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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
75/93

ウェドノ火山の戦い(前編)

惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変った。


そしてワオリたちの活躍によってシュラハティニア大陸が解放され、世界は悪魔や亜人たちを倒そうと動き始める。


そして時は経ち1008年。


ワオリたちナチュラルフロンティアの活躍と同時に、世界中で様々なヒト達の活動が開始される。

その一方で、悪魔たちも新たな行動を開始していたのだった。

【第5章】②


 パァムのいる旧バトリスク王国領から、ちょうど北半球を半周した辺りにあるノルズウェッド大陸北部。

 北半球の北部に位置するために、一年を通して寒い気候のこの地域に、かつて栄えたのはヴォラード家が治めていたヴォラルディア王国の領土がある。

 寒さに強いアコースという種族が治めていたが、その厳しい自然環境に世界中の国々に比べて人口は少ない。

 しかしアコースという強靭な肉体はその地域において絶対的な支配者として君臨し続けていた。

 しかし悪魔たちが現れた1000年に、王国は悪魔たちによって大きな被害を被り、残った者たちは何とか亜人たちの襲撃を退けながら生き長らえていたのだった。

 そんな時に現れたのが、かつてはいがみ合っていた南にある『ウェドノ火山』で住んでいたドワーフ達だった。

 火山による豊富な鉱石を基に大国を築いていたが、悪魔によって北へと追いやられ、自分たちで作った自慢の武具を亜人たちに奪われた彼らは次第に数を減らしながらここへと逃げて来たのだった。

 いがみ合う事もあった両種族であるが、アコース達は彼らを受け入れ、そして両種族は手を取り合う事となった。

 丈夫で力強いアコース達が、ドワーフ達によって丹精込めて作り上げた武具を纏った事で彼らの戦力は大きく増強され、遂には中級悪魔をも屠るほどになった。

 そんな彼らの元に、近隣で隠れるように住んでいた者たちが続々と集まる。一冬の間に装備も行き渡り、軍隊としての練度も上がったアコース・ドワーフ連合軍は温かなブルームの月を待たずして吹雪の納まった頃を目途に南進を開始した。

 まず目指すは『地底王国ドワルブ』。ドワーフ達の王国だ。大陸中央に位置する為、そこを拠点にして今後悪魔たちを撃ち倒していくつもりである。

 そのためにもこの南進は彼らにとって重要であり、住民約300名全員がその進軍に付き従った。

 雪解けの中であり足下は緩く進軍はままならぬかと思ったが、そこはドワーフの考案により、大型のソリを用いたのだった。それらに大量の物資を載せ、歩くことがままならないものも運ぶこととなった。

 更に北部は山岳地帯が多く、南への坂道が続くため、そりに全員が搭乗して滑り降りる事も出来た。

 こうして予定よりも短い期間で雪の残る旧ヴォラード領域を抜けたアコース・ドワーフ連合軍はまっすぐにドワルブ王国北入り口の洞窟へと辿り着いた。


「では出陣する。」

「ウム、よろしく頼む。」

 屈強なる戦士たちを引き連れ、戦士たちの長ソルブガットが告げると、見送るドワーフの王ドルッセンが大きく頷きながら送り出した。

 入り口付近の防備は薄く、入り口わきに1体ずつブラックゴブリンが立っているだけで、頻繁に出入りしている様子もない。

 もう少し防備が厚いと思っていたソルブガット達だったが、攻め込まれるという概念がないためか、入口付近は他に亜人1匹さえも警備はいなかった。

 それで近くの林の中に戦えない者や物資を潜ませ、それ以外の者たちは森林の中を何班かに分かれて入口まで移動してきた。

 その結果、数体のゴブリンを見つけ次第始末したくらいで、全員が無事に入り口まで辿り着く事が出来たのだった。

 そこでようやく集まった連合軍は小休止の後、作戦実行に取り掛かる。

 作戦とは、ソルブガット達アコースの戦士たちが一気に入り口から地底へと流れ込み、続くドワーフ達の軍勢を都市西部にある王城まで連れて行く。

 そこでドワーフ達が秘蔵していた兵器を使い、地底王国内の亜人や悪魔たちを殲滅。そして外の仲間を呼びこんで強力な結界を起こすという作戦である。

 その兵器についてアコース達が疑いを持ったのだが、ドワーフ王国でも王家にのみ伝わる強力な物であるらしく、必ずや悪魔をも屠るという事からこの作戦が立案された。

 もちろん、その兵器を悪魔たちが使っているのではないかという意見もあったが、初代ドワーフ王から伝わる秘術によって封印されているため、王家の血族以外が扱うことは出来ないと答えられた。

 ドワーフは基本一本気で腹芸は不得意な種族であるが、一国の王ともなればそうした何らかの秘密を隠していても不思議はない。それがのちにどのように働くかは不明であるが、今はとにかく悪魔たちを倒すことが先決だと判断し、アコース達は指導者であるソルブガットに従って行動を開始した。


 一気に駆けだしたアコースの戦士が、門番であるブラックゴブリンを手にした手斧で頭部を潰した。同時にもう一人のアコースは、ブラックゴブリンの喉元にある隙間に刺突用の短槍を突き立てた。

 素早く一撃の下で門番を倒した連合軍は雪崩れ込むように洞窟内へと侵攻する。

 仄暗い洞窟内を屈強の戦士たちが駆けていく。一本道の坂道はドワーフの為の入り口だが、外での収穫物などを運ぶために広く掘られており、アコース二人が並んで移動できる広さがあった。

 地下へとなだらかに坂道を下って行く。

 奪われて数年経つが、坑道に大きな変化はなかった。前もってドワーフ達から聞いていた通り、一直線でドワルブ王国へと辿り着く。ここから城のある西へ向かう。

「各班密集陣形でドルッセン王を城までお連れしろ。」

 走りながらソルブガットが伝令する。前もって5名ずつで一つの班を作り、3班15名は外で待機させている非戦闘者たちを守るよう指示している。

更に15名は後ろから来るドワーフ達の警備を担当させ、残る70名で進路を確保する。

 もちろんドワーフとて強力な戦士だ。アコースに比べて背が低く歩幅が違うために前へは出ていないが、その剛腕は戦士として十分な力量である。

 かつて工具の音が絶えなかったドワーフの王国を駆ける連合軍。静まり返った町の中、足音がこだまする。

「上手く潜れたようだな。」

 敵が来ない事に一人のアコースが呟いた。てっきり亜人たちが攻め寄せて来るものだと思っていただけに、何の抵抗もない事に安堵して漏らした言葉だ。それを聞いて、近くで駆ける者たちも少し安心して見せる。

「待てッ!」

 突如としてソルブガットが停止命令を出した。それに従って全体が足を止める。

「どうしたのじゃ?」

 後方から背負われて追いついたドルッセンが尋ねる。もちろん他のアコース達にしても不思議そうに上官を見つめる。

 そんな視線の中、周囲を見渡すソルブガット。皆にも警戒は怠らない様呟きつつ、周囲の建物などに視線を這わせる。

 生物の気配がないゴーストタウンと化したドワルブ城下町。ここに来てようやく他の者たちもその異常性に気付いた。

「生き物の気配が全くない…?!」

 誰かが呟いた。そう、潜んでいるにしても何らかの気配を感じるのが普通だが、この町に生物の気配が全くしないのだ。それは亜人に限らず、小さな虫の気配すらも感じない。つまり今ここに居る連合軍のメンバーしか存在していないのだ。

 薄気味悪さを感じる中、必死に何らかの気配を探ろうとするアコース達。だがどれだけ気を配ってもいない者はいないのだ。かつて栄えた自分たちの街の変貌に、ドワーフ達が悲しみを覚える。

「いないならばこちらは向かうまでだ。このまま行くぞ!」

 動揺し始めた皆にソルブガットが指令を与えた。それを受けてアコース達がすぐさま進軍を再開すると、ドワーフ達も歯を食いしばって後に続いた。

 やがて城の入り口が見える。全く人気のない街中を自分たちの息遣いや足音だけが聞こえてくる空間。かつて過ごした熱気と賑わいがあった王国の風景との差に、ドワーフ達の誰もが胸を掻き毟られる思いを抱くが、今はその世界を取り戻す為だと心を強くさせて走る。

 城の正門が南にあるが、今回の目的地は裏の北門だ。南門前には広場があるため、隠れる場所がない事からこちらを選んだわけだが、今となっては寂しさを募らせてしまうだけだ。

 だが今更どうしようもない訳であり、何よりもこの王国を自分たちの手に取り戻すことが優先である。

 南門へ差し掛かった時、ようやく声が掛けられた。

「よくぞ参られた。」

 一同は足を止め構える。そして声の発せられた方向へ目を向けると、城門前に飾られた大きな石像がある。

 ドワーフ達が崇める大地と創作を司る神『ライタル』を象った石像だ。がっしりとした体格の男神で、背に大槌を背負って腕を組み、仁王立ちしているその石像の頭は無かった。代りにそこで優雅に座る老紳士の姿を目撃する。迎えの声はその老紳士から告げられた。

「ほほぅ、ヒトとドワーフが手を組んだか…。通りで我が配下が討たれた訳であるか。」

 右目にあるモノクルで連合軍を見つめた老紳士。そして納得した様子で頷いた。そのような仕草を見ながらアコースの一人が叫ぶ。

「何者だ!」

 そうは問いかけたものの、数十メートル離れた場所にいるにも拘らず、その老紳士の姿を見てから冷や汗が止まらない。それはそこに対峙する皆が同じ思いであり、屈強なるソルブガットも己に警鐘を鳴らしていた。

 問われた老紳士はハッとした様子を大袈裟に見せると、何ら力んだ様子も無くスッと立ち上がる。到底足元の悪い石像の上ではありえない優雅な動きで直立すると、口元をニヤリと傾かせた。

「…本来であれば訪れた者が先に名乗るのが礼儀。されど門番を殺して押し入る様な野蛮な者たちにそれは無理という事であるな。

 ならばここは我から名乗って差し上げよう。

 改めてようこそ諸君。我は四大公の一人『ヴェルフェゴトン』と申す。

 しかしせっかくこうして会った訳であるが、直にお別れせねばならない。」

「なんだと?」

 ヴェルフェゴトンの言葉にアコース達が苛立ちを見せた。それを一瞥して老紳士は続ける。

「これより諸君らには永遠なる苦しみが待ち受けておるが、我が名を胸に絶望の叫びをお聞かせ頂けるようお願い申し上げる。」

 そう告げられた瞬間、それまで何もいなかった連合軍の周囲に生物が出現した。否、それは既に息絶えた者たち。地面から次第に姿を現す白骨の者たちが生者たちを囲む。その白骨と化した者たちの背格好は正にドワーフであり、この都市で死んだ者たちの変わり果てた姿であった。

 カタカタと音を立てて動き出す白骨だけのドワーフ達。その異様さと、それまで無かった腐敗した臭いがドワーフ達を恐怖に陥れる。

「お、お前たち…。」

 ドルッセンが震えながら呟く。このドワルブの王は国民に対して温厚で優しく、時には城下で国民と共に汗をかいたりなど善政を行ってきた。

 そんな人柄が愛され、士気を高めながら繁栄してきたドワーフの王国だが、突如攻め寄せた悪魔たちによって王国は大敗を喫した。

 ドルッセン自身は最後まで国に残るつもりであったが、部下たちが無理やり王を国民たちと一緒に北へと逃がした。そんな兵士たちが今、白骨と化して王の前に立ちはだかっているのだ。

 変わり果てた心が震える。もしも彼らが救われるならば今ここで命を投げ出しても構わないと思う。

 だが、それは絶対にありえない。死しても安らかな眠りを与えられずに苦しむ彼らに、ドルッセンは決意を見せた。

「死しても安らかに眠れぬ同志たちを、その束縛から解き放ってやるのじゃ!」

「「「オォーッ!!」」」

 王の言葉にドワーフ達が奮い立つ。誰もかれもが仲間想いな種族だ。共に穴を掘り、炎と槌を扱い、そして酒を酌み交わし笑い合った。活気と笑顔溢れる家族同然に暮らした仲間たち。

 そんな彼らの変わり果てた姿を悲しむ一方、それを止めてやるのが仲間としての務めと、ドワーフ達は手に持つ武器を握り締める。

「苦しかっただろ?今から救ってやるからなっ。」

 一人のドワーフがそう呟くと、右手のハンマーに力を込めた。そして一歩踏み出すと共に、仲間たちも前へと踏み出す。

「いくぞぉー!!」

 誰かが叫び、それに呼応したドワーフ達が駆け出した。

 それを向かい討つようにドワーフスケルトンたちもボロボロになった盾を前に掲げて戦闘態勢に移る。

 動くたびに「カタカタ」と軽い動作音が鳴る。その異様さは恐怖そのものであるが、怒りと憐れみに満ちたドワーフ達は躊躇いなく突き進んでスケルトンを叩きつける。

 粉々となって散っていくドワーフスケルトン。アコースの戦士たちもドワーフ達の想いを感じながら、力いっぱいに湧き出るスケルトンを屠って行く。

 元々強靭な体躯をしたドワーフの骨は太く、生半可な攻撃では刃を痛めてしまうほどの硬さがある。そのため、ハンマーや大斧で叩き砕く分には問題ないが、剣など刃に関しては数体を斬れば鈍らとなってしまう。

 戦闘力はさほど高くはないが、数千体にも及ぶドワーフスケルトンを相手に、戦闘は長引いた。

「フム、なかなか奮闘しておる…。見事であるな。かつての仲間をよくぞまぁ容赦なく叩けるものだ。」

 眺めながらよく通る声で呟くように言ったヴェルフェゴトン。

 その言葉にドワーフ達が怒りを見せた。

「何をぬかす!お前たちが我が同胞にこのような仕打ちをさせておるのではないかっ!」

 普段穏やかなドルッセンが憎しみを込めて吼える。それに同調してドワーフ達もまた怒りを露わにするが、ヴェルフェゴトンの言葉に僅かながらも動きが鈍る。それによってドワーフ達は押され始める。

「奮い立て!悪魔に操られて苦しむ同胞を救わず何とするのじゃ。」

 ドルッセンが檄を飛ばす。それによって持ち直そうとするが、多勢相手に一度崩れ始めた陣形はなかなか戻ることは出来ない。

「ええい!ワシが突破口を作ってやる。」

 焦れた一人のドワーフが形勢を立て直そうと一人前へと出る。

「まてっ!一人で出てはならぬ。」

 慌ててドルッセンが呼び止めるが、その戦士は手にある両手持ちのバトルアックスを振りまわして前へ進む。

 巨大な斧によってまとめてドワーフスケルトンが砕け落ちる。そのまま返す刃で更に薙ぎ倒して前へと進む。

「よしっ!」

 所詮相手は骨であり、操られている以上は単調な動きで襲い掛かって来るだけだ。そう睨んだ通りに迫るドワーフスケルトンを蹴散らし進む。

 このまま王城まで目指そうと突き進んでいくドワーフの戦士。これまでも何度か戦場に出た事がある歴戦の勇者は、勢いのまま城へと向かって行く。

 それに続こうと他のドワーフ達も形勢を持ち直す。とにかくドルッセンを城まで送り届ければこの故郷を取り戻せるのだ。

 逸る気持ちで再び進み始めたドワーフ達に、アコース達も後に続く。

「ほほぅ、これはこれは…。」

 石像の上から高みの見物をしていたヴェルフェゴトンがその成行きを楽しむ。

「せっかくここまで来たのだから、せいぜい頑張ってくれ給え、諸君。」

 足を組み、その膝の上で両手を重ねる老紳士は笑みを浮かべる。言葉の通り高みの見物をしている彼は、この現状を心から楽しんでいた。

 その視線の下、突出するドワーフの戦士が次第に城へと突き進んでいく。白骨で埋められた城まで数十メートルの位置まで来ている。

 自分の身長ほどもあるバトルアックスを一薙ぎすれば、幾体ものドワーフスケルトンが鈍い音を立てて割れ落ちて行く。その空いたスペースに足を進ませ、今度は逆方向へと大きな斧を薙ぐ。着実に前へと進んでいくが、周囲のドワーフスケルトンの数は辺り一面を覆う程に多い。

 只前のみを見て突き進む戦士に対して、それに続く者たちは周囲の敵と集団から離れない事を意識しながら移動しているため、その差は次第に開いて行った。

 やがて戦闘を行っていたドワーフの背後にスケルトンが割り込む。

 慌てて後続のドワーフが叩き倒すが、一体の骸骨が入れば他の骸骨も群がって行くため、先行したドワーフ戦士が孤立無援となる。

「急げっ!前へ続くのじゃ!!」

 ドルッセンが白い骸で閉ざされた前方にヒヤリとして叫ぶ。その瞬間、

「グワァァァァ―!」

 前方で大きな悲鳴が上がった。先導していた戦士の周囲で様々な武器が振り上げられ、すぐに落とされる。

 武器を振うドワーフスケルトンの背後から集団の戦闘を行くドワーフのハンマーが叩き砕く。そして戦闘を行っていた戦士の下へ辿り着いたが、既に息絶えていた。

 それでもなお、ドワーフスケルトンは一つ覚えのように戦士の死体を武器で叩きつける。

 それを見て逆上したドワーフ達はスケルトンを叩き壊していく。だが、すでに事切れた戦士の身体を触れようとする者は無かった。

 戦場で死んだ者を労わる暇など無い。一瞬の油断が自らの命を奪い、場合によっては仲間を危険に晒すことになる。

 戦場に赴く以上は全てが自己責任であり、死んだら何も残らない事は重々承知の事だ。

 そして今もまだ戦闘は続いており、詰め寄るドワーフスケルトンと交戦しなくてはならない。

 振われる刃を防ぎ、相手を叩き壊す。その際足場を確保して力を籠めなければ魔力で動く骨を潰す事など出来やしない。そのためには砕けた骨の破片があろうと、壊れた武器が落ちていようと、ましてや死体が転がっていようとも、自分が生き残るためには踏み潰す事もしなければならない。

 突然横から槍を突かれ、そのドワーフは避けるために死体を踏んで避ける。

(スマン)

 そう心で呟きながら、突き込んできたスケルトンを手斧で叩き割る。

こちらもまたかつての仲間だ。

 こうして心を痛めながら、ドワーフ達はついに城の入り口へと辿り着いたのだった。


「ここは我らが死守する。お主たちは早く城の中へ行けっ!」

 ソルブガットが顔を向けず叫んだ。言葉通りにアコース達が城の入り口付近を陣取ってドワーフスケルトンを遮る。その間にドワーフ達を城内へと急がせた。

「すまぬ。」

 ドルッセンが叫ぶと、ドワーフ達はそのまま城内へと向かって行った。

 その足音を背にドワーフスケルトンを睨むアコース達。入り口を守るように広く分かれて、迫るスケルトンを一掃するつもりだった。

 そんな彼らの予想に反してスケルトンたちが足を止める。それまで襲い掛かっていた意思無き者たちがピタリと動きを止めたのだ。

 不可解に思いながら様子を伺っていると、スケルトンとの空いたスペースに空中からスッと降り立つ老紳士。物音ひとつ立てず腰で腕を組んだまま着地したヴェルフェゴトンは滑らかな動きで胸の前で手を合わせ拍手した。

「見事城に辿り着けたことを称賛しよう。もう少し死者が出るかと思っていたが、なかなか楽しませて貰えた。」

「なんだとっ!」

 不敵な物言いにアコース族の若い青年が睨みつける。しかしそれを横にいたソルブガットが手を向けて黙らせる。

 未だ怒り納まらずも口を紡いだ青年から手を下ろすと、一歩前に出て老紳士へ告げた。

「我らは戦士。例え如何なる相手であろうと、勝利のために戦うのが務めだ。まだやると言うのであれば、同族の者でなく我らが相手しよう。」

 その言葉と共に戦士たちは武器を構え直した。それを見てヴェルフェゴトンは不敵に笑む。狡猾そうな目を細め、髭の下で唇の弧を画く。

「ホホゥ…。ならばその言葉に偽りがない事を証明して貰おう。」

 そう言って右手をスッと肩まで上げたヴェルフェゴトンは「パチン」と指を鳴らした。その瞬間に周囲一帯を取り囲んでいたドワーフスケルトンが一斉に音も無く崩れ、地面へと埋まって行った。

 ほんの一瞬の間に万はいたであろうスケルトンたちが姿を消したため、アコース達が目を見開き口は開いたままとなった。

「見ているつもりだったが気が変わった。君たちが逃げ出すことなく最後まで戦うことを切に願う。」

 そう言うや否や、突如として目に見えない圧力がアコース達に掛かる。

「グフッ!」

 ソルブガットが突然もたらされたプレッシャーに思わず声を漏らす。そしてすぐに抵抗を試み、全身を強張らせる。周囲の仲間達も皆が全身を強張らせ、必死に抵抗していた。中には顔色を真っ青にして止め処なく冷や汗を流している者もいる。

 その圧力の正体は『恐怖』。屈強な80余名の戦士たちが皆、恐怖で動けなくなっているのだった。

 そんなソルブガット達を見ながら、老紳士は口元に手を置いてニヤリと嗤う。

「少し脅すだけでその程度とは。先ほどの威勢は嘘偽りであったか。」

 まさに嘲笑う態度で肩を震わせる老紳士。それを目の当たりにしてソルブガットは怒る。

「なめるなぁーッ!」

 怒りを伴った気合と共に、それまで自らの身体を蝕んでいた緊張感から解き放たれるソルブガット。同時にアコースのほとんどの者が気合と共に恐怖から脱出する。

 時間はかかったが若い戦士たちも恐怖に打ち勝った。そうでなければアコースとして恥であると言わんばかりに。

 全員の身が自由になったのを見届け、ソルブガットはヴェルフェゴトンを睨み告げた。

「よくもやってくれたな。だがこれで貴様の技は解けた。今度はこちらから行くぞ!」

 皆がそれぞれの武器を構え直した。闘志をみなぎらせ、すぐにでもとびかからんとばかりに体勢をつくる。

 そんな戦闘集団を前にたった一人佇む老紳士は、少しの間驚いた表情を見せ、その後で肩を震わせて笑った。その態度にソルブガットが苛立たしげに指摘する。

「何が可笑しい。」

「ククククッ、いやはやあの程度で動けなくなるような者たちが粋がっておるのを見ると笑わずにはおれぬではないか。」

 そして笑いを堪えた老紳士は右手で己の顔を覆い、じとっとした視線で集団を見る。

「だが、あの程度で我が相手が務まると思うとは無知も甚だしい。」

 先ほどまでとは違う明らかに冷めた声。先ほどの強烈な圧力を伴う恐怖と違い、その言葉から背筋が凍てつく感覚を受ける。

 そしてヴェルフェゴトンは大きく両手を左右に開いた。まるで相手を抱くために迎え入れる様な格好で言った。

「良かろう、せっかくの機会だ。まとめて掛かって来るがいい。」

 そう告げられてアコース達が怒る。明らかに目の前にいる老紳士の姿をした悪魔は強いと悟っている。しかし彼らは誇り高き戦闘種族であり、見るからに年老いた貴族の姿をした者を全員で襲い掛かるなど、弱い者がする行為だと非難する。

「舐めるなッ!我らは誇り高きアコースの戦士。如何にお前が強くとも集団で一人を襲うなど出来ぬ!」

 それを聞いて腕を組んだヴェルフェゴトンは大きなため息を吐いた。

「ハァ…、相手との力の差も読めぬ愚か者だったか。」

 その態度に業を煮やした若いアコースの戦士が駆け出す。雄叫びをあげながら一心不乱に飛び掛かり、手にある片手斧で斬りかかった。

「ウォオオオオオオオ!」

 何の変哲もない斬りかかりだが、流石は戦闘民族だけあってその動作は早い。ヒト相手であればよほどの達人でなければ避けられないだろう。

 だけどそこにいるのは悪魔であった。

 しかも悪魔たちの中で王の次に強い者である。

 態度を変えぬままその攻撃を見つめるヴェルフェゴトン。当然アコースたちは「やった」と確信したが、振り下ろされた斧は老紳士の体に触れようとした瞬間にドロリと溶けてしまった。

 一瞬の事で何事かと思った戦士たち。だが、更に奇怪なことは起こる。

「うぎゃあああああ…」

 襲い掛かった若い青年が叫んだと思ったらその身体が次々と溶けて、最後は骨も残らず真っ黒な液体と化して地面に浸み込んでしまったのだ。

 何事かと思う間もなく、やられた仲間の仇とばかりに2名の戦士が駆ける。

 今度は槍を持った二人で、さっきより離れた位置から槍を突き込んだ。

 だが、その槍も老紳士の体に触れる寸前でドロリと溶け、次第に溶ける槍を二人はすぐに手放して距離をとる。

「無駄だよ。」

 ヴェルフェゴトンが呟くと、二人の体が頭から溶け出し、今度は叫ぶ間もなく地面へと消えてしまった。

 さすがに理解不能なことが立て続けに起こったため、アコースたちは動きを止める。

「一体何が起こったのだ…?」

 ソルブガットが呟くと、ヴェルフェゴトンは呆れたような溜息を吐いた。

「はぁ…期待は無駄であったか。もうよい、力の差が明らかであれど、何かあるかと期待した私が愚かだった。もう死んでよいぞ。」

 そう呟いた途端、アコース達の周辺に紫色の霧が漂った。初めは薄い赤紫色だったが次第に青に近い濃い色となった。

 それを嗅いだ瞬間、ソルブガットは口元を手で覆って叫んだ。

「吸うなッ!毒だ。」

 だが気付いた時はすでに遅し。既にほとんどの者が呻き声をあげながらその場に崩れていく。数名の者は口を押えて咄嗟にその場から離れるが、呻き声をあげながら苦しげにその場でもがく者がいる。

 一瞬にして阿鼻叫喚のアコース達。その場から辛うじて逃げたソルブガット達も手足に痺れが起こっている。

「クッ、卑怯なっ!」

 苦しむ仲間を見て壮年の戦士が憎らしげに呟いた。だけど最早やる気を失ったヴェルフェゴトンは力なく答えた。

「何を言っているのだ?戦う事を許しても大した力もなく文句を言って、始末しようとすれば罵ってくる。一体ここへ何をしに来たのかね?

 まぁ下等なるヒトならば仕方ない事であるか…。

 つまりお主等は戦いに赴く心構えも出来ていないという事が証明された訳であるな。さぁ、目障りだからさっさと死ね。」

 その言葉と共に戦士たちの頭上で強大な魔力が渦巻き、ソルブガット達を呑み込む。

 自分たちの戦いに対する真摯な思いを汚され、反論する暇も与えられぬまま渦巻く魔力に身体はもちろん、装備も消えていく。

 呻き声は一瞬でかき消され、魔力の塊はスーッと収縮して消えた。こうしてアコースの戦士たちは一瞬のうちに死に絶えたのだった…。


お読み頂きありがとうございます。

随分長く間を空けてしまいましたが、ようやく再開できそうです。

お待たせしてしまったことをお詫び申し上げます。


さて、前回から場所が変わってアコースとドワーフのお話です。

多分皆様、パァムはどうなったの?と気にされるかもしれませんが、

それはまたお話の中で語られる予定ですので…。


彼らはワオリたちとは違って活動していたわけですが、

この5章は大きな変動を考えており、今回と次回に分けてノルズウェッド大陸のお話をお送りいたします。

既に後編はほとんど書いておるのですが、あまりに長くなるので半分に分けました。

近いうちに掲載できるよう努めます。


ではまた次回まで。

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