第2次ライディン防衛戦 開戦
長く間を空けてしまいましたが、再び物語が始まります。
惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変った。
そしてワオリたちの活躍によってシュラハティニア大陸が解放され、世界は悪魔や亜人たちを倒そうと動き始める。
そして時は経ち1008年。
各地で悪魔たちが攻撃を開始した。
それによって多くのヒト達が傷つき、また倒れていく。
一方で、これまで静観していたエルフたちが事態に対して行動開始を決意した。
そしてこれからライディン近郊において、ナチュラルフロンティア軍と
悪魔大公ジルデミオン軍との戦いが開かれようとしていた。
平穏な日々が続く新しくなったライディンの町。
人々が集まり、たくさんの人種が垣根を越えて暮らしている中、それは突如起こった。
「全員衝撃に備えて!」
ウミミンが叫んだ瞬間、街全体が大きな振動で揺らいだ。
空気が震え、それによって人々の身体が揺すられる。
地面と違って空気が揺れるため、慣れない者は耳の中の平衡感覚を揺らされてその場にしゃがみ込み、机の上にある花瓶は倒れ、食事は地面へと落された。
「あ~、あたちのお肉がぁ~!」
などと言う悲鳴が聞こえたかどうか定か…ではあるが、暫くして揺れは治まった。しかし突然の事で騒然とするライディンの街の中。そこにウミミンの緊迫した声が響いた。
「皆に緊急連絡!さっき北東から強力な魔力が放出されました。原因は悪魔たちが攻めて来たと考えられます。
至急戦闘態勢に入って下さい。繰り返します~」
その声に皆が気持ちを切り替えて動き出した。前回の悪魔の襲撃から半年もの時間は経っているが、いつでも緊張感を持った生活をしていた事で、遂に時が来たかと気持ちを切り替える。中にはこの時を待ちわびたかのように動き出す者もいる。
一番に動いたのは有翼の偵察者たちで、すぐに上空へと飛び立つ。ヤーグと他4名が散り散りに上空に飛ぶ。まとまっていては射撃の的になるため、飛び立つのが速い者が選ばれている。
「確認した。北東より大軍が押し寄せている。ざっと確認して1万ほどと思われる。」
ヤーグより第一報が知らされる。この半年の間で、ウミミンにより町全体への連絡が出来る魔法が備えられた。
専用端末『ポケダマ』という水晶の付いた棒に声をかけるとその声を神樹が中継し、そのまま『魔力スピーカー』の役割を担った神樹から一斉に声が伝えられる。これによって先ほどのウミミンの声も町全体に伝わり、情報の伝達や一斉行動の開始ができるようになった。
その利便性から今も着々と各自が行動を行っている。
偵察からの第一声にまず動いたのが戦士たちだ。直ちに武装を整え、指定の位置へ集合していく。
同時に生活班の面々は避難場所である広場に集まる。戦士たちが休めるようテントを拵え、食料などの物資を保管確認していく。
医療に関わる者は回復薬の準備に大忙しだ。
各自がそれぞれに前もって割り当てられた役割を忠実に熟していく。
そんな中でヤーグ達偵察班から声がした。
「敵勢力より飛来物在り!各自防御体勢を。」
緊張の走る中、北東の空から巨大な岩が迫る。数にして100程の大きな岩が放物線を描いてライディンを襲う。
町に悲鳴が上がる一方、美しき声があがった。
「任せて!」
竪琴の高い音が響くと、巨大な氷柱が撃ち上がる。氷柱が巨岩を貫き粉々にすると、空は土煙で覆われた。
ユズナの攻撃に合わせて、ダークエルフたちも魔法で応戦する。大地から土の柱が撃ち上がり、岩を真下から圧し砕く。
しかし岩の数は氷柱よりも多い。当然迎撃できなかった岩は雨の様に町へと迫ってきた。
「じょんじー!」
ウミミンの叫びに黒い影が大空に駆け上がる。翼の生えた黒いネコが次々と岩を斬り裂いていった。それによって空からの襲撃を凌ぐことが出来た。
しかしそれは戦いの始まりに過ぎない。空からの脅威を対処している間に、悪魔たちが突撃を開始していた。
「こちらヤーグ。岩が飛んでくる間に敵軍が迫っている。」
上空からの声に皆に緊張が走る。それに対して戦闘隊長パラヤが叫んだ。
「了解だ。戦闘部隊、これより迎撃に向かう!」
装備を整えた部隊の面々が一斉に町の北門を超えて隊列を組む。
「敵はすぐに来るぞ!各自防衛体勢っ。」
守備隊長バンの声に盾を構えた防衛部隊の面々が前に出て構える。人数としては当然悪魔の方が多い。
そのため北門を守護する様に等間隔で50名が並ぶ。
「敵の出鼻を防いだら攻撃部隊出るぞ!」
「「「オォーッ!」」」
攻撃部隊長レンの声に、防衛部隊の後方に並ぶ攻撃部隊員たちが呼応する。
間もなくして悪魔たちの先鋒であるゴブリンライダーたちが土煙を巻き上げながら迫ってきた。鎧を纏い、手には短めの槍と盾を構えたゴブリンたち。奴らが乗るのは『ヘルハウンド』という真っ黒な体毛のない狼の様な姿で、体の各所にあるひび割れた部分からは、真っ赤な炎の様なものが揺らめいている。悪魔の棲む世界の動物で、獰猛な魔獣だ。
それらに跨るゴブリンも普通ではない。強力な魔獣を従えるためには当然それなりの強さが求められ、このゴブリンライダーたちは跨るヘルハウンドを屈服させるだけの力を持っている。
またその体には強力な装備を纏っており、四大公の一角『ジルデミオン』の尖兵らしい部隊である。
「敵は見るからに強力だ。ゴブリンライダーだからと気を抜くんじゃないぞ!」
大盾を構えたバンの怒声に、他の者たちも腰を据えて盾を構える。
軽くも勢いのある足音が聞こえてくると、ヘルハウンドたちの唸り声が戦士たちの耳に届いた。
悪魔たちの世界で棲むだけに、その唸り声だけでも恐怖を感じさせる。
緊迫する中、ユズナの声が届く。
「弓隊、放って!」
間近まで接近させたゴブリンライダーたちに、ダークエルフたちの弓矢が放たれる。数十名の矢ではあるがその精度は高く、見事にヘルハウンドの頭を射抜いていく。
顔に矢を受けて勢いのまま倒れるヘルハウンド。それによって後続が巻き込まれて突撃する数は減少する。
それでも手練れたゴブリンライダーもおり、矢を掻い潜って戦士たちに襲い掛かった。
激しい衝突音と共に近接戦闘が開始される。
時速60キロもの速度で駆けて来たヘルハウンドの体当たりに、構えた盾がへしゃげる。
当然それだけの速度で頭から突っ込んだヘルハウンドは無事ではないが、乗っていたゴブリンライダーは構えられた盾に手にした武器を叩きつける。
構えた盾に押し寄せるゴブリンライダーたち。矢によって何騎か減ったが、門を守る守備隊よりも多くのゴブリンが攻め寄せていた。
並べた盾に向かって幾つもの武器が叩きつけられる。それを一切動かぬよう構え続ける守備隊の面々。
幾ら精度が良かろうと、こうまで近づかれた状態で矢を射る事は躊躇われる。
そのうち、盾を構える隙間から身体を乗り出すゴブリンがいた。それに対して後方に控えた戦士が槍で突いて倒す。
幾度かそうしたやり取りが続いたが、やがてゴブリンの手が伸びた場所に突き入れた槍先を、他のゴブリンがそれを掴んで引っ張った。
そんな行動を予測していなかっただけに、槍を引っ張られたヒトが前のめりになる。それによって前で盾を構えていた戦士が後ろから押され、僅かな隙間が生じる。
そこをゴブリンたちが見逃すはずがなかった。隙間から刃を押し入れて盾を持つ手に刺さる。
その痛みによって盾を手放すと、鉄壁の守りに穴が開く。そこを飛び越えてヘルハウンドに乗ったゴブリンライダーが迫った。
ヘルハウンドの牙が防衛隊員に襲い掛かる。同時に乗っていたゴブリンの手斧が振り下ろされようとした。
「させねぇ!」
そう叫んだのは攻撃隊のレンであり、その手にあった棒状の投げナイフが2本、ヘルハウンドの頭部に刺さった。悲鳴を上げると同時に、攻撃部隊員がゴブリンもろ共斬り伏せた。
「負傷者を奥へ!攻撃隊出るぞ。」
号令と共に負傷した獣人が下げられ、膠着し始めた最前線に攻撃部隊が踊り出る。
足の止まったゴブリンライダーに向かって、獣人たちが襲い掛かって行く。普通にヒトが騎馬に乗っていたならば高さがあってなかなか攻撃できないが、ヘルハウンドはせいぜい成人したヒトのお腹辺りまでの大きさしかない。それに跨るゴブリンは小人であって、騎獣してもほぼ同じくらいの高さになる。
なので同じ高さであれば十分武器が届く訳であり、足の止まったゴブリンライダーなど脅威ではなかった。
僅かな人数で敵の第一波であったゴブリンライダーを壊滅すると、第二波が迫ってきた。次なるはゴブリン達亜種族が5000程おり、中にはブラックゴブリンの姿も見受けられた。
流石の大軍に戦闘部隊の面々にも緊張が走るが、神樹からユズナの声が発せられた。
「第二波に向けて攻撃はじめーっ!」
迫り来る大軍に再びダークエルフたちの矢が襲い掛かる。今度は大軍で動きも遅いため、ダークエルフたちは魔力を纏わせた矢を放つ。
弧を描く様に斜め上へ打ち上げた矢は、放物線を描いた後、様々な魔法を発動させた。
上空で矢が「パンッ」と音をたてて裂けたかと思うと、そこから魔力弾『マジックショット』が散弾して一定範囲の亜人たちに降り注ぐ。
また炎を纏った矢は地面に落ちると、その周囲数十メートルを火の海にして燃え上がった。
それらの効果によって次々に数は減っていくが、5000という数の軍勢はそう易々と止まらない。
「来るぞーっ!」
戦闘隊長であるパラヤが一喝すると、戦士たちはそれぞれの手にある武器や盾を構え直した。これから大軍を迎えると言うのに彼らは恐怖など無く、逆に気分を高揚させていた。
彼らは皆、この戦いが始まる前から数の不利など承知している。
自分たちは皆、これまで幾度となく死と向き合ってきた。
それでもここまで生き続け、数々の苦難を糧に鍛え続けて来た。
それもこれも、自分たちの自由を得るがためにやってきたことだ。
ましてや自分たちの後ろには守るべき仲間や頼れる仲間たちがいる。
ならば自分たちに恐怖など無用だ。
後は思う存分に勇気を奮うだけだ!
戦闘部隊員全員が口端を傾け、迫る亜人たちを睨みつける。向こうの方では未だに後方支援による魔法が降り注いでいる。それによって数は確実に減っているのだ。
やがてあと20メートルという距離に迫った所で、パラヤは号令を出した。
「かかれぇー!」
「「「オオォ―――ッ!!!」」」
北門にて、ナチュラルフロンティア軍と悪魔軍が激突した。
亜人にもいくらかの種族があり、ゴブリンは個々の戦闘力は低くとも集団で行動することで十分脅威となる。故に雑兵としては最も適した存在だと言える。
小さく素早いゴブリンが様々な方向から攻めて来るとすれば、十分厄介だ。
更に個体能力の高いブラックゴブリンがそれらを統率し、更には強力な力を有するラゼッドゴブリンまで数体いるのだから、たかがゴブリンなどと一括りにして良い訳など無い。
故にチームを組んで対応する事が重要となる。攻撃部隊と防御部隊がコンビを組み、それが2ペア4人でチームとしている。
防御に秀でた二人が相手の攻撃を抑え込んだ隙に、攻撃担当が一撃の下で大きなダメージを与える。4人だから同数を相手にする必要はない。
ダメージを抑えて、確実に相手を倒す。そのためにも4人以下、例えゴブリン一体であろうとも万全を喫して対処していく。
一体ずつを丁寧にかつ迅速に倒していくことで、誰一人でさえ仲間を窮地に立たせず戦っていく。これまでそうした訓練をしてきたのだ。
当然最初は人種能力の差や個人の感情によって上手く行かなかった。
しかし共に生き、訓練を重ねることで今では『阿吽の呼吸』で流れる様に戦う事が出来ている。
ましてや戦闘能力や装備も向上している今、防衛線が破れる心配はない。
チームも分けてきちんと休憩を取らせながら、着実に相手を倒していく。
大きなラゼットゴブリンは、辿り着くまでにダークエルフたちの攻撃で大ダメージを受けているので脅威ではない。そしてブラックゴブリンに対しては、パラヤやレンといった戦闘力に秀でた者がその場にいるチームと連携をして倒していった。
そんな北門を避けて回り込もうとする者たちもいたが、ヤーグ達が上空から監視していることで直に遠距離攻撃などで対処していく。
5000という大軍であるが、今の戦闘部隊からすれば亜人たちは脅威ではなくなっていた。
1時間もすれば5000もいた亜人たちのほとんどが消え失せ、恐怖にかられて逃走するゴブリンもいた。
「フム、はなから充てにはしていなかったが、まことに使えぬ奴らよ。」
離れた場所から戦いを見ていた青い鎧武者が言った。その手には長い何の装飾もない無骨な槍を携えている。悪魔側の指揮官である『ブランチュール』だ。
その周囲には同じ様な鎧を纏った者たちがおり、皆が生気など無いアンデットだと感じる事が出来た。
「さて、此度は我らの雪辱戦である。前回の超広域兵器を警戒しておったが、あのように戦士が戦うならば撃っては来ないであろう。
まぁ、先にこちらが仕掛けておるから警戒しておるかもしれぬがな…。
ならばこちらは思う存分に『死合う』のみ。」
そう告げると、くるりと後方に身体を向けた。それに従って他のアンデット武者たちも後方に向く。
「我が主『ジルデミオン』様。これより我らブランチュール隊が出陣致します!どうか我らが戦、御照覧あれ!」
そう高々に叫ぶと、再び南へと向く。そして槍を握り締めると、叫びながら駆け出す。
「者どもぉぉぉー!出陣であるぞぉぉぉぉぉー!!」
「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
大地を轟かせるような唸り声をあげて、ジルデミオン軍最強の部隊がナチュラルフロンティアに襲い掛かった。
「悪魔側から新たな敵が侵攻…!あいつは、青い鎧の奴が来たぞ!!」
ヤーグの慌てた声にナチュラルフロンティア内で戦慄が走る。瞬時に皆が前回の戦いで退いたあの骸骨の武者だと思い出す。
「皆、ここからが本当の戦いだよ!」
ユズナの声が響いた。その声が緊張を孕んでおり、ここからが正念場だとみんなが感じた。
そして視界に青が入ってきた。北東から一直線にこちらへ向かってくる鏃型の陣形。見たとおりに一本の矢の様に密接して迫って来る。
ゴブリンたちの様に、各自がばらばらでその場しのぎの動きではなく、皆がまとまって同じ行動を行う集団による攻撃の陣に、戦闘部隊の面々は今一度気持ちを切り替えた。
「防御部隊、重壁の形に!」
防御部隊長のバンが叫びながら最前列に構える。その左右に2名ずつが並んで構える。その後ろに前線の体を支える様に構える。俗にいうとラグビーのスクラムを組む様な感じだ。
更にその後方にも同じ様な陣を組んで正面からの攻撃に備える。
「弓隊、放って!」
陣形を整える間に、門の上から矢が放たれる。当然魔法も加えた攻撃だが、青い武者たちは怯む事無くこちらへ迫る。
その動きは異常であった。ブランチュールたちは決して足を動かしていない。その移動はまるで氷上を滑るかのようにスーッと移動している。そしてそのスピードが馬を駆るかのように速いのだ。
草原を土煙や音もなく疾走してくる彼らに気味悪さを感じつつ、近づけさせまいと矢を放つが、どれも効果は薄かった。
その鎧に矢が弾かれるのだ。
「攻撃が効かない?」
その事態にダークエルフたちが焦るが、攻撃の手を緩めない。何とか一体でもと射続けたが、どの矢も弾かれてしまった。魔法では詠唱に時間がかかって当てる事が出来ず、範囲魔法では近いためにバンたちに影響を与えてしまう。
そんな中でユズナが竪琴の弓を構えて風の刃を放った。その刃にアンデット武者の一体が列から離れて手にある刀を打ち付ける。
縦横無尽に刀を繰り出して風の刃を断ち切る。だがその余波によってそのアンデット武者の鎧は斬り裂かれ、全てを切り消した時にその体は切り刻まれた状態になっていた。
だが、その間にも鏃の陣形はスピードを落とさず突き進んだ。
そして先頭を疾走するブランチュールの槍がバンの盾へ突き込まれた。
その瞬間、まるで巨大な雷が大地に落ちたような激しい衝突音が起こった。
一方は無骨な何の装飾もない一振りの槍。
一方はドワーフであるベントが作り上げた特製の大盾。
それぞれ攻める物と守る者とに分かれて互いの意地がぶつかり合う。
修練を重ねて練り上げられてきた技術のぶつかり合いに轟音と衝撃が周囲に迸る。
槍の先が盾に突き刺さり、そのまま刃がグイッと捻じ込まれた。それによってバンの腕に槍先が食い込む。
しかしそれで破れては後方を守れぬとバンは歯を食いしばって苦痛と衝撃に耐える。幸いにも盾を貫いたのは槍の切っ先だけで、骨までは達していない。このまま守りきろうと力を込めた。
そんな思いに防御部隊の面々も己を奮い立たせて挑む。力は歴然として悪魔たちが上だ。
だけど仲間を思い、ここまで鍛えてきた自分たちを信じる気持ちだけは負けているなど思っていない。迫る悪魔たちに対してその身を挺して食い止めようと奮戦する。
そんなバンたちの頑張りに対し、アンデット武者たちは真正面から突き押していく。後方から前へと押す力も加わり、ちょうど大盾を境にバンたち防御部隊とアンデット武者たちが押し合いを繰り広げる形となった。
純粋なる力比べ。
当然力は悪魔であるブランチュールたちが強い。だけどここは浄化されたライディンの町近郊である。
併せて彼らの信念が悪魔の進行を食い止めた。
「ほほぅ、我らの矢駆け(やがけ)を止めるとは見事なり!」
自分たちの攻撃を止められたというのにブランチュールが褒め称える。普通ならば悔しがると思われるが、悪魔でも上級以上に位置するブランチュールに焦りなどなかった。
「ならば、これはどうかな?」
そのしゃれこうべの虚空な瞳に白い光が灯る。そしてアンデット武者たちが一斉に後方3メートルまで退くと、ブランチュールは槍を両手で握り締めて突き込んだ。
圧力のなくなった状態から防御部隊は一息を吐いていた。もちろん気を緩めた訳ではないが、僅かなその一息の間に先ほどの突撃よりも激しい攻撃が襲い掛かり慌てふためく。
ブランチュールの繰り出す槍先が、豪雨の様にバンを中心とした5つの盾を叩きつける。
ほんの僅かな合間に数撃の刺突が盾を襲い、先ほどよりは弱いが気を抜くなど出来ない程に圧力が迫る。
やがてその攻撃に盾が削られ、既に損傷していたバンの大盾に亀裂が走った。
「イカンッ、盾が持たない!」
最も強固なバンの大盾が悲鳴を上げると同時に、左右に並ぶ4枚の盾もその表面が凸凹に変形していた。
やがて空いていた穴に槍が突き込まれた瞬間、音をたてて大盾がバラバラに崩れた。
「緊急退避-っ!」
盾が崩れる間際にバンが叫び、防御部隊が下がる。そして塞ぐ物のなくなったバンへ槍先が襲い掛かった。
「ぐふっ」
ブランチュールの槍がバンの腹部を貫通した。
「バンッ!」
それを見てレンが防御部隊を飛び越えてブランチュールに襲い掛かる。黒豹の如く素早いレンの動き。しかしブラチュールは引いた槍でそれを迎撃するように突く。
「ぬおっ!」
空中で移動できない為、両手の短刀で槍をさばく。
その間にバンを後方に下がらせ、パラヤが防御部隊に再び守備陣形をとらせた。
「バンの手当てを急げ!防御部隊は横隊で門を守れ!」
副隊長がやられたことに少なくとも動揺するも、戦いの最中であると己に言い聞かせて隊形を整える。
その間にレンは何とかブランチュールに近づこうとするが、その間合いに僅かながらも踏み入る事が出来ずにいた。
「他の者は行くなよ!下手に踏み込んだら串刺しにしかならないぞ。」
レンに続いて踏み出そうとする攻撃部隊をパラヤが制す。上級悪魔を単独で倒せるほどに強くなった彼でさえ攻め入れない状況なのだ。彼より弱い物が向かってもやられるだけだと、隊長として冷静に対処する。
「レンッ!こっちの体制は整った。一旦退けっ!」
パラヤの声にレンが大きく後方へ飛び退く。そこにブランチュールの鋭い一撃が繰り出されるが、間一髪躱すことに成功した。
「ほぅ、これもまた見事な。最後は仕留めるつもりだったがよくぞ躱したものだ。」
ブランチュールが嬉しそうに語る。そして槍先に刺さった防具を振り落とした。
それはレンの右足に付けている膝あてだった。
無事に避けられたと思っていたレンであったが、自らの足にある防具がない事に冷や汗をかく。
「さぁ、それでは今一度参る!」
そう言って再びブランチュールたちが突撃を開始した。
緊迫するパラヤ達戦闘部隊員。
「ちぇいやぁーーー!」
そんな矢先に可愛い掛け声が響き、ブランチュールたちの出先に強大な剣激が襲った。
咄嗟に足を止めたブランチュールたちに被害はなかったが、いざこれから攻め入ろうとした勢いを止められ前を見た。
そこにスタッと音をたてて下りてきた小柄なイヌ耳の少女。円らな瞳で睨みを利かせ、頬をぷぅっと膨らませている。
「お主か…。」
ブランチュールの不機嫌そうな声が響く。それに対して少女のはつらつとした声が響き渡った。
「よくもバン君をいじめたですね!ここから先はこのワオちゃんが一歩も通さないですよぉー!」
その手に持つ白い刀を差し向けながらワオリが戦場に現れたのだった。
お読み頂きありがとうございます。
随分長くお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。
実は書き溜めていたデータを入れたUSBメモリが破損してしまい、
ある程度の流れを把握するために第2部を読み返したりしておりました。
その中で、自分ではしっかりとチェックしていたつもりでも、いくつも誤字脱字を発見してしまい、
随分恥ずかしい限りです…。
とりあえず物語の続きをと思ってそのままにしておりますが、
全て書き終えた際には清書したいと思います。
さて物語は再びワオリたちに戻りました。
対するは悪魔軍でも勇猛な悪魔の多いジルデミオン軍です。
はたして無事に撃退することができるのか?という感じで進めて参ります。
それでは今回はここまでに致します。
また次回もよろしくお願い申し上げます。




