやリプスが食材を切り分けて鍋の中に投入していく。
一言で鍋と言っても巨人たちも食べることになるため、とてつもなく巨大である。直径5m深さ3mの大鍋にシチューを拵えていく。
それだけの巨大な鍋はもちろんベントたちドワーフによって作成されているのだが、これだけの大きさを煮込むためにはそれだけの火力が必要であり、当然そこから発せられる熱量も半端ではない。
その問題をクリアするため、強力な火力を持つドワーフ王家に伝わる『精製の炎』を使った炉を有する鍛冶場の上に作られている。
鍛冶を行う地下で炎を作り出し、地上でその余熱を鍋へ与える構造となっており、鍋もまた熱伝導の良さと、精製の炎の火力に耐えられるよう特別に作られたものだ。
「バオちゃん、味付けは任せるよ~。」
鍋の縁にある踊り場で食材を投入しているバオに叫んだのは、地上で専用のフライパンを奮い続けるナッチョンだ。
シチューだけでは足りないと思い、簡単につまめる料理を他のメンバーと共に調理していく。
ナッチョンが焼いているのは肉である。巨大な魔獣を巨人たちが狩って来て、その中の一部を切り分けてローストしているのだ。
元々巨人たちは魔獣を狩って食べていたが、その魔力から体に不調をきたしていた。
しかしこのライディンには神樹があり、その浄化能力によって魔獣の肉も害を与えない普通の食材と化す。当然体に悪くないのだから味も良く、更にナッチョンたちによって調理される事で、食材は身体に良い効果を与えてくれる。もちろん味に関しても文句など出るはずもない。
ナーゼが鍋をかき混ぜる傍らで狩ってきた巨大な変異ビッグボアを丸焼きにしている。そのビッグボアのハラミ部分を香辛料を加えて焼くナッチョン。それを薄く切り分け、麦で作ったパンにサンドイッチにしていく。
「それにしても、みんな大丈夫かしら?」
近くで調理するメンバーの一人が呟いた。結婚して夫は戦士団の防御部隊に所属している。言葉でみんなとは言っても、当然夫を思う気持ちは周囲の者たちも気付く。
前回は圧倒的なウミミンの攻撃で圧勝したが、当然それが続くなど楽観視する者はいない。更に強い悪魔が来ていると誰しもが気付いている。
その言葉に、料理の匂いに釣られて聞いていた者たちも視線を落とす。
ジュージューと肉の焼ける音が響く中、ナッチョンがさらりと言った。
「大丈夫だよ。」
皆が視線を向けると、フライパンに視線を向けたままナッチョンが語った。
「悪魔が強くても、こっちも仲間が増えて強くもなっているんだよ。
それに、お肉食べられなくなったワオちゃんのあの怒りを見たら、相手が逆に可愛そうに思えるよ。」
そう耳にしたみんなが自然と笑みを見せ、そして大きくうなずいた。その反応を感じて、なっちょんは手を動かしながらワオリたちの無事を祈った。
そんな慌ただしい中でふとナーゼが視線を止める。その表情は険しく、かき混ぜていた棒を止めた。
「ナーゼちゃん、焦げ付いちゃうよ?」
その様子にバオが話しかけたが、ナーゼの手は止まったままだ。
そしてバオの声にダークエルフであるディアたちも、ナーゼを見た後でその視線の先に注視する。
そして次の瞬間、手にしていた食材を手放すと呪文を詠唱した。
「風の聖霊よ、わが前に隠れし者の姿を示せ。」
詠唱し終えると、建物の屋根の上で屈んでいる紅い服を着た者の姿があった。黒くくすんだ紅色の衣装。顔もすっぽりと覆う頭巾に腕と足には真っ黒な小手と脛当てが付いている。
そしてその背には禍々しき気配をまとった一振りの刀がある。
その姿は一度だけ見たことがある。
前の戦いの最後、ウミミンの首を狙ってきた悪魔だ。
「敵襲ぅーっ!」
突然姿を見せた悪魔に周囲は騒然となった。
「ムッ!気付かれたか。」
紅い悪魔はそうつぶやくと、一瞬にして姿を消す。戦えない者たちが多い町中で、悲鳴は上がるものの皆がそれぞれに統制された動きを見せた。
「そこだ!」
逃げるヒト達の頭上で、さっきまで鍋をかき混ぜていた木の棒を空に付き込むナーゼ。そして突き出したままになった棒の先を見つめると、そこで直立する紅い姿がいた。
「フム…さすがは巨人族。されどお主では相手にならぬ。」
紅い悪魔が告げると、ナーゼは怒りを見せて棒を振り払った。その動きに合わせて棒の先にいた紅い悪魔がフッと姿を消す。
見失って首を左右に振るナーゼ。そこにディアの叫ぶ声がした。
「下ですわ!」
慌てて足元を見るナーゼ。同時に自分の右足首の辺りで痛みが走る。
紅い悪魔の手に短刀が握られており、それがナーゼの足へ刺し込まれていた。
「ウッ!」
呻きつつも手にある棒で悪魔を追撃するが、右足首の痛みで力が入らずうずくまってしまうナーゼ。
狙い通りの手が届きやすい場所まで下がった頭部へ、紅い悪魔が背にある刀に手をかける。そのまま一瞬にしてナーゼの首元まで詰めると、
長い髪で隠れた首筋を断ち切ろうと刀を抜いた。
「させるかぁーーーー!」
怒りをはらんだ怒声とともに、真下から紅い悪魔へ突撃してきた者がいた。不意を突かれて悪魔は刀を抜き切る前にナーゼの肩を蹴って飛び退く。そしてそれまでそこにいた悪魔の残像を払い除けるように、丸く平たい金属の板が空を切った。
飛び退いた紅い悪魔は高い建物の屋根へと着地し、周囲を確認する。
うずくまる巨人に駆け寄るダークエルフやドワーフ、一方で悪魔の襲来に対して的確に避難を開始する住人たち。
そして今自分を襲ってきた小さな獣人が金属製の鈍器らしきものを肩に担ぎながらこちらを見据えていた。
「拙者の不意を衝くとは、なかなかやりおる。」
そう呟いて紅い悪魔はその小さな獣人を注視した。その視線に怒り露わの料理長が叫んだ!
「うちのナーゼちゃんによくもやってくれたなぁ~!絶対に許さないぞ。」
そう言って愛用の特性フライパンを悪魔へ向ける。
「あたしの仲間に手を出した以上は覚悟しやがれぇい!」
怒りそのままに啖呵を切るナッチョン。
ライディンの町中央にて戦闘とは無縁なはずの生活班と、『隠密』という独自のスキルによって単身忍び込んでいたジルデミオン軍でも上位に位置する紅い悪魔『ジュニュキール』の戦いが始まろうとしていた。
お読み下さりありがとうございます。
またまた長くなってしまい、お待たせしてしまったことを深くお詫び申し上げます。
今回、いつも打ち込んでいたノートPCが「ぶつん」と音を立てて逝ってしまい、
同時に記録媒体として使っているUSBにまで影響が及んでしまうという不運がございまして、
何とかここまで書き直した次第であります。
さて、今回のお話のポイントは何と言っても後半部分でしょう。
生活班の面々が強力な上級悪魔相手にどうなってしまうのか?
正直私もよくわからない間に「ナゼこうなった?!」状態です(笑)
なんにせよ、戦いはこれから更に厳しくなっていきますが、その辺りも楽しみにして頂けたらと思います。
少し書くペースが遅くなってしまっておりますが、何とか月一には掲載するようしたいと思っております。
次回は今月(R2,8月)中には掲載いたしますので、次回もどうぞよろしくお願いします。
それでは失礼いたします。




